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5.出生の秘密

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 名刺の住所にやってくると、そこは瀟洒しょうしゃな高級マンションだった。恐る恐るオートロックを開けてもらい、最上階に行くと、シアンがドタドタと走って来てドアを開けてくれた。

「いらっしゃーい! あれ? 妹さんも一緒?」
「は、初めまして。治してくれてありがとうございます」
 彩夏は可愛い女の子が出てきたことに驚きながら、急いで頭を下げた。
「まぁ、入って」
 二人は奥に通される。
 そこはメゾネットタイプの開放感のあるリビングが広がっており、大きな窓からは気持ちのいい陽の光が差し込んでいる。広々としたフロアにはオシャレなオフィス家具が並び、何人かがパソコンをにらみながら仕事をしていた。
 ガンをも治す不思議な力を持つ人たちのオフィス、それはもっとファンタジーな宗教っぽい拠点かと思っていたが、外資系コンサルのような洗練された空間だった。

「ここ座って」
 シアンはそう言って、会議テーブルの椅子を引く。
 緊張しながら恐る恐る椅子に座る二人。
 
「それで、魔王というのは……?」
 涼真は単刀直入に聞いた。
「あせらない、まずはコーヒーでも飲んで」
 シアンはコーヒーを入れて二人の前に置く。
「ありがとうございます」
 涼真はクレマの浮いた本格的なコーヒーをすすり、気持ちを落ち着ける。

「ここは全宇宙約百万個の星を統括してるオフィス。で、その星のうちの一つがテロリストの手に堕ちてね、魔王が好き勝手やって困ってるんだ」
 肩をすくめ、首を振るシアン。
 いきなり全宇宙スケールの話をされ、困惑する二人。
「で、君には魔王を倒してもらおうかなって」
「いやいやいや、ただの学生に魔王なんて倒せるわけないじゃないですか!」
 手を振りながら拒否する涼真。
「でも、彩夏ちゃんの病気を完治したいって言ってたよね?」
 ニコッと笑うシアン。
「えっ!? ちょっと待ってください。私まだ治ってないんですか?」
 焦る彩夏。
腫瘍しゅようは消えたけど、ガン細胞は残ってるかもしれないからね。再発しないような治療は要るよ?」
「そのために魔王を倒せってこと……ですか?」
 涼真は眉を寄せながら言った。
「そうだね。僕らが倒してもテロリストは潜伏したまま出てこないんだ。別の人にやってもらわないといけなくて困ってるんだよ」
「それは……、おとりってことじゃないですか?」
「まぁ、そうとも言うね」
 悪びれずあっけらかんというシアン。
 思わず宙を仰ぐ涼真。
「なら、私がやります!」
 彩夏はバッと立ち上がって言った。
 しかし、シアンは彩夏をじっと見て、首を振る。
「残念だけど、涼真の方が適任なんだ。涼真は勇者の血筋だからね」
 いきなり『勇者』と言われ、唖然とする二人。
「ちょ、ちょっと待ってください。何ですか……その……『勇者』って」
 彩夏は首をかしげながら聞く。
「涼真のご先祖は紀州の海であやかしを狩ってた特殊技能者なんだよ。だから涼真は魔王を倒すのに向いてるんだ」
「私と涼ちゃんは兄妹です! 私にもその勇者の血が流れてるじゃないですか!」
 彩夏は憤然と言った。
「え? 君たち血は繋がってないよ」
 シアンはさも当たり前かのように言う。
「へっ!?」
 驚き固まる彩夏。
「そ、そんなこと無いわ! 私も涼ちゃんもママと三人でずっと暮らしてきたんだから。ねぇ、涼ちゃん!」
 彩夏は涼真を見た。
 しかし、涼真は渋い顔をしながら固まっている。
「ど、どうしたの? 涼ちゃん」
 涼真は大きく息をつくと言った。
「俺には赤ちゃん時代の彩夏の記憶がないんだよね……」
「えっ!? どういうこと?」
「一番昔の彩夏の記憶は、なぜか歩いてる彩夏なんだ」
 愕然がくぜんとする彩夏。それはつまり、涼真と母親の二人の暮らしに後から彩夏が加わったという事、血のつながりはないということなのだ。
「勇者の特性として、なぜかいざという時に幸運を引くんだよね。だから危険な挑戦をするときは勇者の属性持ちにお願いするんだよ」
 シアンは空気を読まず、淡々と説明する。
 彩夏は力なく椅子に座ると、うなだれる。いきなり明かされた衝撃的な出生の秘密。涼真はどうフォローしていいかもわからず、そっと彩夏の手を握った。
 しばらく目をつぶって動かなかった彩夏だったが、
「後でママとお話しするわ。涼ちゃんも一緒に……ね?」
 そう言って沈んだ表情で涼真を見る。
 涼真はゆっくりとうなずいた。
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