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4-2. 告げられた真名

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 控室にレオが戻ってくると、シアンは満面の笑みでレオに駆け寄ってハグをした。
「よくできました。カッコよかったよ」
「ありがとう、シアンのおかげだよ」
 レオもうれしそうにシアンを抱きしめた。
 二人はしばらくいろいろな出来事を思い出しながら、お互いの体温を感じていた。

 すると、シアンはそっと離れ、
「賭けは君の勝ちだ。立派になったね。もう僕の役割も終わりだよ」
 そう言ってちょっと寂しそうに微笑んだ。
「えっ……? まだ……、まだだよ。まだ人が来ただけじゃないか!」
 レオは終わりを告げるシアンに、不安を覚えて叫ぶ。
 シアンはゆっくりと首を振ると、
「僕を待ってる星は百万個もあるんだ……」
 そう言って目をつぶった。
「いやだよぉ!」
 レオはシアンに抱き着いた。
 シアンは愛おしそうにレオの頭をなでると、レヴィアの方を向いて、
「後は任せたよ」
 と、静かに言う。
 レヴィアは胸に手を当て、
「かしこまりました」
 と、言ってうやうやしく頭を下げた。
「えっ! やだやだ! いかないで――――!」
「楽しかったよ。またいつか……、会えるといいね……」
 シアンは目に涙を浮かべながら言う。
「ダメダメ! そうだ、お酒飲みに行こうよ! エールを樽でさ!」
 レオは必死に引きとめる……。
 シアンはゆっくりと首を振ってうつむいた。
 そして、静かに耳元で、
「ありがとうレオ。僕の本当の名前は『シアノイド・レクスブルー』。秘密だよ」
 そう言うと、レオの頬にチュッとキスをする。
 そして、愛おしそうに
「さようなら……」
 と言うと、すうっと消えていった。
「えっ!? シアン……。ウソだよね……え……?」
 呆然と立ちすくむレオ……。そして、
「うわぁぁぁ! シアン――――!」
 そう絶叫すると、ひざから崩れ落ち、涙をポロポロとこぼした。
 あの日、短剣を拾ってくれた時からずっと隣にいてくれたシアン。レオにとってもはや家族同然だった。
 ブラックホールを操り、ジュルダンをアヒルにして、王宮でケーキをパクつき、一緒に東京を飛び、この街を作ったシアン。そして寝る時もいつも一緒だった。柔らかく温かく……、そして雑な宇宙最強の女の子。

「シアンのバカ――――! うわぁぁぁん!」
 レオは号泣する。人目もはばからず、オイオイと泣いた。
 成功する事がこんなに悲しい事だなんて……。レオは失われたものの大きさに涙がとめどなく湧いてきた。

 レオはひとしきり泣くと、起き上がってレヴィアの方を向き、真っ赤な目で言う。
「なんで引きとめてくれなかったんですか……?」
 レヴィアは息を大きく吐くと、レオの目を見て丁寧に言った。
「シアン様の決められたことは絶対じゃ。我のような末端に発言権などない。あのお方はお主らが考えるより、はるかにずーっと偉いお方なのじゃよ」
「そんな話じゃないよ……。一言だけでも……、引きとめて欲しかったのに……」
 レオはそうつぶやくとガックリとうなだれ、また泣きじゃくった。

 オディーヌはレオにそっと近づき、優しくハグをする。
 時折会場からの地響きのような歓声が届く中、控室にはしばらくレオの嗚咽おえつが響いた。
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