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1-8. 執念のダブルノックダウン
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万事休すである。自爆攻撃は一回は使えるが一回で倒しきるのは不可能だろう。穴はもう使えない。真っ青になるヴィクトルに、オークはニヤニヤしながら近づいてくる。
グホォォォ――――!
オークは雄たけびを上げると、ヴィクトルに向かって全力で突っ込んできた。
「ひぃ!」
オークの猪突猛進なダッシュはすさまじく、一瞬でヴィクトルに迫る。
避けるなんて到底できず、ヴィクトルは鋭い牙に貫かれ、そのまま奥の壁に激突し、ぐちゃぐちゃに潰された。
カハッ!
多量の血を吐きながらボロ雑巾のように倒れ込むヴィクトル。
そして、オークも『倍返し』のアイテムの効果を食らい、血を吐きながら吹き飛ばされ、ゴロンゴロンと転がり、倒れ込んだ。
地獄のダブルノックダウン。
洞窟には両者の苦しむ喘ぎ声が静かに響く……。
ヴィクトルは何とか意識を取り戻したが、HPは1、大ピンチである。
再度生き返りアイテムを使うためにはHPを10以上に上げねばならないが、ポーションも何もない。
何か使えるものはないかと洞窟をあちこち見回すと、脇に何かが立てかけてある。よろよろと歩いて行ってみるとそれは槍だった。オーガが倒した冒険者の戦利品なのだろう。
しかし、槍で立ち向かっても勝ち目などない。どうしよう……。
ヴィクトルは必死に考え、意を決すると、槍の刃を脇に挟み、柄の尻を洞窟のくぼみにはめ、ファイティングポーズをとった。
ブフゥ!
オークが肩で息をしながらゆっくりと立ち上がる。その目に宿る怒りの輝きがヴィクトルにかつてない恐怖を与える。
こんな急ごしらえの罠なんか本当に役に立つんだろうか?
だらだらと流れる冷や汗。
しかしもう他に策はない。ガクガクと震えるひざを何とか押さえながら改めてファイティングポーズをとる。
グァァァァ――――!
オークの恐ろしい雄たけびが森に響き渡る。
オークはヴィクトルを血走った目でにらみ、助走の距離を取り、もう一度体当たりの体制に入った。
槍の刃を奴の鼻先に当てたらヴィクトルの勝ちだ。少しでもずれてたらアウト……。ヴィクトルは心臓がバクバクと激しく打つのを感じていた。
奴は胸のあたりを狙ってくる。直前で少しずらして槍の刃先を当てるだけ……当てるだけだがそんな事本当にできるのだろうか……?
しかし、もうやり遂げる以外生き残る道はない。ヴィクトルは覚悟を決めた。
グホォ!!
オークが叫びながら全速で突っ込んでくると同時に、ヴィクトルが叫んだ。
「来いやぁ!」
予想通り胸のあたりに突っ込んでくるオーク。命のかかった局面でヴィクトルはゾーンに入った。ヴィクトルにはまるでスローモーションのようにオークの動きが見て取れる。ヴィクトルは二十センチ横にずれ、そのままオークを迎えた……。
果たして槍の刃先はオークの鼻っ面にうまく当たり、オークは自らの勢いで槍に貫かれた。
グホッ!!
オークは体液を飛び散らせ……、そして、ヴィクトルの上に落ちてくる……。
ぐふっ!
オークのゴワゴワとした毛皮にプレスされ、ヴィクトルがもだえた。
直後、オークの身体は徐々に消えていく。
果たして、ヴィクトルの頭の中に効果音が鳴り響いた。
ピロローン!
ピロローン!
意識がもうろうとする中、ヴィクトルはギリギリの勝利を知り、心から安堵するとそのまま気を失った。
死闘の決着がついた暗黒の森には、また静けさが戻ってくる。仄かに青い優しい月光が血まみれのヴィクトルの頬を照らしていた――――。
◇
チチチッ、チュンチュン!
まだ霧に沈む暗黒の森に小鳥のさえずりが響き、朝の訪れを告げる。
「ハウッ!?」
ヴィクトルは目を覚まし、バッと起き上がって周りを見回した。バキバキに壊された入り口と丸太を突っ込まれた奥の穴が、あの戦闘が夢ではなかったことを物語っている。
ヴィクトルはしばらくその荒れた状況を呆然と見つめ……、ふぅっと大きく息をついた。
勝てたのはたまたまだった。何か一つでもしくじれば自分はオークのエサになっていただろう。ヴィクトルはブルっと身震いをした。
朝食代わりに、床に転がっている二つのオークの魔石を拾い、食べてみた。
茶色に光る魔石はコーヒーのような芳醇な香りを立て、ヴィクトルは目をつぶってひとときのアロマを楽しむ。そして一気にゴクッとのんだ。まるでモーニングコーヒーのようなホッとする充足感が心にしみてくる……。
ポロロン!
画面がパッと開いた。
HP最大値 +3、強さ +1、バイタリティ +1
まぁまぁの成果である。
オーガにしてもオークにしても勝てたのはラッキーだっただけである。次あんな目に遭ったら今度こそ死んでしまう。ヴィクトルは何にもまして強くなることを目指すと決めた。
レベルは19に達し、もう雑魚であれば余裕で倒せるようになっている。であればなるべくたくさんの雑魚を安全に倒し、魔石を食べまくること、これが今の最善策に違いなかった。
ヴィクトルは血だらけの服や体を生活魔法で綺麗にすると、靴ひもを結びなおす。
そして、両手でほほをパンパンと叩いて気合を入れると、
「よしっ!」
と、叫ぶ。
自分の逆転劇はこれから始まるのだという高揚感でブルっと武者震いをすると、槍をギュッと握り、ビュンビュンと振り回した。
グホォォォ――――!
オークは雄たけびを上げると、ヴィクトルに向かって全力で突っ込んできた。
「ひぃ!」
オークの猪突猛進なダッシュはすさまじく、一瞬でヴィクトルに迫る。
避けるなんて到底できず、ヴィクトルは鋭い牙に貫かれ、そのまま奥の壁に激突し、ぐちゃぐちゃに潰された。
カハッ!
多量の血を吐きながらボロ雑巾のように倒れ込むヴィクトル。
そして、オークも『倍返し』のアイテムの効果を食らい、血を吐きながら吹き飛ばされ、ゴロンゴロンと転がり、倒れ込んだ。
地獄のダブルノックダウン。
洞窟には両者の苦しむ喘ぎ声が静かに響く……。
ヴィクトルは何とか意識を取り戻したが、HPは1、大ピンチである。
再度生き返りアイテムを使うためにはHPを10以上に上げねばならないが、ポーションも何もない。
何か使えるものはないかと洞窟をあちこち見回すと、脇に何かが立てかけてある。よろよろと歩いて行ってみるとそれは槍だった。オーガが倒した冒険者の戦利品なのだろう。
しかし、槍で立ち向かっても勝ち目などない。どうしよう……。
ヴィクトルは必死に考え、意を決すると、槍の刃を脇に挟み、柄の尻を洞窟のくぼみにはめ、ファイティングポーズをとった。
ブフゥ!
オークが肩で息をしながらゆっくりと立ち上がる。その目に宿る怒りの輝きがヴィクトルにかつてない恐怖を与える。
こんな急ごしらえの罠なんか本当に役に立つんだろうか?
だらだらと流れる冷や汗。
しかしもう他に策はない。ガクガクと震えるひざを何とか押さえながら改めてファイティングポーズをとる。
グァァァァ――――!
オークの恐ろしい雄たけびが森に響き渡る。
オークはヴィクトルを血走った目でにらみ、助走の距離を取り、もう一度体当たりの体制に入った。
槍の刃を奴の鼻先に当てたらヴィクトルの勝ちだ。少しでもずれてたらアウト……。ヴィクトルは心臓がバクバクと激しく打つのを感じていた。
奴は胸のあたりを狙ってくる。直前で少しずらして槍の刃先を当てるだけ……当てるだけだがそんな事本当にできるのだろうか……?
しかし、もうやり遂げる以外生き残る道はない。ヴィクトルは覚悟を決めた。
グホォ!!
オークが叫びながら全速で突っ込んでくると同時に、ヴィクトルが叫んだ。
「来いやぁ!」
予想通り胸のあたりに突っ込んでくるオーク。命のかかった局面でヴィクトルはゾーンに入った。ヴィクトルにはまるでスローモーションのようにオークの動きが見て取れる。ヴィクトルは二十センチ横にずれ、そのままオークを迎えた……。
果たして槍の刃先はオークの鼻っ面にうまく当たり、オークは自らの勢いで槍に貫かれた。
グホッ!!
オークは体液を飛び散らせ……、そして、ヴィクトルの上に落ちてくる……。
ぐふっ!
オークのゴワゴワとした毛皮にプレスされ、ヴィクトルがもだえた。
直後、オークの身体は徐々に消えていく。
果たして、ヴィクトルの頭の中に効果音が鳴り響いた。
ピロローン!
ピロローン!
意識がもうろうとする中、ヴィクトルはギリギリの勝利を知り、心から安堵するとそのまま気を失った。
死闘の決着がついた暗黒の森には、また静けさが戻ってくる。仄かに青い優しい月光が血まみれのヴィクトルの頬を照らしていた――――。
◇
チチチッ、チュンチュン!
まだ霧に沈む暗黒の森に小鳥のさえずりが響き、朝の訪れを告げる。
「ハウッ!?」
ヴィクトルは目を覚まし、バッと起き上がって周りを見回した。バキバキに壊された入り口と丸太を突っ込まれた奥の穴が、あの戦闘が夢ではなかったことを物語っている。
ヴィクトルはしばらくその荒れた状況を呆然と見つめ……、ふぅっと大きく息をついた。
勝てたのはたまたまだった。何か一つでもしくじれば自分はオークのエサになっていただろう。ヴィクトルはブルっと身震いをした。
朝食代わりに、床に転がっている二つのオークの魔石を拾い、食べてみた。
茶色に光る魔石はコーヒーのような芳醇な香りを立て、ヴィクトルは目をつぶってひとときのアロマを楽しむ。そして一気にゴクッとのんだ。まるでモーニングコーヒーのようなホッとする充足感が心にしみてくる……。
ポロロン!
画面がパッと開いた。
HP最大値 +3、強さ +1、バイタリティ +1
まぁまぁの成果である。
オーガにしてもオークにしても勝てたのはラッキーだっただけである。次あんな目に遭ったら今度こそ死んでしまう。ヴィクトルは何にもまして強くなることを目指すと決めた。
レベルは19に達し、もう雑魚であれば余裕で倒せるようになっている。であればなるべくたくさんの雑魚を安全に倒し、魔石を食べまくること、これが今の最善策に違いなかった。
ヴィクトルは血だらけの服や体を生活魔法で綺麗にすると、靴ひもを結びなおす。
そして、両手でほほをパンパンと叩いて気合を入れると、
「よしっ!」
と、叫ぶ。
自分の逆転劇はこれから始まるのだという高揚感でブルっと武者震いをすると、槍をギュッと握り、ビュンビュンと振り回した。
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