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11. 夢の氷結石

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「もしかして……俺、世界最強になっちゃうかも?」

 ズキズキと痛む脇腹の傷さえ気にならないほど、高揚感が全身を駆け巡る。

 そんな思考に耽っていると、男性が戻ってきた。

「よく頑張ったな、小さな冒険者くん」

 男性は優しく微笑みながら、手を差し伸べた。

「僕、ユータっていいます。ありがとうございました」

「俺はエドガー。冒険者だ」

 にこやかに救いの手を差し伸べてくれたのは三十五歳の中堅の剣士だった。彼の温かな笑顔に、ユータも笑顔で応じる。

「間一髪だったな。間に合ってよかった……。どれ、傷口を見せて見ろ……あぁ、これは痛いだろう。これを飲め」

 エドガーが差し出したポーションのおかげで、ユータの傷はみるみる癒えていった。


      ◇


 街への道すがら、エドガーは自身の冒険譚を語り始めた。

「ダンジョンボスのガーゴイル相手に、パーティー全滅寸前だったんだ。もうみんな諦めの目をしちゃってる訳! でも俺だけは勝つって気合いだけで突っ込んで行ったのさ」

「す、すごいですね」

「ふふっ。奴は魔法を撃つ時一瞬動きを止めるんだよね。その瞬間を待ってさっきみたいに短剣でシュッとね。たまたま目に当たって落ちて来たところをザクっと。もう英雄扱いさ」

 得意満面のエドガー。

 俺は目を輝かせて聞き入った。エドガーの言葉一つ一つが、未知の世界への扉を開いていく。孤児院の中では知り得ないリアルな魔物の話に俺は夢中になった。

「スライムの群れに襲われたこともあってね。百匹近くが崖の上から滝のように降ってきて、危うく命を落とすところだったよ」

 エドガーは楽しそうに笑う。そんなエドガーを見ながら、自分も商人ながらそんな冒険をしてみたいなんて思ってしまった。

 エドガーの剣を見せてもらうと、レア度は★1。あちこちに刃こぼれが目立つ。

「そろそろ買い替えたいんだが、なかなかいい剣に巡り合えなくてね」

 エドガーの言葉に、ユータの脳裏に閃きが走った。これは、自分の仮説を検証するチャンスかもしれない。

「エドガーさん、僕に代わりの剣を用意させていただけませんか?」

 驚きの表情を浮かべるエドガー。しかし、ユータが「商人を目指していて、その試作品を試してほしい」と説明すると、彼は優しく微笑んだ。

「そうか、君には夢があるんだね。よし、協力させてもらおう。でも、この剣以上の物にしてくれよ?」

「それは任せてください。驚くような剣を持ってきます!」

 俺は両手のこぶしをグッと握って力説した。

 エドガーは嬉しそうにうなずいた。


        ◇

 街に到着し、エドガーと別れた俺は、早速『魔道具屋』へと足を向けた。メインストリートから少し外れた薄暗い路地に、小さな看板を掲げた店がひっそりと佇んでいる。

 ギギギ――――ッ

 重たい扉を開けると、カビ臭い空気が鼻をくすぐり、俺は顔をしかめた。薄暗い店内には、得体の知れない品々が所狭しと並んでいる。動物の骨、きらめく宝石、不思議な形をした瓶。まるで魔法使いの隠れ家のようだ。

 カウンターには、釣り目のおばあさんが暇そうに本を読んでいる。

「あのぉ……すみません」

 声をかけると、彼女は面倒くさそうに顔を上げた。

「坊や、何か用かい?」

「あの、水を凍らせる魔法の石はありませんか?」

氷結石アイシクルジェムのことかい?」

 おばあさんの言葉に、ユータの心臓が高鳴る。

「その石の中に水を入れていたら、ずっと凍っているんですか?」

「変わった質問をする子だね?」

 おばあさんは不思議そうに眉をひそめた。

「魔力が続く限り、氷結石アイシクルジェムの周囲は凍ったままさ」

 ユータの目が輝く。

(よし、これで行ける!)

 この氷結石を使えば、自分の仮説が証明できるかもしれない。そして、それは予想通りなら人生を大きく変える一歩となるはずだった。

 俺は心の中でガッツポーズを決めながら言った。

「その氷結石、一つください!」

 ユータの声に力がこもる。

 おばあさんは少し驚いたような表情を浮かべたが、やがてにやりと笑った。

「一個金貨一枚だよ。坊や、買えるのかい?」

 俺は胸を張って答えた。

「大丈夫です!」

 そう言いながら、ポケットから金貨を一枚取り出した。

 おばあさんの目が驚きで丸くなる。

「あら、驚いた……お金持ちね……」

 俺は少しだけドヤ顔でおばあさんを見た。

 おばあさんはすでに立ち上がると、奥から小物ケースを取り出してきた。

 木製のケースの中には、水色にキラキラと輝く石が整然と並んでいる。まるで小さな宝石箱のようだ。

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