上 下
35 / 61

35. 本番

しおりを挟む
 稜線に戻ってくると、レヴィアもびしょぬれの金髪おかっぱの少女姿で倒れていた。

 紗雪と同じく受精卵から再生されたのだろう。まだ幼いながら、その透き通るような肌の美しい裸体は英斗には目の毒だった。

 英斗は顔を赤くして顔を背けながら、タオルで胸を覆ってレヴィアを抱き起こす。

 う……、うぅ……。

 眉間にしわを寄せ、うめくレヴィア。

 白い肌に整った目鼻立ち、長い金色のまつげが美しくカールしている。どことなく紗雪にも通じるものがあり、血のつながりがあるのかもしれない。

「レヴィアさん、起きてください」

 英斗はほほをペチペチと叩き、声をかける。

 レヴィアはゆっくりとまぶたを開け、

「ん? んん……?」

 と、辺りを見回す。そして、素っ裸でびしょぬれの自分を見て、

「我は死んどったのか?」

 と、ウンザリしたような表情で英斗を見上げた。

 英斗は水のしたたる美少女に少しドキッとしながら、真紅の瞳を見つめてゆっくりとうなずいた。

 きゃははは!

 林の方から元気な笑い声が聞こえ、見下ろすとタニアが素っ裸でトコトコと歩いてくる。これで全員無事ということではあるが、唯一死ななかった英斗だけが全身傷だらけで痛みをこらえているのは何だか腑に落ちず、英斗は首を傾げた。


      ◇


 一行は地下に掘られたベースキャンプに後退し、被害状況を確認する。

 記録班の映像を見ると、オーロラが展開された直後、英斗たちも黄龍隊もすべて動かなくなり、そこに火山の砲門から次々と砲撃を当てられていたようだった。

 オーロラには意識を断つ機能があったらしい。レヴィアたちも知らない新兵器を投入してくる魔王の底知れなさに、英斗は渋い顔をして映像を見つめていた。

 自分のことを『特異点』と呼び、部下にしようとした小太りの中年男、魔王。彼が一体何を考え、何を目指しているのかさっぱり分からない。誰しも何らかの意図があって動いているものだが、魔王に限って言えばそれが滅茶苦茶だった。

『女神に復讐』というのが本当なら女神と直接やってもらえばいい話で人類は関係ない。なぜ滅ぼす必要があるのか?

 英斗は大きくため息をつき、肩をすくめた。

 ズン! ズーン!

 地響きが響いてくる。魔物たちの攻撃が始まったようだった。

 ベースキャンプは小さなドーム状のシールドで覆われ、魔物たちの攻撃から耐えていたが、いつまでも耐え続けられるわけではない。一行と黄龍隊は急いで再度攻撃の態勢を整えていく。

 明り取りの穴から見上げると、パピヨールたちが上空で群れてレーザー攻撃をシールドに雨のように降らし、爆音の嵐を奏でている。このままだとシールドを突破されるのも時間の問題のように思えた。

 気が気でない英斗はそわそわしてしまうが、紗雪は堂々としたもので、タニアをひざに乗せて一緒に手遊びをしている。

「これ、大丈夫なのかな?」

 英斗は眉をひそめながら紗雪に声をかける。

「ダメならまた生き返るだけだわ」

 紗雪は覚悟を決めた様子でそう言うと、タニアをキュッと抱きしめた。

 タニアはきゃははは! と、嬉しそうに笑い、紗雪はその楽しそうな顔に癒され、優しい顔をする。

『生き返ればいい』

 理屈ではそうなのだが、そう簡単に割り切れない英斗は渋い顔でため息をついた。

 それにしても死に戻りを計算するなんてまるでゲームの世界である。なぜ、こんなリアルな世界でゲームみたいな戦略が成り立ってしまうのか英斗は困惑し、首をかしげた。


      ◇


 タッタッタと軽快な足音が通路の穴の方から響いてきて、

「さて、そろそろ本番じゃ!」

 と、レヴィアが顔を出して言った。

「魔物を倒すんですか?」

「そんなのは黄龍隊に任せとけ。ワシらは一気に火山へ行くぞ!」

 そう言いながら手招きをした。

 一気に魔王のいる火山へ行くというレヴィアの言葉に、英斗の心臓がドクンと高鳴る。いきなり核心がやってきてしまったのだ。

 緊張でこわばっている英斗の肩を紗雪はポンポンと叩き、

「大丈夫よ。『僕がついてる』んでしょ?」

 と、言ってニコッと笑った。その笑顔には曇り一つなく、まるで吹っ切れたように明るい表情だった。

「え? いや、まぁ、そうなんだけど……」

 英斗は生き返ってからすっかりポジティブになった紗雪に、少し違和感を感じながらも、自分の言葉を使われては反論もできない。

 大きく息をつき、パンパンと自分の頬を両手で張った英斗は、

「大丈夫、行こう!」

 と笑顔を見せてレヴィアの後を追った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...