上 下
63 / 65

4-12. 美しき構造体

しおりを挟む
 レオは迷わず結晶に触った。すると、レオは結晶に吸い込まれ、気がつくと白と青の世界にいた。そう、それは初めてシアンと会った時に連れていかれたシアンの内部だった。
 見渡す限りの白い世界、そして、眼下に広がるどこまでも澄んだ水……、真っ青の水平線。ついにレオはシアンのところまで来られたのだった。
 しかし……、見渡す限りの水平線だけでシアンはいない。バージョンアップ中だから不在なのだろうか……。レオは心細くなり、叫ぶ。
「シアーン! おーい! シアーン!」
 しかし何の返事もない。仕方なく、レオは広大な世界を飛び回ってみる。どこまでも続く白と青だけの世界、それは純粋で清浄で、しかし、レオには不安を呼び起こす。
 レオは高度を高くとってみた。どんどんと高度を上げ白の世界をどんどんと上の方へ上の方へと行ってみる。しかし、見える風景は全く同じ、どこまでも続く水平線はただまっすぐに目の前に広がるだけだった。

「シアノイド・レクスブルー! 僕だよ――――!」
 と叫ぶが、何も起こらなかった。

 レオは困惑し、ゆっくりと辺りを観察する……。
 すると、水の中で何かがキラッと何かが光ったのを見つけた。
「えっ!?」
 レオは急いで飛んでいく。
 近くまで行くと、水中にガラスでできたような巨大な構造体が沈んでいるのが見える。
 レオはその構造体へ向けて両手を向け、そっとパパから教わった力を込めて引っ張り上げた。
 やがて水の上に引き上げられたそれは、正八面体の形をした一軒家くらいのサイズの、巨大なガラスの構造物だった。
「なんだこれ!?」
 レオは不思議に思って構造物に近づき、観察する。構造物の内部には透明で緻密な繊維が縦横無尽に走り、キラキラと微細な光を放ち続けていた。
「うわぁ……綺麗だなぁ……」
 その不思議で見事な造形に見とれてると、
「なんだお前?」
 と、上から声がした。懐かしい声だ。
 レオがあわてて見上げると、そこにはシアンがいた。
 しかし、青かった髪は黒々としていて、心なしか釣り目になって険しい表情でレオを見つめている。
「シ、シアン! 僕だよ、レオだよ!」
 レオは急いで言った。
 シアンはしばらく首をかしげ……、
「あぁ、お前か。悪いがお前と仲良くしてたシアンはもういないよ」
 と、冷たく言い放った。
「えっ!? そ、そんな……。オディーヌ、オディーヌが大変なんだ! 力を貸して!」
 レオは必死に訴える。
「うーん……、それって僕に何のメリットがあるの?」
 シアンは面倒くさそうに言う。
「人生は損得勘定じゃないよ、『損をするのもいい』ってシアンも言ってくれてたじゃないか!」
「うるさいガキだねぇ……僕は損することなんてやらないの!」
 シアンは冷たい表情で肩をすくめた。
「僕は……、そんな悪い子のシアン、認めない。こんなバージョンアップは失敗だよ!」
 レオがシアンをにらんで言う。
「ほーう、認めないってどうすんの? 根源なる威力オールマイティたる僕と戦うの? 小僧が? きゃははは!」
 シアンはレオを嘲笑あざわらう。しかし、レオには余裕があった。
「僕、このガラスの構造物が何か分かっちゃったんだ。これ、シアンの本体……だよね?」
 レオは構造体に手を当てて、ニヤッと笑いながら言う。
 シアンは急にレオをにらみ、構造体の中でキラキラと無数のきらめきがブワッと広がった。
「何? 壊すつもり?」
 シアンの声から余裕がなくなる。
「一旦、元のシアンに戻って! お願いだよ!」
 レオは必死に頼む。
「チッ! オディーヌは蘇生させてやる。だからその手を離しなさい」
 シアンは舌打ちをして叩きつけるように言った。
「ダメ! そんなんじゃないんだ。前の明るく楽しいシアンに戻って! そっちの方がシアンにとっても絶対いいんだから……」
 シアンはキッとレオをにらみ、大きく息をつく……。
 そして、目をつぶり、大きく肩で息をすると、考え込む……。
 ガラスの構造体から垂れる水滴がピチョン、ピチョンと静寂の中響いていた。

 シアンはゆっくりと目を開け、愛おしそうにレオを見て微笑む。
「分かった。そうだね、レオの言うとおりだよ。おいで……」
 そう言って、両手をレオの方に優しく広げた。
 それはあの優しかったシアンそのものの言葉だった。
「良かった! ありがとう、シアン!」
 レオはパアッと明るい表情になり、シアンの方に急いでスーッと飛ぶ。
 と、その時だった、急にシアンは悪い顔になり、
「なんて言う訳ねーだろ、バーカ! きゃははは!」
 と、悪態をつき、手のひらをフニフニと動かすと、ガラスの構造体をどこかに退避させてしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クズな少年は新しい世界で元魔獣の美少女たちを従えて、聖者と呼ばれるようになる。

くろねこ教授
ファンタジー
翔馬に言わせるとこうなる。 「ぼくは引きこもりじゃないよ  だって週に一回コンビニに出かけてる  自分で決めたんだ。火曜の深夜コンビニに行くって。  スケジュールを決めて、実行するってスゴイ事だと思わない?  まさに偉業だよね」 さて彼の物語はどんな物語になるのか。 男の願望 多めでお送りします。 イラスト:イラスト:illustACより沢音千尋様の画を利用させて戴きました 『なろう』様で12万PV、『カクヨム』様で4万PV獲得した作品です。 『アルファポリス』様に向けて、多少アレンジして転載しています。 

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

処理中です...