キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻

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人類を継ぐ者

47.「愛してる」と言わせる魔法

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 とは言え、浮気っぽい情報がとれたのは攻めるチャンスではある。

「あれ? 奥さんがいるのに恵美さんと仲良し……どういう事なんですかね?」

 俺はニヤッと笑って追い込む。

「な、仲良しって、仲がいいのは別に何の問題もないじゃないか!」
「きのう ふたりで ホテル……」
「し、し、失礼だな! 誰が何しようが勝手じゃないか!」

 佐川は真っ赤である。

「もちろん浮気する自由は誰にだってありますよ。でも付きまとわれない自由は我々にもある。諦めるか……奥様とお話しさせていただくか……どちらを選びますか?」

「脅すのか?」
「とんでもない、平穏な教団での暮らしに土足で上がってきているのはあなたの方ですからね、自衛措置ですよ」

「くっ!……しかし……惜しいな、世界一の才能を見つけたのに……」

 ここまで追い込んだのにまだ諦めきれないらしい……しぶといな……。
 
 シアンは違法な人体実験で作られたAI、バレたら逮捕されて一大スキャンダルになってしまう。絶対に隠し通さないとならない。
 そのためには、佐川にはすっぱり諦めてもらう以外ない。未練を持たれてこっそり調査されてしまうようなリスクも潰しておきたい。

「分かりました、最後にチャンスをあげましょう」
「え!?」
「神の子とジャンケンしてください。10回やって1回でも勝てたら出演しましょう。もし、1回も勝てなかったら二度と我々には近づかないこと、近づいたらあなたにもマンションの10階へ行ってもらいます」

「え? 1回勝つだけでいいの?」
 佐川は大喜びである。
 
 由香ちゃんは
「そんな条件でいいの!?」 と、驚いているので

「僕たちの子供を信じなさい」

 そう言ってにっこりと笑った。
 
「シアン、ジャンケンで勝ってくれ」
 俺がそう言うとシアンは

「きゃははは!」 と、嬉しそうに笑った。
 
「じゃあ行きます。1回戦目、最初はグー! ジャンケンポン!」
 赤ちゃんの小さな手がチョキを出し、パーの佐川に勝った。

「まーだまだ! あと9回ある!」
 佐川は余裕の表情だ。

「2回戦目、最初はグー! ジャンケンポン!」
 またシアンの勝ち。
 その次もシアンの勝ち……

 この辺りで佐川は気が付く。

「なんだよ……あいこにもならない……。どういう事だよ……」
 最初の勢いはどこへやら……なんだか可哀想である。
 
「神の子は偉大です。人間に勝てる訳がない」
 俺はちょっと自慢気に言い放つ

 実はシアンは単純に後出しをしているだけなのだ。佐川の出す手を見てからグーチョキパーを選んで出しているのだが、その後出しが0.1秒の早業なので佐川には分らない。
 
 やけくそになる佐川が全敗するのに1分もかからなかった。
 ストレートの10連敗である。
 
 俺はにこやかに言った。
「はい、では約束通り二度と我々には近づかないでくださいね」

 これで解決だろうと、思ったのだが……。
 
 佐川はしばらくうつむいていたが、俺の目を見てこう言った、

「神の力は素晴らしい! 俺もぜひあなたの教団に入れてください!!!」

 なんだよそれ……斜め上の回答に驚かされた。
 また厄介な話になってしまった……。
 
「動画なんてもうどうでもいい、神のおそばに私も置かせてください」

 俺はウンザリしながら言葉を選んだ。
 
「神の力をご理解いただいて何よりです。ただ、我々の宗教は一般人を信徒に迎えません。高潔なる心の持ち主しか神は信徒として認めないのです」

「俺じゃダメ……なのか?」
 哀しそうな目で俺を見る。そんな目で見ないで……
 
「浮気をしているような方では無理です」
「浮気はダメって、そもそもウチの奴がヤらせてくれないからこんな関係になったんだ。俺のせいじゃない!」

 どうもセックスレスらしい……なぜ俺は赤裸々な夫婦事情をカミングアウトされているのか……。
 
「えーと……浮気は奥さんが原因だという事ですか?」
「旦那をほったらかしにするあいつのせいだ」
 佐川は強気にそう言い放つが……浮気しといてそれはないだろ、お前……。
 
 俺はこの難局を振り切るべく必死に考えた。浮気を奥さんのせいにするクズをどう説得するのか……いや、これ相当無理ゲーじゃない?

 マジで逃げたい……。

 でも、今逃げたら追いかけてくるだろうな……。

 俺は必死に頭を絞った……

 そもそも夫婦間の不和の原因はお互いの尊重の不足にあると聞いた事がある……で、あれば……

「奥様に『ありがとう』とか『愛してる』とかちゃんと伝えてますか?」
「え!? そ、そんな事言わねーよ」

 まぁ、そんな所だろう。でも『ありがとう』くらいは日ごろから言わなきゃダメなんじゃないの?
 
「では、川上恵美さんにはどうですか?」
「え!? そ、それは……」

 黙ってしまった。言ってるらしい。
 釣った魚には餌をやらないタイプだな。気持ちはわからんではないがそれじゃ夫婦関係は壊れちゃうよなぁ。
 
「せ、先生の所はどうなんだよ? ちゃんと毎日言ってるのか?」

 佐川は俺と由香ちゃんを交互に見る。
 
 え!? 俺と由香ちゃんを夫婦だと思ってるようだが……今さら説明するのもタルいな……本当に面倒くさい奴だ……。

 すると、由香ちゃんがにっこりして言った。
「もちろん言ってくれてますよ」

 オッケーそれで行こう、由香ちゃん! 俺もにっこり。
 
「ただ、今日はまだ……聞いてない……かなぁ……」
 由香ちゃんはそう言って、首をかしげて意地悪な笑顔で俺を見る。

 何というトラップ!

 こ、このやろ~!!! 美奈ちゃんに影響受けてないか? と、思いつつもここは冷静に切り抜けねばならない。

「そ、そうだっけ?……いつも、ありがとう……あ、愛してる、よ?」
 棒読みにならない様に気をつけつつ、でもちょっと理不尽な恥ずかしさで声が変になってしまった。

「私もよ!」

 由香ちゃんはにっこり笑った。
 またいい笑顔だなぁ、由香ちゃんいい娘だなぁ……。
 俺も思わずにっこりしてしまう。
 
 それを見ていた佐川は、何か感じる所があったようで、
「分かりやした先生! あっしが間違ってやした! ウチの奴ともう一度向き合ってみやす!」 そう言って晴れやかな笑顔で笑った。

 どこの方言だろう?

 俺は何とか出口が見えてきて安堵した。

「それがいいでしょう。神のご加護がありますように」
 そう言って十字を切って手を合わせた。
 
 俺達はそそくさと荷物をまとめてその場を去った。
 佐川はいつまでも俺達の姿を見送って、何度も頭を下げていた。
 
 彼は奥さんと仲直りできるだろうか……帰りのタクシーの中で俺は佐川の行く末を色々と考えてみたが……多分無理だろう。
 人はそう簡単には変われないし、もう何年もかけて硬直してしまった関係が改善する可能性はそもそも低い。
 人は心の生き物、ビジネスな人間関係は金で維持されるが、人生の人間関係は心を共鳴させる事で維持される。共鳴が止まったら心は閉じ、関係も切れてしまう。
 そして一度閉じてしまった心はそう簡単には開かない。
 俺としては佐川にも幸せになって欲しいとは願っているが……今までの業が深すぎる。
 
 とは言え、未婚の俺にはまだ結婚生活の大変さが分からない。散々偉そうなことを言ってしまったが、自分の結婚生活が破綻しない自信など全くない。

 ちらっと横を見ると、由香ちゃんがシアンを愛おしそうに撫でている。
 こういう家庭を作れたら上手くいく……のだろうか?

 俺の視線に気づいた由香ちゃんがにっこり笑う。
 俺もまたにっこり笑って返した。
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