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2. 人族最強
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勇者は凄絶な叫び声と共に両腕を素早く開いた。
「光子斬!」
まばゆい光の軌跡から、眩いばかりの光の刃が俺めがけて放たれる。その光景は、まるで神々の怒りのようだった。
しかし――――。
「はぁ……」
俺は深いため息と共に、その光の刃をあっさりと叩き落とした。それは拍子抜けするほど簡単だった。
閃光と共に、光の刃が舞台に落ちる。轟音と共に大爆発が起こり、灼熱の衝撃波が観客席まで届く。悲鳴が響き渡る中、舞台では煌めく爆炎と立ち昇る煙。まるで戦場だ。
「な、なぜだ! あり得ない!」
勇者の声が裏返る。光の刃を叩き落とされた衝撃に、全身を震わせている。その顔には、慢心が恐怖に変わる瞬間が刻まれていた。
俺は爆煙の中から『瞬歩』スキルで姿を現す。目にも止まらぬ速さで勇者に迫り――――。
「ぐふぅっ!」
渾身のアッパーカットを勇者のアゴに叩き込んだ。
勇者の身体が宙を舞う。まるで重力を無視するかのように、ゆっくりと弧を描いて――――。
ドスンッ! と舞台に落ちる。
俺はゆっくりと歩み寄る。その足音が、静まり返った闘技場に不気味に響く。
「き、貴様何者だ!」
勇者は後ずさりながら青ざめた顔で叫ぶ。その目には、底知れぬ恐怖が宿っていた。
「お前もよく知ってるだろ? ただの商人だよ」
俺は冷ややかに答え、指をポキポキと鳴らしてニヤリと笑う。その仕草に、勇者の顔が恐怖に凍った。
「わ、わかった。何が欲しい? 金か? 爵位か? なんでも用意させよう!」
勇者の声が裏返る。その姿は、かつての威風堂々とした英雄の面影もない。
俺は勇者を見下ろす。その目には、怒りと憐憫が混ざっていた。
「お前は性欲と下らん虚栄心のために俺の大切な人を傷つけ、多くの命を奪った。その罪を償え!」
俺の声に、闘技場全体が息を呑む。
俺は勇者を蹴り上げた――――。
ドスッという鈍い音が闘技場に響き渡り、悲鳴があちこちで上がった。
ふぐぅ……。
声にならないうめきを上げながら放物線を描き、落ちてくる勇者。
俺は再び瞬歩で迫ると、全ての怒りと悲しみを込めて顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
勇者の体が、まるで人形のように宙を舞い、ゴロゴロと舞台を転がった。
超満員の闘技場が水を打ったように静寂に包まれる。人族最強と謳われた男が、まるで赤子のように翻弄されている。観客たちの目は、眼前の光景を信じられないという困惑に満ちていた。
勇者はよろよろと立ち上がる。その姿は、もはや哀れですらあった。
「わ、分かった! お前の勝ちでいい、約束も守ろう! あ、握手だ、握手しよう!」
震える声で言いながら、勇者は右手を差し出してきた。
俺はその手をじっと見つめる。そして、ゆっくりと顔を上げ、無言で勇者と目を合わせた。
「き、君がすごいのは良く分かった。仲良くやろうじゃないか。まず握手から……」
勇者の声が震える。その目には、懇願の色が浮かんでいた。
俺は無言のまま、その右手に自分の手を伸ばす。勇者の目に、わずかな希望の光が灯る。
しかし――――。
ニヤッといやらしい笑みを浮かべながら、俺の手をガシッと強くつかんだ勇者の目に底知れぬ邪悪な光が宿った。
「絶対爆雷!」
勇者の叫びが闘技場に響き渡る。瞬間、天穹が裂けんばかりの轟音と共に、巨大な雷が俺めがけて炸裂した――――。
眩い光が会場を覆い尽くす。その閃光は灼熱を帯び、大地を揺るがす地鳴りと共に、俺の身体から爆炎が渦巻くように立ち上る。
「キャ――――!!」
凄まじい衝撃に、観客から悲鳴が響き渡る。その声には恐怖と驚愕が混ざっていた。
「バカめ! 魔王すら倒せる究極魔法で黒焦げだ! ハーッハッハッハー!」
勇者の高笑いが、爆音を掻き消すように鳴り響く。その顔には傲慢な笑みが浮かんでいた。
爆炎は高く天を焦がし、放たれる熱線は闘技場一帯を灼熱の渦に包み込む。観客たちは顔を覆い、その熱さに悶絶する。
勝利を確信した勇者。
しかし――――。
直後、その傲慢な笑顔が凍りつく。収まりつつある爆炎の中に、鋭く青く光る目を見たのだ。
「え……?」
勇者の声が裏返る。そして、右手が徐々に握りつぶされていくのを感じた。
「お、お前まだ生きてるのか!? ち、ちょっと痛い! や、やめてくれ!」
悶える勇者。その声には、慄然とした恐怖が滲んでいた。
チートで上げまくった俺の魔法防御力は、勇者の魔法攻撃力をはるかに凌駕している。効くはずがなかったのだ。
俺は無表情で、さらに強く勇者の手を握り締める。ベキベキベキッという不気味な音と共に、手甲ごと潰れていく勇者の右手。
「ぐわぁぁぁ!」
勇者は絶叫と共に尻もちをつき、無様にうずくまる。その姿は、かつての英雄の面影もない。
「嘘つきの卑怯者が……」
俺の声は低く、冷たかった。その中に、これまでの怒りと悲しみのすべてが凝縮されている。
俺は勇者に迫ると、全身の力を込めて顔面を蹴り上げた。
ゴスッという生々しい音と共に勇者が吹き飛ぶ。真っ赤な血が飛び散り、闘技場の床を染めた。
「きゃぁっ!」「うわっ!」
観客から悲痛な声が漏れる。その目には人ならざるものを見た時のような畏怖が宿っていた。
俺がスタスタと近づくと、勇者はボロボロになりながらも必死に言葉を絞り出す。
「わ、悪かった……全部俺が悪かった。は、反省する……」
ようやく罪を認めた勇者。その声には、これまでの傲慢さのかけらもない。
俺は勇者の鎧をつかみ、無造作に持ち上げる。その目には、怒りと共に、かすかな哀れみの色が浮かんでいた。
「今後一切、俺や俺の仲間には関わらないこと、リリアン姫との結婚は断ること、分かったな?」
勇者は腫れあがった顔をさらしながら、小さな声で答えた。
「わ、分かった」
俺はもう一発、拳で小突くと、声を低く唸らせた。
「『分かりました』だろ?」
目を回した勇者は、最後の力を振り絞るように小さな声で答えた。
「す、すみません、分かり……ました」
そう言って、勇者はガクッと気を失う。
闘技場に静寂が訪れる。その沈黙の中に、何かが大きく変わった瞬間の緊張感が漂っていた。
俺は気を失った勇者を、まるで雑巾のように無造作に舞台の外へ放り投げた。
ひぃっ! うわぁ……。 あぁぁぁ……。
会場全体がどよめきに包まれる。
俺はキュッと口を結び、静かに小さくガッツポーズを決めた。
呆然としていたレフェリーが我に返り、慌てて叫んだ。
「しょ、勝者……、えーと……ユーター!」
その声が闘技場に響き渡る。この瞬間、俺は武闘会優勝者となった。人族最強の座を手に入れたことになる。しかし、胸に去来するのは達成感ではなく、どこか虚無のような感覚だった。
観客たちは、目の前で起きた出来事をどう理解したらいいのか困惑している。人族最強の強さを誇る王国の英雄、勇者が、ただの街の商人にボコボコにされ、倒されたのだ。その衝撃は、彼らの世界観を根底から揺るがしてしまう。
俺は観客席を見回し、困惑している彼らを見ながら苦笑した。理解できないのも無理はない。もちろん、勇者は強い。俺以外なら世界トップだろう。だが、チートでひそかに鍛えていた俺のレベルは千を超えている。職種こそ『商人』ではあるが、これだけレベル差があるとたとえ『勇者』だろうが瞬殺なのだ。勝負になどなりようがない。
闘技場に集まった数万の観客たちは、混乱と興奮が入り混じった喧騒に包まれていた。
「あの平凡な商人が、勇者を倒すなんて……」
「これって、夢?」
「勇者様が負けるなんて、世界の終わりかも……」
観客たちは互いの顔を見合わせ、首を傾げるばかり。その目には、驚きと共に、新たな時代の幕開けを予感させるような輝きが宿っていた。
俺は大きく息をつくと、貴賓席に向かって胸に手を当て、姿勢を正す。
コホンと軽く咳ばらいをし、豪奢な椅子にふんぞり返って座る王様に向かって張りのある声で叫んだ。
「国王陛下、この度は素晴らしい武闘会を開催してくださったこと、謹んで御礼申し上げます! ご覧いただきました通り、優勝者はわたくしに決まりました! つきましては、リリアン姫との結婚をお許しいただきたく存じます!」
王様の隣で可憐なドレスに身を包んだ絶世の美女、リリアンは両手を組み、感激のあまり目には涙すら浮かべていた。その姿は、まるで童話の中の姫君のようだ。
王様はあっけにとられていたが、俺の言葉を聞いて激怒した。その顔は、まるで熟れた柿のように赤く染まっていた。
「商人ごときが王族と結婚などできるわけなかろう! ふ、不正だ! 何か怪しいことを仕組んだに違いない! ひっとらえろ!」
王様の掛け声で警備兵がドッと舞台に上って俺を包囲し、剣を抜いて構えた。
俺はつい笑ってしまう。レベル千の俺からしたら雑兵など何の意味もない。体操競技選手のようにタンッと飛び上がり、クルクルッと回りながら警備兵を飛び越えると、
「みんな! ありがとー!」
と、観客席に手を振ってそのままゲートを突破し、退場した。その姿は、まるで風のように軽やかだった。
リリアンとの約束は『勇者との結婚を阻むこと』。これでお役目終了だ、ホッとした。
このまま遠くの街まで逃げてまた商人を続ければいい、金ならいくらでもあるのだ。
だが、世の中そう簡単にはいかない。この世界は俺のようなチートを見逃してはくれないのだった。その時はまだ知る由もなかったが、この勝利が新たな悲劇を呼んでしまったのだ。
ともあれ、なぜこんなことになったのか、順を追って語ってみたい。そう、全ては俺があの日、異世界に転生した時から始まったのだ……。
「光子斬!」
まばゆい光の軌跡から、眩いばかりの光の刃が俺めがけて放たれる。その光景は、まるで神々の怒りのようだった。
しかし――――。
「はぁ……」
俺は深いため息と共に、その光の刃をあっさりと叩き落とした。それは拍子抜けするほど簡単だった。
閃光と共に、光の刃が舞台に落ちる。轟音と共に大爆発が起こり、灼熱の衝撃波が観客席まで届く。悲鳴が響き渡る中、舞台では煌めく爆炎と立ち昇る煙。まるで戦場だ。
「な、なぜだ! あり得ない!」
勇者の声が裏返る。光の刃を叩き落とされた衝撃に、全身を震わせている。その顔には、慢心が恐怖に変わる瞬間が刻まれていた。
俺は爆煙の中から『瞬歩』スキルで姿を現す。目にも止まらぬ速さで勇者に迫り――――。
「ぐふぅっ!」
渾身のアッパーカットを勇者のアゴに叩き込んだ。
勇者の身体が宙を舞う。まるで重力を無視するかのように、ゆっくりと弧を描いて――――。
ドスンッ! と舞台に落ちる。
俺はゆっくりと歩み寄る。その足音が、静まり返った闘技場に不気味に響く。
「き、貴様何者だ!」
勇者は後ずさりながら青ざめた顔で叫ぶ。その目には、底知れぬ恐怖が宿っていた。
「お前もよく知ってるだろ? ただの商人だよ」
俺は冷ややかに答え、指をポキポキと鳴らしてニヤリと笑う。その仕草に、勇者の顔が恐怖に凍った。
「わ、わかった。何が欲しい? 金か? 爵位か? なんでも用意させよう!」
勇者の声が裏返る。その姿は、かつての威風堂々とした英雄の面影もない。
俺は勇者を見下ろす。その目には、怒りと憐憫が混ざっていた。
「お前は性欲と下らん虚栄心のために俺の大切な人を傷つけ、多くの命を奪った。その罪を償え!」
俺の声に、闘技場全体が息を呑む。
俺は勇者を蹴り上げた――――。
ドスッという鈍い音が闘技場に響き渡り、悲鳴があちこちで上がった。
ふぐぅ……。
声にならないうめきを上げながら放物線を描き、落ちてくる勇者。
俺は再び瞬歩で迫ると、全ての怒りと悲しみを込めて顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
勇者の体が、まるで人形のように宙を舞い、ゴロゴロと舞台を転がった。
超満員の闘技場が水を打ったように静寂に包まれる。人族最強と謳われた男が、まるで赤子のように翻弄されている。観客たちの目は、眼前の光景を信じられないという困惑に満ちていた。
勇者はよろよろと立ち上がる。その姿は、もはや哀れですらあった。
「わ、分かった! お前の勝ちでいい、約束も守ろう! あ、握手だ、握手しよう!」
震える声で言いながら、勇者は右手を差し出してきた。
俺はその手をじっと見つめる。そして、ゆっくりと顔を上げ、無言で勇者と目を合わせた。
「き、君がすごいのは良く分かった。仲良くやろうじゃないか。まず握手から……」
勇者の声が震える。その目には、懇願の色が浮かんでいた。
俺は無言のまま、その右手に自分の手を伸ばす。勇者の目に、わずかな希望の光が灯る。
しかし――――。
ニヤッといやらしい笑みを浮かべながら、俺の手をガシッと強くつかんだ勇者の目に底知れぬ邪悪な光が宿った。
「絶対爆雷!」
勇者の叫びが闘技場に響き渡る。瞬間、天穹が裂けんばかりの轟音と共に、巨大な雷が俺めがけて炸裂した――――。
眩い光が会場を覆い尽くす。その閃光は灼熱を帯び、大地を揺るがす地鳴りと共に、俺の身体から爆炎が渦巻くように立ち上る。
「キャ――――!!」
凄まじい衝撃に、観客から悲鳴が響き渡る。その声には恐怖と驚愕が混ざっていた。
「バカめ! 魔王すら倒せる究極魔法で黒焦げだ! ハーッハッハッハー!」
勇者の高笑いが、爆音を掻き消すように鳴り響く。その顔には傲慢な笑みが浮かんでいた。
爆炎は高く天を焦がし、放たれる熱線は闘技場一帯を灼熱の渦に包み込む。観客たちは顔を覆い、その熱さに悶絶する。
勝利を確信した勇者。
しかし――――。
直後、その傲慢な笑顔が凍りつく。収まりつつある爆炎の中に、鋭く青く光る目を見たのだ。
「え……?」
勇者の声が裏返る。そして、右手が徐々に握りつぶされていくのを感じた。
「お、お前まだ生きてるのか!? ち、ちょっと痛い! や、やめてくれ!」
悶える勇者。その声には、慄然とした恐怖が滲んでいた。
チートで上げまくった俺の魔法防御力は、勇者の魔法攻撃力をはるかに凌駕している。効くはずがなかったのだ。
俺は無表情で、さらに強く勇者の手を握り締める。ベキベキベキッという不気味な音と共に、手甲ごと潰れていく勇者の右手。
「ぐわぁぁぁ!」
勇者は絶叫と共に尻もちをつき、無様にうずくまる。その姿は、かつての英雄の面影もない。
「嘘つきの卑怯者が……」
俺の声は低く、冷たかった。その中に、これまでの怒りと悲しみのすべてが凝縮されている。
俺は勇者に迫ると、全身の力を込めて顔面を蹴り上げた。
ゴスッという生々しい音と共に勇者が吹き飛ぶ。真っ赤な血が飛び散り、闘技場の床を染めた。
「きゃぁっ!」「うわっ!」
観客から悲痛な声が漏れる。その目には人ならざるものを見た時のような畏怖が宿っていた。
俺がスタスタと近づくと、勇者はボロボロになりながらも必死に言葉を絞り出す。
「わ、悪かった……全部俺が悪かった。は、反省する……」
ようやく罪を認めた勇者。その声には、これまでの傲慢さのかけらもない。
俺は勇者の鎧をつかみ、無造作に持ち上げる。その目には、怒りと共に、かすかな哀れみの色が浮かんでいた。
「今後一切、俺や俺の仲間には関わらないこと、リリアン姫との結婚は断ること、分かったな?」
