キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻

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深層後継社 起業

20.女子大生のダメ出し

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 美奈ちゃんが
「あれ、結局どうなったのぉ?」
 と、愛の管理システム『マインド・カーネル』の実装結果についてマーカスに突っ込む。
 
「アー ウマク イキマシタガー……」
 ちょっと歯切れ悪い感じだ。
 
 話を聞くと、マインド・カーネルの効果でシアンは喧嘩もなく仲良くリンゴを配分するようになった。
 そう言う意味では上手くいった。
 
 上手くはいったんだが、残念ながら初代シアンの進化はここで止まってしまったそうだ。
 
 マーカスの説明によると、リンゴの捕獲をゴリゴリ最適化チューニングする方向にしか進化は進まず、初代シアンはただの高効率リンゴ捕獲マシーンと化してしまったそうだ。
 確かに画面を見ていると一糸乱れぬ連携での狩りはすごいんだが、狩りばかり上手くなっても次につながらない。
 これも確かにAIなんだろうけど、人類の後継者としては全くどうしようもない。
 
「歌とかダンスとか文化は出てこないのかな?」
「100マン バイソクデ 1マンネンブン マワシタケド ヘンカナシ」

 美奈ちゃんは
「え~!つまんな~い!」
 と、膨らんでいる。
 
 今のシアンはバボちゃんの様な単純ボディでリンゴ獲るだけだから複雑な概念が生まれないという事かもしれない。
 脳みその代わりのAIのパフォーマンスは相当に高いはずだが文化は生まれない。
 つまり、歌とかダンスとかの文化は人間の身体から湧き出てくる物だったんだな。脳みその問題じゃないんだ。
 AIを考える上でボディが重要だというのはこう言う所にもあったのだ。
 やはり生身のボディは大切って事だね。

 AIの基本的なシステムは完成したから次はいよいよ生体を使った実験に入ろう。
 という事で、マウス実験のフェーズに入る事にした。
 
 AIを生体に接続するには生体の神経繊維の1本1本に流れる電気信号を取り出し、また送り出さないといけない。
 人間でいうと筋肉に指示を出す運動神経の方は数万本で済むのだが、視覚、触覚などの五感の感覚神経の数は膨大だ。
 
 感覚神経を五感で分けてみるとこうだ
 視覚神経 1000万本
 触覚神経 100万本
 聴覚神経 10万本
 嗅覚神経 1000本
 味覚神経 1000本
 
 視覚神経だけで1000万本ある。これを外部から取り出すのは現実的ではない。
 仕方ないので視覚は小型カメラ、聴覚はマイクを代用する事にする。
 しかし、触覚は代用できないので頑張ってBMI(ブレインマシンインタフェース)で取り出すしかない。
 BMIはすでに中国の半導体工場に無理にお願いして開発を進めてもらっている。
 「3億円かかる」と言われたので、「4億円払うから最速で作ってくれ」と言ったら凄い喜んで開発してくれている。
 来週試作品が届くはずなのでそれで実際にマウスと接続してみよう。
 
 神経に微細な電極を繋ぐなんて事はやった事もないから不安だらけではあるが、今更止められない。
 クリスの神の技がどこまで通用するのか……。もう神頼みである。


            ◇

 
 その晩、会社のみんなで飲みに行った。
 マーカスがイタリアンがいいというので近所の小さなお店にした。
 
 まずはスプマンテで乾杯!
「Hey Guys! Thank you for your great job! Let's make a toast. Cheers!(お疲れ! 乾杯!)」
「Cheers!」「Cheers!」「Cheers!」
 
 あー、やっぱり仕事帰りのお酒は最高だよね。
 爽やかなスパークリングワインがディナーの期待値を上げてくる。
 
 俺はシーザーサラダを取り分けながらマーカスに聞いた。

「Are you used to life in Japan yet? (日本には慣れた?)」
「Yup!  ニホン ブンカ イイネ。センソウジ イッタ!」

 どうも先週末美奈ちゃんと一緒に浅草寺に行ったらしい。そんな話初めて聞いたぞ。

「もしかして美奈ちゃんと付き合ってるの?」
「マダネ!」
 そう言ってニヤッと笑った。

 まだっていう事は狙っているという事か。ふむぅ。

「ミナ ハ ボクノ ヴィーナス ネ」

 そう言ってマーカスは美奈ちゃんの方をジーっと見つめている。

「Good Luck! (うまくいくと良いね)」

 まぁ確かに美人でスラっとした美奈ちゃんとガタイの良いマーカスはお似合いかも知れん……。
 仲もよさそうだしね。
 
 俺にもそろそろ色っぽい話が来てもいいのにな、、。
 
 俺はペンネアラビアータをつつきながら何か手はないのかと思索を巡らす。
 とは言え、最近出会い無いからなあ。
 
 こういう時はクリスに限る。
 俺は頼んだ赤ワインのグラスを持ってクリスの隣の席に移動。
 
「Hi Chris!  Are you having fun?(クリス、楽しんでる?)」
「…。Sure!(もちろん!)」

 酔ってくるとなぜか英語になってしまう。
「我有一个要求(一つお願いがある)」
「…。怎么了?(何?)」

 王董事長の時の余韻で中国語でも試してみたがさすがクリス、ついてくるな。

「私もそろそろ……彼女が欲しいなとか思うんですが!」
「…。いいんじゃないかな?」
「ところがですね、なかなかいい出会いが無いんです!」
「…。それは深刻ですね」
「ぜひ、いい人を紹介して……欲しいなーと……」
「…。私が紹介するんですか?」
「クリス顔広いじゃん、世界中の人知ってるじゃん、きっといい人知ってるよね?」
「…。まあたくさん候補はいますね」
「ほらほら、ちょっと何人か紹介して!」

 そこにグラスを持った美奈ちゃんが乱入。
「なに? 誠さん、私じゃダメって言うの?」
 そう言って上目遣いでこっちを見る。

 俺はワイングラスを、カチンと合わせて
「美奈ちゃん、浅草寺連れてってくれないし~」
 そう言ってそっぽ向いて拗ねてみる。

「あら、マーカスに聞いたのね、秘密って言ったのに」
 そう言ってニコッと笑う。

「まぁ、仲良くやってくださいよ。社内恋愛禁止じゃないし」
「ふふふ、どうしようかなぁ……」
 上を向いて人差し指を顎に当てた。

「また、もったいぶって……悪女だなぁ」
「悪女とは失礼ね! 私は『愛の秘密』を解いた人と付き合うのよ」
 また訳わかんない事言いだした……

「『愛の秘密』? 何それ?」
「秘密を教える訳ないじゃない! ……バカなの?」 
 呆れた顔して軽蔑なまなざしが痛い……

 だが……そんなの分かる訳がない。

「ヒント位くれよ!」
「しょうがないわねぇ……」

 美奈ちゃんはワインを一口飲んで言った、
「こないだシアンに愛の機能つけたんでしょ?」
「え? あれはAIの喧嘩防止機能だろ?」
「ふぅ……だからダメなのよ」
 美奈ちゃんはため息をついてダメ出しをする。

「えっ!? ちょっと待って、シアンと俺って同列なの?」
「そんくらい自分で考えなさいよ!」
 そう言って美奈ちゃんは席を立ってしまった……

 いや、ちょっと待ってほしい。確かにAIの喧嘩を防止するための調整機能としてマインド・カーネルを実装した。それで喧嘩はなくなった。でも、それと美奈ちゃんと付き合える条件に何の関係があるのか?
 何この禅問答?

 俺はクリスに聞いた。
「クリスは美奈ちゃんの言う事分かる?」
「…。もちろん」
 そういって微笑んだ。

「え!? 分かるの!?」
 俺は言葉を失ってしまった。

 美奈ちゃんはクリスのレベルに達していて、俺はただのお子ちゃまだって事?
 え!?

 一瞬クリスに教えてもらおうかとも思ったが……
 女子大生でも分かる事を今さら神様に聞くのも何か癪だ。
 これは自分で解決しないとならん!

 俺は赤ワインをグラスでクルクル回しながら必死に考える――――

 そもそも愛ってなんだ……?
 シアンでは他人が喜ぶと嬉しくなるようにマインド・カーネルで調整を入れた。愛とは他人と自分の関係を変えるものって事だろ? ここに秘密があってそれを解くと美奈ちゃんの彼氏になれる……。
 えー? 何だよそれ……
 全然結びつかないじゃないか……


 後に、美奈ちゃんは『愛の秘密』を解いた男と結ばれる事になるんだが……この時点では全く予想もできなかった。

 その晩、俺はなかなか寝付けなかった。
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