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AIの発露
24.部長決済のスイーツ
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マウスの手術の傷が癒えたのを見計らって、いよいよAIとの本格的な接続準備を開始した。
前回、単純な接続については確認済みではあるが、本格的に飛んだり跳ねたりが自由にできる状態かどうかを精査していく。
オフィスにマーカスの檄が飛ぶ。
「Hey Guys! Let's start the operation! (お前らやるぞ!)」
「Yes sir!」「Yes sir!」「Yes sir!」
みんな気合十分である。
それを見届けるとマーカスは特注の高級ネットチェアにドスンと座り、キーボードで何かを高速に打ち込んだ――――
流れる出力を見届けると、
「No.1! Check Deep linking! (1番接続!)」
と、エンジニアチームに向かって叫んだ。
「No.1 Sir! (1番了解!)」
コリンは大声でそれに答え、キーボードをチャカチャカ叩きながら複数の画面をあっちこっち見ている。
オフィスには大画面モニタを3つほど、メゾネットの上階の手すりの所に配置している。
ここには主要なステータスを常時表示しているので状況が良く分かる。
マウスのバイタルや筋肉への運動信号の強度マップが表示され、触覚や視覚、聴覚などのモニタリングもできる。なんだかアニメに出てくる科学基地みたいだ。
クリスと一緒に画面を見あげてるのだが、心臓の鼓動に合わせてステータスは波打つように変化しており、マウスがしっかり生きている事を感じさせてくれる。
一番左の画面上ではステータスバーが点滅しながら伸びている。
どうやら今の接続確認工程が進むたびにこのステータスバーが伸びるようだ。
順調に伸び始めていたステータスバーだが……急に止まってしまった。
マウスのステータス表示が急に乱れはじめた。
嫌な予感がする。
「No! No! Stop!!!」
デビッドが立ち上がって叫んだ。
と、次の瞬間全部の画面が急に真っ赤になり『WARNING!!!』のサインが明滅する。
ビーッ!ビーッ!
と非常音もあちこちから鳴り響く。
慌ててマーカスが
「Stop Deep linking! (停止!)」
と、コリンに向かって叫ぶ。
「Stop Sir! (停止了解!)」
コリンも慌ててキーボードを叩いてリカバリに努める。
クリスも急いで走ってマウスの方へ行ってしまった。
オフィスに緊張が走る。
おいおい、頼むよ……。
マーカスがマーティンの方に走って行って何か深刻そうに相談している。
どうやら筋肉に行くはずの信号が内臓に向かっている神経に流れてしまい、出てはいけない分泌物が多量に分泌されてバイタルが乱れたらしい。
生体とのリンクは強引につないだものだから、どうしてもこの手の混線が避けられない。
そして、混線はBMIのフィルムの中の極微細な配線の中にあり、もはや手が付けられない。つまり混線は直せない。
その配線を使わずに筋肉を動かさないとならないが、他のルートを探すのも慎重にしないとマウスが死んでしまう。
うーん、ここまで難しいとはなぁ……。
みんな必死で解決策を探している。
オフィスは深刻な雰囲気で居場所が無い。
大枠の計画を作ったのは俺だが、具体的なプログラミングの部分はエンジニアチームの天才たちに丸投げなので俺では何の手伝いもできない。
1時間ほどしてようやくマウスのバイタルが落ち着いてきた。
エンジニアチームは会議テーブルで善後策を議論しているが……やはりそう簡単ではないようだ。
「That’s That! (しかたないだろ!)」
「No! No!」
「I don’t give a shit!(知らねぇよ!)」
みんなちょっとイライラしてきている。
ピリピリした雰囲気がオフィスを包む。
俺がハラハラしていると、
「誠さん、何してるの! こんな時こそあなたの出番じゃない!」
美奈ちゃんがひそひそ声で珈琲セットを指さす。
確かにちょっとブレイクを入れた方がよさそうだ。
俺はさっそく珈琲の豆を挽き始めた。
珈琲豆はふんわりと香ばしい芳醇な香りをたてながら粉になっていく。
あぁ、やっぱり珈琲の香りは落ち着くなぁ。
俺は細心の注意を払って丁寧にドリップし、美奈ちゃんがみんなに配った。
ちょっとヒートアップ気味だったみんなも、美奈ちゃんから珈琲を受け取ると笑顔を見せた。
そうそう、笑顔じゃないといい仕事できないよね。
珈琲が功を奏したのかこの後、混線の回避手法が開発され、何とか副作用なく筋肉を動かす事ができるようになった。
最初の接続テストからこんな感じなので長期戦が予想される。
「誠さん、買い出し行くわよ!」
美奈ちゃんがそう言って俺の手を引く。
「え? 何買うの?」
俺がぬるい返事をすると
「バカねぇ、腹が減っては戦ができないって言うでしょ? お昼買ってきてあげなきゃ!」
呆れたように言う。
確かにもう13時も過ぎてるのに、皆必死でお昼を食べるような雰囲気じゃない。
「なるほど、行こう!」
二人でコンビニに行き、適当にパンやおにぎり、サンドイッチをカゴに詰め込んでいく。
食べ物をたくさん選ぶって楽しいよね。
美奈ちゃんが高級そうなショコラをさり気なくカゴに入れるのを見つけた。
「え? スイーツも買うの?」
「それは私のよ!」
そう言ってニコッと笑う。
値札を見ると1100円もする。
「いやいや、ちょっと高すぎないこれ?」
「100億円もある癖に何ケチってんのよ!」
逆ギレである。
「いや、これ、経費で落ちるのかなって……」
「総務経理部長は私で~す。部長決済で通しま~す!」
いたずらっぽい笑顔で嬉しそうに言う。
職権乱用だとは思うが……まぁ長丁場だしね。仕方ないかな。
「じゃ、俺の分も……」
俺が棚のショコラに手を伸ばすと……
ピシッ!
俺の手を叩く。
「ダメで~す! 男性の方は経費になりませ~ん!」
「え!? 男女差別反対!」
「うちの会社は赤字で~す! 経費節減!」
「いや、100億円もあるって自分で言ってたじゃん!」
「つべこべ言わないの! 私の一口あげるから」
そう言ってウインクする美奈ちゃん。
まぁ確かにたくさん食べたいわけじゃないからいいか……
でも何か釈然としないなぁ……
前回、単純な接続については確認済みではあるが、本格的に飛んだり跳ねたりが自由にできる状態かどうかを精査していく。
オフィスにマーカスの檄が飛ぶ。
「Hey Guys! Let's start the operation! (お前らやるぞ!)」
「Yes sir!」「Yes sir!」「Yes sir!」
みんな気合十分である。
それを見届けるとマーカスは特注の高級ネットチェアにドスンと座り、キーボードで何かを高速に打ち込んだ――――
流れる出力を見届けると、
「No.1! Check Deep linking! (1番接続!)」
と、エンジニアチームに向かって叫んだ。
「No.1 Sir! (1番了解!)」
コリンは大声でそれに答え、キーボードをチャカチャカ叩きながら複数の画面をあっちこっち見ている。
オフィスには大画面モニタを3つほど、メゾネットの上階の手すりの所に配置している。
ここには主要なステータスを常時表示しているので状況が良く分かる。
マウスのバイタルや筋肉への運動信号の強度マップが表示され、触覚や視覚、聴覚などのモニタリングもできる。なんだかアニメに出てくる科学基地みたいだ。
クリスと一緒に画面を見あげてるのだが、心臓の鼓動に合わせてステータスは波打つように変化しており、マウスがしっかり生きている事を感じさせてくれる。
一番左の画面上ではステータスバーが点滅しながら伸びている。
どうやら今の接続確認工程が進むたびにこのステータスバーが伸びるようだ。
順調に伸び始めていたステータスバーだが……急に止まってしまった。
マウスのステータス表示が急に乱れはじめた。
嫌な予感がする。
「No! No! Stop!!!」
デビッドが立ち上がって叫んだ。
と、次の瞬間全部の画面が急に真っ赤になり『WARNING!!!』のサインが明滅する。
ビーッ!ビーッ!
と非常音もあちこちから鳴り響く。
慌ててマーカスが
「Stop Deep linking! (停止!)」
と、コリンに向かって叫ぶ。
「Stop Sir! (停止了解!)」
コリンも慌ててキーボードを叩いてリカバリに努める。
クリスも急いで走ってマウスの方へ行ってしまった。
オフィスに緊張が走る。
おいおい、頼むよ……。
マーカスがマーティンの方に走って行って何か深刻そうに相談している。
どうやら筋肉に行くはずの信号が内臓に向かっている神経に流れてしまい、出てはいけない分泌物が多量に分泌されてバイタルが乱れたらしい。
生体とのリンクは強引につないだものだから、どうしてもこの手の混線が避けられない。
そして、混線はBMIのフィルムの中の極微細な配線の中にあり、もはや手が付けられない。つまり混線は直せない。
その配線を使わずに筋肉を動かさないとならないが、他のルートを探すのも慎重にしないとマウスが死んでしまう。
うーん、ここまで難しいとはなぁ……。
みんな必死で解決策を探している。
オフィスは深刻な雰囲気で居場所が無い。
大枠の計画を作ったのは俺だが、具体的なプログラミングの部分はエンジニアチームの天才たちに丸投げなので俺では何の手伝いもできない。
1時間ほどしてようやくマウスのバイタルが落ち着いてきた。
エンジニアチームは会議テーブルで善後策を議論しているが……やはりそう簡単ではないようだ。
「That’s That! (しかたないだろ!)」
「No! No!」
「I don’t give a shit!(知らねぇよ!)」
みんなちょっとイライラしてきている。
ピリピリした雰囲気がオフィスを包む。
俺がハラハラしていると、
「誠さん、何してるの! こんな時こそあなたの出番じゃない!」
美奈ちゃんがひそひそ声で珈琲セットを指さす。
確かにちょっとブレイクを入れた方がよさそうだ。
俺はさっそく珈琲の豆を挽き始めた。
珈琲豆はふんわりと香ばしい芳醇な香りをたてながら粉になっていく。
あぁ、やっぱり珈琲の香りは落ち着くなぁ。
俺は細心の注意を払って丁寧にドリップし、美奈ちゃんがみんなに配った。
ちょっとヒートアップ気味だったみんなも、美奈ちゃんから珈琲を受け取ると笑顔を見せた。
そうそう、笑顔じゃないといい仕事できないよね。
珈琲が功を奏したのかこの後、混線の回避手法が開発され、何とか副作用なく筋肉を動かす事ができるようになった。
最初の接続テストからこんな感じなので長期戦が予想される。
「誠さん、買い出し行くわよ!」
美奈ちゃんがそう言って俺の手を引く。
「え? 何買うの?」
俺がぬるい返事をすると
「バカねぇ、腹が減っては戦ができないって言うでしょ? お昼買ってきてあげなきゃ!」
呆れたように言う。
確かにもう13時も過ぎてるのに、皆必死でお昼を食べるような雰囲気じゃない。
「なるほど、行こう!」
二人でコンビニに行き、適当にパンやおにぎり、サンドイッチをカゴに詰め込んでいく。
食べ物をたくさん選ぶって楽しいよね。
美奈ちゃんが高級そうなショコラをさり気なくカゴに入れるのを見つけた。
「え? スイーツも買うの?」
「それは私のよ!」
そう言ってニコッと笑う。
値札を見ると1100円もする。
「いやいや、ちょっと高すぎないこれ?」
「100億円もある癖に何ケチってんのよ!」
逆ギレである。
「いや、これ、経費で落ちるのかなって……」
「総務経理部長は私で~す。部長決済で通しま~す!」
いたずらっぽい笑顔で嬉しそうに言う。
職権乱用だとは思うが……まぁ長丁場だしね。仕方ないかな。
「じゃ、俺の分も……」
俺が棚のショコラに手を伸ばすと……
ピシッ!
俺の手を叩く。
「ダメで~す! 男性の方は経費になりませ~ん!」
「え!? 男女差別反対!」
「うちの会社は赤字で~す! 経費節減!」
「いや、100億円もあるって自分で言ってたじゃん!」
「つべこべ言わないの! 私の一口あげるから」
そう言ってウインクする美奈ちゃん。
まぁ確かにたくさん食べたいわけじゃないからいいか……
でも何か釈然としないなぁ……
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