2 / 193
2. 人族最強
しおりを挟む
勇者は凄絶な叫び声と共に両腕を素早く開いた。
「光子斬!」
まばゆい光の軌跡から、眩いばかりの光の刃が俺めがけて放たれる。その光景は、まるで神々の怒りのようだった。
しかし――――。
「はぁ……」
俺は深いため息と共に、その光の刃をあっさりと叩き落とした。それは拍子抜けするほど簡単だった。
閃光と共に、光の刃が舞台に落ちる。轟音と共に大爆発が起こり、灼熱の衝撃波が観客席まで届く。悲鳴が響き渡る中、舞台では煌めく爆炎と立ち昇る煙。まるで戦場だ。
「な、なぜだ! あり得ない!」
勇者の声が裏返る。光の刃を叩き落とされた衝撃に、全身を震わせている。その顔には、慢心が恐怖に変わる瞬間が刻まれていた。
俺は爆煙の中から『瞬歩』スキルで姿を現す。目にも止まらぬ速さで勇者に迫り――――。
「ぐふぅっ!」
渾身のアッパーカットを勇者のアゴに叩き込んだ。
勇者の身体が宙を舞う。まるで重力を無視するかのように、ゆっくりと弧を描いて――――。
ドスンッ! と舞台に落ちる。
俺はゆっくりと歩み寄る。その足音が、静まり返った闘技場に不気味に響く。
「き、貴様何者だ!」
勇者は後ずさりながら青ざめた顔で叫ぶ。その目には、底知れぬ恐怖が宿っていた。
「お前もよく知ってるだろ? ただの商人だよ」
俺は冷ややかに答え、指をポキポキと鳴らしてニヤリと笑う。その仕草に、勇者の顔が恐怖に凍った。
「わ、わかった。何が欲しい? 金か? 爵位か? なんでも用意させよう!」
勇者の声が裏返る。その姿は、かつての威風堂々とした英雄の面影もない。
俺は勇者を見下ろす。その目には、怒りと憐憫が混ざっていた。
「お前は性欲と下らん虚栄心のために俺の大切な人を傷つけ、多くの命を奪った。その罪を償え!」
俺の声に、闘技場全体が息を呑む。
俺は勇者を蹴り上げた――――。
ドスッという鈍い音が闘技場に響き渡り、悲鳴があちこちで上がった。
ふぐぅ……。
声にならないうめきを上げながら放物線を描き、落ちてくる勇者。
俺は再び瞬歩で迫ると、全ての怒りと悲しみを込めて顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
勇者の体が、まるで人形のように宙を舞い、ゴロゴロと舞台を転がった。
超満員の闘技場が水を打ったように静寂に包まれる。人族最強と謳われた男が、まるで赤子のように翻弄されている。観客たちの目は、眼前の光景を信じられないという困惑に満ちていた。
勇者はよろよろと立ち上がる。その姿は、もはや哀れですらあった。
「わ、分かった! お前の勝ちでいい、約束も守ろう! あ、握手だ、握手しよう!」
震える声で言いながら、勇者は右手を差し出してきた。
俺はその手をじっと見つめる。そして、ゆっくりと顔を上げ、無言で勇者と目を合わせた。
「き、君がすごいのは良く分かった。仲良くやろうじゃないか。まず握手から……」
勇者の声が震える。その目には、懇願の色が浮かんでいた。
俺は無言のまま、その右手に自分の手を伸ばす。勇者の目に、わずかな希望の光が灯る。
しかし――――。
ニヤッといやらしい笑みを浮かべながら、俺の手をガシッと強くつかんだ勇者の目に底知れぬ邪悪な光が宿った。
「絶対爆雷!」
勇者の叫びが闘技場に響き渡る。瞬間、天穹が裂けんばかりの轟音と共に、巨大な雷が俺めがけて炸裂した――――。
眩い光が会場を覆い尽くす。その閃光は灼熱を帯び、大地を揺るがす地鳴りと共に、俺の身体から爆炎が渦巻くように立ち上る。
「キャ――――!!」
凄まじい衝撃に、観客から悲鳴が響き渡る。その声には恐怖と驚愕が混ざっていた。
「バカめ! 魔王すら倒せる究極魔法で黒焦げだ! ハーッハッハッハー!」
勇者の高笑いが、爆音を掻き消すように鳴り響く。その顔には傲慢な笑みが浮かんでいた。
