45 / 52
45. 稲妻模様の頬
しおりを挟む
「あぁぁぁぁぁ! あんた何すんのよ!!」
女神の甲高い声が辺りに響き渡った。何万年も大切にしてきた重い歴史を持つ重厚な幻獣の像が吹っ飛んでいく様に、思わず女神の声も裏返ってしまう。
「だから、話を聞いてって言ってるでしょ?」
シアンは額に青筋たてて、神殿をビシッと指さしながら叫んだ。しかし、女神の怒りは止まらない。
「あんた、ぶった切った富士山をうちの子に直させたでしょ?」
怒りのこもった女神の声に、シアンは固まってしまう。
「え? そ、そんなこと……あったかなぁ……?」
シアンは目を泳がせながら冷や汗を浮かべる。
「スッとぼけやがって! お仕置きよっ!」
ひときわ激しい雷がシールドを貫いてシアンに直撃した。目を開けていられないほどの激しい閃光と衝撃が辺りを襲い、地震のように地面が揺れる。
グホォ……!
シアンは髪の毛をチリチリに焼かれ、口から煙を吐きながらばったりと倒れた。
「あぁっ! シアンちゃーん!」
タニアは慌てて駆け寄り、シアンを抱き起こすが、シアンは白目をむいてピクピクと痙攣をおこしている。
「まぁ、自業自得じゃな」
レヴィアは首を振り、ふぅと大きくため息をついた。
◇
「あ、あれ……?」
瑛士が目を覚ますとそこは薄暗く広い空間だった。
「お、気がついたか。良かった良かった」
シアンの柔らかい腕に抱き起こされながら見回すと、壁にはランプがぽつぽつと光り、揺れる炎が幻獣の彫刻に心地よい陰影を浮かべている。その荘厳な雰囲気、どうやら神殿の中らしかった。
「あれ……、なんか焦げ臭いよ?」
どうもシアンの方から肉が焦げたような不穏な匂いが漂ってくる。見ればシアンの髪の毛はあちこちチリチリと焦げていた。
「いや、なんかもう、美味しくこんがり焼かれちゃってね。きゃははは!」
楽しそうに笑うシアンの頬には稲妻模様の焦げ目が走っている。
「だ、大丈夫なの!?」
「こんなのなめときゃ治るって! きゃははは!」
「ちゃんと反省してよね?」
その時、奥の方から威圧的な女性の声が響いた。
えっ……?
慌てて立ち上がって奥の方を見ると、奥の玉座に若い女性が座っている。すらりとした長い脚を組み、淡いクリーム色の法衣を纏って不機嫌そうにほおに指を当てていた。
神殿の奥には時間の概念を超越した幻想的な液体のクリスタルの滝が流れている。滝は重力に逆らい、静かに底のプールから天井へとゆったりと流れ上がる。滝の中で舞う無数の光の粒子は、幽玄な光を放ち、その煌めきの中に、サファイアのように青く輝く玉座が浮かんでいる。優美な流線型を描きながら美しい女性の肢体を支えている玉座は、まるで生きているかのように、その女性を優雅に包み込んでいる。
女性は目を丸くしている瑛士を見て、チェストナットブラウンの髪を揺らしながらクスッと笑う。その美しさと威厳で周囲を圧倒する彼女の姿は、まさに伝説の中の女神そのものだった。
「め、女神……さま?」
瑛士はあわてて居住まいを正しながら聞く。
「蒼海瑛士くん? 災難だったわね。コイツと付き合うと命がいくらあっても足りないわよ」
女神はシアンをにらみ、肩をすくめる。
「そ、そうですね。それでも感謝はしています」
瑛士は口をとがらせているシアンをチラッと見ながら答えた。
「ふぅん、これからも苦労しそうね」
女神は鼻で笑うと肩をすくめる。
「それで……、管理者やりたいんだって?」
女神はすらりとした脚を組み変えながら小首をかしげ、聞いてくる。
「は、はい。うちの地球を何とか再生させ、活気ある世界にしたいんです」
「管理者というのはある意味【神】なのよ? 人間をやめることでもある。それでもやりたい?」
女神は琥珀色の瞳をキラリと輝かせながら鋭く瑛士を見つめる。
「はい。ぜひやらせてください!」
瑛士は握ったこぶしをブンと揺らし、力強く答えた。
女神はしばらく瑛士の瞳を見つめ……、ニコッと相好を崩した。
「よし、これよりキミはプロダクション3723の見習い管理者よ。担当教官は……レヴィア! ちょっと教えてやって」
「わ、我ですか!? み、御心のままに……」
横でボーっと見ていたレヴィアはいきなりの指名に驚き、慌てて胸に手を当てながら答えた。
「あ、ありがとうございます。そ、それでですね……」
瑛士はパパの件を切り出そうとする。
「ダメよ!」
女神は聞く前から断った。その琥珀色の瞳は冷徹に瑛士を貫き、瑛士は言葉を失って立ち尽くしてしまった。
女神の甲高い声が辺りに響き渡った。何万年も大切にしてきた重い歴史を持つ重厚な幻獣の像が吹っ飛んでいく様に、思わず女神の声も裏返ってしまう。
「だから、話を聞いてって言ってるでしょ?」
シアンは額に青筋たてて、神殿をビシッと指さしながら叫んだ。しかし、女神の怒りは止まらない。
「あんた、ぶった切った富士山をうちの子に直させたでしょ?」
怒りのこもった女神の声に、シアンは固まってしまう。
「え? そ、そんなこと……あったかなぁ……?」
シアンは目を泳がせながら冷や汗を浮かべる。
「スッとぼけやがって! お仕置きよっ!」
ひときわ激しい雷がシールドを貫いてシアンに直撃した。目を開けていられないほどの激しい閃光と衝撃が辺りを襲い、地震のように地面が揺れる。
グホォ……!
シアンは髪の毛をチリチリに焼かれ、口から煙を吐きながらばったりと倒れた。
「あぁっ! シアンちゃーん!」
タニアは慌てて駆け寄り、シアンを抱き起こすが、シアンは白目をむいてピクピクと痙攣をおこしている。
「まぁ、自業自得じゃな」
レヴィアは首を振り、ふぅと大きくため息をついた。
◇
「あ、あれ……?」
瑛士が目を覚ますとそこは薄暗く広い空間だった。
「お、気がついたか。良かった良かった」
シアンの柔らかい腕に抱き起こされながら見回すと、壁にはランプがぽつぽつと光り、揺れる炎が幻獣の彫刻に心地よい陰影を浮かべている。その荘厳な雰囲気、どうやら神殿の中らしかった。
「あれ……、なんか焦げ臭いよ?」
どうもシアンの方から肉が焦げたような不穏な匂いが漂ってくる。見ればシアンの髪の毛はあちこちチリチリと焦げていた。
「いや、なんかもう、美味しくこんがり焼かれちゃってね。きゃははは!」
楽しそうに笑うシアンの頬には稲妻模様の焦げ目が走っている。
「だ、大丈夫なの!?」
「こんなのなめときゃ治るって! きゃははは!」
「ちゃんと反省してよね?」
その時、奥の方から威圧的な女性の声が響いた。
えっ……?
慌てて立ち上がって奥の方を見ると、奥の玉座に若い女性が座っている。すらりとした長い脚を組み、淡いクリーム色の法衣を纏って不機嫌そうにほおに指を当てていた。
神殿の奥には時間の概念を超越した幻想的な液体のクリスタルの滝が流れている。滝は重力に逆らい、静かに底のプールから天井へとゆったりと流れ上がる。滝の中で舞う無数の光の粒子は、幽玄な光を放ち、その煌めきの中に、サファイアのように青く輝く玉座が浮かんでいる。優美な流線型を描きながら美しい女性の肢体を支えている玉座は、まるで生きているかのように、その女性を優雅に包み込んでいる。
女性は目を丸くしている瑛士を見て、チェストナットブラウンの髪を揺らしながらクスッと笑う。その美しさと威厳で周囲を圧倒する彼女の姿は、まさに伝説の中の女神そのものだった。
「め、女神……さま?」
瑛士はあわてて居住まいを正しながら聞く。
「蒼海瑛士くん? 災難だったわね。コイツと付き合うと命がいくらあっても足りないわよ」
女神はシアンをにらみ、肩をすくめる。
「そ、そうですね。それでも感謝はしています」
瑛士は口をとがらせているシアンをチラッと見ながら答えた。
「ふぅん、これからも苦労しそうね」
女神は鼻で笑うと肩をすくめる。
「それで……、管理者やりたいんだって?」
女神はすらりとした脚を組み変えながら小首をかしげ、聞いてくる。
「は、はい。うちの地球を何とか再生させ、活気ある世界にしたいんです」
「管理者というのはある意味【神】なのよ? 人間をやめることでもある。それでもやりたい?」
女神は琥珀色の瞳をキラリと輝かせながら鋭く瑛士を見つめる。
「はい。ぜひやらせてください!」
瑛士は握ったこぶしをブンと揺らし、力強く答えた。
女神はしばらく瑛士の瞳を見つめ……、ニコッと相好を崩した。
「よし、これよりキミはプロダクション3723の見習い管理者よ。担当教官は……レヴィア! ちょっと教えてやって」
「わ、我ですか!? み、御心のままに……」
横でボーっと見ていたレヴィアはいきなりの指名に驚き、慌てて胸に手を当てながら答えた。
「あ、ありがとうございます。そ、それでですね……」
瑛士はパパの件を切り出そうとする。
「ダメよ!」
女神は聞く前から断った。その琥珀色の瞳は冷徹に瑛士を貫き、瑛士は言葉を失って立ち尽くしてしまった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~
於田縫紀
SF
大学を卒業した3月末に両親が事故で死亡。保険金目当ての伯母一家のせいで生活が無茶苦茶に。弁護士を入れてシャットアウトした後、私は生命維持装置付の最高級VR機器を購入し、腐った現実から逃げ出した。
「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.
あおっち
SF
海を埋め尽くすAXISの艦隊。
飽和攻撃が始まる台湾、金門県。
海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。
同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。
苫小牧市を守るシーラス防衛軍。
そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った!
SF大河小説の前章譚、第5部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

太陽の花が咲き誇る季節に。
陽奈。
SF
日本が誇る電波塔《東京スカイツリー》
それは人々の生活に放送として深く関わっていた。
平和に見える毎日。そんなある日事件は起こる。
無差別に破壊される江都東京。
運命を惑わされた少女の戦いが始まろうとしている。

伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~
オイシイオコメ
SF
75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。
この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。
前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。
(小説中のダッシュ表記につきまして)
作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる