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3-7. 動かせる内臓、肺

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 食後に緑茶をすすりながら、みんな無言で作りかけの街を眺めた。
 澄みとおる青空にポコポコと浮かぶ白い雲。そして燦燦さんさんと照り付けてくる太陽は壮観なタワマン群を宮崎の大地に浮かび上がらせる。朝には山だらけだった土地に林立する高層ビル群、それはとても現実離れした夢物語の様な風景だった。
「ここに十万人が住むんだね……」
 まだ実感がわかないレオがつぶやく。
「そうだよ、これがレオの描いた夢の形だよ」
 シアンが言う。
「なんだかちょっと……怖くなっちゃうね……」
「あれ? そんなこと言っていいの?」
 シアンは意地悪な顔で笑った。
「あっ、もちろんやるよ! 最後までやり抜くよ」
 レオは焦って言い、シアンはうなずきながら、愛おしそうにレオの頬をなでた。
「でも……、こんな建物、どうやって出したの?」
 不思議そうにレオは聞く。
「え? 世の中にはいろんな人がいてね、こういう建物のデータを緻密ちみつに設計する事に人生をかけちゃう人がいるんだよ」
「これはその人の作品……なんだね?」
「そうそう。その人が作って公開しているのを持ってきて具現化させたんだ」
「具現化……。シアンがそんなことをできるのは、宇宙のことわりを知ってるから?」
「そうだよ」
「この世界は0と1の数字でできてるって……言ってましたよね?」
 オディーヌは横から聞く。
「そうそう、君たちも全部0と1だよ」
 シアンはニヤッと笑いながら言った。
「それ……、全く実感わかないんですよね。もちろん、渋谷で見せてくれた宇宙の根源エッセンスが紡いでいるというのはなんとなくわかるんですが、自分も世界も数字だというのがピンと来なくて……」
「うんうん、じゃあ、こうしたらいいかな?」
 シアンは手を打ってパン! と大きな音を立てた。
 すると世界はすべてが色を失い、真っ白な世界に描かれた線だけの世界が展開した。テーブルも部屋もタワマンも海も大地も、全てのものが線だけで雑に描かれたワイヤーフレームになったのだ。それは工事現場の鉄骨だらけの風景の様な無味乾燥な世界に似てるかもしれない。ただ、シアンだけはいぜんとして綺麗な女の子のままだった。
「え!? これは一体……」
 オディーヌは自分の手を見たが、手も指も針金づくりのロボットのように線で描かれた姿になっていた。
「これがこの世界の本当の姿だよ」
「本当の……、姿?」
 オディーヌは指を動かしてみた。すると、線が動き曲がるし、触ると感覚もある。しかし、ただの線画だった。
「この世は0と1で記述された情報でできている。普段見えているのはただの虚像さ」
 そう言ってまたシアンはパン! と手を叩き世界は元に戻った。
「虚像の方がきれいだけどねっ。きゃははは!」
 うれしそうに笑うシアン。
「虚像……、偽物の世界ってこと?」
「偽物じゃないよ、でもうつろいやすい夢みたいな世界ってこと」
 そう言ってシアンは置いてあったスプーンを一つとると、エイッと言って、それを二つに増やして見せた。
「えっ!? 増えた!?」
 驚くオディーヌ。
「情報だからいくらだってコピーもできるし……、ほらっ」
 そう言いながらシアンは、スプーンをお玉サイズに大きくして見せた。
「うわぁ……」
 オディーヌは唖然あぜんとしてその巨大スプーンをながめた。
「属性を『金』にすれば……」
 すると、スプーンは金色になった。
「えぇっ!? まるで……魔法ですね……」
「情報でできた世界ってこういう世界なんだよ」
 にこやかにシアンはそう言った。
「それ、私にもできますか?」
「もちろんできるよ。ただ、そのためにはこの世界の本当の姿をしっかりと知らないとダメなんだ」
「それはどうやったら分かりますか?」
 するとシアンはオディーヌの胸をポンと軽く叩き、
「全てはここにあるよ」
 そう言ってニコッと笑った。
「胸……ですか?」
「胸じゃなくて心。オディーヌは頭で考えすぎ。心で世界をとらえてごらん。全て分かるから」
「こ、心……ですか……」
 悩むオディーヌ。
「まずは呼吸法だな」
「呼吸?」
「人間でね、唯一動かせる内臓、それが肺なんだ。だから肺を動かす呼吸は人間の根源にアクセスするスイッチになるんだよ」
 シアンは人差し指を立てて優しく説明する。
「えっ!? そんな事初めて知りました」
「ふふっ。頑張ってごらん」
 シアンはうれしそうに言った。
「ねぇ、僕もできる?」
 レオが聞く。
「もちろん! 特にレオは……すでにカギを持っているからね。比較的簡単だと思うよ」
「え? カギ? 何の?」
「まぁ、そのうちに気がつくんじゃないかな?」
 シアンはニヤッと笑い、お茶をすすった。
 レオはキツネにつままれたような顔をして考え込む。物心ついてからずっと奴隷だった自分が、なぜ王女も持ってないようなカギを持っているのか……。カギとは何か……いつか分かる時がやってくる。それは楽しみでもあり……、一抹の不安を呼び起こした。
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