勇者は腫れあがった顔をさらしながら、小さな声で答えた。
「わ、分かった」
俺はもう一発、拳で小突くと、声を低く唸らせた。
「『分かりました』だろ?」
目を回した勇者は、最後の力を振り絞るように小さな声で答えた。
「す、すみません、分かり……ました」
そう言って、勇者はガクッと気を失う。
闘技場に静寂が訪れる。その沈黙の中に、何かが大きく変わった瞬間の緊張感が漂っていた。
俺は気を失った勇者を、まるで雑巾のように無造作に舞台の外へ放り投げた。
ひぃっ! うわぁ……。 あぁぁぁ……。
会場全体がどよめきに包まれる。
俺はキュッと口を結び、静かに小さくガッツポーズを決めた。
呆然としていたレフェリーが我に返り、慌てて叫んだ。
「しょ、勝者……、えーと……ユーター!」
その声が闘技場に響き渡る。この瞬間、俺は武闘会優勝者となった。人族最強の座を手に入れたことになる。しかし、胸に去来するのは達成感ではなく、どこか虚無のような感覚だった。
観客たちは、目の前で起きた出来事をどう理解したらいいのか困惑している。人族最強の強さを誇る王国の英雄、勇者が、ただの街の商人にボコボコにされ、倒されたのだ。その衝撃は、彼らの世界観を根底から揺るがしてしまう。
俺は観客席を見回し、困惑している彼らを見ながら苦笑した。理解できないのも無理はない。もちろん、勇者は強い。俺以外なら世界トップだろう。だが、チートでひそかに鍛えていた俺のレベルは千を超えている。職種こそ『商人』ではあるが、これだけレベル差があるとたとえ『勇者』だろうが瞬殺なのだ。勝負になどなりようがない。
闘技場に集まった数万の観客たちは、混乱と興奮が入り混じった喧騒に包まれていた。
「あの平凡な商人が、勇者を倒すなんて……」
「これって、夢?」
「勇者様が負けるなんて、世界の終わりかも……」
観客たちは互いの顔を見合わせ、首を傾げるばかり。その目には、驚きと共に、新たな時代の幕開けを予感させるような輝きが宿っていた。
俺は大きく息をつくと、貴賓席に向かって胸に手を当て、姿勢を正す。
コホンと軽く咳ばらいをし、豪奢な椅子にふんぞり返って座る王様に向かって張りのある声で叫んだ。
「国王陛下、この度は素晴らしい武闘会を開催してくださったこと、謹んで御礼申し上げます! ご覧いただきました通り、優勝者はわたくしに決まりました! つきましては、リリアン姫との結婚をお許しいただきたく存じます!」
王様の隣で可憐なドレスに身を包んだ絶世の美女、リリアンは両手を組み、感激のあまり目には涙すら浮かべていた。その姿は、まるで童話の中の姫君のようだ。
王様はあっけにとられていたが、俺の言葉を聞いて激怒した。その顔は、まるで熟れた柿のように赤く染まっていた。
「商人ごときが王族と結婚などできるわけなかろう! ふ、不正だ! 何か怪しいことを仕組んだに違いない! ひっとらえろ!」
王様の掛け声で警備兵がドッと舞台に上って俺を包囲し、剣を抜いて構えた。
俺はつい笑ってしまう。レベル千の俺からしたら雑兵など何の意味もない。体操競技選手のようにタンッと飛び上がり、クルクルッと回りながら警備兵を飛び越えると、
「みんな! ありがとー!」
と、観客席に手を振ってそのままゲートを突破し、退場した。その姿は、まるで風のように軽やかだった。
リリアンとの約束は『勇者との結婚を阻むこと』。これでお役目終了だ、ホッとした。
このまま遠くの街まで逃げてまた商人を続ければいい、金ならいくらでもあるのだ。
だが、世の中そう簡単にはいかない。この世界は俺のようなチートを見逃してはくれないのだった。その時はまだ知る由もなかったが、この勝利が新たな悲劇を呼んでしまったのだ。
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