上 下
59 / 65

4-8. 暴力の発露

しおりを挟む
 やがて、宿屋がすぅっと消えていく……。
 レオは地下室へと戻された。
 いきなり泣きじゃくるレオを見て、オディーヌはそっとハグをする。
 オディーヌの温かい胸にいだかれながら、しばらくレオはすすり泣いていた。
「辛い目に遭ったのね……」
 ゆっくりとうなずくレオ。
「かわいそうに……」
 オディーヌは愛おしそうにゆっくりとレオの頭をなでる……。
 柔らかく甘く香るオディーヌの匂いがレオを優しく包み、レオはゆっくりと自分を取り戻していった……。

 落ち着くと零が優しく聞いた。
「大丈夫? 何かわかったかい?」
 レオは静かにうなずいた。
 そしてレオは何かを考えこみ……、ハッとして言った。
「大変だ! ニーザリにヴィクトーの軍が侵攻してる!」
「えっ!?」
 青ざめるオディーヌ。
「僕、止めてくる!」
 そう言うと、レオは指先で空間を切り裂き、ニーザリへとつなげた。

      ◇

 ヴィクトーは千人の歩兵部隊を引き連れ、スラムの倉庫から一気に王宮へと侵攻していた。
 しかし、道中の街は静まり返っていて、いつもの賑わいは無かった。
「ちくしょう! 誰か漏らしやがったな!」
 ヴィクトーは悪態をつく。
 しかし、グレネードランチャーと自動小銃で武装した部隊を止められる様な軍事力をニーザリは持っていない。あえて言うなら特殊魔術師部隊が気になるが、それでも千人を相手にできる力などなかった。ヴィクトーは予定通り侵攻を続けることにした。

 ザッザッ! という規則正しい行進の足音が不気味に石造りの街に響く。

 王宮へつながる中門まで来ると、城門が閉じていた。ここが閉じているのをヴィクトーは初めて見た。そして、城壁の上には弓兵や魔術師が待ち構えている。

「ゼンターイ! 止まれ!」
 ヴィクトーは弓矢の射程距離の手前で手を上げると、大声で叫んだ。

 ザッザッ!
 歩兵たちはその場で二回足踏みをすると一斉に行進を止める。その一糸乱れぬ動作は、高い練度と忠誠心を感じさせた。

 城壁の上の弓兵達とヴィクター達はにらみ合う。

「グレネードランチャー用意!」
 ヴィクトーが叫ぶと、でかい対戦車弾頭のついた長い兵器を携えた兵士が四人出てきてヴィクトーの前に並び、城門に弾頭を向けた。

 ヴィクトーはニヤリと笑うと、
「ニーザリ軍に告ぐ! これより城門を吹き飛ばす。被害を出したくなければ投降せよ!」
 と、叫んだ。
 しかし、弓兵たちは微動だにしない。それは死んでも降伏などしないという意思表示だった。

「撃ち方よーい!」
 ヴィクトーが叫ぶと、兵士はひざをつき、安全装置を解除して照準を出し、城壁を狙って引き金に指をかけた。

 と、その時だった、横の方から兵士たちの前に子供が走り出て、両手を大きく広げて叫んだ。

「ヴィクトー止めろ!」

 それはレオだった。

「へ、陛下……」
 ヴィクトーは予想外の妨害に動揺した。

「ヴィクトー! 殺してはダメだ! 僕たちの理想は人を殺しては叶えられない!」
 レオは必死に叫んだ。

「何を言ってるんですか、陛下。この旧態依然とした搾取構造を破壊しない限り理想など夢です!」
「僕はテロリストたちのテロに遭った事がある。ひとたび人を殺せば憎しみは次の殺戮を呼ぶ。軍隊をどんなに強化したってテロリストは封じ込められない。アレグリスの街にテロの嵐が襲うぞ!」
 ヴィクトーは返す言葉がなく黙ってしまう。
「もう一度ちゃんと話し合おうよ。話し合えばきっと理想は叶えられるから」
 レオはヴィクトーに両手を差し出し、受け入れる姿勢を見せた。
 ヴィクトーはうつむき、しばらく何かを考える……。
 そして意を決すると、レオをにらみ、叫んだ。
「お前は陛下じゃない! 偽物だ! 目標、陛下の偽物! 撃ち方よーい!」
 なんとヴィクトーはレオを拒絶し、攻撃にうつったのだ。
 しかし、レオは一歩も引かない。
 真一文字に口を結び、両手を差し出したままだ。

 兵士たちはお互い顔を見合わせながら、本当に命令を聞いていいのかオロオロしてしている。
「腰抜けが! 貸せ!」
 ヴィクトーはグレネードランチャーを兵士から奪い取ると自分で構え、レオに照準を合わせた。
「ヴィクトー! 止めろ! なぜ分かってくれないんだよぉ!」
 レオは泣き叫ぶ。
「自由の国、アレグリス、バンザーイ!」
 ヴィクトーはそう叫びながら引き金を引いた……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...