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1-1. 最弱大賢者、オーガとの死闘
しおりを挟むグガァァァ――――!
暗黒の森の奥、オーガは金色に光る恐ろしい眼で少年をにらみつけると、筋骨隆々とした赤い巨躯を打ち震わせながら雄叫びをあげた。
オーガは古の時代より森の暴君として恐怖の象徴であり、その狂猛さは『オーガを見たら輪廻の幸運を祈れ』と語られるほど絶望的な存在だった。オーガを怒らせて、生き延びられた人間などいないのだ。
まだ幼い、瞳のクリッとした金髪の少年は、血の凍りつくような恐怖に身震いをしながら、それでも歯を食いしばるとオーガへと突っ込んで行く。
少年の足ではオーガからは逃げられない。であれば、イチかバチか特殊アイテムの効果に命運をかけたのだ。
少年はオーガに飛びかかり、直後、目にも止まらぬ速さで繰り出されるオーガの右ストレートをまともに受けた。
ゴリゴリッ!
嫌な音を立てながら、少年のか弱い身体はぐちゃぐちゃにつぶされ、宙を舞う。
少年は身体中をほとばしる激痛に思わず目の前が真っ白になり、意識が飛んだ。
そして体液を飛び散らせながらやぶの中に転がっていく……。
しかし……、
グォォォ!
オーガも苦悶の表情を浮かべ、ヒザをついた。
少年が持っていたのは、
倍返しのアミュレット レア度:★★★★
特殊効果: 受けたダメージを倍にして相手に返す
と、
光陰の珠 レア度:★★★★
特殊効果: HPが10以上の時、致死的攻撃を受けてもHPが1で耐える
の、二つ。つまり、攻撃を受けても一撃だけなら死なないし、それをダメージとしてオーガに倍で返せるのだ。
果たして、少年の身体は淡い光に包まれ、やがて傷も治されてまた生き返る。
しかし、いくら治ったといっても、内臓をぐちゃぐちゃに潰されたショックは大きい。少年は朦朧として視点の定まらぬ目で森を見上げていた。
ギヒヒヒ……。
不気味な声が聞こえる。少年は急いで起き上がり、やぶの向こうに光る目を見つけた。ゴブリンだ!
狡猾なこの魔物は、オーガのおこぼれを狙っている。
少年はあわててポケットから回復のポーションを出し、一気飲みする。
これでもうポーションは無い。さっきの自爆攻撃はもうあと一回しか使えないのに魔物は二匹。詰んだ。少年は真っ青になる。
少年はまだ五歳、ゴブリンにも勝てないレベル1の最弱な存在だった。しかし、中身は稀代の大賢者の生まれ変わり。知恵だけは世界一である。ゴブリンを木の棒でけん制しながら必死に頭を動かす。
グガァァァ!
オーガの咆哮が森にこだまし、ドスン! ドスン! と近づいてくるのが聞こえる。もはや猶予はない。
少年は木の棒をゴブリンに投げつけ、挑発すると走り出した。
そして、追いかけてくるゴブリンをうまく誘導しながら、再度オーガへと突っ込んでいく。
オーガは激しい怒りで真っ赤に燃え上がる眼を光らせ、右腕を引いて少年に照準を絞った。
追いかけてくるゴブリン、飛びかかる少年、そして、今まさに拳に力を込めるオーガ。
さっきよりも激しい右ストレートが再度少年を打ち抜き、少年の身体はまるで弾丸のように吹っ飛ばされた。そして、それに巻き込まれるゴブリン。
少年の身体はぐちゃぐちゃになりながら何度もバウンドして、またやぶへと突っ込んだ。
直後、少年は淡い光に包まれて復活を果たしながら、
ピロローン!
と、頭の中で鳴り響く効果音を聞いた。ゴブリンを倒したことになってレベルが上がったのだ。この世界では魔物を倒して経験値を得るとレベルが上がり、少し強くなる。
「や、やったぞ……」
少年は朦朧としながら弱弱しいガッツポーズを見せた。
レベルが上がればHPは満タンに戻る。これでもう一度だけオーガの攻撃を受けられる。
少年はフラフラと起き上がり、やぶからそっとのぞくと、オーガは口から血をたらしながら苦しんでいた。さすがにあの強烈なパンチたちの二倍のダメージを受けたらそうなるだろう。
『今なら逃げられるかもしれない』という思いがふと頭をよぎったが、この暗黒の森で生き残るには安全策など取っていてはダメだ。攻めて攻めて勝ち残る、その道しか残されていない。
少年は、何度か大きく深呼吸をし、覚悟を決めると、
ウォォォォォ!
と、叫びながらオーガに突っ込んでいき、オーガの繰り出す最後の渾身の一撃を受け、吹き飛んだ。
ピロローン!
ピロローン!
ピロローン!
膨大な経験値を得てどんどん上がるレベル。鳴りやまない効果音を聞きながら、少年は九死に一生を得たことに満足し……、そして、こんなバカな事態に陥ってしまったことを憂えてため息をついた。
少年の名はヴィクトル、稀代の大賢者アマンドゥスの生まれ変わりである。それがなぜこんな無謀な戦闘をする羽目になってしまったのか?
話は五年前にさかのぼる――――。
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