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11. 襲いかかる暴威

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「お前のパパはどこにいるんだい?」

 英斗はタニアのつぶらな瞳をのぞきこみ、聞いてみた。しかし、タニアは嬉しそうに、

「ここぉ~」

 と言って、英斗に抱き着いてくる。

「いや、俺は龍族じゃないし、パパじゃないって」

 英斗は困惑してタニアを引きはがす。

「ちがうの! パパなの!」

 タニアはベソをかきながら怒る。

 英斗は困惑してレヴィアと顔を見合わせる。

「まぁ、しばらく親代わりになってやれ。この子も寂しいんじゃろう」

 レヴィアは無責任にそんなことを言ってコーヒーをすすった。

「親代わりって……、まだ高校生なんですけど……」

 渋い顔でタニアを見る。

 タニアはニコッと笑い、

「パパァ~」

 と、また抱き着いてきた。

「あぁ、はいはい……」

 英斗はそう言ってため息をつき、トントンとタニアの背中を叩いた。

 と、その時、穏やかな時間をぶち破り、耳をつんざく音が鳴り響く。

 ヴィ――――ン! ヴィ――――ン!
 
 いきなりの非常警報である。

 レヴィアは急に真顔になり、慌てて、ガン! とコーヒーカップをテーブルに叩きつけ、天井の円筒向けて腕をのばすと指をパチンと鳴らした。

 ヴゥン……。

 かすかな電子音が響いてテーブルの真ん中あたりに映像が浮かび上がる。そこには無数の魔物たちが行進している様子が映っていた。

『軍事境界線まで後一キロです! その数およそ十万!』

 若い男の声が響く。そこには焦りを感じさせる色があった。

「カ――――ッ! やっぱり来たか……」

 レヴィアは頭を抱えて考え込む。

 土煙をもうもうとたてながら大挙して押し寄せてくる魔物たち。昨日やってきていた魔熊やオーガだけでなく、ゴブリンや見たことのない一つ目の巨体の魔物など、まさに全ての魔物が集結して津波のようにエクソダスを目指している。

 魔王軍は全てを破壊尽くせる破壊力とエネルギーを持ち、今、龍族根絶を目指しその暴威をエクソダスに向けたのだった。

 窓から見ると、遠くの方に不穏な土煙が上がって見える。それは映像の世界ではなく現実として暴力が牙をむいて襲いかかってきているのだ。英斗はその身の毛のよだつ恐るべき光景に圧倒され、タニアをギュッと抱きしめた。

「総員、第一種戦闘配置につけ! 核融合炉出力全開! 砲兵隊配備パターンA! 黄龍ホアンロン隊スクランブル用意!」

 レヴィアは叫び、テーブルをパシパシと叩いて画面をクルクルと変えていく。

 やがて、うっすらと金色に光を放つフィルムがドーム状にエクソダスを覆った。何らかのバリアだろうか?

「なぁに、そう簡単にはやられはせんよ」

 レヴィアは青くなっている英斗をチラッと見ると、ニヤッと笑って言った。

 五百年間守り通してきたエクソダスである。レヴィアには勝算があるのだろう。しかし、自衛隊なら一匹でも手こずる魔物が十万匹という現実は、英斗の胸を締め付ける。

『大変です! 上空にパピヨールの大群です!』

 緊張した声が響き、映像が上空に切り替わる。

 そこには巨大な蝶の魔物が空を覆うかのように飛来していた。今朝、紗雪が倒した数も相当だったが、それよりも桁違いに多く見える。

「な、何ぃ! いつの間に!? 砲兵隊、パターンCに変更! 準備でき次第発砲を許可する! 黄龍隊はまだか!」

 レヴィアの額には冷汗が浮かんでいる。状況は良くなさそうだった。

 直後、腹の底を揺らす爆発音が次々と響き渡る。パピヨールの攻撃が始まってしまったらしい。それに続いて今度はヴィヨン! ヴィヨン! という電子音が閃光と共に放たれる。迎撃が始まったようだ。

 バラバラと降ってくるパピヨールの残骸、響き続ける爆発音。辺りは爆煙がもうもうとたちこめ、焦げ臭いにおいに覆われる。エクソダスは戦場のど真ん中となってしまった。

 直後、激しい爆発音が響き、奥の窓ガラスが吹き飛んだ。

「うはぁ!」「ぐはぁ!」「きゃははは!」

 英斗はたまらずタニアと一緒にテーブルの下に隠れ、頭を抱える。

 爆煙が立ちこめ、今まさに死が目の前に迫ってきている現実に、英斗は胸がキュッとなって必死に深呼吸をくりかえす。

「左舷何やっとる! 弾幕足りんぞ! 黄龍隊、ポイントCから突入じゃ!」

 レヴィアは額に青筋を立て、叫んだ。

『棟梁! 大変です、核融合炉が安定しません!』

 エンジニアの悲痛な声が響く。

「泣き言なんて聞きたくないね、何とかするんじゃ! 黄龍隊、散開し焼き尽くせ! 頼んだぞ!」

 窓の向こうをパピヨールから雨あられのようにレーザー光線が降り注ぎ始め、その中をオレンジ色の光をまとったドラゴンが次々とものすごい速度で通過していく。

 ドラゴンは被弾するたびにふらつきながらも健気に反撃のタイミングを計って灼熱のドラゴンブレスを浴びせかけていった。

 パピヨールを何とか殲滅せんめつできたとしても、問題はあの津波のような魔物たちである。いきなり巻き込まれた無慈悲な全面戦争の衝撃に英斗はどうしたらいいのか見当もつかず、ただガタガタと震えていた。

 タニアはキョトンとしてそんな英斗を不思議そうに見つめ、キャハッ! と笑ってよじ登ってくる。

 英斗はタニアの豪胆ごうたんさに少し救われる思いがして、両手で抱きかかえるとプニプニのほっぺにほほ寄せた。

 しばらく続いた激しい応酬も一段落がついたようで、やがて静けさが訪れる。黒煙とともにキラキラとしたパピヨールの鱗粉が風に舞い、攻防の激しさを感じさせた。

 黄龍隊の活躍でどうやらパピヨールは一掃できたものの、粒子砲は多くがやられ、フィルムバリアも穴だらけとなっているらしい。

 レヴィアは次々と報告される被害状況を整理しながら対応を指示していく。しかし、ほほにはタラリと冷汗が流れ、事態の深刻さを物語っていた。

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