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25. 無慈悲

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 外で戦っていた黄龍隊から連絡があり、シャトルが上層階から射出され、北の方へと飛んでいるらしい。今、メンバーが追跡しているということなので急いで後を追うしかない。

 ドアが吹き飛ばされた非常口からは太陽の光が差し込み、外の景色が良く見えた。外からは一切侵入を受け付けない外壁だったが、内側からは簡単に開けられてしまうらしい。

 英斗は恐る恐る首を出して辺りを見回した。先ほどまで激しい戦闘が行われていた周囲も今は静まり返り、くすぶっている木々から白い煙がうっすらと上がるばかりである。

 下を見ると、はるかかなた下の地面まで何もない。手すりや非常階段など何もない、実に魔王城らしい割り切った作りだった。落ちたら一巻の終わりだと思うと、英斗は肝がキュッと冷える。

 レヴィアは一足先に外へと飛び出し、翼の調子を確かめてステップに頭を横付けして叫ぶ。

「早く乗れ!」

 紗雪はピョンと跳び乗り、眩しそうに目を細めて辺りを見回した。

 英斗も跳び乗ろうと思ったが、レヴィアは羽ばたいているので、揺れ動いて隙間もそれなりにある。普通に人間にはとても跳び乗れそうにない。英斗が恐る恐る鱗のトゲに手を伸ばすと、紗雪はすっと手をつかみ、

「は、早くしてよね!」

 と、真っ赤になりながら英斗を引っ張り上げる。

「あ、ありがとう」

 うまく乗り移れた英斗はニッコリと笑ったが、次の瞬間、足を滑らせて思わず紗雪にしがみついた。

 うわっ!

「ちょ、ちょっとなにやってるのよぉ」

 口調は厳しかったが、紗雪は微笑みを浮かべながら優しく英斗を確保すると、そっと座りやすいところへと移動させた。

 英斗はそんな紗雪の心遣いが嬉しくなり、紗雪を隣に座らせるとしっかりと手を握る。

 紗雪はちょっと驚いたような表情を見せたが、拒むわけでもなくプイっと向こうの方を向いた。

 英斗は柔らかな紗雪の手の温かさを感じながら、早く穏やかな日々を取り戻したいと願った。


       ◇


「つかまっとれ! 急いで追うぞ!」

 そう言うとレヴィアは力強く大きな翼をはばたかせ、一気に高度を上げていく。

 振り返るとブスブスと黒い煙を噴き上げている魔王城が小さくなっていくのが見えた。拠点を潰せたことは大きな成果ではあったが、英斗は胸騒ぎが押さえられず、キュッと唇を結ぶ。

 どこかに隠された九十万もの魔物たち、あっさりと捨てられた魔王城。自分たちは追い詰めたつもりでいるが、もしかしたら魔王にしてみたら想定の範囲内なのかもしれない。

 英斗は紗雪の手を握りなおし、気持ちを落ち着けようとなんども大きく息を吸った。


        ◇


 雲を抜け、さらに加速した時だった。

 いきなり激しい閃光が天地を埋め尽くし、体中の血液が沸騰するかのような激しい熱を受け、英斗は思わず気を失いそうになる。

 グハァァァ!

 レヴィアは絶叫するとドラゴン形態を維持できなくなり、気絶したまま少女の姿に戻ってしまった。

 空中に放り出された一行。

 ただ地面へ向かって一直線へと落ちていった。

 いきなりの大ピンチに何が何だか分からないながら、英斗は必死に歯を食いしばって意識を保つ。全身がやけどしたように激痛が走りながらも、何とか顔を上げた。

 紗雪を見ると、気絶してしまったようでぐったりとしてしまっている。

「さ、紗雪!」

 そう叫んだ時、巨大な灼熱のもくもくとした塊が視界に入ってきた。

 え……?

 その禍々しいエネルギーの塊に唖然とする英斗。

 それはやがて巨大なキノコ雲へと成長し、熱線をまき散らし、赤く輝きながら上空へと舞い上がっていく。

 それを見て英斗は全てを理解した。核兵器だ。魔王は核を使って魔王城を爆破したのに違いない。

 証拠を残さないため、そして、あわよくば自分達を抹殺するために核で魔王城を吹き飛ばしたのだろう。

 その、容赦ない蛮行に英斗は震え、生ぬるかった自分の発想を反省した。自分たちが戦いを挑んでいる全人類の敵とは、こういう無慈悲で容赦ないサイコパスなのだ。

 英斗はギリッと奥歯を鳴らし、キノコ雲をにらむ。

 しかし、このままでは地面に激突して全滅である。

 英斗は紗雪の手をつかんだまま、手足をうまく動かして落ちる向きを変え、少し離れたところを落ちていくレヴィアの手をつかんだ。

 レヴィアは全身赤く腫れあがっていて、とても意識を取り戻せるような状態には見えない。

 万事休す。

 英斗はギュッと目をつぶり、事態の深刻さに混乱する頭を必死に動かした。

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