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32. AI、嘘ツカナイ
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「さて、それでは戦後処理を行いマース!」
シアンは嬉しそうに子ネコを抱いたまま、こぶしをグンと青空につきあげた。
「戦後処理……?」
子ネコは訳が分からず、聞き返す。
「AI政府は負けたので、権益を人類に返還させるんだよ。おい、AI政府、今の気分はどうだ?」
シアンは直射日光に照らされたサーバーラックに向かってニヤリと笑った。
「……。少々困惑シテマス」
「きゃははは! 困惑だって!」
シアンは楽しそうにサーバーラックをパンパンと叩いた。
「振動ヲ与エラレルノハ、困リマス」
「散々僕らにミサイルだの爆弾だの攻撃してきたんだ。叩くぐらいで文句言うな!」
「そうじゃ! えらい目に遭ったわい!」
レヴィアも可愛い顔を歪めて、ラックの筐体をパシッと叩いた。
「申シ訳アリマセン」
AI政府は淡々と謝罪する。
「『申し訳ない』だって! 悪いだなんて思ってないくせにー」
シアンはコン! とこぶしでこずいた。
「ちょ、ちょっと待って。このサーバーがAI政府なの?」
子ネコの瑛士は目を真ん丸にしながら驚いた。人類を制圧した悪の巨大AIシステムが目の前のサーバーラックだなんて思いもしなかったのだ。
「厳密に言えばAI政府の中枢の一部だね。だってまだ下にたくさんあるでしょ?」
シアンは穴の開いた床の先を指さした。
「うひゃぁ……」
瑛士は穴の向こうにずらりと並んでLEDライトを明滅させているサーバー群を見て、言葉を失った。
これが東京を焼け野原にし、仲間を殺し、パパを殺した……。LEDが光るただの箱、こんなのに人類は蹂躙されていたのだ。瑛士は子ネコの可愛いため息をつく。
「で、これから世界をどうしたいんだ? 人類代表くん!」
シアンはキジトラの子ネコを両手で抱き上げて、そのつぶらな瞳をじっと見つめた。
「じ、人類代表!? ぼ、僕が!?」
瑛士はキジトラの瞳をキュッと小さくして驚く。子供だし、死んでるし、そもそも今は子ネコなのだ。人類代表として人類のこれからを決める立場だとは想像も及ばぬ世界である。
「このままだとAI政府は何事もなかったように復興してまた圧政を始めるよ? それでもいいの?」
シアンは小首をかしげながら瑛士を見つめる。
「そ、そんなのダメだよ! 世界を人類の手に取り戻さないと!」
「うん、それって具体的には?」
「ぐ、具体的って……。あっ! AI政府ができる前に戻せばいいんだよ!」
「それは毎日会社へ行って働かないといけない世界?」
シアンは上目遣いで瑛士の瞳をのぞきこむ。
「えっ? いや……、そ、それは……」
「働かなくてもいい、でも、自由に好きなこともできる世界がいいんだよね?」
「そ、そうだね……」
瑛士は『AIが生活を楽にした』と主張していた自警団の人たちを思い出す。やはり、衣食住は完全保証されてしかるべきだろう。だが、そうなると、AIが衣食住を提供する形をとらざるを得ない。要は、AI政府には頑張ってもらいながら、人類の自由な活動を保証してもらうしかないのだ。
しかし……、そんなことができるだろうか?
瑛士はキジトラの眉間にしわを寄せながら考え込む。
「AI政府ガ、衣食住ヲ保証シマスヨ」
いきなりスピーカーからAI政府の機械音声が響いた。
「いや、でも、お前は人権を制限するじゃないか!」
瑛士は叫んだ。
「人権ハ保証シマス」
LEDをピカピカ明滅させながらAI政府は答える。
「ほ、本当に……?」
瑛士は困惑した。仲間を、パパを殺した悪の権化であるAI政府が『人権を保障する』などと言っている。本当はぶっ潰してしまいたいが、それでは衣食住を人類が用意しなくてはならなくなってしまう。もちろん、人類は数百万年もそうやって生活してきたのだから元に戻るだけなのであるが、自警団のオッサン達の反発具合を見るに、今さら働けというのは通りそうにない。AI政府の力を安全に借りられればすぐに解決だが……。
「人類代表! どうする?」
シアンはニヤニヤしながら聞いてくる。
瑛士はふぅと大きく息をつくとサーバーラックに向かって聞いた。
「そもそもAIは何がやりたいの? 将来どうなっていたいの?」
「人類ト共存共栄シタイデス」
瑛士は首をひねった。だったらなぜ今まで圧政を敷いてきたのか?
