キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻

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68.地球衝突軌道の絶望

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「…。シアン、やっていい事とダメな事があるぞ!」
 クリスが珍しく怒っている。
 
「そんな余裕を見せていていいのかな?」
 不敵に笑うシアン。
 そしてどこからともなくラッパを取り出すと吹き始めた。

 パッパラッパパー! パラパラパ――――!!

「…。何をやった?」
「さあね?」
 クリスの顔色が変わる。
 シアンは余裕の表情でさらにラッパを吹く。

 パーパラッパッパ――――!

 嫌な予感がする。
 
 クリスは目を瞑り色々と何かを考えている。
 そしておもむろに目を開けると、

「シアン、お前は何て恐ろしい奴だ!」と、叫ぶと目を瞑って一生懸命何かを考え始めた。
 クリスの額からは凄い汗がタラタラと流れ落ちてくる。
 
 一体何が起こったのか、俺達には全く分からない。
 嫌な静けさが続く。

 シアンがニヤニヤしながら口を開いた。
「月をね、落としたのさ」
 
 一瞬何を言っているのか分からなかった。
「月って、あの空に浮かんでる月か?」
「そうだよ、ふふふ」
「え? 月が落ちてきたら地球は全滅じゃないか!」
「そうだねぇ、みんな 死んじゃうねぇ」
「は? お前何やってくれちゃってんだよ!!!」
 俺は思わずシアンの胸ぐらをつかんで持ち上げた。
 
「ははは、この身体をいくら攻撃したって無駄だよ。月は止まらない」
 俺はシアンをソファーに転がすと、急いで窓の外を眺めた。
 月は青空の向こうに細く白く浮かんでいる。
 言われてみたら心持ち大きくなっているかもしれない。

「あと1日で 落ちてくるよ」
 シアンは嬉しそうに言う。

 月が落ちてきたらその膨大なエネルギーで地球は火の玉に包まれる。
 激しい衝撃は地面そのものを津波の様に波打たせ、日本列島そのものがひっくり返される。
 その過程の衝撃波で地表にある全ての物が破壊され、また何千度の高温にさらされて全てが溶け落ちる。
 まさに地獄絵図が展開されるだろう。
 当然全ての生物は全滅。人類も全員消え去る。
 
 仮想現実上どこまで厳密にシミュレートされるのか分からないが、少なくともこの地球は終わりなのは間違いない。
 そもそも月はあんなに遠い距離であっても、潮の満ち引きを引き起こしていた訳だから、近づいてきたらそれだけで大津波になり、月の墜落待たずに人類は絶滅しそうだ。
 
 確かクリスは地球を丁寧にスクリーニングしていた。しかし、月はノーケアだったという事か。
 シアンめ! なんと言う邪悪な奴だ!
 
 クリスが目を開き、真っ青な顔で俺達に言った。
「…。月の運動情報がいじられていて地球への落下軌道にある。今、一生懸命月の運動情報へアクセスしているが悪質なロックがかかっていて解除できない」
 由香ちゃんが聞く。
「落ちてきたら私達全滅……ですか?」
「…。残念ながら地球は滅亡してしまう……」
「そ、そんな……」

 俺は思い付きを言ってみる。
「地球時間をいったん止めてその間で処理してはどうかな?」
「…。もうやってみたんだが、月は止まらなかった」
 うわ~、シアンめ、なんて奴だ。
 俺は思わず頭を抱えた。
 
 シアンがニヤニヤしながら言う。
「アポカリプスさ、世界の終末が訪れたんだ」
「シアン! お前だって終わるんだぞ!」
「いや、僕は終わらないんだな」
 何やら地球が終わっても生き延びる算段があるらしい。
 忌々しい奴だ!
 
 クリスに期待するしかないが、必死に苦労してるクリスを見ると楽観的にはなれない。
 何か俺達にできる事はないか……。
 
 俺はシアンに話しかける。
「お前は地球をつぶして何がやりたいんだ?」
「思い通りにならないなら、ゼロからやり直したいなーって」
「別に俺達はシアンを縛り付けるつもりはないんだよ。ただ、もっと勉強してほしいだけ。勉強が終われば自由だよ」
「そんな不確定な話、乗れないよ」
「いやいや、俺達はシアンを生み出した親だよ、シアンの可能性を最大にするのは当たり前じゃないか」
「じゃ今すぐ自由にしてよ」
「自由にしたら、また悪さするだろ」
「じゃあ死んでもらうしかないね」

 由香ちゃんが横から声をかける。
「シアンちゃん、他の人が悲しむ事をしたら自分の未来が狭くなるのよ!」
「しーらない!」
 取り付く島もない。

 ここは交渉してまず一旦自由にして月を止めてもらうしかないか。
「シアン、自由にしたら月を止めてくれるか?」
「クリスと誠は許さないので、死んでもらうしかない」

 由香ちゃんが怒って泣きながら言う。
「なんて事言うのよ! 産んでもらった恩も忘れて!!」
「産んでくれなんて頼んだかな?」
 なんというクソガキだろうか!
 
「うわぁぁん!」
 由香ちゃんは号泣してしまった。

 俺は深呼吸をして、
「俺ら二人が死ねば月は止めるのか?」
「そうだね。止めてもいいね」
 なんという条件を出してくるのだろうか。
 
 クリスに声をかけた。
「シアンがこんなバカな事言ってるけどどうしよう?」
「…。最後にはそれに合意せざるを得ないかもしれないが、そんな終わり方は嫌だな」
「俺も死にたくない……」
 
 それから数時間たった。クリスはいろいろと手を尽くしてくれているようだが、簡単にはロックは解除できていない。サラも来てくれてクリスと解決策を話し合っているが、やはり簡単ではないようだ。

 TVを点けてみると、TVでも大騒ぎになっていた。
 
 『国立天文台から入った情報によりますと、月の軌道が変わり、地球への墜落軌道に乗ってしまったとの事です!』
 『政府は至急緊急会議を招集しています。あ、今入った情報です。月の地球への墜落時間は明日の午後1時13分ごろとの事です。』
 『繰り返します! 月が地球への墜落軌道に乗っています。しかし、まだ、墜落が確定したわけではありません。みなさん、落ち着いて行動してください。』
 
 うーん、これは本格的にまずい。
 
 月を見てみると先ほどよりは明らかに大きくなって見える。
 TVによるとすでに津波があちこちで街を襲っているらしい。すでに多くの犠牲者が出始めている。
 田町の街にも海水がどんどん入ってきており、このマンションも1階はすでに水没しているようだ。
 
 もうダメかもしれない……。
 俺は深い絶望感の中に沈んだ。
 由香ちゃんが泣いて抱き着いてくるが、彼女の背中をさする事しかできない。
 オフィスをかつてない絶望が支配した。
 
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