48 / 193
48. 宇宙へ……
しおりを挟む
この世界の不自然さが、俺の心に引っかかり続けていた。生き返る魔法、レベルアップ、鑑定スキル――――。これらはあまりにもゲーム的で、現実味に欠ける。まるで誰かが意図的に設計したかのようだ。そう考えると、この世界はMMORPGのような、リアルに見えて実は人工的な空間なのではないか? その仮説が、俺の頭の中で徐々に形を成していった。
もしそうだとすれば、ゲーマーが通常行わないような行動を取れば、世界の綻びが見えてくるはずだ。バグを見つける――――。それは日本にいた頃の俺の得意分野だった。俺は唇を噛みしめ、この世界の真実を暴くための冒険を決意した。
◇
翌日、まばゆい朝日が街を照らす中、俺は意を決して鋳造所へと足を運んだ。煙突から立ち上る煙と金属の匂いが、この場所の特徴を物語っている。
「おはようございまーす!」
俺は少し緊張しながら中に入った。敷地の隅には、スクラップの山。その中に、ひときわ目を引く大きな教会の鐘が横たわっていた。
俺はその鐘に近づき、慎重に観察する。人の背丈ほどの高さ、まさに想定していたサイズ。俺の目的にぴったりだ。
「坊主、どうした?」
突然の声に、俺は驚いて振り返った。そこには屈強な体つきの男が立っていた。その腕の筋肉は、長年の鍛錬を物語っている。
「この鐘、捨てちゃうんですか?」
「作ってはみたが、いい音が出なかったんでな、もう一度溶かして作り直しだよ」
男は肩をすくめ、少し残念そうに答えた。
「これ、売ってもらえませんか?」
俺は最大限の笑顔を浮かべて尋ねた。男の顔に驚きの色が浮かぶ。
「え!? こんなの欲しいのか?」
「ちょっと実験に使いたいんです」
「うーん、まぁスクラップだからいいけど……、それでも金貨五枚はもらうぞ?」
「大丈夫です! ついでにフタに出来る金属板と、こういう穴開けて欲しいんですが……」
俺は素早くメモ帳を取り出し、構想を図に描いた。男はその図を見て、首を横に振る。
「おいおい、ここは鋳造所だぞ。これは鉄工所の仕事。紹介してやっからそこで相談しな」
「ありがとうございます!」
「じゃ、ちょっと事務所に来な。書類作るから」
「ハイ!」
俺の心は高鳴っていた。これで第一段階は完了だ。巨大な金属のカプセルを手に入れた今、俺の壮大な計画が動き出す。
これは宇宙船。そう、俺は宇宙へ行くのだ。
この世界の真実を知るため、そして何より、大切な人たちを守るため。俺は誰も見たことのない宇宙へと飛び出そうとしていた。もちろん空をどんどんと高く飛んでいくことはできるが、どんどん寒くなって何より空気が薄くなって、とても宇宙まではたどり着けない。
だからこの鐘の登場なのだ。この鐘に入って飛べば宇宙まで行けるはずだ。
頭の中では、これからの冒険のシナリオが次々と描かれていく。
空を見上げれば青い空にポッカリと白い雲が浮かんでいる。その向こうには、きっと誰も知らない真実が待っているはずだ。俺の胸は期待で一杯だった。
◇
煌々と輝く陽光の下、次に俺はメガネ屋へと足を向けた。この世界でも、視力の衰えは避けられない宿命のようでメガネを売っている。ただし、メガネの値は法外に高く、庶民には手の届かない贅沢品だ。
俺の目的は拡大鏡。この世界の真実を解き明かすため、ミクロの世界も探検しようと考えていたのだ。
地球では、顕微鏡や電子顕微鏡が当たり前のように存在し、原子レベルの観察すら可能だった。さらには、直径十キロにも及ぶ巨大加速器で素粒子の世界まで覗き込める。しかし、この異世界では、そんな高度な技術は望むべくもない。それでも、もしこの世界がMMORPGのような人工的な空間なら、きっと拡大鏡でも何かの綻びが見えるはずだ。
表通りから小路に入り、しばらく歩くと、メガネの形をした小さな看板が目に入った。ショーウィンドーには様々な形のメガネが並んでいる。
「こんにちは~」
俺は、小さなガラス窓のついたオシャレな木のドアを開けた。
「いらっしゃいませ……。おや、可愛いお客さんね、どうしたの? 目が悪いの?」
三十歳前後だろうか、やや面長で笑顔が素敵なメガネ美人が声をかけてきた。その洗練された雰囲気に、思わず緊張してしまう。
「拡大鏡が欲しいのですが、取り扱っていますか?」
「えっ!? 拡大鏡? そりゃ、あるけど……高いわよ? 金貨十枚とかよ」
「大丈夫です!」
俺は満面の笑みで答えた。店主は少し驚いた様子だったが、
「あらそう? じゃ、ちょっと待ってて!」
と言って店の奥へ消えた。程なくして、彼女は木製の箱を持って戻ってきた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
お楽しみありがとうございます。
皆様の応援のおかげでで日々頑張って更新できております。
この作品は『第17回ファンタジー小説大賞』に応募しておりまして、一次審査が読者選考になっております。
みなさまから頂いた投票の数で通過が決まります。
よろしければ目次ページ( https://www.alphapolis.co.jp/novel/867674859/685904075 )の所の投票ボタンをポチっていただければうれしいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
もしそうだとすれば、ゲーマーが通常行わないような行動を取れば、世界の綻びが見えてくるはずだ。バグを見つける――――。それは日本にいた頃の俺の得意分野だった。俺は唇を噛みしめ、この世界の真実を暴くための冒険を決意した。
◇
翌日、まばゆい朝日が街を照らす中、俺は意を決して鋳造所へと足を運んだ。煙突から立ち上る煙と金属の匂いが、この場所の特徴を物語っている。
「おはようございまーす!」
俺は少し緊張しながら中に入った。敷地の隅には、スクラップの山。その中に、ひときわ目を引く大きな教会の鐘が横たわっていた。
俺はその鐘に近づき、慎重に観察する。人の背丈ほどの高さ、まさに想定していたサイズ。俺の目的にぴったりだ。
「坊主、どうした?」
突然の声に、俺は驚いて振り返った。そこには屈強な体つきの男が立っていた。その腕の筋肉は、長年の鍛錬を物語っている。
「この鐘、捨てちゃうんですか?」
「作ってはみたが、いい音が出なかったんでな、もう一度溶かして作り直しだよ」
男は肩をすくめ、少し残念そうに答えた。
「これ、売ってもらえませんか?」
俺は最大限の笑顔を浮かべて尋ねた。男の顔に驚きの色が浮かぶ。
「え!? こんなの欲しいのか?」
「ちょっと実験に使いたいんです」
「うーん、まぁスクラップだからいいけど……、それでも金貨五枚はもらうぞ?」
「大丈夫です! ついでにフタに出来る金属板と、こういう穴開けて欲しいんですが……」
俺は素早くメモ帳を取り出し、構想を図に描いた。男はその図を見て、首を横に振る。
「おいおい、ここは鋳造所だぞ。これは鉄工所の仕事。紹介してやっからそこで相談しな」
「ありがとうございます!」
「じゃ、ちょっと事務所に来な。書類作るから」
「ハイ!」
俺の心は高鳴っていた。これで第一段階は完了だ。巨大な金属のカプセルを手に入れた今、俺の壮大な計画が動き出す。
これは宇宙船。そう、俺は宇宙へ行くのだ。
この世界の真実を知るため、そして何より、大切な人たちを守るため。俺は誰も見たことのない宇宙へと飛び出そうとしていた。もちろん空をどんどんと高く飛んでいくことはできるが、どんどん寒くなって何より空気が薄くなって、とても宇宙まではたどり着けない。
だからこの鐘の登場なのだ。この鐘に入って飛べば宇宙まで行けるはずだ。
頭の中では、これからの冒険のシナリオが次々と描かれていく。
空を見上げれば青い空にポッカリと白い雲が浮かんでいる。その向こうには、きっと誰も知らない真実が待っているはずだ。俺の胸は期待で一杯だった。
◇
煌々と輝く陽光の下、次に俺はメガネ屋へと足を向けた。この世界でも、視力の衰えは避けられない宿命のようでメガネを売っている。ただし、メガネの値は法外に高く、庶民には手の届かない贅沢品だ。
俺の目的は拡大鏡。この世界の真実を解き明かすため、ミクロの世界も探検しようと考えていたのだ。
地球では、顕微鏡や電子顕微鏡が当たり前のように存在し、原子レベルの観察すら可能だった。さらには、直径十キロにも及ぶ巨大加速器で素粒子の世界まで覗き込める。しかし、この異世界では、そんな高度な技術は望むべくもない。それでも、もしこの世界がMMORPGのような人工的な空間なら、きっと拡大鏡でも何かの綻びが見えるはずだ。
表通りから小路に入り、しばらく歩くと、メガネの形をした小さな看板が目に入った。ショーウィンドーには様々な形のメガネが並んでいる。
「こんにちは~」
俺は、小さなガラス窓のついたオシャレな木のドアを開けた。
「いらっしゃいませ……。おや、可愛いお客さんね、どうしたの? 目が悪いの?」
三十歳前後だろうか、やや面長で笑顔が素敵なメガネ美人が声をかけてきた。その洗練された雰囲気に、思わず緊張してしまう。
「拡大鏡が欲しいのですが、取り扱っていますか?」
「えっ!? 拡大鏡? そりゃ、あるけど……高いわよ? 金貨十枚とかよ」
「大丈夫です!」
俺は満面の笑みで答えた。店主は少し驚いた様子だったが、
「あらそう? じゃ、ちょっと待ってて!」
と言って店の奥へ消えた。程なくして、彼女は木製の箱を持って戻ってきた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
お楽しみありがとうございます。
皆様の応援のおかげでで日々頑張って更新できております。
この作品は『第17回ファンタジー小説大賞』に応募しておりまして、一次審査が読者選考になっております。
みなさまから頂いた投票の数で通過が決まります。
よろしければ目次ページ( https://www.alphapolis.co.jp/novel/867674859/685904075 )の所の投票ボタンをポチっていただければうれしいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
116
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる