46 / 179
46. 琥珀を思わせる瞳
しおりを挟む
必死に飛んでいると、アバドンから連絡が入る。
「旦那様! 大丈夫ですか?」
「俺もドロシーも何とか生きてる。お前は?」
「私はかなり吹き飛ばされまして、身体もあちこち失いました。ちょっと再生に時間かかりそうですが、なんとかなりそうです」
「良かった。再生出来たらまた連絡くれ。ありがとう、助かったよ!」
「旦那様のお役に立てるのが、私の喜びです。グフフフフ……」
俺はいい仲間に恵まれた……。
自然と湧いてきた涙がポロッとこぼれ、宙を舞った。
空を飛びながら、俺は仲間たちを守り抜こうと決意を新たにする。勇者もボコボコにしてきっちりと分からせ、二度とこんなことにならないようにしてやる。俺はギリッと奥歯を鳴らし、家路を急いだ。
◇
蒼穹に聳える王宮の尖塔。その頂きの小部屋に立つ少女の瞳が、遠見の魔道具を通して街を見下ろしていた。
「まあ……これはいいものを見つけてしまったわ!」
微かな驚きを含んだ声が、風に乗って消えていく。少女は十八を過ぎたばかりといったところか。透徹した白磁のような肌に、琥珀を思わせる瞳。爽やかな風を受け、彼女の金糸の髪が煌めいていた。ルビーの髪飾りが、その美しさに更なる輝きを与えている。
豪奢な金の刺繍が施された深紅のドレスは、彼女の高貴な身分を物語っていた。胸元のレースが、その曲線美を強調している。
少女の視線の先には、一人の若者の姿があった。
「あの爆発の中を駆け抜け、勇者の側近を打ち倒すとは……。あなた、一体何者なのかしら?」
彼女の唇に、興味深そうな微笑みが浮かぶ。
まだ炎と煙の残る麦畑の上空を、ユータが颯爽と駆け抜けていく。その腕には、一人の少女が抱かれていた。
「なんという洗練された飛行魔法……。こんな事が出来る宮廷魔術師なんて居ないわ」
少女は思わず息を呑んだ。ユータの飛行は、まるで風のように軽やかだった。
ユータが店の方へと下りて行くと、彼女は素早く羽ペンを取り、優雅な筆跡でメモを書き付ける。
「バトラー!」
少女の声が、静寂を切り裂いた。瞬時に、黒服の執事が彼女の側に現れる。
「お呼びでございますか、リリアン様」
「ええ。至急、この男を調査なさい」
リリアンは、艶のある声で命じた。メモを執事に手渡しながら、彼女の瞳に危いほどの興奮の色が宿る。
「物語が、思わぬ方向に動き出したようですわ」
彼女の唇が、面白いおもちゃを見つけたように歪んだ。
「お楽しみはこれからよ、可愛い英雄さん……」
リリアンの言葉が、塔を吹き抜ける風に溶けていった。
◇
俺はドロシーをそっとベッドに横たえると、彼女の頭を優しく支えながら、ポーションをスプーンで少しずつ飲ませていく。朱唇に触れるスプーンの冷たさに、ドロシーは微かに眉をひそめる。
「う、うぅん……」
最初はなかなか上手くいかなかったが、徐々に彼女の喉が動き始め、ポーションを受け入れていく。俺は鑑定スキルを使って彼女の状態を確認する。HPが少しずつ上昇していくのを見て、安堵の息をつく。
ポーションを飲ませながら、俺はドロシーの顔をじっと見つめていた。整った目鼻立ちに紅いくちびる……。幼い頃から知っているはずなのに、今まで気づかなかった彼女の美しさに、俺は息を呑む。もはや少女ではない。いつの間にか、ドロシーは魅力的な大人の女性へと成長していたのだ。
俺の手に伝わる彼女の体温が、心の奥底に温かな感情を呼び起こす。前世を入れたらもうアラサーの自分は、ドロシーをどこか幼い子供と思ってきた。しかし、今や彼女への愛おしさが、新たな形で俺の胸を満たしていく――――。
俺はそっとサラサラとした銀髪をなで、静かにうなずいた。
◇
上級ポーションを二瓶与え、HPも十分に回復したはずなのに、ドロシーはまだ目覚めない。俺はベッドの脇に椅子を引き寄せ、そっと彼女の手を握る。長いまつげが作る影が、彼女の頬に揺れていた。
安らかに眠る彼女を見つめながら、俺の中で勇者への怒りと不安が渦巻く。勇者との決着をつけなければならないが、相手は特権階級。正面からやれば、国家反逆罪で死罪は免れない。俺だけなら何とかなっても、ドロシーまで巻き込むことになったらとても耐えられない。
「はぁ~……」
深いため息が漏れる。勇者に立ち向かうということは、この国の統治システムそのものと対峙することを意味する。しかし、ドロシーをこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。
俺は顔を両手で覆い、必死に策を練る。静かな部屋に、ドロシーの寝息だけが響いていた。
しかし、いくら考えても名案など浮かばない。やるとしたら勇者を人知れず拉致するくらいだった。
それにはアバドンの快復を待たねばならないだろう。
「今すぐには動けないか……うーむ」
俺はため息をついてうなだれた。
「旦那様! 大丈夫ですか?」
「俺もドロシーも何とか生きてる。お前は?」
「私はかなり吹き飛ばされまして、身体もあちこち失いました。ちょっと再生に時間かかりそうですが、なんとかなりそうです」
「良かった。再生出来たらまた連絡くれ。ありがとう、助かったよ!」
「旦那様のお役に立てるのが、私の喜びです。グフフフフ……」
俺はいい仲間に恵まれた……。
自然と湧いてきた涙がポロッとこぼれ、宙を舞った。
空を飛びながら、俺は仲間たちを守り抜こうと決意を新たにする。勇者もボコボコにしてきっちりと分からせ、二度とこんなことにならないようにしてやる。俺はギリッと奥歯を鳴らし、家路を急いだ。
◇
蒼穹に聳える王宮の尖塔。その頂きの小部屋に立つ少女の瞳が、遠見の魔道具を通して街を見下ろしていた。
「まあ……これはいいものを見つけてしまったわ!」
微かな驚きを含んだ声が、風に乗って消えていく。少女は十八を過ぎたばかりといったところか。透徹した白磁のような肌に、琥珀を思わせる瞳。爽やかな風を受け、彼女の金糸の髪が煌めいていた。ルビーの髪飾りが、その美しさに更なる輝きを与えている。
豪奢な金の刺繍が施された深紅のドレスは、彼女の高貴な身分を物語っていた。胸元のレースが、その曲線美を強調している。
少女の視線の先には、一人の若者の姿があった。
「あの爆発の中を駆け抜け、勇者の側近を打ち倒すとは……。あなた、一体何者なのかしら?」
彼女の唇に、興味深そうな微笑みが浮かぶ。
まだ炎と煙の残る麦畑の上空を、ユータが颯爽と駆け抜けていく。その腕には、一人の少女が抱かれていた。
「なんという洗練された飛行魔法……。こんな事が出来る宮廷魔術師なんて居ないわ」
少女は思わず息を呑んだ。ユータの飛行は、まるで風のように軽やかだった。
ユータが店の方へと下りて行くと、彼女は素早く羽ペンを取り、優雅な筆跡でメモを書き付ける。
「バトラー!」
少女の声が、静寂を切り裂いた。瞬時に、黒服の執事が彼女の側に現れる。
「お呼びでございますか、リリアン様」
「ええ。至急、この男を調査なさい」
リリアンは、艶のある声で命じた。メモを執事に手渡しながら、彼女の瞳に危いほどの興奮の色が宿る。
「物語が、思わぬ方向に動き出したようですわ」
彼女の唇が、面白いおもちゃを見つけたように歪んだ。
「お楽しみはこれからよ、可愛い英雄さん……」
リリアンの言葉が、塔を吹き抜ける風に溶けていった。
◇
俺はドロシーをそっとベッドに横たえると、彼女の頭を優しく支えながら、ポーションをスプーンで少しずつ飲ませていく。朱唇に触れるスプーンの冷たさに、ドロシーは微かに眉をひそめる。
「う、うぅん……」
最初はなかなか上手くいかなかったが、徐々に彼女の喉が動き始め、ポーションを受け入れていく。俺は鑑定スキルを使って彼女の状態を確認する。HPが少しずつ上昇していくのを見て、安堵の息をつく。
ポーションを飲ませながら、俺はドロシーの顔をじっと見つめていた。整った目鼻立ちに紅いくちびる……。幼い頃から知っているはずなのに、今まで気づかなかった彼女の美しさに、俺は息を呑む。もはや少女ではない。いつの間にか、ドロシーは魅力的な大人の女性へと成長していたのだ。
俺の手に伝わる彼女の体温が、心の奥底に温かな感情を呼び起こす。前世を入れたらもうアラサーの自分は、ドロシーをどこか幼い子供と思ってきた。しかし、今や彼女への愛おしさが、新たな形で俺の胸を満たしていく――――。
俺はそっとサラサラとした銀髪をなで、静かにうなずいた。
◇
上級ポーションを二瓶与え、HPも十分に回復したはずなのに、ドロシーはまだ目覚めない。俺はベッドの脇に椅子を引き寄せ、そっと彼女の手を握る。長いまつげが作る影が、彼女の頬に揺れていた。
安らかに眠る彼女を見つめながら、俺の中で勇者への怒りと不安が渦巻く。勇者との決着をつけなければならないが、相手は特権階級。正面からやれば、国家反逆罪で死罪は免れない。俺だけなら何とかなっても、ドロシーまで巻き込むことになったらとても耐えられない。
「はぁ~……」
深いため息が漏れる。勇者に立ち向かうということは、この国の統治システムそのものと対峙することを意味する。しかし、ドロシーをこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。
俺は顔を両手で覆い、必死に策を練る。静かな部屋に、ドロシーの寝息だけが響いていた。
しかし、いくら考えても名案など浮かばない。やるとしたら勇者を人知れず拉致するくらいだった。
それにはアバドンの快復を待たねばならないだろう。
「今すぐには動けないか……うーむ」
俺はため息をついてうなだれた。
79
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる