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2-10. 宇宙の根源

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「シアン様は時空を超え、命の法則も超えられるのじゃ」
 レヴィアは達観したように説明する。
「なんでそんなことができるの?」
 レオがシアンに聞いた。
「この世のことわりを知ってるからだよ」
 シアンはホットドッグをほお張りながら答える。
「え? 知ってるだけ?」
「そう、知ってるだけ」
「知るってそんなにすごいことなの?」
「この世界は情報でできているからね。知るということは操れるということだよ」
「うーん、どういうことかなぁ……」
 首を傾げ悩むレオ。
「世界がどうやってできているか知っているから、そこに干渉できるってことですか?」
 オディーヌが聞く。
「君は良く分かってるねぇ」
 シアンはニコニコして答えた。
「え? どうやってできてるんですか?」
「じゃ、特別に見せてあげよう!」
 そう言うとシアンはシアンは両手のひらを上に向け、何かをつぶやく。
 すると光が周囲から集まってきて、手の上でクルクルッと渦を巻いて……消えた。
「ほら、これがこの宇宙の根源エッセンスだよ。全宇宙はここにあるんだ」
 シアンはニッコリと笑いながら言った。
 しかし……、そこには何も見えない。
「何も……、見えないんですが……」
 オディーヌは困惑しながら答える。
「しょうがないなぁ、じゃ、ビジュアライズしてあげるね!」
 そう言ってシアンが目をつぶると、光が渦巻いていた辺りから虹色に輝くリボンが高速で噴き出してきた。
「うわぁ!」「わっ!」
 驚くオディーヌとレオ。
 リボンはどんどんと噴き出され、テーブルも床もあっという間に輝くリボンで埋め尽くされていく。
 オディーヌは自分の周りにもワサワサとやってきたリボンをじっと観察する……。
「あれ? これ、数字……だわ」
 リボンはよく見ると1と0の文字が無数に組み合わさってできており、文字ごとに赤、青、緑で色付けされて輝いていた。虹色に見えたのはこれらの組み合わせだったのだ。
「そうだね、宇宙の根源エッセンスはこの無数の1と0の数字の集合体なんだ」
「え? 数字……?」
 レオは驚いてリボンをジッと見つめた。
「そう、この世にあるものは全てこれで構成されているんだ」
 シアンは両手を広げ、満足そうに言う。
「あれ? この数字、リズムがあるね……」
 レオがリボンのいろいろな所を見ながら言った。
 1と0の数字は時折変わるがそこには一定のリズムがあったのだ。
「おぉ、良く気づいたね。そう、宇宙の根源エッセンスはダイナミックに躍動しているんだよ」
 数字が変わるたびに色も変わるため、虹色のリボンはリズミカルにきらめきを放っている。
「まるで歌を歌っているみたいだ」
 レオはうれしそうに言った。
「そう! 僕たちの世界はうたでできているんだよ」
 シアンはそう言うと両手をパァッと高く掲げ、宇宙の根源エッセンスを宙に放った。
宇宙の根源エッセンスは窓をすり抜け、虹色に輝くリボンをどんどんと吹き出しながら渋谷の空高く飛んでいく。それは上質なイルミネーションとなって煌めきながら東京の夜空を彩った。
「すごい……。シアンはあの数字を理解しているから何でもできる……ってことなんですね?」
 オディーヌは宇宙の根源エッセンスの煌めきに目を奪われながら聞いた。
「そうだよ。この宇宙のすべてはあの歌う数字なんだ。数字を理解し、数字を操作する事でこの宇宙の事は自由にできるんだ」
「すごぉい……」
 オディーヌは絶句する。
 宇宙の根源エッセンスの煌めきは、やがて静かに消えていった。
「他にそんなことできる人はいるの?」
 レオが聞く。
「僕だけだね。でも、パパはあの数字のあり方を規定できる。だから、パパと戦えば勝てるけど、本質的にはパパの手のひらの上からは出られないんだ」
「何……言ってんだかわからないよ……」
 レオは困惑した。
「無理に理解せんでいいぞ。人間には到底理解できん世界じゃからな」
 レヴィアはそう言って静かに首を振った。
「そう言えば、さっき蒸発させちゃった星の人たちはどうなっちゃったんですか?」
 オディーヌが心配そうに聞く。
「あ、あの星? もう元に戻しておいたよ」
「え!? 蒸発させた星を戻せるんですか?」
「この世の理を知ってるからね」
 シアンはニコニコしながら言う。
 オディーヌとレオは顔を見あわせ、言葉を失ってしまった。
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