捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻

文字の大きさ
39 / 71

3-10. 開く地獄の釜

しおりを挟む
 二人はしばらく、夜に浸食されていく足元の長細い島をじっと眺めていた。
 やがて太陽は大陸のかなた、円弧となった地平線の向こうに真紅の輝きを放ちながら沈んでいく。
「綺麗ね……」
 ルコアが耳元でつぶやきながらヴィクトルの手を取った。
「あぁ、こんなに赤い太陽は初めて見たよ」
 ヴィクトルはそう言いながらルコアの手を両手で包む。
 すっかり冷えてきたシールド内では、お互いの体温がうれしかった。

 太陽が沈むと一気に満天の星々が輝きだす。ひときわまばゆく輝くよいの明星に、全天を貫いて流れる天の川。それは今まで見てきた星空より圧倒的に美しく、幻想的に二人を包む。

 下の方ではところどころに街の明かりがポツポツと浮かび、街のにぎやかさが伝わってくるようだった。闇に沈む大地に浮かぶ街の灯りは、まるで灯台のように道しるべとなってくれる。
 しばらく二人はその幻想的な風景を静かに眺めた。自分たちが何気なく日々暮らしていた細長い島。そこに訪れた夜に浮かび上がる、人々の営みのともしび。それは尊い命の灯であり、人類という種が大地に奏でる光のハーモニーだった。
「素敵ね……」
 ルコアがつぶやく。
 ヴィクトルはゆっくりとうなずき、大地に生きる数多あまたの人たちの活動に魅入られて、しばらく言葉を失っていた。
 例えこれが作り物の世界だったとしても、この美しさには変わらぬ価値がある。ヴィクトルの心に、思わず熱いものがこみ上げてくる。

「あっ、あれ何かしら?」
 ルコアが指さす先を見ると、暗い森の中に何やら赤く輝く小さな点が見える。
「場所的には暗黒の森の辺りだね……。あの辺は人はいないはずだけどなぁ。何が光ってるのだろう……」
 ヴィクトルはそっと涙をぬぐうと、降りて行きながら明かりの方へと近づいていった。
 徐々に大きくなって様子が見え始める。
「あっ、あれ、地獄の釜だわ!」
 ルコアが驚いて言う。
「地獄の釜?」
「魔物を大量に生み出す次元の切れ目よ! きっとたくさんの魔物があそこで湧き出しているわ!」
「えっ!? それはヤバいじゃないか!」
 焦るヴィクトル。
「誰がそんなこと……」
 眉をひそめるルコア。
「妲己だ……」
 ヴィクトルは『手下を準備する』と言っていた妲己の言葉を思い出し、思わず額に手を当て、ため息をついた。
「地獄の釜を開いたとしたら……十万匹規模のスタンピードになりますよ?」
 ルコアは不安げに言う。
「この位置だと襲うとしたらユーベ……。マズいな……」
 ヴィクトルは去年まで住んでいた街が滅ぼされるのを想像し、ゾッとした。
「よしっ! 殲滅してやる!」
 ヴィクトルは大きく息を吸うと、下腹部に魔力をグッと込めた。そして両手を前に出し、巨大な真紅の魔法陣を描き始める。
 満天の星々をバックに鮮やかな赤い魔法陣が展開されていったが……途中でヴィクトルは手を下ろしてしまった。
 そして、うつむき、何かを考えこむ。
「主さま……? どうしたんです?」
 不安そうにルコアが聞く。
「これ、妲己との開戦になっちゃうよね……」
「きっと応戦されますね。でも、主さまなら余裕では?」
「いや、レヴィア様は『妲己だけじゃない』って言ってたから、うかつに攻撃はヤバいかも……」
「うーん……」
 宇宙空間に浮かぶ二人は目をつぶり、考えこむ……。

「攻撃はいったん中止! その代わり、こうだ!」
 ヴィクトルは書きかけの魔法陣を消し、今度は巨大な青い魔法陣を描く。そして、パンパンになるまで魔力を込める。魔法陣はビリビリと震えながら青いスパークをバリバリと放った。
「主さま……、これ、ヤバいですよ……」
 ルコアは不気味に鋭く輝く巨大な魔法陣を見て、青い顔をする。
「ふふっ、ヤバいくらいじゃないといざという時に役に立たないよ」
 ヴィクトルはニヤッと笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...