12 / 154
12. 世界最強化計画
しおりを挟む
うわぁ……。
「どれがいいんだい?」
「どれも値段は一緒ですか?」
おばあさんは少し考え込むような仕草をした。
「うーん、この小さいのなら銀貨七枚でもいいよ」
ユータの目が輝いた。
「じゃあ、これください!」
興奮のあまり手を伸ばそうとしたが、おばあさんの素早い動きに阻止される。
「ダメダメ! 触ったら凍傷になるよ!」
おばあさんは慌ててユータの手を掴み、軽く叱りつけた。その仕草には、孫を気遣うような優しさが感じられる。
手袋をはめたおばあさんが、慎重に氷結石を取り出す。そして柔らかな布でキュッキュと丁寧に拭うと、急に氷結石は濃い青色で鮮やかな輝きを放ち始めた。
「うわぁ~!」
俺は息を呑んだ。深い海の底から引き上げられたかのような、神秘的な碧い輝き。俺はその輝きにくぎ付けになってしまう。
「霜が付いてるから、そのままじゃ鈍い水色にしか見えないんだよ」
おばあさんが優しく説明する。
「拭くと、本来の美しさが現れるのさ。どうだい、綺麗だろ?」
俺は感動に震えていた。この小さな石に、まるで異世界の奥深さが凝縮されているかのようだった。
おばあさんはユータの反応を見て、にっこりと微笑む。そして小さな箱に石を入れ、「はい、どうぞ」と差し出した。
「ありがとうございます!」
俺は満面の笑みで小箱を受け取り、慎重にポケットに押し込んだ。
◇
俺の仮説はこうである。
ゴブリンを倒したのは俺の血がついた槍、つまり、俺の血がついた武器で魔物を倒せば、俺がどこで何してても経験値は配分されるのだ。ただ、血が乾いてカピカピになってもこの効果があるかといえば、ないだろう。そんな効果があったらどんな武器にだって血痕は微量についている訳だからシステム的に破綻してしまうはずだ。だから、まだ生きた細胞が残っている血液が付いていることが条件になるだろう。しかし、血液なんてすぐに乾いてしまう。そこで氷結石の出番なのだ。この石を砕いてビーズみたいにして、中にごく微量、俺の血を入れて凍らせる。そしてそれを武器の中に仕込むのだ。これを冒険者のみんなに使ってもらえば俺は寝てるだけで経験値は爆上がり、世界最強の力を得られるに違いない。
もちろん、それだけだと他人の経験値を奪うだけの泥棒になってしまう。やはり喜ばれることをやりたい。と、なると、特殊なレア武器を提供して、すごく強くなる代わりに経験値を分けてもらうという形がいいだろう。
俺はウキウキしながら孤児院に戻り、みんなに見つからないようにそっと倉庫のすみに作業場を確保した。
果たして仮説通りに上手くいきますかどうか……。
ヨシッ!
俺はパンパンと頬を張って気合を入れると、氷結石の加工作業に入った。
◇
週末の朝、澄み切った空の下、街の広場は活気に満ちていた。『蚤の市』の開催日。ユータは胸を躍らせながら、こっそりと貯めたお金を握りしめ、人々の波に身を投じた。
広場には色とりどりの品々が所狭しと並べられ、それぞれが物語を秘めているかのようだった。ハンドメイドの雑貨や、長年眠っていたお宝たち。ユータの目は、その中でも特に武器に釘付けになる。
「さあ、レア武器を見つけるぞ!」
俺は気合を入れると鑑定スキルを駆使しながら、端から武器を見て回った。
グレートソード レア度:★
大剣 攻撃力:+10
スピア レア度:★
槍 攻撃力:+8
しかし、小一時間が経過しても、目当てのレア武器は見つからない。鑑定を使い過ぎて、目はシバシバしてきてしまった。
「うーん、フリマだから仕方ないのかな……」
少し落胆しながらも、ユータは諦めなかった。★1の武器に氷結石を仕込むのは、使う人に損をさせてしまう。それは絶対に避けたかった。
すごく強くなれるけど、経験値が少し減る。そんな武器を作りたかったのだ。
疲れた足を休めるため、ユータは噴水の石垣に腰を下ろした。気の良さそうなおばちゃんから買った手作りクッキーを頬張りながら、ユータは快晴の空を見上げた。
どこまでも広がる青空、賑やかな声が響く広場。そして美味しいクッキー――――。
つい頬に、自然と笑みが浮かんでしまう。
「ここは、本当に素晴らしい場所だな」
かつての暗い部屋でゲームばかりしていた日々を思い出し、俺は首を振ると大きく息をついた。
「どれがいいんだい?」
「どれも値段は一緒ですか?」
おばあさんは少し考え込むような仕草をした。
「うーん、この小さいのなら銀貨七枚でもいいよ」
ユータの目が輝いた。
「じゃあ、これください!」
興奮のあまり手を伸ばそうとしたが、おばあさんの素早い動きに阻止される。
「ダメダメ! 触ったら凍傷になるよ!」
おばあさんは慌ててユータの手を掴み、軽く叱りつけた。その仕草には、孫を気遣うような優しさが感じられる。
手袋をはめたおばあさんが、慎重に氷結石を取り出す。そして柔らかな布でキュッキュと丁寧に拭うと、急に氷結石は濃い青色で鮮やかな輝きを放ち始めた。
「うわぁ~!」
俺は息を呑んだ。深い海の底から引き上げられたかのような、神秘的な碧い輝き。俺はその輝きにくぎ付けになってしまう。
「霜が付いてるから、そのままじゃ鈍い水色にしか見えないんだよ」
おばあさんが優しく説明する。
「拭くと、本来の美しさが現れるのさ。どうだい、綺麗だろ?」
俺は感動に震えていた。この小さな石に、まるで異世界の奥深さが凝縮されているかのようだった。
おばあさんはユータの反応を見て、にっこりと微笑む。そして小さな箱に石を入れ、「はい、どうぞ」と差し出した。
「ありがとうございます!」
俺は満面の笑みで小箱を受け取り、慎重にポケットに押し込んだ。
◇
俺の仮説はこうである。
ゴブリンを倒したのは俺の血がついた槍、つまり、俺の血がついた武器で魔物を倒せば、俺がどこで何してても経験値は配分されるのだ。ただ、血が乾いてカピカピになってもこの効果があるかといえば、ないだろう。そんな効果があったらどんな武器にだって血痕は微量についている訳だからシステム的に破綻してしまうはずだ。だから、まだ生きた細胞が残っている血液が付いていることが条件になるだろう。しかし、血液なんてすぐに乾いてしまう。そこで氷結石の出番なのだ。この石を砕いてビーズみたいにして、中にごく微量、俺の血を入れて凍らせる。そしてそれを武器の中に仕込むのだ。これを冒険者のみんなに使ってもらえば俺は寝てるだけで経験値は爆上がり、世界最強の力を得られるに違いない。
もちろん、それだけだと他人の経験値を奪うだけの泥棒になってしまう。やはり喜ばれることをやりたい。と、なると、特殊なレア武器を提供して、すごく強くなる代わりに経験値を分けてもらうという形がいいだろう。
俺はウキウキしながら孤児院に戻り、みんなに見つからないようにそっと倉庫のすみに作業場を確保した。
果たして仮説通りに上手くいきますかどうか……。
ヨシッ!
俺はパンパンと頬を張って気合を入れると、氷結石の加工作業に入った。
◇
週末の朝、澄み切った空の下、街の広場は活気に満ちていた。『蚤の市』の開催日。ユータは胸を躍らせながら、こっそりと貯めたお金を握りしめ、人々の波に身を投じた。
広場には色とりどりの品々が所狭しと並べられ、それぞれが物語を秘めているかのようだった。ハンドメイドの雑貨や、長年眠っていたお宝たち。ユータの目は、その中でも特に武器に釘付けになる。
「さあ、レア武器を見つけるぞ!」
俺は気合を入れると鑑定スキルを駆使しながら、端から武器を見て回った。
グレートソード レア度:★
大剣 攻撃力:+10
スピア レア度:★
槍 攻撃力:+8
しかし、小一時間が経過しても、目当てのレア武器は見つからない。鑑定を使い過ぎて、目はシバシバしてきてしまった。
「うーん、フリマだから仕方ないのかな……」
少し落胆しながらも、ユータは諦めなかった。★1の武器に氷結石を仕込むのは、使う人に損をさせてしまう。それは絶対に避けたかった。
すごく強くなれるけど、経験値が少し減る。そんな武器を作りたかったのだ。
疲れた足を休めるため、ユータは噴水の石垣に腰を下ろした。気の良さそうなおばちゃんから買った手作りクッキーを頬張りながら、ユータは快晴の空を見上げた。
どこまでも広がる青空、賑やかな声が響く広場。そして美味しいクッキー――――。
つい頬に、自然と笑みが浮かんでしまう。
「ここは、本当に素晴らしい場所だな」
かつての暗い部屋でゲームばかりしていた日々を思い出し、俺は首を振ると大きく息をついた。
141
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる