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人類を継ぐ者
36.ママという称号
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年が明け、新年を祝う時期となった。
正月と言っても赤ちゃんの世話は休むわけにはいかないので、毎日出勤している。
赤ちゃんは思いのほか順調に育ち、今や身長は40cmを超えている。覗いてみると透明なバッグの中で元気にキックを繰り返している。
「シアン!」
と声をかけると、聞こえてるのかぴくぴくと反応するのが可愛い。
◇
さらに2週間ほどしていよいよ出産の日が来た。
出産と言っても羊水バッグから取り出すだけなんだけれども。
テーブルに大きなたらいを用意して、人肌のお湯で満たす。
そして人工胎盤に繋がってる点滴やら人工肺やら透析装置を全部止めて外す。
もう戻れない――――
「いやぁドキドキするぅ!」
由香ちゃんが緊張して、少し離れたところで作業を見つめている。
クリスが祈りをささげ、シアンはバッグから取り出された。
シアンは何が起こったのか良く分からず蠢いている。
俺は大きなクリップでへその緒をお腹の前で止め、余った所をはさみで切る。
チョキン!
その瞬間、シアンは大きな声で泣いた。
ほっぎゃぁ、ほっぎゃぁ!
かわいい声を出して大きく泣いた。
出産成功である。
俺と由香ちゃんの血で育った赤ちゃんだから、俺もある意味親と言っていいだろう。
たった10gしかなかったピンクの小さな生き物は今、3kgに達している。
少し目頭が熱くなる。
由香ちゃんもちょっと目が潤んでいる。
クリスがゆっくりとシアンをお湯の中に漬け、俺がタオルで全身をぬぐう。
肌には白い垢がいっぱいついているので丁寧にとる。
ただ、シアンは無脳症、首から上は顔しかない。頭の部分がすっぽりと無くなっている。
美奈ちゃんは
「ほんと、頭無いのね……」
と、眉間にしわを寄せて、ちょっとグロテスクなシアンをまじまじと見つめた。
さすがにこのままだと困ることになりそうなので、サイズを測って人工の頭を付けてやらないとならない。
綺麗に洗ったら丁寧に拭いて、オムツとベビー服をセットして、由香ちゃんに渡す。
由香ちゃんはおっかなびっくり受け取ると
「うわ、思ったより重いですねぇ!」
といいながらぎこちなく抱いていた。
赤ちゃんは一瞬目を開けると、次はゆっくりとあくびをして口をもごもごと動かした。
「うわ、可愛いかも!」
「先輩、私も~!」
と、美奈ちゃんが手を伸ばしてきたので次は美奈ちゃんに渡される。
「ほんとだ、重~い!」
「私と誠さんの血の重みですよ!」
そう言って胸を張る由香ちゃん。
それに反発するように、
「シアンちゃん、ママでちゅよ~!」
と、シアンに声をかける美奈ちゃん。
「え~、ママは私です! 返して!」
由香ちゃんがそう言いながら、すかさず美奈ちゃんからシアンを取り返した。
由香ちゃんとしても血をあげ続けた自負があるらしい。
「うふふ、じゃ、パパは誠さんかな~?」
そう言って、いたずらっ子の表情で由香ちゃんをからかう。
「えっ? そ、そういう意味じゃ……」
そう言ってシアンを抱きながら赤くなっている由香ちゃん。
俺もちょっとドキドキした。
シアンは口を大きく開け、モゴモゴと唇を動かす。
「ママの母乳欲しいのかな~?」
また余計なことを言う美奈ちゃん。
由香ちゃんはハッとした表情で、胸に抱きかかえたシアンを見つめ……
「うぅ、ママ失格かも……」
変な所でしょげている。すっかりママになった気になっているようだ。
「先輩ほど立派な胸なら出るんじゃない?」
どうしてそう余計な事言うかな、美奈ちゃんは……。
由香ちゃんはちょっと自分の胸を触って、
「なんか本当に出そうな気になってきたわ……」
と、まじめな顔して言っている。
おいおい、そう簡単には母乳なんて出ないぞ……と、思ったが、保育園の保育士が母乳出たって話は聞いた事あるしなぁ。
「誠さん、揉んであげなさいよ!」
何を言い出すんだこいつは!
由香ちゃんは赤くなってうつむいている。
俺は焦って
「ハイ! セクハラ! レッドカード!!」
そう言って腕を×にして却下した。
セクハラ呼ばわりが気に入らなかった様子で美奈ちゃんは、
「なによ! だったらまた私の胸揉む?」
そう言って、俺に向かって胸を突き出したポーズで挑発してくる。
う……。
「ほれほれ!」
調子に乗って胸を近づけてくる美奈ちゃん。
情けない事に返す言葉が浮かばない。
「も、も、揉むって……」
「ははは、冗談よ! 意気地なし~!」
美奈ちゃんはそう言って俺の額を人差し指で押して、ケラケラ笑いながら部屋を出て行った。
唖然とする俺達。
うーん、困った姫様だな……。
折角のおめでたいシアンの出産が変な事になってしまった。
由香ちゃんはシアンをゆっくりと揺らしながら、
「『意気地なし』って事は本音は口説いて欲しいって事でしょうか?」
と、美奈ちゃんの言葉を考えている。
「いや、そんな深い意味ないと思うよ。口説いて口説けるとも思えないしね」
「口説けたら口説きたいんですか?」
由香ちゃんが俺をじっと見て鋭く突っ込んでくる。
う……。
また言葉に窮する俺。
「さ、さぁどうかなぁ……」
「ふぅん、否定はしないんですね」
由香ちゃんはそう言って、シアンをベビーベッドの方に持っていって寝かしつけた。
「誠さんはもういいですよ、私が夕方まで様子見てるので」
淡々と事務的に言う由香ちゃん。
「あ、そ、そう? じゃ、お願い」
居場所を失った俺はそう言って部屋を後にして、トボトボとオフィスの方へ降りて行った。
どこかで言葉を間違えた気がするんだが……どこをどう間違ったのかが分からない。
モヤモヤする。
まぁ今はシアンが無事生まれた事を素直に喜ぶべきなんだが……。
何だろうこれは……女心はほんと分からない。
正月と言っても赤ちゃんの世話は休むわけにはいかないので、毎日出勤している。
赤ちゃんは思いのほか順調に育ち、今や身長は40cmを超えている。覗いてみると透明なバッグの中で元気にキックを繰り返している。
「シアン!」
と声をかけると、聞こえてるのかぴくぴくと反応するのが可愛い。
◇
さらに2週間ほどしていよいよ出産の日が来た。
出産と言っても羊水バッグから取り出すだけなんだけれども。
テーブルに大きなたらいを用意して、人肌のお湯で満たす。
そして人工胎盤に繋がってる点滴やら人工肺やら透析装置を全部止めて外す。
もう戻れない――――
「いやぁドキドキするぅ!」
由香ちゃんが緊張して、少し離れたところで作業を見つめている。
クリスが祈りをささげ、シアンはバッグから取り出された。
シアンは何が起こったのか良く分からず蠢いている。
俺は大きなクリップでへその緒をお腹の前で止め、余った所をはさみで切る。
チョキン!
その瞬間、シアンは大きな声で泣いた。
ほっぎゃぁ、ほっぎゃぁ!
かわいい声を出して大きく泣いた。
出産成功である。
俺と由香ちゃんの血で育った赤ちゃんだから、俺もある意味親と言っていいだろう。
たった10gしかなかったピンクの小さな生き物は今、3kgに達している。
少し目頭が熱くなる。
由香ちゃんもちょっと目が潤んでいる。
クリスがゆっくりとシアンをお湯の中に漬け、俺がタオルで全身をぬぐう。
肌には白い垢がいっぱいついているので丁寧にとる。
ただ、シアンは無脳症、首から上は顔しかない。頭の部分がすっぽりと無くなっている。
美奈ちゃんは
「ほんと、頭無いのね……」
と、眉間にしわを寄せて、ちょっとグロテスクなシアンをまじまじと見つめた。
さすがにこのままだと困ることになりそうなので、サイズを測って人工の頭を付けてやらないとならない。
綺麗に洗ったら丁寧に拭いて、オムツとベビー服をセットして、由香ちゃんに渡す。
由香ちゃんはおっかなびっくり受け取ると
「うわ、思ったより重いですねぇ!」
といいながらぎこちなく抱いていた。
赤ちゃんは一瞬目を開けると、次はゆっくりとあくびをして口をもごもごと動かした。
「うわ、可愛いかも!」
「先輩、私も~!」
と、美奈ちゃんが手を伸ばしてきたので次は美奈ちゃんに渡される。
「ほんとだ、重~い!」
「私と誠さんの血の重みですよ!」
そう言って胸を張る由香ちゃん。
それに反発するように、
「シアンちゃん、ママでちゅよ~!」
と、シアンに声をかける美奈ちゃん。
「え~、ママは私です! 返して!」
由香ちゃんがそう言いながら、すかさず美奈ちゃんからシアンを取り返した。
由香ちゃんとしても血をあげ続けた自負があるらしい。
「うふふ、じゃ、パパは誠さんかな~?」
そう言って、いたずらっ子の表情で由香ちゃんをからかう。
「えっ? そ、そういう意味じゃ……」
そう言ってシアンを抱きながら赤くなっている由香ちゃん。
俺もちょっとドキドキした。
シアンは口を大きく開け、モゴモゴと唇を動かす。
「ママの母乳欲しいのかな~?」
また余計なことを言う美奈ちゃん。
由香ちゃんはハッとした表情で、胸に抱きかかえたシアンを見つめ……
「うぅ、ママ失格かも……」
変な所でしょげている。すっかりママになった気になっているようだ。
「先輩ほど立派な胸なら出るんじゃない?」
どうしてそう余計な事言うかな、美奈ちゃんは……。
由香ちゃんはちょっと自分の胸を触って、
「なんか本当に出そうな気になってきたわ……」
と、まじめな顔して言っている。
おいおい、そう簡単には母乳なんて出ないぞ……と、思ったが、保育園の保育士が母乳出たって話は聞いた事あるしなぁ。
「誠さん、揉んであげなさいよ!」
何を言い出すんだこいつは!
由香ちゃんは赤くなってうつむいている。
俺は焦って
「ハイ! セクハラ! レッドカード!!」
そう言って腕を×にして却下した。
セクハラ呼ばわりが気に入らなかった様子で美奈ちゃんは、
「なによ! だったらまた私の胸揉む?」
そう言って、俺に向かって胸を突き出したポーズで挑発してくる。
う……。
「ほれほれ!」
調子に乗って胸を近づけてくる美奈ちゃん。
情けない事に返す言葉が浮かばない。
「も、も、揉むって……」
「ははは、冗談よ! 意気地なし~!」
美奈ちゃんはそう言って俺の額を人差し指で押して、ケラケラ笑いながら部屋を出て行った。
唖然とする俺達。
うーん、困った姫様だな……。
折角のおめでたいシアンの出産が変な事になってしまった。
由香ちゃんはシアンをゆっくりと揺らしながら、
「『意気地なし』って事は本音は口説いて欲しいって事でしょうか?」
と、美奈ちゃんの言葉を考えている。
「いや、そんな深い意味ないと思うよ。口説いて口説けるとも思えないしね」
「口説けたら口説きたいんですか?」
由香ちゃんが俺をじっと見て鋭く突っ込んでくる。
う……。
また言葉に窮する俺。
「さ、さぁどうかなぁ……」
「ふぅん、否定はしないんですね」
由香ちゃんはそう言って、シアンをベビーベッドの方に持っていって寝かしつけた。
「誠さんはもういいですよ、私が夕方まで様子見てるので」
淡々と事務的に言う由香ちゃん。
「あ、そ、そう? じゃ、お願い」
居場所を失った俺はそう言って部屋を後にして、トボトボとオフィスの方へ降りて行った。
どこかで言葉を間違えた気がするんだが……どこをどう間違ったのかが分からない。
モヤモヤする。
まぁ今はシアンが無事生まれた事を素直に喜ぶべきなんだが……。
何だろうこれは……女心はほんと分からない。
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