爆炎は高く天を焦がし、放たれる熱線は闘技場一帯を灼熱の渦に包み込む。観客たちは顔を覆い、その熱さに悶絶する。
勝利を確信した勇者。
しかし――――。
直後、その傲慢な笑顔が凍りつく。収まりつつある爆炎の中に、鋭く青く光る目を見たのだ。
「え……?」
勇者の声が裏返る。そして、右手が徐々に握りつぶされていくのを感じた。
「お、お前まだ生きてるのか!? ち、ちょっと痛い! や、やめてくれ!」
悶える勇者。その声には、慄然とした恐怖が滲んでいた。
チートで上げまくった俺の魔法防御力は、勇者の魔法攻撃力をはるかに凌駕している。効くはずがなかったのだ。
俺は無表情で、さらに強く勇者の手を握り締める。ベキベキベキッという不気味な音と共に、手甲ごと潰れていく勇者の右手。
「ぐわぁぁぁ!」
勇者は絶叫と共に尻もちをつき、無様にうずくまる。その姿は、かつての英雄の面影もない。
「嘘つきの卑怯者が……」
俺の声は低く、冷たかった。その中に、これまでの怒りと悲しみのすべてが凝縮されている。
俺は勇者に迫ると、全身の力を込めて顔面を蹴り上げた。
ゴスッという生々しい音と共に勇者が吹き飛ぶ。真っ赤な血が飛び散り、闘技場の床を染めた。
「きゃぁっ!」「うわっ!」
観客から悲痛な声が漏れる。その目には人ならざるものを見た時のような畏怖が宿っていた。
俺がスタスタと近づくと、勇者はボロボロになりながらも必死に言葉を絞り出す。
「わ、悪かった……全部俺が悪かった。は、反省する……」
ようやく罪を認めた勇者。その声には、これまでの傲慢さのかけらもない。
俺は勇者の鎧をつかみ、無造作に持ち上げる。その目には、怒りと共に、かすかな哀れみの色が浮かんでいた。
「今後一切、俺や俺の仲間には関わらないこと、リリアン姫との結婚は断ること、分かったな?」
勇者は腫れあがった顔をさらしながら、小さな声で答えた。
「わ、分かった」
俺はもう一発、拳で小突くと、声を低く唸らせた。
「『分かりました』だろ?」
目を回した勇者は、最後の力を振り絞るように小さな声で答えた。
「す、すみません、分かり……ました」
そう言って、勇者はガクッと気を失う。
闘技場に静寂が訪れる。その沈黙の中に、何かが大きく変わった瞬間の緊張感が漂っていた。
俺は気を失った勇者を、まるで雑巾のように無造作に舞台の外へ放り投げた。
ひぃっ! うわぁ……。 あぁぁぁ……。
会場全体がどよめきに包まれる。
俺はキュッと口を結び、静かに小さくガッツポーズを決めた。
呆然としていたレフェリーが我に返り、慌てて叫んだ。
「しょ、勝者……、えーと……ユーター!」
その声が闘技場に響き渡る。この瞬間、俺は武闘会優勝者となった。人族最強の座を手に入れたことになる。しかし、胸に去来するのは達成感ではなく、どこか虚無のような感覚だった。
観客たちは、目の前で起きた出来事をどう理解したらいいのか困惑している。人族最強の強さを誇る王国の英雄、勇者が、ただの街の商人にボコボコにされ、倒されたのだ。その衝撃は、彼らの世界観を根底から揺るがしてしまう。
俺は観客席を見回し、困惑している彼らを見ながら苦笑した。理解できないのも無理はない。もちろん、勇者は強い。俺以外なら世界トップだろう。だが、チートでひそかに鍛えていた俺のレベルは千を超えている。職種こそ『商人』ではあるが、これだけレベル差があるとたとえ『勇者』だろうが瞬殺なのだ。勝負になどなりようがない。
闘技場に集まった数万の観客たちは、混乱と興奮が入り混じった喧騒に包まれていた。
「あの平凡な商人が、勇者を倒すなんて……」
「これって、夢?」
「勇者様が負けるなんて、世界の終わりかも……」
観客たちは互いの顔を見合わせ、首を傾げるばかり。その目には、驚きと共に、新たな時代の幕開けを予感させるような輝きが宿っていた。
