15 / 78
7-13.ヴィーナシアンの花嫁
しおりを挟む
そんなラブラブな俺達にあてられたのか、美奈ちゃんが言った。
「いいわねぇ、私も結婚したいな~!」
それを聞いたマーカスは、美奈ちゃんにそっと近寄ると、ヒョイっと持ち上げてお姫様抱っこをした。
「うわぁぁ!」
美奈ちゃんが驚いて声を上げる。
え? ちょっとマーカス何やってんの!?
金星人持ち上げちゃ、まずいんじゃないの!?
俺が青くなっていると、マーカスは笑顔で美奈ちゃんをじっと見ながら言った。
「Will you marry me?(僕と結婚してくれるかい?)」
いきなりのプロポーズである。
みんないきなりの出来事に唖然としている。
美奈ちゃんは最初は何が起こったのか、気が動転していたようだったが
「ちょっと! 降ろしなさいよ!」 そう言って、扇子をくるくるっと回す。
が……何も起こらない。
焦る美奈ちゃんを、微笑みながら真っすぐ見つめるマーカス。
美奈ちゃんは今度は扇子を少し開いて、パチンと音を立てて閉じた。
でも、何も起こらない。
「え? なんで???」
美奈ちゃんは、驚いてマーカスを見る。
執事も儀仗隊の皆さんも、一体何が起こったのかと驚いて、成り行きを見つめている。彼らの知る限り、理論上最強の美奈ちゃんのイマジナリーが、キャンセルされた事など、今まで一度もなかったのだ。
マーカスは依然として余裕の微笑みで、美奈ちゃんをじっと見つめる……。
そしてゆっくりと言った。
「I am a Mercury, the manager of Venus.(私は水星人、金星を管理する管理者だ。)」
はぁ!?
その場のみんなが凍り付く。
「Take a look!(見てごらん)」
そう言ってマーカスは透明な壁の方へ移動すると、いきなり激しい波しぶきが、チャペルの向こう側からぶつかってきた。
「うわぁ!」
驚く美奈ちゃん。
「Don't worry.(大丈夫) 」
そう言って、マーカスは優しく美奈ちゃんに微笑んだ。
チャペル全体が波に洗われ、徐々に水没していく。
一体何が起こっているのか、俺たちは唖然としながら推移を見守った。
波しぶきが去っていくと、チャペルはサンゴ礁の海の中にいた。
鮮やかな熱帯魚たちがチャペルの周りを包む。
全面透明なチャペルは、まるでダイビングをしている時のように、海中をぐるりと見渡せる。
上には青い海水越しに燦燦と輝く太陽があり、波で陽射しが揺らめいていて心地よい。
「もしかして……ここは水星なのかな?」
ひそひそ声で、由香ちゃんが俺に聞いてくる。
「そう……みたいだよね。僕たちの地球から見た水星は、灼熱で水のない星だけど、マーカスの水星は水の星なのかもしれないね」
チャペルは徐々に沖の方へ移動し、海中深く潜っていく。
すると、10mはあろうかという巨大なエイがやってきて、チャペルの上で一回転をし、チャペル内にどよめきが起きた。まるで俺たちを歓迎してるみたいだ。
続いて2mはあろうかという細長い魚、バラクーダの群れがやってきてチャペルを包んだ。1000匹以上いるのではないだろうか、チャペルは異様な雰囲気に包まれる。
「あはは、すごいわね!」
美奈ちゃんは喜んでいるようだ。
そんな美奈ちゃんを、優しく見つめるマーカス。
チャペルはさらに沖に行く。
すでに深度は100mはありそうだ、もはや暗闇である。
すると向こうの方から、ぼんやりと明かりが近づいてきた。
PING!
いきなり大きな音がチャペルに響く。
みんなに緊張感が走る。
「え? なんなのこれ?」
由香ちゃんが聞いてくる。
「これは……潜水艦の探信音……じゃないかな?」
「じゃぁ、あの明かりは潜水艦かしら?」
「うーん、そうかも知れないね……」
明かりは徐々に近づきながら、チャペルのそばをゆっくりと移動していく。
目を凝らしてよく見ると、なんとそれは、高層ビル群だった。
いきなり海中から現れたのはガラスで覆われた巨大な潜水都市だったのである。
そこには高層ビル群があり、宮殿があり、庭園があり、森があり、森の上には雲すらかかっていた。
俺たちは唖然とした。なぜ、海中に都市があるのか? それも潜水艦の様に動き回るとはどういうことなのか……。
マーカスは
「It’s 『Heracleion』、my home town!(ここが僕の故郷『ヘラクレイオン』さ)」
そう言って、得意げに美奈ちゃんに紹介した。
美奈ちゃんは大きく目を見開きながら言った、
「Incredible!(すごい!)」
金星人もビックリですよ。
チャペルがさらにヘラクレイオンに近づいていくと、全貌が見え始めた。
高層ビル群には明かりが灯り、多くの人が活動しているみたいだ。
宮殿は3階建ての豪奢な建物で、水色の壁面が印象的。ちょうど大きな白い鳥の群れが宮殿の上空を飛んでいるのが見える。
美しく、文化豊かで機能的に見える都市だ。ただ、なぜそれを潜水艦の中に作ったのだろうか?
水星人の考えることは、よくわからない。
マーカスが優しい笑顔で言う。
「Why don't we live together in this palace?(この宮殿で一緒に暮らそうよ)」
美奈ちゃんは、マーカスの目をじっと見つめる。
マーカスもじっと見つめ返す。
二人の世界が展開される。
神様の神様と、そのさらに神様の、神話に出てくるようなシーンだ。俺たちは静かに見守るしかない。
やがて美奈ちゃんは笑顔となり、マーカスの首に両手を回した。
そして、マーカスにキスをした。
熱く情熱的なキスだった。
やがて離れ、美奈ちゃんはマーカスの目をじっと見て言った、
「Of course, YES!(もちろん、いいわ!)」
「うおぉぉぉ!」「キャ──────!!」「congratulations!!!(おめでとう)」「congrats!!!(おめでとう)」
ジャーン♪ ジャージャ♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪
儀仗隊の皆さんによる祝いの演奏が高らかに始まった。
なんだよ、おめでたい事が連鎖してしまった。
すると、100人くらいの人魚が現れてチャペルを囲んだ。みんなこちらに手を振っている。
そしてシンクロナイズド・スイミングの様なダンスを始めた。
「わー! 素敵!」
由香ちゃんが思わず声を上げ、キラキラした瞳でダンスを楽しむ。
人魚たちのダンスは整然として、でも情熱的で、祝福の温かい想いが伝わってくるようだ。
見とれていた由香ちゃんが、いきなりポンと手を叩いて言った。
「分かった! これって竜宮城なのね!」
「竜宮城?」
「海中に宮殿があって、『タイやヒラメの舞い踊り』なんでしょ?」
「あー、言われたら同じニュアンスだね」
「って事は……」
「地球に帰ったら100年くらい経ってるって事……?」
「それは……困るわ……」
思わず青くなる由香ちゃん。
すると、横で聞いていたマーカスが笑って言った。
「ダイジョブ! スキナ ジダイニ オクッテ アゲル!」
好きな時代って……過去でも未来でもって事……? なんだよね?
さすが水星人、とんでもない技術力だ。
「えっ、そしたら織田信長の時代に……」
と、とんでもない事を言い出す由香ちゃん。いくら歴女でもそれはない。
「ダメ! ダメダメ! 戦国時代で新婚生活は無理!」
俺は必死に否定する。
マーカスも美奈ちゃんも、そんなやり取りを見て笑っている。
「えー、新婚旅行に安土城とか最高だと思ったのに……」
残念がる由香ちゃんだが、例え旅行でも現代人が戦国時代をフラフラしてたら、簡単に殺されちゃう。やっぱり現代がいいよ。
◇
それにしても、この仮想現実空間の入れ子の連鎖はどうなっているのか?
マーカスが金星の管理者って事は、金星で見聞きしたものは全て、水星の上にあるコンピューターが作ってる仮想現実の産物、という事になる。
金星の存在にすら驚かされたのに、まだ先があったのか……
世界は
水星
↓
金星
↓
海王星
↓
地球
と、入れ子構造になって創造され、管理されてきたという事らしい。
つまり150万年ほど前に作られた水星上のコンピューターで作られたのが金星。
そして100万年ほど前に金星上のコンピューターで作られたのが海王星。
さらに60万年ほど前に海王星上で作られたのが地球……
うーん、どうしてこうなった……。
地球から見たらマーカスは神様の神様の神様……すごく偉い。
そんな偉い超神様が、うちの地球でエンジニアやってるとは想像もしなかった。
「なぜ地球に来たの?」
俺はマーカスに聞いてみる。
「ミナチャン ニ アウ タメ」
そう言って笑う。
「Really? (本当?)」
美奈ちゃんは、マーカスの腕の中でそう言って、嬉しそうに笑い、マーカスに軽くキスをする。
「ソレト カセイジン ト ハナス チャンス ホシイネ」
火星人!? 水星が終わりではなく、さらに上があるらしい。
マーカスによると、こうやってお祭り騒ぎをすると、見てくれるらしいのだ。仮想現実空間は無限に作れる訳ではない、動かすエネルギーの総量は決まっているので、その割り振りを上位階層の人に認めてもらう事が、死活問題だそうだ。エネルギーを割り振るメリットがある、と思ってもらわないと、いつの間にか消されてしまうらしい。
なるほど、それは深刻だ。
それにしても火星人か……。どこでどうやって、見ているのだろうか……。
いや……、ちょっと待てよ――――
俺は、何かが心に引っかかった。
火星人は……Martianだったよな? Martian……。
マーティンはMartin……まさか……
俺はそーっとマーティンを見ると……こっち見てウィンクしてる!
え!? マジで!?
マーティンが指をパチンと鳴らすと、たくさんの光る花びらが宙から降り注ぎ、俺達を包んだ。
水星でイマジナリーを使えるのは、水星以上の階層の神様だけ。
という事はやはりマーティンは火星人の神様!?
冴えない、赤毛がボサボサのハッカーが、少なくとも1京人(10000000000000000人)規模の、膨大な人たちの頂点に立つ神様だったとは……。きっと彼の指先一つで、1京人をこの世から瞬時に消し去る事も可能だろう。
とんでもない、神様の神様の神様の神様がこんな身近にいたとは、全く想像もできなかった。
マーカス、君の友人が、君の探し求めてる火星人だったよ……。うちのチームに神様が4柱もいたよ……。
圧倒されてる俺の隣で、由香ちゃんが無邪気に喜ぶ。
「うわぁ、綺麗!」
真紅、クリーム、オレンジの薄い花びらの嵐が、光を纏いながら俺達を包み、チャペルの中は芳醇なダマスクローズの香りに満ちた。
儀仗隊の演奏も最高潮に達している。
マーカスはなぜ花びらが舞っているのか分からず、上を向いて困惑した表情を浮かべ、マーティンは、そっと唇のところに人差し指を立て、俺にウィンクした。『秘密だよ』って事だろう。マーカスが鈍いのか、マーティンが巧みなのか……。とは言え、地球の安全のためにも、火星人の言う事には従う以外ない。ゴメンねマーカス。いつか気づくといいな。
キラキラと光りながら舞う、無数の花びらを見上げ、最高の笑顔を見せる由香ちゃん。
多くの神様に祝福された僕らの結婚……なんて贅沢なんだろう!
俺はマーカスに負けじと、由香ちゃんを引き寄せてお姫様抱っこした。
由香ちゃんはちょっと驚いたけど、優しく微笑んでくれた。
俺たちは見つめ合い、そして、唇を合わせた。
にぎやかな未来が、きっと俺たちを待っている。
完
「いいわねぇ、私も結婚したいな~!」
それを聞いたマーカスは、美奈ちゃんにそっと近寄ると、ヒョイっと持ち上げてお姫様抱っこをした。
「うわぁぁ!」
美奈ちゃんが驚いて声を上げる。
え? ちょっとマーカス何やってんの!?
金星人持ち上げちゃ、まずいんじゃないの!?
俺が青くなっていると、マーカスは笑顔で美奈ちゃんをじっと見ながら言った。
「Will you marry me?(僕と結婚してくれるかい?)」
いきなりのプロポーズである。
みんないきなりの出来事に唖然としている。
美奈ちゃんは最初は何が起こったのか、気が動転していたようだったが
「ちょっと! 降ろしなさいよ!」 そう言って、扇子をくるくるっと回す。
が……何も起こらない。
焦る美奈ちゃんを、微笑みながら真っすぐ見つめるマーカス。
美奈ちゃんは今度は扇子を少し開いて、パチンと音を立てて閉じた。
でも、何も起こらない。
「え? なんで???」
美奈ちゃんは、驚いてマーカスを見る。
執事も儀仗隊の皆さんも、一体何が起こったのかと驚いて、成り行きを見つめている。彼らの知る限り、理論上最強の美奈ちゃんのイマジナリーが、キャンセルされた事など、今まで一度もなかったのだ。
マーカスは依然として余裕の微笑みで、美奈ちゃんをじっと見つめる……。
そしてゆっくりと言った。
「I am a Mercury, the manager of Venus.(私は水星人、金星を管理する管理者だ。)」
はぁ!?
その場のみんなが凍り付く。
「Take a look!(見てごらん)」
そう言ってマーカスは透明な壁の方へ移動すると、いきなり激しい波しぶきが、チャペルの向こう側からぶつかってきた。
「うわぁ!」
驚く美奈ちゃん。
「Don't worry.(大丈夫) 」
そう言って、マーカスは優しく美奈ちゃんに微笑んだ。
チャペル全体が波に洗われ、徐々に水没していく。
一体何が起こっているのか、俺たちは唖然としながら推移を見守った。
波しぶきが去っていくと、チャペルはサンゴ礁の海の中にいた。
鮮やかな熱帯魚たちがチャペルの周りを包む。
全面透明なチャペルは、まるでダイビングをしている時のように、海中をぐるりと見渡せる。
上には青い海水越しに燦燦と輝く太陽があり、波で陽射しが揺らめいていて心地よい。
「もしかして……ここは水星なのかな?」
ひそひそ声で、由香ちゃんが俺に聞いてくる。
「そう……みたいだよね。僕たちの地球から見た水星は、灼熱で水のない星だけど、マーカスの水星は水の星なのかもしれないね」
チャペルは徐々に沖の方へ移動し、海中深く潜っていく。
すると、10mはあろうかという巨大なエイがやってきて、チャペルの上で一回転をし、チャペル内にどよめきが起きた。まるで俺たちを歓迎してるみたいだ。
続いて2mはあろうかという細長い魚、バラクーダの群れがやってきてチャペルを包んだ。1000匹以上いるのではないだろうか、チャペルは異様な雰囲気に包まれる。
「あはは、すごいわね!」
美奈ちゃんは喜んでいるようだ。
そんな美奈ちゃんを、優しく見つめるマーカス。
チャペルはさらに沖に行く。
すでに深度は100mはありそうだ、もはや暗闇である。
すると向こうの方から、ぼんやりと明かりが近づいてきた。
PING!
いきなり大きな音がチャペルに響く。
みんなに緊張感が走る。
「え? なんなのこれ?」
由香ちゃんが聞いてくる。
「これは……潜水艦の探信音……じゃないかな?」
「じゃぁ、あの明かりは潜水艦かしら?」
「うーん、そうかも知れないね……」
明かりは徐々に近づきながら、チャペルのそばをゆっくりと移動していく。
目を凝らしてよく見ると、なんとそれは、高層ビル群だった。
いきなり海中から現れたのはガラスで覆われた巨大な潜水都市だったのである。
そこには高層ビル群があり、宮殿があり、庭園があり、森があり、森の上には雲すらかかっていた。
俺たちは唖然とした。なぜ、海中に都市があるのか? それも潜水艦の様に動き回るとはどういうことなのか……。
マーカスは
「It’s 『Heracleion』、my home town!(ここが僕の故郷『ヘラクレイオン』さ)」
そう言って、得意げに美奈ちゃんに紹介した。
美奈ちゃんは大きく目を見開きながら言った、
「Incredible!(すごい!)」
金星人もビックリですよ。
チャペルがさらにヘラクレイオンに近づいていくと、全貌が見え始めた。
高層ビル群には明かりが灯り、多くの人が活動しているみたいだ。
宮殿は3階建ての豪奢な建物で、水色の壁面が印象的。ちょうど大きな白い鳥の群れが宮殿の上空を飛んでいるのが見える。
美しく、文化豊かで機能的に見える都市だ。ただ、なぜそれを潜水艦の中に作ったのだろうか?
水星人の考えることは、よくわからない。
マーカスが優しい笑顔で言う。
「Why don't we live together in this palace?(この宮殿で一緒に暮らそうよ)」
美奈ちゃんは、マーカスの目をじっと見つめる。
マーカスもじっと見つめ返す。
二人の世界が展開される。
神様の神様と、そのさらに神様の、神話に出てくるようなシーンだ。俺たちは静かに見守るしかない。
やがて美奈ちゃんは笑顔となり、マーカスの首に両手を回した。
そして、マーカスにキスをした。
熱く情熱的なキスだった。
やがて離れ、美奈ちゃんはマーカスの目をじっと見て言った、
「Of course, YES!(もちろん、いいわ!)」
「うおぉぉぉ!」「キャ──────!!」「congratulations!!!(おめでとう)」「congrats!!!(おめでとう)」
ジャーン♪ ジャージャ♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪ ジャン♪
儀仗隊の皆さんによる祝いの演奏が高らかに始まった。
なんだよ、おめでたい事が連鎖してしまった。
すると、100人くらいの人魚が現れてチャペルを囲んだ。みんなこちらに手を振っている。
そしてシンクロナイズド・スイミングの様なダンスを始めた。
「わー! 素敵!」
由香ちゃんが思わず声を上げ、キラキラした瞳でダンスを楽しむ。
人魚たちのダンスは整然として、でも情熱的で、祝福の温かい想いが伝わってくるようだ。
見とれていた由香ちゃんが、いきなりポンと手を叩いて言った。
「分かった! これって竜宮城なのね!」
「竜宮城?」
「海中に宮殿があって、『タイやヒラメの舞い踊り』なんでしょ?」
「あー、言われたら同じニュアンスだね」
「って事は……」
「地球に帰ったら100年くらい経ってるって事……?」
「それは……困るわ……」
思わず青くなる由香ちゃん。
すると、横で聞いていたマーカスが笑って言った。
「ダイジョブ! スキナ ジダイニ オクッテ アゲル!」
好きな時代って……過去でも未来でもって事……? なんだよね?
さすが水星人、とんでもない技術力だ。
「えっ、そしたら織田信長の時代に……」
と、とんでもない事を言い出す由香ちゃん。いくら歴女でもそれはない。
「ダメ! ダメダメ! 戦国時代で新婚生活は無理!」
俺は必死に否定する。
マーカスも美奈ちゃんも、そんなやり取りを見て笑っている。
「えー、新婚旅行に安土城とか最高だと思ったのに……」
残念がる由香ちゃんだが、例え旅行でも現代人が戦国時代をフラフラしてたら、簡単に殺されちゃう。やっぱり現代がいいよ。
◇
それにしても、この仮想現実空間の入れ子の連鎖はどうなっているのか?
マーカスが金星の管理者って事は、金星で見聞きしたものは全て、水星の上にあるコンピューターが作ってる仮想現実の産物、という事になる。
金星の存在にすら驚かされたのに、まだ先があったのか……
世界は
水星
↓
金星
↓
海王星
↓
地球
と、入れ子構造になって創造され、管理されてきたという事らしい。
つまり150万年ほど前に作られた水星上のコンピューターで作られたのが金星。
そして100万年ほど前に金星上のコンピューターで作られたのが海王星。
さらに60万年ほど前に海王星上で作られたのが地球……
うーん、どうしてこうなった……。
地球から見たらマーカスは神様の神様の神様……すごく偉い。
そんな偉い超神様が、うちの地球でエンジニアやってるとは想像もしなかった。
「なぜ地球に来たの?」
俺はマーカスに聞いてみる。
「ミナチャン ニ アウ タメ」
そう言って笑う。
「Really? (本当?)」
美奈ちゃんは、マーカスの腕の中でそう言って、嬉しそうに笑い、マーカスに軽くキスをする。
「ソレト カセイジン ト ハナス チャンス ホシイネ」
火星人!? 水星が終わりではなく、さらに上があるらしい。
マーカスによると、こうやってお祭り騒ぎをすると、見てくれるらしいのだ。仮想現実空間は無限に作れる訳ではない、動かすエネルギーの総量は決まっているので、その割り振りを上位階層の人に認めてもらう事が、死活問題だそうだ。エネルギーを割り振るメリットがある、と思ってもらわないと、いつの間にか消されてしまうらしい。
なるほど、それは深刻だ。
それにしても火星人か……。どこでどうやって、見ているのだろうか……。
いや……、ちょっと待てよ――――
俺は、何かが心に引っかかった。
火星人は……Martianだったよな? Martian……。
マーティンはMartin……まさか……
俺はそーっとマーティンを見ると……こっち見てウィンクしてる!
え!? マジで!?
マーティンが指をパチンと鳴らすと、たくさんの光る花びらが宙から降り注ぎ、俺達を包んだ。
水星でイマジナリーを使えるのは、水星以上の階層の神様だけ。
という事はやはりマーティンは火星人の神様!?
冴えない、赤毛がボサボサのハッカーが、少なくとも1京人(10000000000000000人)規模の、膨大な人たちの頂点に立つ神様だったとは……。きっと彼の指先一つで、1京人をこの世から瞬時に消し去る事も可能だろう。
とんでもない、神様の神様の神様の神様がこんな身近にいたとは、全く想像もできなかった。
マーカス、君の友人が、君の探し求めてる火星人だったよ……。うちのチームに神様が4柱もいたよ……。
圧倒されてる俺の隣で、由香ちゃんが無邪気に喜ぶ。
「うわぁ、綺麗!」
真紅、クリーム、オレンジの薄い花びらの嵐が、光を纏いながら俺達を包み、チャペルの中は芳醇なダマスクローズの香りに満ちた。
儀仗隊の演奏も最高潮に達している。
マーカスはなぜ花びらが舞っているのか分からず、上を向いて困惑した表情を浮かべ、マーティンは、そっと唇のところに人差し指を立て、俺にウィンクした。『秘密だよ』って事だろう。マーカスが鈍いのか、マーティンが巧みなのか……。とは言え、地球の安全のためにも、火星人の言う事には従う以外ない。ゴメンねマーカス。いつか気づくといいな。
キラキラと光りながら舞う、無数の花びらを見上げ、最高の笑顔を見せる由香ちゃん。
多くの神様に祝福された僕らの結婚……なんて贅沢なんだろう!
俺はマーカスに負けじと、由香ちゃんを引き寄せてお姫様抱っこした。
由香ちゃんはちょっと驚いたけど、優しく微笑んでくれた。
俺たちは見つめ合い、そして、唇を合わせた。
にぎやかな未来が、きっと俺たちを待っている。
完
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
我ら新興文明保護艦隊
ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら?
もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら?
これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。
※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる