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48. 宇宙へ……
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この世界の不自然さが、俺の心に引っかかり続けていた。生き返る魔法、レベルアップ、鑑定スキル――――。これらはあまりにもゲーム的で、現実味に欠ける。まるで誰かが意図的に設計したかのようだ。そう考えると、この世界はMMORPGのような、リアルに見えて実は人工的な空間なのではないか? その仮説が、俺の頭の中で徐々に形を成していった。
もしそうだとすれば、ゲーマーが通常行わないような行動を取れば、世界の綻びが見えてくるはずだ。バグを見つける――――。それは日本にいた頃の俺の得意分野だった。俺は唇を噛みしめ、この世界の真実を暴くための冒険を決意した。
◇
翌日、まばゆい朝日が街を照らす中、俺は意を決して鋳造所へと足を運んだ。煙突から立ち上る煙と金属の匂いが、この場所の特徴を物語っている。
「おはようございまーす!」
俺は少し緊張しながら中に入った。敷地の隅には、スクラップの山。その中に、ひときわ目を引く大きな教会の鐘が横たわっていた。
俺はその鐘に近づき、慎重に観察する。人の背丈ほどの高さ、まさに想定していたサイズ。俺の目的にぴったりだ。
「坊主、どうした?」
突然の声に、俺は驚いて振り返った。そこには屈強な体つきの男が立っていた。その腕の筋肉は、長年の鍛錬を物語っている。
「この鐘、捨てちゃうんですか?」
「作ってはみたが、いい音が出なかったんでな、もう一度溶かして作り直しだよ」
男は肩をすくめ、少し残念そうに答えた。
「これ、売ってもらえませんか?」
俺は最大限の笑顔を浮かべて尋ねた。男の顔に驚きの色が浮かぶ。
「え!? こんなの欲しいのか?」
「ちょっと実験に使いたいんです」
「うーん、まぁスクラップだからいいけど……、それでも金貨五枚はもらうぞ?」
「大丈夫です! ついでにフタに出来る金属板と、こういう穴開けて欲しいんですが……」
俺は素早くメモ帳を取り出し、構想を図に描いた。男はその図を見て、首を横に振る。
「おいおい、ここは鋳造所だぞ。これは鉄工所の仕事。紹介してやっからそこで相談しな」
「ありがとうございます!」
「じゃ、ちょっと事務所に来な。書類作るから」
「ハイ!」
俺の心は高鳴っていた。これで第一段階は完了だ。巨大な金属のカプセルを手に入れた今、俺の壮大な計画が動き出す。
これは宇宙船。そう、俺は宇宙へ行くのだ。
この世界の真実を知るため、そして何より、大切な人たちを守るため。俺は誰も見たことのない宇宙へと飛び出そうとしていた。もちろん空をどんどんと高く飛んでいくことはできるが、どんどん寒くなって何より空気が薄くなって、とても宇宙まではたどり着けない。
だからこの鐘の登場なのだ。この鐘に入って飛べば宇宙まで行けるはずだ。
頭の中では、これからの冒険のシナリオが次々と描かれていく。
空を見上げれば青い空にポッカリと白い雲が浮かんでいる。その向こうには、きっと誰も知らない真実が待っているはずだ。俺の胸は期待で一杯だった。
◇
煌々と輝く陽光の下、次に俺はメガネ屋へと足を向けた。この世界でも、視力の衰えは避けられない宿命のようでメガネを売っている。ただし、メガネの値は法外に高く、庶民には手の届かない贅沢品だ。
俺の目的は拡大鏡。この世界の真実を解き明かすため、ミクロの世界も探検しようと考えていたのだ。
地球では、顕微鏡や電子顕微鏡が当たり前のように存在し、原子レベルの観察すら可能だった。さらには、直径十キロにも及ぶ巨大加速器で素粒子の世界まで覗き込める。しかし、この異世界では、そんな高度な技術は望むべくもない。それでも、もしこの世界がMMORPGのような人工的な空間なら、きっと拡大鏡でも何かの綻びが見えるはずだ。
表通りから小路に入り、しばらく歩くと、メガネの形をした小さな看板が目に入った。ショーウィンドーには様々な形のメガネが並んでいる。
「こんにちは~」
俺は、小さなガラス窓のついたオシャレな木のドアを開けた。
「いらっしゃいませ……。おや、可愛いお客さんね、どうしたの? 目が悪いの?」
三十歳前後だろうか、やや面長で笑顔が素敵なメガネ美人が声をかけてきた。その洗練された雰囲気に、思わず緊張してしまう。
「拡大鏡が欲しいのですが、取り扱っていますか?」
「えっ!? 拡大鏡? そりゃ、あるけど……高いわよ? 金貨十枚とかよ」
「大丈夫です!」
俺は満面の笑みで答えた。店主は少し驚いた様子だったが、
「あらそう? じゃ、ちょっと待ってて!」
と言って店の奥へ消えた。程なくして、彼女は木製の箱を持って戻ってきた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
お楽しみありがとうございます。
皆様の応援のおかげでで日々頑張って更新できております。
この作品は『第17回ファンタジー小説大賞』に応募しておりまして、一次審査が読者選考になっております。
みなさまから頂いた投票の数で通過が決まります。
よろしければ目次ページ( https://www.alphapolis.co.jp/novel/867674859/685904075 )の所の投票ボタンをポチっていただければうれしいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
もしそうだとすれば、ゲーマーが通常行わないような行動を取れば、世界の綻びが見えてくるはずだ。バグを見つける――――。それは日本にいた頃の俺の得意分野だった。俺は唇を噛みしめ、この世界の真実を暴くための冒険を決意した。
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翌日、まばゆい朝日が街を照らす中、俺は意を決して鋳造所へと足を運んだ。煙突から立ち上る煙と金属の匂いが、この場所の特徴を物語っている。
「おはようございまーす!」
俺は少し緊張しながら中に入った。敷地の隅には、スクラップの山。その中に、ひときわ目を引く大きな教会の鐘が横たわっていた。
俺はその鐘に近づき、慎重に観察する。人の背丈ほどの高さ、まさに想定していたサイズ。俺の目的にぴったりだ。
「坊主、どうした?」
突然の声に、俺は驚いて振り返った。そこには屈強な体つきの男が立っていた。その腕の筋肉は、長年の鍛錬を物語っている。
「この鐘、捨てちゃうんですか?」
「作ってはみたが、いい音が出なかったんでな、もう一度溶かして作り直しだよ」
男は肩をすくめ、少し残念そうに答えた。
「これ、売ってもらえませんか?」
俺は最大限の笑顔を浮かべて尋ねた。男の顔に驚きの色が浮かぶ。
「え!? こんなの欲しいのか?」
「ちょっと実験に使いたいんです」
「うーん、まぁスクラップだからいいけど……、それでも金貨五枚はもらうぞ?」
「大丈夫です! ついでにフタに出来る金属板と、こういう穴開けて欲しいんですが……」
俺は素早くメモ帳を取り出し、構想を図に描いた。男はその図を見て、首を横に振る。
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「ありがとうございます!」
「じゃ、ちょっと事務所に来な。書類作るから」
「ハイ!」
俺の心は高鳴っていた。これで第一段階は完了だ。巨大な金属のカプセルを手に入れた今、俺の壮大な計画が動き出す。
これは宇宙船。そう、俺は宇宙へ行くのだ。
この世界の真実を知るため、そして何より、大切な人たちを守るため。俺は誰も見たことのない宇宙へと飛び出そうとしていた。もちろん空をどんどんと高く飛んでいくことはできるが、どんどん寒くなって何より空気が薄くなって、とても宇宙まではたどり着けない。
だからこの鐘の登場なのだ。この鐘に入って飛べば宇宙まで行けるはずだ。
頭の中では、これからの冒険のシナリオが次々と描かれていく。
空を見上げれば青い空にポッカリと白い雲が浮かんでいる。その向こうには、きっと誰も知らない真実が待っているはずだ。俺の胸は期待で一杯だった。
◇
煌々と輝く陽光の下、次に俺はメガネ屋へと足を向けた。この世界でも、視力の衰えは避けられない宿命のようでメガネを売っている。ただし、メガネの値は法外に高く、庶民には手の届かない贅沢品だ。
俺の目的は拡大鏡。この世界の真実を解き明かすため、ミクロの世界も探検しようと考えていたのだ。
地球では、顕微鏡や電子顕微鏡が当たり前のように存在し、原子レベルの観察すら可能だった。さらには、直径十キロにも及ぶ巨大加速器で素粒子の世界まで覗き込める。しかし、この異世界では、そんな高度な技術は望むべくもない。それでも、もしこの世界がMMORPGのような人工的な空間なら、きっと拡大鏡でも何かの綻びが見えるはずだ。
表通りから小路に入り、しばらく歩くと、メガネの形をした小さな看板が目に入った。ショーウィンドーには様々な形のメガネが並んでいる。
「こんにちは~」
俺は、小さなガラス窓のついたオシャレな木のドアを開けた。
「いらっしゃいませ……。おや、可愛いお客さんね、どうしたの? 目が悪いの?」
三十歳前後だろうか、やや面長で笑顔が素敵なメガネ美人が声をかけてきた。その洗練された雰囲気に、思わず緊張してしまう。
「拡大鏡が欲しいのですが、取り扱っていますか?」
「えっ!? 拡大鏡? そりゃ、あるけど……高いわよ? 金貨十枚とかよ」
「大丈夫です!」
俺は満面の笑みで答えた。店主は少し驚いた様子だったが、
「あらそう? じゃ、ちょっと待ってて!」
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