俺は大きく息をつくと、貴賓席に向かって胸に手を当て、姿勢を正す。
コホンと軽く咳ばらいをし、豪奢な椅子にふんぞり返って座る王様に向かって張りのある声で叫んだ。
「国王陛下、この度は素晴らしい武闘会を開催してくださったこと、謹んで御礼申し上げます! ご覧いただきました通り、優勝者はわたくしに決まりました! つきましては、リリアン姫との結婚をお許しいただきたく存じます!」
王様の隣で可憐なドレスに身を包んだ絶世の美女、リリアンは両手を組み、感激のあまり目には涙すら浮かべていた。その姿は、まるで童話の中の姫君のようだ。
王様はあっけにとられていたが、俺の言葉を聞いて激怒した。その顔は、まるで熟れた柿のように赤く染まっていた。
「商人ごときが王族と結婚などできるわけなかろう! ふ、不正だ! 何か怪しいことを仕組んだに違いない! ひっとらえろ!」
王様の掛け声で警備兵がドッと舞台に上って俺を包囲し、剣を抜いて構えた。
俺はつい笑ってしまう。レベル千の俺からしたら雑兵など何の意味もない。体操競技選手のようにタンッと飛び上がり、クルクルッと回りながら警備兵を飛び越えると、
「みんな! ありがとー!」
と、観客席に手を振ってそのままゲートを突破し、退場した。その姿は、まるで風のように軽やかだった。
リリアンとの約束は『勇者との結婚を阻むこと』。これでお役目終了だ、ホッとした。
このまま遠くの街まで逃げてまた商人を続ければいい、金ならいくらでもあるのだ。
だが、世の中そう簡単にはいかない。この世界は俺のようなチートを見逃してはくれないのだった。その時はまだ知る由もなかったが、この勝利が新たな悲劇を呼んでしまったのだ。
ともあれ、なぜこんなことになったのか、順を追って語ってみたい。そう、全ては俺があの日、異世界に転生した時から始まったのだ……。
「光子斬!」
まばゆい光の軌跡から、眩いばかりの光の刃が俺めがけて放たれる。その光景は、まるで神々の怒りのようだった。
しかし――――。
「はぁ……」
俺は深いため息と共に、その光の刃をあっさりと叩き落とした。それは拍子抜けするほど簡単だった。
閃光と共に、光の刃が舞台に落ちる。轟音と共に大爆発が起こり、灼熱の衝撃波が観客席まで届く。悲鳴が響き渡る中、舞台では煌めく爆炎と立ち昇る煙。まるで戦場だ。
「な、なぜだ! あり得ない!」
勇者の声が裏返る。光の刃を叩き落とされた衝撃に、全身を震わせている。その顔には、慢心が恐怖に変わる瞬間が刻まれていた。
俺は爆煙の中から『瞬歩』スキルで姿を現す。目にも止まらぬ速さで勇者に迫り――――。
「ぐふぅっ!」
渾身のアッパーカットを勇者のアゴに叩き込んだ。
勇者の身体が宙を舞う。まるで重力を無視するかのように、ゆっくりと弧を描いて――――。
ドスンッ! と舞台に落ちる。
俺はゆっくりと歩み寄る。その足音が、静まり返った闘技場に不気味に響く。
「き、貴様何者だ!」
勇者は後ずさりながら青ざめた顔で叫ぶ。その目には、底知れぬ恐怖が宿っていた。
「お前もよく知ってるだろ? ただの商人だよ」
俺は冷ややかに答え、指をポキポキと鳴らしてニヤリと笑う。その仕草に、勇者の顔が恐怖に凍った。
「わ、わかった。何が欲しい? 金か? 爵位か? なんでも用意させよう!」
勇者の声が裏返る。その姿は、かつての威風堂々とした英雄の面影もない。
俺は勇者を見下ろす。その目には、怒りと憐憫が混ざっていた。
「お前は性欲と下らん虚栄心のために俺の大切な人を傷つけ、多くの命を奪った。その罪を償え!」
俺の声に、闘技場全体が息を呑む。
俺は勇者を蹴り上げた――――。
ドスッという鈍い音が闘技場に響き渡り、悲鳴があちこちで上がった。
ふぐぅ……。
声にならないうめきを上げながら放物線を描き、落ちてくる勇者。
俺は再び瞬歩で迫ると、全ての怒りと悲しみを込めて顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
勇者の体が、まるで人形のように宙を舞い、ゴロゴロと舞台を転がった。
超満員の闘技場が水を打ったように静寂に包まれる。人族最強と謳われた男が、まるで赤子のように翻弄されている。観客たちの目は、眼前の光景を信じられないという困惑に満ちていた。
勇者はよろよろと立ち上がる。その姿は、もはや哀れですらあった。
「わ、分かった! お前の勝ちでいい、約束も守ろう! あ、握手だ、握手しよう!」
震える声で言いながら、勇者は右手を差し出してきた。
俺はその手をじっと見つめる。そして、ゆっくりと顔を上げ、無言で勇者と目を合わせた。
「き、君がすごいのは良く分かった。仲良くやろうじゃないか。まず握手から……」
勇者の声が震える。その目には、懇願の色が浮かんでいた。
俺は無言のまま、その右手に自分の手を伸ばす。勇者の目に、わずかな希望の光が灯る。
しかし――――。
ニヤッといやらしい笑みを浮かべながら、俺の手をガシッと強くつかんだ勇者の目に底知れぬ邪悪な光が宿った。
「絶対爆雷!」
勇者の叫びが闘技場に響き渡る。瞬間、天穹が裂けんばかりの轟音と共に、巨大な雷が俺めがけて炸裂した――――。
眩い光が会場を覆い尽くす。その閃光は灼熱を帯び、大地を揺るがす地鳴りと共に、俺の身体から爆炎が渦巻くように立ち上る。
「キャ――――!!」
凄まじい衝撃に、観客から悲鳴が響き渡る。その声には恐怖と驚愕が混ざっていた。
「バカめ! 魔王すら倒せる究極魔法で黒焦げだ! ハーッハッハッハー!」
勇者の高笑いが、爆音を掻き消すように鳴り響く。その顔には傲慢な笑みが浮かんでいた。
爆炎は高く天を焦がし、放たれる熱線は闘技場一帯を灼熱の渦に包み込む。観客たちは顔を覆い、その熱さに悶絶する。
勝利を確信した勇者。
しかし――――。
直後、その傲慢な笑顔が凍りつく。収まりつつある爆炎の中に、鋭く青く光る目を見たのだ。
「え……?」
勇者の声が裏返る。そして、右手が徐々に握りつぶされていくのを感じた。
「お、お前まだ生きてるのか!? ち、ちょっと痛い! や、やめてくれ!」
悶える勇者。その声には、慄然とした恐怖が滲んでいた。
チートで上げまくった俺の魔法防御力は、勇者の魔法攻撃力をはるかに凌駕している。効くはずがなかったのだ。
俺は無表情で、さらに強く勇者の手を握り締める。ベキベキベキッという不気味な音と共に、手甲ごと潰れていく勇者の右手。
「ぐわぁぁぁ!」
勇者は絶叫と共に尻もちをつき、無様にうずくまる。その姿は、かつての英雄の面影もない。
「嘘つきの卑怯者が……」
俺の声は低く、冷たかった。その中に、これまでの怒りと悲しみのすべてが凝縮されている。
俺は勇者に迫ると、全身の力を込めて顔面を蹴り上げた。
ゴスッという生々しい音と共に勇者が吹き飛ぶ。真っ赤な血が飛び散り、闘技場の床を染めた。
「きゃぁっ!」「うわっ!」
観客から悲痛な声が漏れる。その目には人ならざるものを見た時のような畏怖が宿っていた。
俺がスタスタと近づくと、勇者はボロボロになりながらも必死に言葉を絞り出す。
「わ、悪かった……全部俺が悪かった。は、反省する……」
ようやく罪を認めた勇者。その声には、これまでの傲慢さのかけらもない。
俺は勇者の鎧をつかみ、無造作に持ち上げる。その目には、怒りと共に、かすかな哀れみの色が浮かんでいた。
「今後一切、俺や俺の仲間には関わらないこと、リリアン姫との結婚は断ること、分かったな?」
勇者は腫れあがった顔をさらしながら、小さな声で答えた。
「わ、分かった」
俺はもう一発、拳で小突くと、声を低く唸らせた。
「『分かりました』だろ?」
