7 / 71
7. 究極の選択
しおりを挟む
うーん、わからん。
しかし、俺には『鑑定』がある。今まさにその力を見せつけてやるべき時なのだ。
テンダイウヤク レア度:★★★
月経時の止痛に使う
空中に浮かび上がる鑑定結果。なるほど、自分に使う薬だったか。だが、俺は大人の女性の秘密に触れた気がして、僅かに頬が熱くなるのを感じた。
俺はコホンと咳払いをして気持ちを落ち着けると、涼しげな声で答えた。
「テンダイウヤクですね、女性が月に一度使ってますね」
その口調は、まるで医者のように聞こえたかもしれない。
「えーーーー!!」
驚いた院長は目を皿のようにして俺を見つめる。その表情には、驚愕と戸惑い、そして僅かな畏怖の色が混ざっていた。
「早速今日から行ってもいいですか?」
俺は得意気な表情で尋ねる。
院長は目を瞑り、しばらく沈黙した。俺はドキドキしながら返事を待つ。
やがて、彼女はゆっくりと目を開け、静かに呟いた。
「そうよね、ユータ君にはそういう才能があるってことよね……」
その言葉には、諦めと期待が入り混じっている。
「わかったわ、でも、絶対森の奥まで行かないこと、これだけは約束してね」
院長は真剣な眼差しで俺を見つめた。その目には、母親のような慈愛と、指導者としての厳しさが同居していた。
「ありがとうございます。約束は守ります」
俺は院長の手を両手で包み、笑顔で答える。院長も根負けしたようなほほえみでうなずいた。
その後、院長は薬草採りのやり方を丁寧に教えてくれた。彼女の若かりし頃の思い出話を交えながらの説明は、まるで授業のようだった。
「私も駆け出しの頃は、よくやったものよ」
院長の目が遠くを見つめる。その瞳に映る過去の冒険譚に、俺は胸が高鳴るのを感じた。
俺の中身は二十代。いつまでも孤児院の庇護に甘えているわけにはいかない。早く成功への手掛かりを得て、自立し、恩返しの道を目指すのだ! その決意が、俺の心の中で燃えさかる。
窓から差し込む陽光が、俺の未来を照らすかのように明るく輝いていた。そこには、困難と希望が入り混じる道が続いているに違いない。しかし、俺には『鑑定』という武器がある。
その日の午後、俺は初めての薬草採りの旅に出る。小さなバッグを背負い、いっぱいの希望を胸に、振り返らずに孤児院を後にした。
◇
街の出口、巨大な城門を抜けると、一面に広がる麦畑が俺を出迎えた。実は街を出るのは初めてである。今日はまさに上天気。どこまでも続く碧い空が、俺の心を解き放つかのようだ。
ビューッと吹き抜ける風に、麦の穂が黄金色に輝きながら大きくウェーブを描く。まるで大地が息づいているかのような光景に、俺は思わず息を呑んだ。
麦わら帽子が飛ばされないよう、ひもをキュッと絞る。その仕草に、これからの試練への覚悟が込められているようだった。
この街道は、山を越えてはるか彼方の他国まで続いているらしい。俺は遠くを見つめ、未来への希望を胸に秘めた。
(いつか商人として成功して、世界をあちこち行ってやるぞ!)
その夢を実現させるため、まずは元手だ。今日が俺の商人としてのスタート。絶対に成功させてやる。俺はグッとこぶしを握った。
◇
麦畑の続く一本道を二時間ほど歩き、ようやく森の端に辿り着いた。奥には恐ろしい魔物が潜むという噂だが、この辺りなら昼間の今は安全なはずだ。俺は護身用にと院長から渡された年季物の短剣を手探りで確かめ、お守り代わりに感じながら大きく深呼吸をした。
俺は下草の茂る森の中へと足を踏み入れた。目につく植物は片っ端から鑑定し、レア度★3以上の物を探す。しかし、現実は厳しかった。
ほとんどが★1の雑草か、あっても★2までである。★2などは二束三文。頑張って取っても買い取ってくれるかどうかも怪しかった。
簡単でないことは分かってはいたが、一時間ほど探し回っても収穫ゼロの現実に、俺は焦燥感を覚えた。
(まずい、このままでは帰れない)
そんな時、小川のせせらぎが耳に入った。流れに沿って目を向けると、崖になっている場所を見つける。崖は植生が変わるため、希少な植物が見つかる可能性が高い。俺の心に期待が膨らむ。
川沿いを歩きながら注意深く観察を続けると、突然目に飛び込んできたのは――――。
アベンス レア度:★★★★
悪魔祓いの効能がある
「キターーーー!!」
俺は思わず声を上げた。★4のレア植物。これは間違いなく大当たりだ。興奮に全身が震える。
しかし、その喜びもつかの間。アベンスは崖の上方に生えており、簡単には手が届かないという現実が立ちふさがる。三階建ての家ほどの高さだろうか。落ちれば間違いなく命に関わる。
(諦めるか……命を懸けるか……)
俺は葛藤に襲われた。小川のせせらぎがチロチロと心地よい音を立て、遠くでは鳥がチチチチと鳴いている。
ふと、院長の顔が脳裏に浮かぶ。
『絶対に無理はしないこと! いいわね?』
慈愛に満ちた笑顔と、厳しい眼差しでそうきつく言ってくれた院長。
しかし――――。
手ぶらか★4かでは今日一日の成果は全く変わってくる。大口叩いて成果ゼロだなんてとてもみんなにも言えないのだ。
成功にリスクはつきもの。リスクを恐れていては成功などできない。その思いが、俺の決断を後押しした。
「よし、やってやる!」
俺は決意を固め、慎重にルートを確認すると、崖の出っ張りに手をかける――――。
登り始めたらもう後戻りはできない。俺は何度か大きく息をつくと岩をつかむ手に静かに力を込めた。
その姿は、まるで運命に挑む若き挑戦者そのものである。この瞬間、俺の新たな人生が本当の意味で始まったのだ。
しかし、俺には『鑑定』がある。今まさにその力を見せつけてやるべき時なのだ。
テンダイウヤク レア度:★★★
月経時の止痛に使う
空中に浮かび上がる鑑定結果。なるほど、自分に使う薬だったか。だが、俺は大人の女性の秘密に触れた気がして、僅かに頬が熱くなるのを感じた。
俺はコホンと咳払いをして気持ちを落ち着けると、涼しげな声で答えた。
「テンダイウヤクですね、女性が月に一度使ってますね」
その口調は、まるで医者のように聞こえたかもしれない。
「えーーーー!!」
驚いた院長は目を皿のようにして俺を見つめる。その表情には、驚愕と戸惑い、そして僅かな畏怖の色が混ざっていた。
「早速今日から行ってもいいですか?」
俺は得意気な表情で尋ねる。
院長は目を瞑り、しばらく沈黙した。俺はドキドキしながら返事を待つ。
やがて、彼女はゆっくりと目を開け、静かに呟いた。
「そうよね、ユータ君にはそういう才能があるってことよね……」
その言葉には、諦めと期待が入り混じっている。
「わかったわ、でも、絶対森の奥まで行かないこと、これだけは約束してね」
院長は真剣な眼差しで俺を見つめた。その目には、母親のような慈愛と、指導者としての厳しさが同居していた。
「ありがとうございます。約束は守ります」
俺は院長の手を両手で包み、笑顔で答える。院長も根負けしたようなほほえみでうなずいた。
その後、院長は薬草採りのやり方を丁寧に教えてくれた。彼女の若かりし頃の思い出話を交えながらの説明は、まるで授業のようだった。
「私も駆け出しの頃は、よくやったものよ」
院長の目が遠くを見つめる。その瞳に映る過去の冒険譚に、俺は胸が高鳴るのを感じた。
俺の中身は二十代。いつまでも孤児院の庇護に甘えているわけにはいかない。早く成功への手掛かりを得て、自立し、恩返しの道を目指すのだ! その決意が、俺の心の中で燃えさかる。
窓から差し込む陽光が、俺の未来を照らすかのように明るく輝いていた。そこには、困難と希望が入り混じる道が続いているに違いない。しかし、俺には『鑑定』という武器がある。
その日の午後、俺は初めての薬草採りの旅に出る。小さなバッグを背負い、いっぱいの希望を胸に、振り返らずに孤児院を後にした。
◇
街の出口、巨大な城門を抜けると、一面に広がる麦畑が俺を出迎えた。実は街を出るのは初めてである。今日はまさに上天気。どこまでも続く碧い空が、俺の心を解き放つかのようだ。
ビューッと吹き抜ける風に、麦の穂が黄金色に輝きながら大きくウェーブを描く。まるで大地が息づいているかのような光景に、俺は思わず息を呑んだ。
麦わら帽子が飛ばされないよう、ひもをキュッと絞る。その仕草に、これからの試練への覚悟が込められているようだった。
この街道は、山を越えてはるか彼方の他国まで続いているらしい。俺は遠くを見つめ、未来への希望を胸に秘めた。
(いつか商人として成功して、世界をあちこち行ってやるぞ!)
その夢を実現させるため、まずは元手だ。今日が俺の商人としてのスタート。絶対に成功させてやる。俺はグッとこぶしを握った。
◇
麦畑の続く一本道を二時間ほど歩き、ようやく森の端に辿り着いた。奥には恐ろしい魔物が潜むという噂だが、この辺りなら昼間の今は安全なはずだ。俺は護身用にと院長から渡された年季物の短剣を手探りで確かめ、お守り代わりに感じながら大きく深呼吸をした。
俺は下草の茂る森の中へと足を踏み入れた。目につく植物は片っ端から鑑定し、レア度★3以上の物を探す。しかし、現実は厳しかった。
ほとんどが★1の雑草か、あっても★2までである。★2などは二束三文。頑張って取っても買い取ってくれるかどうかも怪しかった。
簡単でないことは分かってはいたが、一時間ほど探し回っても収穫ゼロの現実に、俺は焦燥感を覚えた。
(まずい、このままでは帰れない)
そんな時、小川のせせらぎが耳に入った。流れに沿って目を向けると、崖になっている場所を見つける。崖は植生が変わるため、希少な植物が見つかる可能性が高い。俺の心に期待が膨らむ。
川沿いを歩きながら注意深く観察を続けると、突然目に飛び込んできたのは――――。
アベンス レア度:★★★★
悪魔祓いの効能がある
「キターーーー!!」
俺は思わず声を上げた。★4のレア植物。これは間違いなく大当たりだ。興奮に全身が震える。
しかし、その喜びもつかの間。アベンスは崖の上方に生えており、簡単には手が届かないという現実が立ちふさがる。三階建ての家ほどの高さだろうか。落ちれば間違いなく命に関わる。
(諦めるか……命を懸けるか……)
俺は葛藤に襲われた。小川のせせらぎがチロチロと心地よい音を立て、遠くでは鳥がチチチチと鳴いている。
ふと、院長の顔が脳裏に浮かぶ。
『絶対に無理はしないこと! いいわね?』
慈愛に満ちた笑顔と、厳しい眼差しでそうきつく言ってくれた院長。
しかし――――。
手ぶらか★4かでは今日一日の成果は全く変わってくる。大口叩いて成果ゼロだなんてとてもみんなにも言えないのだ。
成功にリスクはつきもの。リスクを恐れていては成功などできない。その思いが、俺の決断を後押しした。
「よし、やってやる!」
俺は決意を固め、慎重にルートを確認すると、崖の出っ張りに手をかける――――。
登り始めたらもう後戻りはできない。俺は何度か大きく息をつくと岩をつかむ手に静かに力を込めた。
その姿は、まるで運命に挑む若き挑戦者そのものである。この瞬間、俺の新たな人生が本当の意味で始まったのだ。
96
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
魔王軍をクビにされた元四天王、双子の勇者を拾う
侍兵士
ファンタジー
若くして魔王軍四天王に就任した稀代の天才魔族エスペランザは、理不尽極まりない理由でクビになってしまう。彼女の心は、自分をクビにした魔王への怒りに燃えていた。
「許さない、絶対に復讐してやるッ!」
そんな時彼女は、家の前に捨てられていた双子の赤ん坊を発見。
それが勇者の血を引く子だと知り、魔王を倒すために育て、鍛え上げようと画策する。
――しかし10年後。
「「ママー、ドラゴン倒したー!」」
「2人とも偉いねぇぇぇぇぇ!!! 世界一可愛いよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
彼女はとんでもない親バカとなり、復讐のことなんてすっかり忘れ子育てに夢中になっていたのだった。
今彼女は、愛する子供たちと一緒にカフェを営みながら、たまに襲ってくる超凶暴なモンスターとかをボコボコにしながらほのぼのと暮らしています。
小説家になろうさんの方でも更新しています!少しだけこっちより更新早めです!
もふもふ大好き聖女の異世のんびり生活
ファンタスティック小説家
ファンタジー
サービス残業当たり前、超ブラック企業勤めの相原友里は、大好きな『ポケット″ノ″モンスター』をやれてない事が原因で転生をはたす。
異世界には不思議な生物がいた。モフットモンスター、訳してモフモン。陸に、海に、空に──世界のいたるところに住むもふもふ生物たち。完全にユウリ向けの世界、彼女はモフモンとのスローライフを夢見た。
しかし、夢を邪魔する者もいる。
「あなたには信仰魔法の才能がある!」
「という訳で聖女にしておきました。おめでとう!」
いやです。無理です。他をあたってください。モフモンと遊ぶ時間ないくらい忙しいの知ってるんだからね。
おや、テイマーの大会に優勝して『チャンピオン』になれば聖女を辞めれる? ──ユウリはスローライフと聖女辞退のために、最強のテイマーを目指すことになった。
でも、チャンピオンも結構、忙しいんだね。ファン対応とか増えて、握手会、講演会? なんか違くない……こういう事じゃなくない…?
安寧はどこだろう。お願いです…頼みますから…モフモンと自由に暮らさせてください……。
これはモフモン生活を目指して聖女になったら、いつの間にか、伝説になってしまった聖女テイマーの物語──
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
3IN-IN INvisible INnerworld-
ゆなお
ファンタジー
一人の青年のささやかな願いから始まった旅は、いつしか仲間と共にひっそりと世界を救う旅へと変わっていく。心と心の繋がりの物語。
※本編完結済みです。2ルート分岐あり全58話。長いですが二十五話まで読んで、続きが気になったら最後まで読んでください。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
彼女がいなくなった6年後の話
こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。
彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。
彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。
「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」
何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。
「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」
突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。
※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です!
※なろう様にも掲載
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる