キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻

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人類を継ぐ者

37.心肺停止に女の勘

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 シアンは誕生後しばらく様子を見て、呼吸や胃腸が安定したらAIとの接続手術を実行する予定だった。

 しかし、誕生した日の深夜、付き添っていたクリスから電話があった。

 どうやらシアンは心臓が止まりかけているらしい。無脳症の症状が出てきてしまったようだ。
 急いでシアンの部屋へ行くとシアンはぐったりとしていて、測定機器はピーピーと危険を告げる警告音をたてていた。

「あー、これはヤバいね。何が原因だろう?」

 俺は必死に動揺を抑えて冷静に言った。

「…。見たところ内臓周りには異常は見られない。やはり脳周りの問題だろう」
「では、手術をして原因を特定するしかないか」

 こんな事なら胎盤に繋がっているうちに手術した方が良かったが、もはやそんな事言ってる場合ではない。
 もう へその緒は切られたのだ。

 緊急手術に突入である。

 急いで簡易無菌室を展開し、マニュピレーターを起動し、メスなどの機材一式を消毒して揃えた。
 誕生したその日に手術台に乗せなきゃいけないとは……、想定はしてはいたが心臓に悪い。

「シアン、ごめんな、頑張れよ」

 そう言ってシアンに小さな酸素マスクを着けて、クリスに頼んで点滴を設定し、無菌室に用意した小さなベッドに横たえた。
 
 まずは手術の方針についてブリーフィング、切開カ所の決定と調査部位の確認を行った。
 俺はペンでシアンの顔の裏の切開位置に丁寧に線を描き、メスを入れやすくした。

 クリスは手術服を身にまとい、ゴム手袋の手を前に掲げながら無菌室に入っていく。
 
 連絡を受けたメンバーも次々に部屋に集まってくる。
 由香ちゃんは入ってくるなり、部屋の物々しい様子に驚いて両手で口を覆い、涙目で固まっている。

 俺は優しくハグをして小さな声で、

「大丈夫、クリスがちゃんと解決してくれるから」
 と、元気づけた。
 
 無脳症とは言え、脳が全く無い訳ではない。だから羊水内では内臓の管理などは出来ていた訳だが、誕生して負荷が大きくなったことで耐えられなくなったのかもしれない。

 内臓の管理もAI側でやらなければならないとなると、事実上難しい。例えば血糖値が上がったら膵臓からインスリンを分泌させるとか、そういう制御を無数にやらないとならない。それにはデータもノウハウも全く足りていないので不可能だ。何とか生命維持部分が復活してくれると良いんだが……。
 
 クリスはまず、麻酔薬を注射した。麻酔薬は多くても少なくてもダメだ、新生児など良を少し間違えただけで死んでしまう。
 
 クリスは目を瞑って何かを感じながら慎重に麻酔薬を注入していく。

 続いて癒しの技をかけながら、ペンでマークした位置にメスを入れた。表皮を切開し、クリップで固定する。
 そしてマニュピレーターに着いた顕微鏡カメラで観察しながら奥に進み、状況を丁寧に見ていく。
 俺達も外部に繋げたモニターを使ってクリスの手術をリアルタイムで見ていく。

 クリスは器用にマニュピレーターを操って切開していく。神経線維を傷つけないように少しずつ、組織を繋いでる膜を丁寧にマイクロ鋏でチョンチョンと切り開くのだ。

 膜を切ると神経線維に沿って少し奥に進み、また膜を切るを繰り返して異常の原因を探っていく。

 美奈ちゃんは椅子に座って静かにクリスの技を見ている。
 いつになく神妙だ。

「どうしたの?」
 俺が聞くと

「昼間バカな事で騒いじゃったからね、ちょっと反省してるの」
 と、珍しく素直である。

「俺も反省してる。今は手術の成功を祈ろう」
「そうね」

 部屋は静けさが支配し、クリスのマニュピレーターだけが動いていた。

「あっ!」
 美奈ちゃんが突然声を上げる。

「その右上の組織、何か変よ」
「え? どれ?」

 確かに何か白っぽいが……俺は医者じゃないから何とも分からんなぁ。

 クリスがマニュピレーターでその組織を指して答える。

「…。これかな? 確かに何かちょっと変ですね」

 クリスはマイクロ鋏でその組織を軽く切ってみた。

 すると白い組織がドピュっと飛び出してきた。

「うわぁ!」「うぇ!」

 声が上がる。

「…。あー、これが原因かもしれませんね」
 どうもこの白い組織は腫瘍で、これが膨らんで神経線維を圧迫していたらしい。

「おぉ、美奈ちゃんお手柄じゃないか!」
「うふふ、やる時にはやるのよ!」

「なんで医療の知識なんかあるの?」
「そんなのないわよ! 勘よ勘! 女の勘をバカにしちゃダメよ!」

 オーバーにふんぞり返って得意げだ。

「美奈ちゃんすごい……。私、全然分からなかった……」
「先輩はもっと場数踏んで女の勘を鍛えなきゃだわ!」
「場数……」

 後輩に指導される由香ちゃん、頑張れ!

 それにしても美奈ちゃんは一体どんな場数を踏んできたのだろうか? まだ二十歳だよね?
 
 クリスは騒ぐ外野を無視して淡々と白い組織を切除し、吸い取っていく。
 10分くらいで腫瘍は全部吸い取り終わった。

「…。手術は完了です」

 さて、効果はあったか……。
 皆、祈る思いでバイタルの数値の変化を見守った――――

「あ、ちょっと上がった!」
 由香ちゃんが数字が変わったのを見て声を上げる。

「いや、まだまだ分からない」

 案の定また数値は落ちてしまった。

「あぁぁぁ……シアンちゃん! 頑張って!」
 由香ちゃんの想いは思わず声に出てしまう。合わせた手にすごい力が入っていてヤバい感じである。

 数分たって、徐々に数値が安定して改善していくようになった。

「大丈夫? もう大丈夫なの?」
 由香ちゃんが俺に聞く

 俺がにっこりガッツポーズをすると

「良かった~~~~!」
 と、由香ちゃんはぐったりと脱力し、その拍子に椅子からズリ落ちた。

 ガンッ! ガラガラ

 椅子が倒れて音を立てる。

「おいおい! 由香ちゃん大丈夫!?」
 
 見ると由香ちゃんは床で仰向けになって、幸せそうな表情を浮かべている。

「良かったぁ……」

 そこまでシアンの事を思っているとは……、もう心はママなんだな。

「ありがとう」
 俺はそう言って優しく由香ちゃんを引き起こした。

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