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3-16. 壮大な宇宙の神秘

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「ふぅん、必要な計算量が多いから無理っていうのね?」
 シアンはニヤニヤしながら言う。
「そうですよ! この世界をシミュレーションするって事は、シュレディンガー方程式を解いて分子の動きからシミュレートしなきゃダメです。そしてそんなのスパコン使ったって、たった一グラムの物体すら計算不可能です!」
 零は勝ち誇ったように言い放った。
「ふぅん、零は人体のシミュレーションをする時、シュレディンガー方程式なんて解くの?」
 シアンは目をキラッと光らせて、うれしそうに聞いた。
「えっ!? じ、人体……ですか……。そのスケールだったら……、分子シミュレーションなんて……、意味ないから……、やらない……」
 零は元気なくなってきて、うつむいてしまった。
「でしょ? 正解はこちら!」
 シアンは楽しそうに箸を指揮者のように振った。
 すると、ボン! と言って零の身体はワイヤーフレームになった。
「へっ!?」
 スカスカの線画になってしまった零は驚いて立ち上がり、両手を見る。しかしそこには白い線の針金細工のような手があるだけであり、向こうが透けて見えていた。
「な、何だこれは!?」
 零はあわてて、針金のロボットみたいに見える自分の手を握った。しかし、触ってみるとちゃんと感覚があり、力も暖かさも感じる……。しかし……、向こうが丸見えで透け透けなのだ。
 零はしばらく考え込む。この非常識な事態をどう考えたらいいのだろうか……?
 しかし、幾ら考えても答えは一つしか考えられなかった。
 そして、ゆっくりと口を開く。
「こう……、計算させてるんですね……。なるほどこれなら……」
 そう言って零はぐったりとうなだれると、しばらく動かなくなった。
「零……、大丈夫?」
 レオは零の針金づくりの顔をのぞきこみ、心配そうに言う。
 零は針金の手でジョッキをガッとつかむとそのまま一気飲みし、観念したように言った。
「全て理解しました。この世界がどうやって作られているかも想像がつきました」
「うんうん、零は優秀だなぁ」
 シアンはうれしそうにして零の身体を元に戻した。
「で、サーバーが海王星にあるってことですよね?」
「そうそう」
「でも、全てが情報でできてるってことは、そこも根源じゃないってことですよね?」
 零は鋭く切り込む。
「ほほう、お主すごいな」
 レヴィアは感心して言った。
「我々は広大な情報の海に生まれ、生きる情報生命体……。あなた達の異世界はこの地球とどういう関係なんですか?」
 零は吹っ切れたように饒舌じょうぜつに聞いた。
「パラレルワールドじゃな。多くの分身インスタンスの中の兄弟世界じゃ」
「でもですよ? そんなことができるなら、私が書くようなプログラミングコードなど自動で合成できちゃうんじゃないですか?」
「そんなことやったら多様性が失われるじゃろ?」
「えっ? 多様性?」
「効率を求めるならそもそも世界など作らんよ。我々に求められてるのは多様性じゃ」
「なるほど! なるほど! 我々は試されてれるってことですね? この宇宙をつかさどる大いなる存在に!」
 零は興奮して言った。
「まぁ……、そうじゃな……」
「その大いなる存在って誰なんですか!?」
 零は壮大な宇宙の神秘に触れ、大興奮して聞いた。
 レヴィアは渋い顔をしながらシアンを見る。
「きゃははは!」
 うれしそうに笑うシアン。
「まぁ、それはデリケートな問題じゃな」
 レヴィアはお茶を濁す。
 それでも零は、この世界の真実に触れられたことに感動し、スクッと立ち上がると、
「わたくし、零は今! モーレツに感動しております!! この素敵な出会いにカンパーイ!」
 と、勢いよくジョッキを掲げた。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「イエーイ!」「よろしくぅ!」
 ジョッキのビールをゴクゴクと飲み干しながら、零は今までの悩みが全て吹っ飛んでいくような爽快感に浸っていた。今ここに見えている世界は幻想にすぎず、異世界は無数にあり、今、そこへのアクセスを手に入れたのだ。それは零の世界観をひっくり返すコペルニクス的転回だった。

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