41 / 172
41. 真っ黒な首輪
しおりを挟む
俺は手が震えてしまう。
「ダ、ダメだ! すぐに探して! お願い! どっち行った?」
「だから言いましたのに……。南の方に向かいましたけど、その先はわかりませんよ」
窓を壊す勢いで、俺はパジャマのまま空に飛び出した。寒気が全身を襲うが、それどころではない。
「くぅぅぅ……。とりあえず南門上空まで来てくれ!」
俺は叫びながら朝の空をかっ飛ばした。
まだ朝もや残る涼しい街の上を人目をはばからずに俺は飛んだ。風が頬を打つ。
油断していた。まさかこんな早朝に襲いに来るとは……。
夢に翻弄され、アバドンの警告を無視した俺を呪った。
ドロシーを守ると誓ったのに、こんな形で裏切ってしまったのだ。その罪悪感と、ドロシーへの想いが胸の中で渦巻く。
「ドロシー、ドロシー! ゴメン、今行くよ!」
俺は止めどなく涙がポロポロとこぼれてきて止められなかった。
◇
南門まで来ると、浮かない顔をしてアバドンが浮いていた。
「悪いね、どんな幌馬車だった?」
涙を手早くぬぐい、俺は早口で聞く。
「うーん、薄汚れた良くある幌馬車ですねぇ、パッと見じゃわからないですよ」
そう言って肩をすくめる。その言葉に、俺の心が沈んでいく。
俺は必死に地上を見回すが……朝は多くの幌馬車が行きかっていて、どれか全く分からない。その光景に、焦りと無力感が押し寄せる。
「じゃぁ、俺は門の外の幌馬車をしらみつぶしに探す。お前は街の中をお願い!」
「わかりやした!」
俺はかっ飛んで、南門から伸びている何本かの道を順次にめぐりながら、幌馬車の荷台をのぞいていった――――。
何台も何台も中をのぞき、時には荷物をかき分けて奥まで探した。その度に、ドロシーを見つけられない失望が胸を刺す。
俺は慎重に漏れの無いよう、徹底的に探す――――。
しかし……、一通り探しつくしたのにドロシーは見つからなかった。
「旦那様~、いませんよ~」
アバドンも疲れたような声を送ってくる。
くぅぅぅ……。
頭を抱える俺。
考えろ! 考えろ!
俺は焦る気持ちを落ち着けようと何度か深呼吸をし、奴らの考えそうなことから可能性を絞ることにした。今は冷静さを取り戻すことが一番重要になのだ。
攫われてからずいぶん時間がたつ。もう、目的地に運ばれてしまったに違いない。
目的地はどんなところか――――?
廃工場とか使われてない倉庫とか、廃屋とか……人目につかないちょっと寂れたところだろう。
俺は上空から該当しそうなところを探した。
街の南側には麦畑が広がっている。ただ、麦畑だけではなく、ポツポツと倉庫や工場も見受けられる。悪さをするならこれらのどれかだろう。
「多分、もう下ろされて、廃工場や倉庫に連れ込まれているはずだ。幌馬車の止まっているそういう場所を探してくれない?」
俺はアバドンに指示する。
「なるほど! わかりやした!」
俺も上空を高速で飛びながらそれらを見ていった。
しばらく見ていくと、幌馬車が置いてあるさびれた倉庫を見つけた。いかにも怪しい。俺は静かに降り立つと中の様子をうかがう――――。
いてくれよ……。
心臓が高鳴るのを感じる。
「いやぁぁ! やめて――――!!」
ドロシーの悲痛な叫びが聞こえた。俺の全身に怒りが走る。
許さん! ただでは置かない! 俺は激しい怒りに身を焦がしながら汚れた窓から中をのぞく――――。
ドロシーは数人の男たちに囲まれ、床に押し倒されて服を破られている所だった。バタバタと暴れる白い足を押さえられている。
「ミンチにしてやる!」
俺はすぐに跳び出そうと思ったが、その時ドロシーの首に何かが付いているのに気が付いた。よく見ると、呪印が彫られた真っ黒な首輪……、奴隷の首輪だった。
「さ、最悪だ……」
俺は固まってしまう。
それは極めてマズい非人道魔道具だった。主人が『死ね!』と念じるだけで首がちぎれ飛んで死んでしまう。男どもを倒しにいっても、途中で念じられたら終わりだ。もし、強引に首輪を破壊しようとしても首は飛んでしまう。どうしたら……?
俺は、ドロシーの白く細い首に巻き付いた禍々しい黒いベルトをにらむ。こみ上げてくる怒りにどうにかなりそうだった。
パシーン! パシーン!
倉庫にドロシーを打ち据える平手打ちの音が響いた。その音が、俺の心を引き裂いていく。
「黙ってろ! 殺すぞ!?」
若い男がすごむ。その声には、残虐な喜びが滲んでいた。
「ひぐぅぅ」
ドロシーは悲痛なうめき声を漏らす。その声に、俺の胸がキューっと締め付けられる。
「ち、畜生……」
全身の血が煮えたぎるような怒りの中、ぎゅっと握ったこぶしの中で、爪が手のひらに食い込む。その痛みで何とか俺は正気を保っていた。
軽率に動いてドロシーを殺されることだけは避けないとならない。ここは我慢するしかなかった。
ギリッと奥歯が鳴る。俺は自分の無力感で気が狂いそうだった。
「ダ、ダメだ! すぐに探して! お願い! どっち行った?」
「だから言いましたのに……。南の方に向かいましたけど、その先はわかりませんよ」
窓を壊す勢いで、俺はパジャマのまま空に飛び出した。寒気が全身を襲うが、それどころではない。
「くぅぅぅ……。とりあえず南門上空まで来てくれ!」
俺は叫びながら朝の空をかっ飛ばした。
まだ朝もや残る涼しい街の上を人目をはばからずに俺は飛んだ。風が頬を打つ。
油断していた。まさかこんな早朝に襲いに来るとは……。
夢に翻弄され、アバドンの警告を無視した俺を呪った。
ドロシーを守ると誓ったのに、こんな形で裏切ってしまったのだ。その罪悪感と、ドロシーへの想いが胸の中で渦巻く。
「ドロシー、ドロシー! ゴメン、今行くよ!」
俺は止めどなく涙がポロポロとこぼれてきて止められなかった。
◇
南門まで来ると、浮かない顔をしてアバドンが浮いていた。
「悪いね、どんな幌馬車だった?」
涙を手早くぬぐい、俺は早口で聞く。
「うーん、薄汚れた良くある幌馬車ですねぇ、パッと見じゃわからないですよ」
そう言って肩をすくめる。その言葉に、俺の心が沈んでいく。
俺は必死に地上を見回すが……朝は多くの幌馬車が行きかっていて、どれか全く分からない。その光景に、焦りと無力感が押し寄せる。
「じゃぁ、俺は門の外の幌馬車をしらみつぶしに探す。お前は街の中をお願い!」
「わかりやした!」
俺はかっ飛んで、南門から伸びている何本かの道を順次にめぐりながら、幌馬車の荷台をのぞいていった――――。
何台も何台も中をのぞき、時には荷物をかき分けて奥まで探した。その度に、ドロシーを見つけられない失望が胸を刺す。
俺は慎重に漏れの無いよう、徹底的に探す――――。
しかし……、一通り探しつくしたのにドロシーは見つからなかった。
「旦那様~、いませんよ~」
アバドンも疲れたような声を送ってくる。
くぅぅぅ……。
頭を抱える俺。
考えろ! 考えろ!
俺は焦る気持ちを落ち着けようと何度か深呼吸をし、奴らの考えそうなことから可能性を絞ることにした。今は冷静さを取り戻すことが一番重要になのだ。
攫われてからずいぶん時間がたつ。もう、目的地に運ばれてしまったに違いない。
目的地はどんなところか――――?
廃工場とか使われてない倉庫とか、廃屋とか……人目につかないちょっと寂れたところだろう。
俺は上空から該当しそうなところを探した。
街の南側には麦畑が広がっている。ただ、麦畑だけではなく、ポツポツと倉庫や工場も見受けられる。悪さをするならこれらのどれかだろう。
「多分、もう下ろされて、廃工場や倉庫に連れ込まれているはずだ。幌馬車の止まっているそういう場所を探してくれない?」
俺はアバドンに指示する。
「なるほど! わかりやした!」
俺も上空を高速で飛びながらそれらを見ていった。
しばらく見ていくと、幌馬車が置いてあるさびれた倉庫を見つけた。いかにも怪しい。俺は静かに降り立つと中の様子をうかがう――――。
いてくれよ……。
心臓が高鳴るのを感じる。
「いやぁぁ! やめて――――!!」
ドロシーの悲痛な叫びが聞こえた。俺の全身に怒りが走る。
許さん! ただでは置かない! 俺は激しい怒りに身を焦がしながら汚れた窓から中をのぞく――――。
ドロシーは数人の男たちに囲まれ、床に押し倒されて服を破られている所だった。バタバタと暴れる白い足を押さえられている。
「ミンチにしてやる!」
俺はすぐに跳び出そうと思ったが、その時ドロシーの首に何かが付いているのに気が付いた。よく見ると、呪印が彫られた真っ黒な首輪……、奴隷の首輪だった。
「さ、最悪だ……」
俺は固まってしまう。
それは極めてマズい非人道魔道具だった。主人が『死ね!』と念じるだけで首がちぎれ飛んで死んでしまう。男どもを倒しにいっても、途中で念じられたら終わりだ。もし、強引に首輪を破壊しようとしても首は飛んでしまう。どうしたら……?
俺は、ドロシーの白く細い首に巻き付いた禍々しい黒いベルトをにらむ。こみ上げてくる怒りにどうにかなりそうだった。
パシーン! パシーン!
倉庫にドロシーを打ち据える平手打ちの音が響いた。その音が、俺の心を引き裂いていく。
「黙ってろ! 殺すぞ!?」
若い男がすごむ。その声には、残虐な喜びが滲んでいた。
「ひぐぅぅ」
ドロシーは悲痛なうめき声を漏らす。その声に、俺の胸がキューっと締め付けられる。
「ち、畜生……」
全身の血が煮えたぎるような怒りの中、ぎゅっと握ったこぶしの中で、爪が手のひらに食い込む。その痛みで何とか俺は正気を保っていた。
軽率に動いてドロシーを殺されることだけは避けないとならない。ここは我慢するしかなかった。
ギリッと奥歯が鳴る。俺は自分の無力感で気が狂いそうだった。
82
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる