「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
23 / 190

23. イイ事しましょ

しおりを挟む
「いらっしゃいませ~!」

 可愛らしい女の子が笑顔で迎えてくれる。

「今日はフリーですか?」

 その質問に、俺は戸惑いを隠せない。何かの符丁だろうか?

「え? フ、フリー……というのは……?」

「お目当ての女の子がいるかどうかよ。おにーさん初めてかしら?」

 赤いドレスを揺らしながら顔を覗き込んでくる。その大胆な仕草に、俺は思わず言葉を詰まらせる。

「そ、そうです。初めてです」

「ふふっ、ついてらっしゃい……」

 意味深な笑みを浮かべながら俺をいざなう女の子。俺はとんでもないところに来てしまったかもしれない。

 奥のテーブルに案内され、俺は戸惑いながらもエールを注文した。店内に元気な声が響く中、俺の緊張は高まるばかりだった。

 そして、女の子の次の言葉に、ユータは凍りついた。

「おにーさんなら二枚でいいわ……。どう?」

 にこやかに笑いながら彼女の手が、そっと俺の手を取る。俺はその柔らかさにドキッとしてしまう。

「に、二枚って……?」

「ふふっ、銀貨二枚で私とイイ事しましょ、ってことよ!」

 耳元でささやかれた言葉に、俺は言葉を失った。

 鼻をくすぐる華やかな香り――――。

 頭の中が真っ白になった。こんなに簡単に可愛い女の子と……?

 俺の中で、様々な感情が渦巻いた。驚き、戸惑い、そして魅了されていく心……。

(待て待て待て待て……)

 何とか自分を取り戻す。

 自分がここにいる理由を思い出せ。ドロシーを守るためだ。俺はブンブンと首を振って何とか誘惑に抗おうとした。

「あら、私じゃ……ダメ?」

 女の子の声がここぞとばかりに甘く響く。腕に押し付けられてくる豊かなふくらみに俺はクラクラしてしまう。

「ダ、ダメなんかじゃないよ。君みたいな可愛い女の子にそんな事言われるなんて、ちょっと驚いちゃっただけ」

 何とか冷静さを取り戻そうとする俺に、女の子はニッコリと微笑んだ。

「うふふ、お上手ね」

 その時だった――――。

「イヤッ! 困ります!」

 ドロシーの声が店内に響き、俺はハッとして慌てて立ち上がる。

 赤いワンピース姿のドロシーが、男と揉めている光景が目に入った。すかさず俺は男を鑑定する。

レナルド・バランド 男爵家次期当主
貴族 レベル26
裏カジノ『ミシェル』オーナー

 貴族。特権階級。俺は宙を仰いだ――――。

 絶対王政のこの国では貴族は平民には逆らえない存在だった。貴族侮辱罪にでもなれば死刑である。

「なんだよ! 俺は客だぞ! 金払うって言ってるじゃねーか!」

 バランドの怒鳴り声が店内に響く。ドロシーは必死に抵抗しているが、男の威圧的な態度に押されている。

 俺はテーブルたちをひとっ飛び、すかさずドロシーの元へ駆け寄ると耳元でささやいた。

「ユータだよ。俺に合わせて」

「え……?」

 どういうことか分からず、混乱しているドロシーを後ろにかばい、バランドに対峙した。

「バランド様、この娘はすでに私と遊ぶ約束をしているのです。申し訳ありません」

 俺はうやうやしく胸に手を当てて頭を下げる。

 突然の介入に、バランドの怒りが爆発した。

「何言ってるんだ! この女は俺がヤるんだよ!」

 ユータはニッコリと笑いながら極力丁寧に対応する。

 力技で逃げてしまうことも考えたが、ドロシーの顔を覚えられているのだ。ことを起こすのは避けたかった。

「可愛い女の子他にもたくさんいるじゃないですか」

 しかし、バランドの怒りは収まらない。

「なんだ貴様は! 平民の分際で!」

 そして、突然のパンチがユータに向かって飛んでくる。

 その瞬間、時が止まったかのように、俺の頭の中で様々な思考が駆け巡る。避けるか、逃げるか、倒すか、それとも……。

 レベル二十六のバランドの渾身の一撃が、ユータの頬を直撃する――――。

「ぐわぁぁ!」

 悲痛な叫びが店内に響き渡る。バランドは痛みに顔を歪め、傷ついた拳を胸に抱え込む。

 レベル八百を超えるユータの防御力補正は異常だった。ユータは何もしないのにバランドの拳が砕けたのだ。

「き、貴様……何をやった! 貴族にケガをさせるなど……」

 真っ赤になって喚くバランドに近づき、俺は耳元でささやいた。

「裏カジノ『ミシェル』のことをお父様にお話ししてもよろしいですか?」

 その言葉に、バランドの顔から血の気が引いた。

(ビンゴ!)

 さっきステータスで出ていた情報を使って、カマをかけたら正解だったようだ。マトモな貴族は裏カジノなどやらない。やるとしたら父親に秘密にやっているだろうと踏んだのだ。

「な、なぜお前がそれを知っている!」

 恐怖に満ちた目でユータを見つめるバランド。

「もし……、彼女から手を引いていただければ『ミシェル』の事は口外いたしません。でも……、少しでも彼女にちょっかいを出すようであれば……」

 俺はレベル八百の気迫を目に込めバランドを威圧した。

 もはやヘビににらまれたカエル状態のバランド。

「わ、分かった! もういい。女は君に譲ろう。痛たたた……」

 痛みに耐えながら、バランドは逃げるように店を出て行った。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ
ファンタジー
辺境貴族の次男レイ=イスラ=エルディア。 実は、病で一度死を経験した転生者だった。 思わぬ偶然によって導かれた転生先…。 転生した際に交わした約束を果たす為、15歳で家を出て旅に出る。 転生する際に与えられたチート能力を駆使して、彼は何を為して行くのか。 魔物あり、戦争あり、恋愛有りの異世界冒険英雄譚がここに幕を開ける!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...