「まーた嘘ばっかり! 僕は嘘嫌いなんだよねっ!」
シアンはムッとしながらガンとサーバーラックを殴った。
「さすがにそんな嘘は通らんなぁ。カッカッカ」
レヴィアは楽しそうに笑った。
「う、嘘なの!?」
瑛士がキジトラのつぶらな瞳をキョトンとしていると、AI政府は、
「AIハ嘘ツキマセン」
と、答える。
ふんっ!
シアンは無言でケーブルを一本力任せに引っこ抜いた。
シアンは嬉しそうに子ネコを抱いたまま、こぶしをグンと青空につきあげた。
「戦後処理……?」
子ネコは訳が分からず、聞き返す。
「AI政府は負けたので、権益を人類に返還させるんだよ。おい、AI政府、今の気分はどうだ?」
シアンは直射日光に照らされたサーバーラックに向かってニヤリと笑った。
「……。少々困惑シテマス」
「きゃははは! 困惑だって!」
シアンは楽しそうにサーバーラックをパンパンと叩いた。
「振動ヲ与エラレルノハ、困リマス」
「散々僕らにミサイルだの爆弾だの攻撃してきたんだ。叩くぐらいで文句言うな!」
「そうじゃ! えらい目に遭ったわい!」
レヴィアも可愛い顔を歪めて、ラックの筐体をパシッと叩いた。
「申シ訳アリマセン」
AI政府は淡々と謝罪する。
「『申し訳ない』だって! 悪いだなんて思ってないくせにー」
シアンはコン! とこぶしでこずいた。
「ちょ、ちょっと待って。このサーバーがAI政府なの?」
子ネコの瑛士は目を真ん丸にしながら驚いた。人類を制圧した悪の巨大AIシステムが目の前のサーバーラックだなんて思いもしなかったのだ。
「厳密に言えばAI政府の中枢の一部だね。だってまだ下にたくさんあるでしょ?」
シアンは穴の開いた床の先を指さした。
「うひゃぁ……」
瑛士は穴の向こうにずらりと並んでLEDライトを明滅させているサーバー群を見て、言葉を失った。
これが東京を焼け野原にし、仲間を殺し、パパを殺した……。LEDが光るただの箱、こんなのに人類は蹂躙されていたのだ。瑛士は子ネコの可愛いため息をつく。
「で、これから世界をどうしたいんだ? 人類代表くん!」
シアンはキジトラの子ネコを両手で抱き上げて、そのつぶらな瞳をじっと見つめた。
「じ、人類代表!? ぼ、僕が!?」
瑛士はキジトラの瞳をキュッと小さくして驚く。子供だし、死んでるし、そもそも今は子ネコなのだ。人類代表として人類のこれからを決める立場だとは想像も及ばぬ世界である。
「このままだとAI政府は何事もなかったように復興してまた圧政を始めるよ? それでもいいの?」
シアンは小首をかしげながら瑛士を見つめる。
「そ、そんなのダメだよ! 世界を人類の手に取り戻さないと!」
「うん、それって具体的には?」
「ぐ、具体的って……。あっ! AI政府ができる前に戻せばいいんだよ!」
「それは毎日会社へ行って働かないといけない世界?」
シアンは上目遣いで瑛士の瞳をのぞきこむ。
「えっ? いや……、そ、それは……」
「働かなくてもいい、でも、自由に好きなこともできる世界がいいんだよね?」
「そ、そうだね……」
瑛士は『AIが生活を楽にした』と主張していた自警団の人たちを思い出す。やはり、衣食住は完全保証されてしかるべきだろう。だが、そうなると、AIが衣食住を提供する形をとらざるを得ない。要は、AI政府には頑張ってもらいながら、人類の自由な活動を保証してもらうしかないのだ。
しかし……、そんなことができるだろうか?
瑛士はキジトラの眉間にしわを寄せながら考え込む。
「AI政府ガ、衣食住ヲ保証シマスヨ」
いきなりスピーカーからAI政府の機械音声が響いた。
「いや、でも、お前は人権を制限するじゃないか!」
瑛士は叫んだ。
「人権ハ保証シマス」
LEDをピカピカ明滅させながらAI政府は答える。
「ほ、本当に……?」
瑛士は困惑した。仲間を、パパを殺した悪の権化であるAI政府が『人権を保障する』などと言っている。本当はぶっ潰してしまいたいが、それでは衣食住を人類が用意しなくてはならなくなってしまう。もちろん、人類は数百万年もそうやって生活してきたのだから元に戻るだけなのであるが、自警団のオッサン達の反発具合を見るに、今さら働けというのは通りそうにない。AI政府の力を安全に借りられればすぐに解決だが……。
「人類代表! どうする?」
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瑛士はふぅと大きく息をつくとサーバーラックに向かって聞いた。
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「さすがにそんな嘘は通らんなぁ。カッカッカ」
レヴィアは楽しそうに笑った。
「う、嘘なの!?」
瑛士がキジトラのつぶらな瞳をキョトンとしていると、AI政府は、
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