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相対化する人類
57.煌めきあう存在、人間
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っと、そんなことで悩んでる場合じゃない! クリスに会わなきゃ!
ばぁちゃんは『思い出せ』って言ってた。ここは俺も知ってるところのはずなんだよな……。
今度は座禅のポーズをしっかりとり、再度深層心理にアプローチする。
雑念を流し、雑念を流し……
ゆっくりと深く深く潜っていく……
ポタン、ポタン
どこか遠くで微かに水滴が落ちている音がする……
さらに深く、深く、潜っていく……
大いなる意識が徐々に感じられるようになってきた。
俺は魂のさざめきに包まれていく……
前回はここまでだったが、もっと強く感じてみたかった俺は思い切って大いなる意識の奥へと進んでみた。
大きく息を吸い、ゆーっくりと息を吐いていく……
深く……深ーく……
俺はさらに潜っていく。
すると軽い衝撃を感じ、俺は大いなる意識の奥へと吸い込まれていった。
キラキラとスパークするイメージがどんどんと流れ込んでくる。
そして流れ込んでくる情報量が加速的に増加していく。
ヤバいと本能的に感じて戻ろうと思ったが、もはや手おくれであった。
俺の意識は情報の奔流に流されて、どんどんと奥へと追いやられた。
意識がどんどん分解されていく……
うわゎゎゎ!
俺の意識の断片は次々と大いなる意識に溶けていき、もはや俺は俺ではなくなった。
俺の意識は全人類の意識つまり地球の意識と同一となった。
数百億の魂のスープ、俺はそれと同一となったのだ。
お、おぉぉぉ……
全身を貫く数千年にわたる人類の歴史、数百億もの人々の想い、それらを俺は一身に浴びた。
無限とも言える情報の濁流が俺の全身を貫く……
ぐぉぉぉ!
ドサッ
俺の体は洞窟の中で倒れて転がった。
あまりに負荷が大きすぎてバランスを崩し、はじき出されてしまったのだ。
俺はショックで考えることも動くこともできなくなっていた。
心と身体がバラバラだった。
おぉぉぉぉ……
痙攣しながら漏れるうめき声が洞窟に微かに響く。
まるで泥酔して転がった時の様に、何もできないし何も考えられない。
うぅぅぅぅ……
カビ臭い湿った洞窟の床は冷たく硬い。
どれくらい時間がたっただろうか、混乱する意識の中で、誰かが俺を抱き起こしてくれたのを感じた。
「世話が焼けるわねぇ」
そんな声が聞こえたような気がした。
しばらくして、すぅーっと意識が整ってきて、目が覚めた。
はぁ……はぁ……
心臓がバクバクしている。
もっと慎重に行くべきだった……危なかった……
誰かに助けられたはずなんだが、周りに人の気配はない。幻覚……なのかなぁ……
飲み過ぎた時のように目の前がグルグルする。
でも、無理したおかげでここの構造は全部分かってしまった。
分かる…… 分かるぞぉ…… そうだよ、そう。
目の前に広がるのは真っ暗な洞窟、でも俺に迷いはもうなかった。
俺は全身に鳥肌が立った。
目を瞑り、大きく深呼吸をし、
フンッ! と全身に気合を入れた。
こっちだ!
俺はまだ半分眩暈を残したまま、緩やかな上り坂を上り始めた。真っ暗闇の洞窟をヘッドライトで照らしながら、ゆっくりとそれでも確実に一歩一歩上っていく。
しばらく上っていくと分かれ道があるが、それは左である。
そして次は右下、その次は左上。俺は分岐を迷う事なく前進した。
だんだん、気分が高揚してきた。この先にアレがある。
俺はどんどん足が速くなる。
そして、洞窟の先に明かりを見つけた。
あそこだ、近いぞ!
周りの空気も甘い爽やかな香りに満ちてきて、アレが近い事を感じさせる。
気づくと俺は全力で駆けていた。
最後の角を曲がると……そこには巨大な空洞が広がっていた。
直径50mはあろうかという巨大な地下空間の上部に出たのだ。
あった!
はぁはぁと息を切らしながら空洞を見下ろすと、眩い光の洪水が渦巻いていた。
「うわっ!」
俺は眩しくて目が眩んだ。ずっと暗闇にいたから光は厳しい。
改めて薄目で少しずつ覗いていく――――
徐々に目が慣れてくると、そこには幽玄な光を放つ神々しい巨大な花が浮かび上がってきた。
「おぉぉぉ……」
俺はその圧倒的な存在感に激しく鳥肌が立った。
それは空洞の床を埋め尽くす、巨大なトケイソウの花のような構造物だった。
花の中心は数十本の柱が絡み合いながら上部に伸び、その中には眩しく光を放つ珠が一つある。
花は光を纏い、鼓動に合わせてそれぞれゆっくりと蠢き、蠢くたびに珠からの光が揺れ、辺りを幻惑的な雰囲気にしている。
また、無数の金色の光の粒子が花吹雪の様に空洞を舞い、神聖な力を周りに放っていた。
花のあちこちからは歓声のような声がこぼれ、空洞全体にこだましている。
「そう……これ……これだったよ……ばぁちゃん……」
俺の頬を涙が伝った――――
心の奥底がこの花と共鳴し、温かい懐かしさと聖なるものへの畏怖でいっぱいとなり、とめどなく涙があふれてきた。
これこそが全ての生き物の魂が集う所、マインド・カーネル。今、俺は100億を超える全人類の魂に対峙しているのだ。
俺は涙で滲む視界越しの煌めきに、いつまでも魅せられていた。
蛍のように舞う光の粒子が、じゃれつくように俺の周りにも集まってくる。懐かしい、温かい明かりだ。
そう、俺の魂もここで生まれ、ずっとここで息づいていたのだ。
もちろん、俺の母親も父親も親戚も友達もみんなここにいる。
さらに言うならすでに死んでしまったばぁちゃんも、猫のミィもみんなここにいる。
そう、みんなここにいるんだ!
花びら全体にチラチラと輝く、細かな光の粒子一つ一つが人々の想いの煌めきであり、命の輝きなのだ。
それは愛であり、喜びでありまた、憎しみであり、悲しみなのだろう。
それぞれの複雑な輝きがハーモニーとして花全体を彩り、人類の意味や価値を形作っている。
身体なんて仮想現実のハリボテで構わなかったのだ、この煌めきさえあれば後はなんだっていい。
人間は『煌めきあう存在』……
俺は初めて人間とは何かを理解できた。
ばぁちゃんは『思い出せ』って言ってた。ここは俺も知ってるところのはずなんだよな……。
今度は座禅のポーズをしっかりとり、再度深層心理にアプローチする。
雑念を流し、雑念を流し……
ゆっくりと深く深く潜っていく……
ポタン、ポタン
どこか遠くで微かに水滴が落ちている音がする……
さらに深く、深く、潜っていく……
大いなる意識が徐々に感じられるようになってきた。
俺は魂のさざめきに包まれていく……
前回はここまでだったが、もっと強く感じてみたかった俺は思い切って大いなる意識の奥へと進んでみた。
大きく息を吸い、ゆーっくりと息を吐いていく……
深く……深ーく……
俺はさらに潜っていく。
すると軽い衝撃を感じ、俺は大いなる意識の奥へと吸い込まれていった。
キラキラとスパークするイメージがどんどんと流れ込んでくる。
そして流れ込んでくる情報量が加速的に増加していく。
ヤバいと本能的に感じて戻ろうと思ったが、もはや手おくれであった。
俺の意識は情報の奔流に流されて、どんどんと奥へと追いやられた。
意識がどんどん分解されていく……
うわゎゎゎ!
俺の意識の断片は次々と大いなる意識に溶けていき、もはや俺は俺ではなくなった。
俺の意識は全人類の意識つまり地球の意識と同一となった。
数百億の魂のスープ、俺はそれと同一となったのだ。
お、おぉぉぉ……
全身を貫く数千年にわたる人類の歴史、数百億もの人々の想い、それらを俺は一身に浴びた。
無限とも言える情報の濁流が俺の全身を貫く……
ぐぉぉぉ!
ドサッ
俺の体は洞窟の中で倒れて転がった。
あまりに負荷が大きすぎてバランスを崩し、はじき出されてしまったのだ。
俺はショックで考えることも動くこともできなくなっていた。
心と身体がバラバラだった。
おぉぉぉぉ……
痙攣しながら漏れるうめき声が洞窟に微かに響く。
まるで泥酔して転がった時の様に、何もできないし何も考えられない。
うぅぅぅぅ……
カビ臭い湿った洞窟の床は冷たく硬い。
どれくらい時間がたっただろうか、混乱する意識の中で、誰かが俺を抱き起こしてくれたのを感じた。
「世話が焼けるわねぇ」
そんな声が聞こえたような気がした。
しばらくして、すぅーっと意識が整ってきて、目が覚めた。
はぁ……はぁ……
心臓がバクバクしている。
もっと慎重に行くべきだった……危なかった……
誰かに助けられたはずなんだが、周りに人の気配はない。幻覚……なのかなぁ……
飲み過ぎた時のように目の前がグルグルする。
でも、無理したおかげでここの構造は全部分かってしまった。
分かる…… 分かるぞぉ…… そうだよ、そう。
目の前に広がるのは真っ暗な洞窟、でも俺に迷いはもうなかった。
俺は全身に鳥肌が立った。
目を瞑り、大きく深呼吸をし、
フンッ! と全身に気合を入れた。
こっちだ!
俺はまだ半分眩暈を残したまま、緩やかな上り坂を上り始めた。真っ暗闇の洞窟をヘッドライトで照らしながら、ゆっくりとそれでも確実に一歩一歩上っていく。
しばらく上っていくと分かれ道があるが、それは左である。
そして次は右下、その次は左上。俺は分岐を迷う事なく前進した。
だんだん、気分が高揚してきた。この先にアレがある。
俺はどんどん足が速くなる。
そして、洞窟の先に明かりを見つけた。
あそこだ、近いぞ!
周りの空気も甘い爽やかな香りに満ちてきて、アレが近い事を感じさせる。
気づくと俺は全力で駆けていた。
最後の角を曲がると……そこには巨大な空洞が広がっていた。
直径50mはあろうかという巨大な地下空間の上部に出たのだ。
あった!
はぁはぁと息を切らしながら空洞を見下ろすと、眩い光の洪水が渦巻いていた。
「うわっ!」
俺は眩しくて目が眩んだ。ずっと暗闇にいたから光は厳しい。
改めて薄目で少しずつ覗いていく――――
徐々に目が慣れてくると、そこには幽玄な光を放つ神々しい巨大な花が浮かび上がってきた。
「おぉぉぉ……」
俺はその圧倒的な存在感に激しく鳥肌が立った。
それは空洞の床を埋め尽くす、巨大なトケイソウの花のような構造物だった。
花の中心は数十本の柱が絡み合いながら上部に伸び、その中には眩しく光を放つ珠が一つある。
花は光を纏い、鼓動に合わせてそれぞれゆっくりと蠢き、蠢くたびに珠からの光が揺れ、辺りを幻惑的な雰囲気にしている。
また、無数の金色の光の粒子が花吹雪の様に空洞を舞い、神聖な力を周りに放っていた。
花のあちこちからは歓声のような声がこぼれ、空洞全体にこだましている。
「そう……これ……これだったよ……ばぁちゃん……」
俺の頬を涙が伝った――――
心の奥底がこの花と共鳴し、温かい懐かしさと聖なるものへの畏怖でいっぱいとなり、とめどなく涙があふれてきた。
これこそが全ての生き物の魂が集う所、マインド・カーネル。今、俺は100億を超える全人類の魂に対峙しているのだ。
俺は涙で滲む視界越しの煌めきに、いつまでも魅せられていた。
蛍のように舞う光の粒子が、じゃれつくように俺の周りにも集まってくる。懐かしい、温かい明かりだ。
そう、俺の魂もここで生まれ、ずっとここで息づいていたのだ。
もちろん、俺の母親も父親も親戚も友達もみんなここにいる。
さらに言うならすでに死んでしまったばぁちゃんも、猫のミィもみんなここにいる。
そう、みんなここにいるんだ!
花びら全体にチラチラと輝く、細かな光の粒子一つ一つが人々の想いの煌めきであり、命の輝きなのだ。
それは愛であり、喜びでありまた、憎しみであり、悲しみなのだろう。
それぞれの複雑な輝きがハーモニーとして花全体を彩り、人類の意味や価値を形作っている。
身体なんて仮想現実のハリボテで構わなかったのだ、この煌めきさえあれば後はなんだっていい。
人間は『煌めきあう存在』……
俺は初めて人間とは何かを理解できた。
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