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3-9. ヒレステーキ 280g

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「あー、疲れた――――! お腹すいたよ――――!」
 シアンはそう言ってソファーに倒れ込み、手足をバタバタとさせて暴れる。
「あー、何食べますか?」
「ウーバーイーツでみんな好きなの頼もう!」
 シアンが元気に答える。
「へ!? 出前ですか!?」
「田町のうちの会社に届けてもらえばいいじゃん! レヴィアは頭固いんだからぁ~」
「いや……、あそこ、全宇宙の最高機関ですよ? 出前なんて届けさせちゃったら消されそうですが……」
「んなことないよ。みんな使ってるよ」
 そう言いながらシアンは寝っ転がってiPhoneをいじる。
「じゃ、会社からの引き取りはお願いしますよ。私なんかが気軽に行けるようなところじゃないんですから……。怖い怖い……」
 レヴィアはそう言ってブルッと体を震わせた。
「はいはい……。あ、僕これ! ヒレステーキ 280g (ライス無) ね」
 シアンはそう言って情報をレヴィアのiPhoneに送った。
「ステーキ! ステーキいいですね! 私もこれにしようかな……」
 レヴィアは肉の写真を食い入るように見つめる。
「えっ、僕もステーキがいいな……」
 そう言ってレオはレヴィアのiPhoneをのぞき込んだ。
「あはは、280gはお主じゃ食べきれんぞ」
 するとオディーヌは、パソコンを見ながら
「私はリブロースがいいな」
 と、言った。
「へ? 自分で検索したのか? お主、もうそんなことまでできるのか?」
「ふふっ、午後にパソコンを必死に頑張ったんです」
 そう言ってニコッと笑った。
「あっ! そうだ、サラダもどこかで頼んどいてね」
 シアンはそう言うと、大きくあくびをしてソファーで居眠りの体制になる。

     ◇

 三十分ほどして、レヴィアはシアンを起こす。
「シアン様、料理届いたそうですよ~」
 シアンは豪華なソファーで気持ちよさそうにすやすやと寝ている。
 返事がないので、困惑しながらシアンをゆらすレヴィア。
「シアン様~!」
 するとシアンは、
「むぅーん!」
 と言いながら、寝返りを打ってビュッ! と目にも止まらぬ速さで腕を振った。
 と、その瞬間レヴィアの前髪がパラパラッと舞い、後ろの窓ガラスがパキッ! と言って斬られた。
「へっ!?」
 焦るレヴィアが振り返ると、正面に見えるタワマンがズズズズと重低音を響かせながら動いてるのが見えた。
 レオとオディーヌもあわてて窓に駆け寄り、タワマンを見た。
 タワマンは中層階を斜めに切断され、切れ目に沿って滑り落ちていっている。
「あぁっ!」「壊れちゃう!」
 二人とも唖然あぜんとしてその恐ろしい崩壊の様子をただ見守っていた。
 やがてタワマンは上部がゆっくりと崩落し、爆発音を伴いながらバラバラになって地面に散らばった。
 直後、激しい地震のように床が揺れ、三人は床にしゃがみこむ。
「キャ――――!」「うわぁ!」
 テーブルのマグカップは床に落ちて転がった。

「シアン様を起こすのはこれからは禁止じゃ……。とほほほ……」
 レヴィアはそう言って、短くなってしまった前髪を指先でつまんだ。

     ◇

 全然起きないシアンをあきらめて、レヴィアは田町の会社へとおもむく。
 会社は高級マンションの中にあり、レヴィアは緊張しながら呼び鈴を押した。
「はーい!」
 若い女性の声がする。
「シ、シアン様のお使いでですね、料理をとりに来ました」
「あら? どうぞ」
 そう言ってガチャッとロックが開いた。
 恐る恐るドアを開けると、奥から品の良い女性が現れ、
「どうぞ、上がってください。ただ……」
 と、言いにくそうにしている。
 レヴィアはスリッパに履き替え、奥に進むと、ステーキの匂いが漂ってくる。
「あれ……?」
 怪訝そうな顔で広間に入ると、会議テーブルで会社の人たちがステーキを食べていた。
「へっ!?」
 見ると中にはシアンがいて、美味しそうにヒレステーキにかぶりついている。一体何が起こったのか分からず、レヴィアは呆然とその様子を眺めていた……。
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