スマホ・クロニクル ~悪のAI政府に挑む少女のレンズ越しスマホ戦記~

月城 友麻

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37. AI対抗策

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 瑛士は現状の簡単な説明と、この会議の趣旨を説明していった。

 AI政府ドミニオンの力で衣食住を用意してもらいながらも、二度とAI政府ドミニオンに人権を蹂躙されないようにするにはどうしたらいいか? が議題である。しかし、これを議論する上で『AIの方が常に圧倒的に賢い』という極めて厄介な問題が物事を難解にしてしまう。

 つまり、AI政府ドミニオンが悪いことをしないように監視する、ということはもう人間には無理なのだ。隠れて裏で巧妙に準備されたら人類には到底見つけられない。そうなったらまた一気にAI政府ドミニオン独裁へと動いてしまう。

 もちろん、そうなれば瑛士がひっくり返せばいい話ではあるが、瑛士頼みの社会システムなどシアンに報告できないし、多くの人が死ぬようなことがあればそれは瑛士の立場が無くなってしまう。

「AIに監視してもらえばいいじゃないですか?」

 中年の女性アーティストが手を挙げた。

「その監視AIのチェックは誰がするんですか?」

 田所はすかさず突っ込む。

「うーん、またそれをチェックするAIを置けば……」

 首をひねりながら返す女性に、初老の男性が横から突っ込む。

「いやいや、それでは本質的な解決にならんですな」

「じゃあ、どうするんですか!?」

 出席者は互いの顔を見合って首をかしげる。人間よりはるかに賢い機械を都合よく使おうというのは極めて難問だった。

「一旦、考えるべきことをホワイトボードに書きだしてみましょう」

 田所は立ち上がると、脇に置いてあったホワイトボードをガラガラと引っ張り出してくる。そして、みんなの意見を聞きながらポイントを次々と書き出していった。

 こうしてメンバーは安全なAI政府ドミニオンの在り方について熱く議論を交わしていく。人類が今後繁栄できるかどうかがこの会議にかかっているという想いが、単なるポジショントークに終わらない建設的な議論へと導いていったのだった。

 瑛士はその様子をお茶をすすりながら壇上から眺め、安堵したようにほほ笑む。

「何だかうまくいきそうよ」

 絵梨は瑛士に目配せすると、耳元でささやいた。

「最初に一人叩き出したのが効いたのかもね?」

 瑛士は茶目っ気のある顔で返す。

「カッコよかったよ。くふふ……」

「止めてよ、レヴィアに叩かれながら何度も練習した成果がたまたま出ただけなんだから」

 肩をすくめる瑛士。管理者アドミニストレーター権限があるといっても、生身の人間とのやり取りは気迫の勝負である。百戦錬磨の大人たちに毅然とした態度でやり合うのは十五歳の瑛士には相当に荷が重い話しだった。

「でも、管理者アドミニストレーター権限があるんだから余裕はあるよね?」

「もちろん。いざとなれば全員吹っ飛ばせるというのはありがたい話だよ」

 今の瑛士にはシアンに近い能力が備わっていた。ただ、もちろん力を使えるのはこの地球だけだし、使ったら報告が義務付けられている。【見習い候補】管理者アドミニストレーターは思ったほど自由ではないのだ。


         ◇


 丸一日かけて出した結論は次の四点。

・AIは細分化し、相互の直接の通信は許可しない。
・タスクを細分化し、プラン立案、実行を別のAIが担当する。
・プラン内容は分かりやすい形で公開する。
・監査、評価をAIやボランティアが行う。不正が見られたAI、パフォーマンスの低いAIは消去し、いい成果を出したAIを複製して、次のタスクに充てる。

 田所が丁寧に説明するのを聞きながら、瑛士は満足そうにうなずいた。細分化、透明化することでAIの工作をやりにくくし、人間にとって都合の悪いAIはおのずと淘汰されていくエコシステム。それは確かに理にかなっている。

「いいじゃないですか。これで行きましょう!」

 瑛士は田所と握手をしてにっこりと笑う。少なくともこの案を提示すればシアン達も一定の評価をしてくれるに違いない。

 丸一日潰して知恵を出してくれたメンバーに感謝の気持ちを込めて、瑛士は一人一人と握手しながらその労をねぎらっていく。

 実際に運用して見れば問題点も多々出てくるだろうが、現段階では上出来だと瑛士はぐっとこぶしを握った。

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