目を回した勇者は、最後の力を振り絞るように小さな声で答えた。
「す、すみません、分かり……ました」
そう言って、勇者はガクッと気を失う。
闘技場に静寂が訪れる。その沈黙の中に、何かが大きく変わった瞬間の緊張感が漂っていた。
俺は気を失った勇者を、まるで雑巾のように無造作に舞台の外へ放り投げた。
ひぃっ! うわぁ……。 あぁぁぁ……。
会場全体がどよめきに包まれる。
俺はキュッと口を結び、静かに小さくガッツポーズを決めた。
呆然としていたレフェリーが我に返り、慌てて叫んだ。
「しょ、勝者……、えーと……ユーター!」
その声が闘技場に響き渡る。この瞬間、俺は武闘会優勝者となった。人族最強の座を手に入れたことになる。しかし、胸に去来するのは達成感ではなく、どこか虚無のような感覚だった。
観客たちは、目の前で起きた出来事をどう理解したらいいのか困惑している。人族最強の強さを誇る王国の英雄、勇者が、ただの街の商人にボコボコにされ、倒されたのだ。その衝撃は、彼らの世界観を根底から揺るがしてしまう。
俺は観客席を見回し、困惑している彼らを見ながら苦笑した。理解できないのも無理はない。もちろん、勇者は強い。俺以外なら世界トップだろう。だが、チートでひそかに鍛えていた俺のレベルは千を超えている。職種こそ『商人』ではあるが、これだけレベル差があるとたとえ『勇者』だろうが瞬殺なのだ。勝負になどなりようがない。
闘技場に集まった数万の観客たちは、混乱と興奮が入り混じった喧騒に包まれていた。
「あの平凡な商人が、勇者を倒すなんて……」
「これって、夢?」
「勇者様が負けるなんて、世界の終わりかも……」
観客たちは互いの顔を見合わせ、首を傾げるばかり。その目には、驚きと共に、新たな時代の幕開けを予感させるような輝きが宿っていた。
俺は大きく息をつくと、貴賓席に向かって胸に手を当て、姿勢を正す。
コホンと軽く咳ばらいをし、豪奢な椅子にふんぞり返って座る王様に向かって張りのある声で叫んだ。
「国王陛下、この度は素晴らしい武闘会を開催してくださったこと、謹んで御礼申し上げます! ご覧いただきました通り、優勝者はわたくしに決まりました! つきましては、リリアン姫との結婚をお許しいただきたく存じます!」
王様の隣で可憐なドレスに身を包んだ絶世の美女、リリアンは両手を組み、感激のあまり目には涙すら浮かべていた。その姿は、まるで童話の中の姫君のようだ。
王様はあっけにとられていたが、俺の言葉を聞いて激怒した。その顔は、まるで熟れた柿のように赤く染まっていた。
「商人ごときが王族と結婚などできるわけなかろう! ふ、不正だ! 何か怪しいことを仕組んだに違いない! ひっとらえろ!」
王様の掛け声で警備兵がドッと舞台に上って俺を包囲し、剣を抜いて構えた。
俺はつい笑ってしまう。レベル千の俺からしたら雑兵など何の意味もない。体操競技選手のようにタンッと飛び上がり、クルクルッと回りながら警備兵を飛び越えると、
「みんな! ありがとー!」
と、観客席に手を振ってそのままゲートを突破し、退場した。その姿は、まるで風のように軽やかだった。
リリアンとの約束は『勇者との結婚を阻むこと』。これでお役目終了だ、ホッとした。
このまま遠くの街まで逃げてまた商人を続ければいい、金ならいくらでもあるのだ。
だが、世の中そう簡単にはいかない。この世界は俺のようなチートを見逃してはくれないのだった。その時はまだ知る由もなかったが、この勝利が新たな悲劇を呼んでしまったのだ。
ともあれ、なぜこんなことになったのか、順を追って語ってみたい。そう、全ては俺があの日、異世界に転生した時から始まったのだ……。
190
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる