キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻

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73.伝承の空飛ぶ宮殿

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 美奈ちゃんはスクっと立ち上がると

「よし! 結婚式やるぞ―――――!!!」

 と高らかに宣言した。

 マーカスたちも、みんな立ち上がると

「congratulations!!!(おめでとう)」「congrats!!!(おめでとう)」
 と叫びながら口笛を鳴らした。


「ディナちゃんは残念でした~」
 そう言って美奈ちゃんはディナを帰した。
 消える直前、上目遣いに睨んでくるディナにちょっと申し訳なく思ったが、残念ながらディナの想いに応える事は出来ない。俺は由香ちゃんとの愛に生きるのだ。
 そのうちもっといい男は見つかるだろう。頑張れディナ。

「さぁ、行くわよ!」

 そう言うと、美奈ちゃんは扇子をくるりと回して何やら唱え始めた。
 俺は意識が飛んだ。


          ◇
 
 
 気が付くと俺は、金色の花が咲き乱れる広大な花畑の中に立っていた。

 あれ? ここはどこだ?

 周りを見回すと、みんな転送されてきたようだが……、美奈ちゃんと由香ちゃんがいない。

 うーん、二人だけで何かやってんのかな……。

 気持ちいいそよ風が頬をなで、遠くで小鳥のさえずりが響いている。
 金色の花はネモフィラの様に広大な丘全体に咲き乱れ、太陽の光をキラキラと反射して眩しいくらいだ。

 俺はゆっくりと深呼吸をした。

「あー、何だかピクニックに来たみたいだね」
 クリスに話しかけると、

「…。ここは金星ヴィーナスだな……。夢にまで見た女神の星だ……」
 と、クリスはすごく感激している。
 サラも笑顔で言う。
「ふふっ、素敵だわぁ……。良かったわね、クリス。ずいぶんかかっちゃったけど」
 そう言えば、クリスにとっては10万年間探し求めていた場所なのだった。

 ふと、マーカスを見ると寂しそうな顔をしている……
「What's wrong?(どうしたの?)」
「ムカシ ココハ マチ ダッタ……」
「え? 来た事あるの?」
 そう聞くと、マーカスは目を瞑り、大きく息を吐いて、
「Just nothing! Forget it!(何でもない)」
 そう言って向こうへ行ってしまった。

 確かに向こうに流れる川の流れ方などを見ると、人工的な面影があるように見えなくもない。しかし今は一面の花畑、住んでいた人がいたとしたらどこへ行ってしまったのか? 海王星人ネプチューニアンと同じくみんな寝てしまったのだろうか……

 そもそもマーカスはなぜそんな事を知っているのだろう? 地球人が金星に来るなんてこと無いはずなんだが……何だろうな……

 すると、どこからか高周波音が響いてきた。

 キィィィィ――――ン!

 んー? どこから聞こえてきてるんだ?
 キョロキョロと周りを見回していると急に暗くなった。

 と、次の瞬間

 ズ、ズーン!

 と、衝撃波に近い重低音が響き渡った。

 見上げると、俺は無数の煌めく宝石群に覆われていた。

 おわぁ!

 俺は驚いてしりもちをついて、口をあんぐりと開けながら上空を見る。そこには宝石だらけの巨大構造物が覆いかぶさるように浮かんでいた。大きさは……とにかくデカい! イオンモールで言ったら何十個も入りそうな超巨大サイズだった。

 巨大構造物は、

 ゴウン、ゴウン

 と、重低音を伴いながらゆっくりと前進し、次に回頭し、徐々にその全容を明らかにした。

 何と形容したらいいか分からないが、あえて言うなら超巨大豪華客船と言った風貌だ。街がすっぽり一つ入るサイズの豪華客船。
 下半分と後ろ側は純白の地に大小さまざまな無数の宝石が散りばめられており、まるで、真っ白の砂浜に多量の宝石をぶちまけたような風合いをしている。宝石はルビー、サファイヤ、エメラルド、ダイヤモンドなどで、大きなものだと手のひら大はあろうかといった感じだ。宝石たちはキラッ、キラッと閃光を放ちながら豊かな色のハーモニーを奏でている。
 そして、エッジのところには純金の装飾が施されており、輪郭を綺麗に締めている。また、船首から船尾にかけても優美な円弧の金のラインが何本もあしらわれている。いわば空飛ぶ巨大宝石箱である。上部前方は青いガラスで作られており、優美な円弧群が集まったデザインで構成され、言うならば巨大コンベンションセンターみたいな雰囲気がある。ガラスなので内部の様子が一部うかがい知れる。内部には巨大な球体の発光体があり、また、無数の展示物の様なものが配置されており、美術館の様な印象を受ける。イオンモールがいくつも入るサイズのガラス張りの美術館、なんだかとんでもないスケールだ。

「ヴィマナ……ね、すごい!」
 サラが喜んで言う。

「…。そうだ、ヴィマナだ……。伝承の空飛ぶ宮殿……本当にあったのか……」
 クリスが目を見開いて感激している。

「ヴィマナ?」
 俺が聞くと、

「60万年前、ある海王星人ネプチューニアンが一度だけ乗せてもらったと記録に残っているんだ。まさか現存しているとは……」
 クリスはすっかりヴィマナに心奪われているようだ。

 荘厳で神懸った空飛ぶ宮殿は、圧倒的な美しさで見る者を虜にする。俺もキラキラと煌めく宝石たちの光のシャワーにすっかり魅せられてしまった。

 ぐるっと回って戻ってきたヴィマナは減速し、俺たちの頭上でゆっくりと停船した。

 鳴り響いていた重低音も

 プシュー

 という音を最後に止まり、花畑の丘には静けさが戻ってきた。

 船底には幅40m位の建造物がくっついており、それが静かに降りてきた。

 ヴィマナの玄関に当たるのだろう、豪奢なデカい扉と階段と金色の簡単な門が付いている。
 玄関が切り離されたヴィマナは、すうっと霧のように消えて行った。

 玄関が地上につくと、巻かれたカーペットが自動的にクルクルと展開され通路ができた。
 そして脇のドアから儀仗隊とおぼしき屈強な男たちが40人ほど登場し、ザッザッザと行進しながらカーペットの脇に2列に整列した。それぞれ純白で金の縁取りの制服と高い帽子を被っている。続いて、最前列の二人は赤い細長い三角の豪奢な旗を高々と掲げ、向かい合わせになってクロスさせ、門を作った。

 パーッパラッパッパー!
 後方の兵隊が高らかにラッパを吹きならす。

「抜刀!」

 という掛け声とともに儀仗兵は向かい合わせとなって幅広の剣を抜き、高々と掲げた。剣は深紅の柄で、刀身には精巧な金の装飾が施されていて実に美しい。

「ヴィーナ陛下のおなーりー!」
 掛け声がかかると豪奢で重厚な巨大な扉が、ギギギーっと音を立てながらゆっくりと開いた。

 出てきたのは、先ほどよりは少しシックでタイトな黄金のドレスに身を包んだ美奈ちゃんと……ウェディングドレスに身を包んだ女性……由香ちゃんだ!

 美奈ちゃんはにこやかに俺たちに手を振りながら、軽やかに階段を降りてくる。由香ちゃんもゆっくりそれに続く。

 抜刀された剣の列の間を通り、旗をくぐって二人は俺たちの前に現れた。

 美奈ちゃんはゆっくりとみんなを見回し、ゆっくりうなずくと、俺を見て、

「どう? 私のお城は?」
 と、ドヤ顔で微笑む。

「いや、こんな凄い宮殿は見た事もないし、想像を絶する……圧倒されたよ!」

 俺が興奮気味に話すと、
「誠さんの城は海に落ちちゃったしね!」
 と言ってニヤッと笑った。

 そんな所まで見てたのかこの人は……。

「いや、ちょっと……その事は……」
 俺がしおしおとなっていると、

「そんな事より、何か言う事……あるんじゃないの?」
 そう言って美奈ちゃんは由香ちゃんを引き寄せる。
 
 純白のマーメイドタイプのウェディングドレスに包まれ、花の髪飾りをした由香ちゃんは化粧もばっちりで神懸った美しさを放っていた。

 うわぁ……

 その美貌に思わずくぎ付けとなってしまう俺。

 本当にこの娘と結婚……できるのか? 本当にいいのかな?

 由香ちゃんはちょっと恥じらいながら俺を少し上目遣いで見る。

 俺と由香ちゃんは見つめ合い、二人の世界に入っていく……
 徐々に心の奥底から温かい気持ちがあふれだし、心が温かいものでいっぱいに満ちていく……
 
 あぁそうだ。俺はこの娘と一生を共にするんだ……
 自然と確信が湧いてきた。

 俺は由香ちゃんの手を取り、ひざまずいた。

 そして、しっかりとブラウンの瞳を見つめ、ゆっくり、心を込めて言った。
「由香ちゃん……俺と一緒に……人生を歩んでいってください」
 
 由香ちゃんはブラウンの瞳をキュッと見開き、左手で顔を覆った。
 そして、涙が一粒、頬を伝って落ちる。
 
 彼女は小さな絞り出すような声で、
「はい……、よろしく……お願いします」
 そう言って涙をぬぐった。

 俺は立ち上がり、由香ちゃんを優しくハグした。

「ありがとう、一生大切にするよ……」

 マインド・カーネル上ですぐそばにいた由香ちゃん、愛の芽は最初からあったのだ。そして、シアンを試行錯誤しながら一緒に育てた日々、第三岩屋の冒険、今までの二人の時間が確実にその愛をはぐくんだ。今、ここに愛は結晶となり、煌めきを放った。
 
 パチパチパチパチ
 パチパチパチパチ

 いつの間にか儀仗隊の人たちも集まってきていて、みんなで盛大に拍手をしてくれた。

 花畑を渡るそよ風が優しく俺達を包み、高く飛ぶ小鳥のさえずりが心地よく響く。
 俺はこの数奇な運命に感謝をした――――

 
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