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深層後継社 起業
11.ワタシ AIチョットデキル
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翌日の昼過ぎ、ファミレスに集まって作戦会議である。
「え~、それでは取締役会を始めます……。修一郎、スマホ止めろ! クビにすっぞ!」
「はいはい、社長! わかったよ!」
学生気分で困る……と、思ったら、修一郎と美奈ちゃんは大学生だったな……
先が思いやられる。
1時間くらいあーだこーだを繰り返し、
社名:株式会社Deep Child (深層後継者)
オフィス:田町のデザイナーズメゾネットマンション
最初の資本金:1000万円
発起人の出資割合:俺:60%、美奈ちゃん:20%、修一郎:20%
役員報酬:俺:70万、残り3人:50万円
を、決めた。
会社名はディープラーニングを使って後継者を作るからそのままディープな子供、Deep Childとした。
クリスは役員報酬など要らないと言っていたが、無報酬はさすがにまずいので他の人に合わせてもらった。
登記は知り合いの行政書士さんにお願いするので来週の取締役会には印鑑証明と実印を持ってくる事、それまでに出資金を振り込む事をお願いして取締役会は終了した。
「う~ん、自分達の会社ができるなんて、ドキドキするねっ!」
美奈ちゃんははしゃいでいる。
「もう引き返せないぞ。覚悟は決めてね」
とは言え、俺も会社作るなんて初めてなので内心は穏やかじゃない。クリスに見放されない限りきっと大丈夫ではあるんだが……。
「僕は将来パパの会社継ぐから違和感ないけどね!」
修一郎は生意気である。
今、俺が勤めているITベンチャーも辞めないと……。社長には良くしてもらったけど人類の未来を切り開く方がどう考えてもやりがいあるしな。それにもう100億円手に入っちゃうし。
「…。誠よ、会社も準備出来て金も用意できた。次はどうするんだ?」
クリスがこちらを向いて言った。
「いよいよAIの開発だね。まずは5人くらいのエンジニアチームを作ろうと思う。世界中から天才集めて最高のチームにするんだ」
「…。天才たちのあてはあるのか?」
「う~ん、エンジニアネットワークで昨日からいろいろ声をかけてはいるんだけど、まだ反応はないんだよね……」
「…。では私の方でも探すがいいか?」
「もちろん! クリスが探してくれるなら間違いないね!」
「…。西海岸かな……」
う、最初から外国人引っ張ってくるつもりだな……。え、英語か……。しかしそうならざるを得ないだろうな。
◇
「Hello, Nice to meet you!(こんにちは!)」
PCの画面の中で筋肉ムキムキな白人が右手を上げて微笑んでいる。よく見るとアニメのTシャツを着ている。セーラームーンの青いキャラクター……かな? 確か……セーラーマーキュリー? うーん、大丈夫かな……
「な, Nice to meet you……(こんにちは)」
英語は久しぶりだ。冷や汗がたらりと流れる……
彼はマーカス エリソン(Marcus Ellison)、AI業界では誰もが知る大物だ。先日彼が叩き出したAI競技のスコアはダントツの1位で業界の話題をさらっていた。そんな大物をクリスが口説いてくれて面接に至ったのだ。
「ワタシ、ニホンゴチョットデキル!」
え? なんだ、日本語話せるのか。
「それなら日本語で話しても大丈夫ですね?」
「チョット トイウノハ a little デスネ! HAHAHA!」
うーん、大丈夫かな……?
なるべくゆっくりと話してみる。
「クリスから、あなたが当社に、joinしてくれると、聞いたのですが、間違いありませんか?」
「ダイジョブダイジョブ! ワタシ AIチョットデキル!」
そう言ってマーカスはボディビルダーの様に上腕二頭筋をグッと膨らませてにっこりと笑った。
うーん、本当に大丈夫なんだろうか……。
冷や汗かきながら条件面など色々詰めて彼の入社が決まった。条件はフルフレックスで年俸は3000万、住居も会社持ち。彼のスキルを考えるとずいぶん安い感じがする。多分、今の会社では1億円近く貰っているんじゃないか?
また、彼の知り合いも一緒に連れてきてくれるらしい、とても助かる。
クリスの力は本当に偉大だ。
◇
そう言えば、クリスの正体を探るために『ワインを友達に調べてもらう』と言っていた義兄さんから全然連絡が無い……。さすがに結果が出てる頃だと思うので電話をかけてみた――――
「こんにちは、誠ですけど」
「あ、誠君? どうしたの?」
「そろそろワインの分析結果が出たかなぁと思って電話したんですが……」
「ワイン? 何のこと?」
「いや、BBQの時に出た神のワインがオカシイから調べてみる、って言ってたじゃないですか」
「え? 神のワイン? 知らないよそんなの。ワインなんて飲んだっけ?」
大変だ、ワインの事がない事になってる……
俺は固まってしまった……
「誠く~ん?」
「ごめんなさい、勘違いでした。またBBQ誘ってください!」
「ん? あぁ、またね~!」
義兄さんの記憶が消されてる……
いや、俺の記憶がオカシイのか?
いやいや、ワインはその後も飲んだしな……
記憶を消したとしたらクリスがやったのだろう。
俺が 義兄さんと一緒にクリスの正体を探ろうとしたこともバレてるって事だよな……
いつ、俺の記憶が消されてもおかしくないって事……だろうな。
調子に乗って会社作ってエンジニアまで呼んじゃったけど、俺はまな板の上のコイなんだな。
とは言え、人類のために動いているうちはクリスは大目に見てくれるはずだ。
今はただひたすらに人類に尽くすしかない……か
まぁ、最初からそのつもりなんだからいいんだけどね……。
◇
田町駅前から徒歩6分、住宅地エリアに立つデザイナーズメゾネットマンション、ここが株式会社Deep Childの本社となる所だ。
玄関を開けると……内装の木の爽やかな香りがする。洋室とクローゼットのドアを通り過ぎて廊下の突き当り、重厚な木製のドアを開けると……陽が降り注ぐ吹き抜けとなった広大なリビングが広がっている。
「うわぁ、最高じゃないこれ!」
美奈ちゃんは広々としたリビングで両手を上げて上機嫌だ。
「ここが我々Deep Childの城ですよ、姫!」
「素敵~!」
美奈ちゃんはくるり、くるりと回りながら広い室内を堪能している。
「あの上は何になるの?」
階段を上がった上の部屋を指す。
「あそこは仮眠室とか実験室だね。」
メゾネットタイプだから2フロアがくっついていてリビングの階段で上のフロアに行けるのだ。
「ふぅん、なんか贅沢~! で、私の席はどこになるの?」
ニコニコしながら首をかしげて聞いてくる。
「今ならどこでも好きに選べますよ、姫」
「う~ん、じゃぁこの窓際がいいな!」
「じゃぁここね」
タブレット使って間取り管理ソフトに机と椅子を配置し、「姫」とタイプした。
「僕はどこ?」
「修一郎はフリーアドレスだな。この辺にでかいテーブル置くから、来たら好きな所に座りなさい」
「えー、何? ちょっとそれ差別じゃない?」
「わかったよ、じゃ、ここ、トイレの前」
「えー!」
「仕方ないな、じゃぁマーカスの隣でいいよ。ちゃんと英語で仲良くしてよ」
「え、英語かぁ……」
「天下の応京大学生が英語でビビる訳ないよな?」
「も、もちろん……そうだけど……。あ、俺やっぱりトイレの前がいいな、良くトイレ行くし!」
ビビってやがる。情けない。まぁ人の事は言えないが……。
「…。私はフリーアドレスでいい」
クリスは控えめにそう言ったが、神様に席が無いというのはちょっとマズい。
「あー、クリスは俺の隣にお願い。すぐに相談できる所に居て欲しい」
「…。そうか? まあ社長に任せるよ」
「じゃぁ、俺とクリスはここね!」
俺はタブレット上で机やいす、パーティションを並べ、数を数えた。
それからプリンタやネット機器、冷蔵庫に電子レンジ、必要そうなものを全部リストアップし適当にネットで発注しておいた。
1週間もすればオフィスとして稼働できるようになるだろう。
俺はリビングに大の字になって寝た。
レースのスクリーン越しに太陽がキラキラと光の粒子を放つ――――
俺はここに神様と天才と100億円を集めた。人類の想いを託す後継者を生み、育てるために。
人類は衰退して消え去るしかないが、我々の子供はその後も我々の想いを引き継いでこの地球で生き続ける。
それがただの墓守になってしまうのか、想像を絶する展開を招くのか俺には全く予想ができない。でも俺達が心を込めて育てた子供ならきっと心豊かな知的活動は今後も地球上で何十万年も何百万年も続けてくれるはずだ。
それが僕らの目標であり、深層後継者『シアン』に託す想いなのだ。
「誠さん! そんな所寝てたら踏むわよ!」
俺の感傷を一顧だにせず美奈ちゃんがゲシゲシ蹴ってくる。
「うわ! 何すんだよ!」
「いい? 見てて!」
そう言って美奈ちゃんは踊り始めた。
空中で右に左にステップを繰り返し、腕をクロスから伸ばし、戻す――――
静かな部屋にトン、タタン、トン、タタン、という美奈ちゃんのステップ音が響く。
そして、思い切り胸を反らし、指先は大きく弧を描く――――
俺はその指先にすっかり心奪われて動けなくなった。その踊りは神聖な……それこそ神懸かって見えた。
トン、タタン、トン、タタン、
静かなリビングで優美に舞う美奈ちゃんに俺達はくぎ付けだった。
ひとしきり踊ると美奈ちゃんは息づかい荒く水をゴクゴクと飲んだ。
「美奈ちゃん、すごいね。」
俺が声をかけると、
「新たに入居する時は、土地の神様に貢物がいるのよ」
と、さも当然のように話す。
地鎮祭みたいな物なんだろうけどずいぶん古風な考え方だな……
「あ、じゃ、今の踊りは神様への奉納なんだ」
「まぁ、挨拶みたいなもんよ」
そう言ってまた水を飲んだ。
不思議な娘だ……
美奈ちゃんにより清められたオフィスでDeep Childはいよいよスタートする。人類の命運を乗せて――――
「え~、それでは取締役会を始めます……。修一郎、スマホ止めろ! クビにすっぞ!」
「はいはい、社長! わかったよ!」
学生気分で困る……と、思ったら、修一郎と美奈ちゃんは大学生だったな……
先が思いやられる。
1時間くらいあーだこーだを繰り返し、
社名:株式会社Deep Child (深層後継者)
オフィス:田町のデザイナーズメゾネットマンション
最初の資本金:1000万円
発起人の出資割合:俺:60%、美奈ちゃん:20%、修一郎:20%
役員報酬:俺:70万、残り3人:50万円
を、決めた。
会社名はディープラーニングを使って後継者を作るからそのままディープな子供、Deep Childとした。
クリスは役員報酬など要らないと言っていたが、無報酬はさすがにまずいので他の人に合わせてもらった。
登記は知り合いの行政書士さんにお願いするので来週の取締役会には印鑑証明と実印を持ってくる事、それまでに出資金を振り込む事をお願いして取締役会は終了した。
「う~ん、自分達の会社ができるなんて、ドキドキするねっ!」
美奈ちゃんははしゃいでいる。
「もう引き返せないぞ。覚悟は決めてね」
とは言え、俺も会社作るなんて初めてなので内心は穏やかじゃない。クリスに見放されない限りきっと大丈夫ではあるんだが……。
「僕は将来パパの会社継ぐから違和感ないけどね!」
修一郎は生意気である。
今、俺が勤めているITベンチャーも辞めないと……。社長には良くしてもらったけど人類の未来を切り開く方がどう考えてもやりがいあるしな。それにもう100億円手に入っちゃうし。
「…。誠よ、会社も準備出来て金も用意できた。次はどうするんだ?」
クリスがこちらを向いて言った。
「いよいよAIの開発だね。まずは5人くらいのエンジニアチームを作ろうと思う。世界中から天才集めて最高のチームにするんだ」
「…。天才たちのあてはあるのか?」
「う~ん、エンジニアネットワークで昨日からいろいろ声をかけてはいるんだけど、まだ反応はないんだよね……」
「…。では私の方でも探すがいいか?」
「もちろん! クリスが探してくれるなら間違いないね!」
「…。西海岸かな……」
う、最初から外国人引っ張ってくるつもりだな……。え、英語か……。しかしそうならざるを得ないだろうな。
◇
「Hello, Nice to meet you!(こんにちは!)」
PCの画面の中で筋肉ムキムキな白人が右手を上げて微笑んでいる。よく見るとアニメのTシャツを着ている。セーラームーンの青いキャラクター……かな? 確か……セーラーマーキュリー? うーん、大丈夫かな……
「な, Nice to meet you……(こんにちは)」
英語は久しぶりだ。冷や汗がたらりと流れる……
彼はマーカス エリソン(Marcus Ellison)、AI業界では誰もが知る大物だ。先日彼が叩き出したAI競技のスコアはダントツの1位で業界の話題をさらっていた。そんな大物をクリスが口説いてくれて面接に至ったのだ。
「ワタシ、ニホンゴチョットデキル!」
え? なんだ、日本語話せるのか。
「それなら日本語で話しても大丈夫ですね?」
「チョット トイウノハ a little デスネ! HAHAHA!」
うーん、大丈夫かな……?
なるべくゆっくりと話してみる。
「クリスから、あなたが当社に、joinしてくれると、聞いたのですが、間違いありませんか?」
「ダイジョブダイジョブ! ワタシ AIチョットデキル!」
そう言ってマーカスはボディビルダーの様に上腕二頭筋をグッと膨らませてにっこりと笑った。
うーん、本当に大丈夫なんだろうか……。
冷や汗かきながら条件面など色々詰めて彼の入社が決まった。条件はフルフレックスで年俸は3000万、住居も会社持ち。彼のスキルを考えるとずいぶん安い感じがする。多分、今の会社では1億円近く貰っているんじゃないか?
また、彼の知り合いも一緒に連れてきてくれるらしい、とても助かる。
クリスの力は本当に偉大だ。
◇
そう言えば、クリスの正体を探るために『ワインを友達に調べてもらう』と言っていた義兄さんから全然連絡が無い……。さすがに結果が出てる頃だと思うので電話をかけてみた――――
「こんにちは、誠ですけど」
「あ、誠君? どうしたの?」
「そろそろワインの分析結果が出たかなぁと思って電話したんですが……」
「ワイン? 何のこと?」
「いや、BBQの時に出た神のワインがオカシイから調べてみる、って言ってたじゃないですか」
「え? 神のワイン? 知らないよそんなの。ワインなんて飲んだっけ?」
大変だ、ワインの事がない事になってる……
俺は固まってしまった……
「誠く~ん?」
「ごめんなさい、勘違いでした。またBBQ誘ってください!」
「ん? あぁ、またね~!」
義兄さんの記憶が消されてる……
いや、俺の記憶がオカシイのか?
いやいや、ワインはその後も飲んだしな……
記憶を消したとしたらクリスがやったのだろう。
俺が 義兄さんと一緒にクリスの正体を探ろうとしたこともバレてるって事だよな……
いつ、俺の記憶が消されてもおかしくないって事……だろうな。
調子に乗って会社作ってエンジニアまで呼んじゃったけど、俺はまな板の上のコイなんだな。
とは言え、人類のために動いているうちはクリスは大目に見てくれるはずだ。
今はただひたすらに人類に尽くすしかない……か
まぁ、最初からそのつもりなんだからいいんだけどね……。
◇
田町駅前から徒歩6分、住宅地エリアに立つデザイナーズメゾネットマンション、ここが株式会社Deep Childの本社となる所だ。
玄関を開けると……内装の木の爽やかな香りがする。洋室とクローゼットのドアを通り過ぎて廊下の突き当り、重厚な木製のドアを開けると……陽が降り注ぐ吹き抜けとなった広大なリビングが広がっている。
「うわぁ、最高じゃないこれ!」
美奈ちゃんは広々としたリビングで両手を上げて上機嫌だ。
「ここが我々Deep Childの城ですよ、姫!」
「素敵~!」
美奈ちゃんはくるり、くるりと回りながら広い室内を堪能している。
「あの上は何になるの?」
階段を上がった上の部屋を指す。
「あそこは仮眠室とか実験室だね。」
メゾネットタイプだから2フロアがくっついていてリビングの階段で上のフロアに行けるのだ。
「ふぅん、なんか贅沢~! で、私の席はどこになるの?」
ニコニコしながら首をかしげて聞いてくる。
「今ならどこでも好きに選べますよ、姫」
「う~ん、じゃぁこの窓際がいいな!」
「じゃぁここね」
タブレット使って間取り管理ソフトに机と椅子を配置し、「姫」とタイプした。
「僕はどこ?」
「修一郎はフリーアドレスだな。この辺にでかいテーブル置くから、来たら好きな所に座りなさい」
「えー、何? ちょっとそれ差別じゃない?」
「わかったよ、じゃ、ここ、トイレの前」
「えー!」
「仕方ないな、じゃぁマーカスの隣でいいよ。ちゃんと英語で仲良くしてよ」
「え、英語かぁ……」
「天下の応京大学生が英語でビビる訳ないよな?」
「も、もちろん……そうだけど……。あ、俺やっぱりトイレの前がいいな、良くトイレ行くし!」
ビビってやがる。情けない。まぁ人の事は言えないが……。
「…。私はフリーアドレスでいい」
クリスは控えめにそう言ったが、神様に席が無いというのはちょっとマズい。
「あー、クリスは俺の隣にお願い。すぐに相談できる所に居て欲しい」
「…。そうか? まあ社長に任せるよ」
「じゃぁ、俺とクリスはここね!」
俺はタブレット上で机やいす、パーティションを並べ、数を数えた。
それからプリンタやネット機器、冷蔵庫に電子レンジ、必要そうなものを全部リストアップし適当にネットで発注しておいた。
1週間もすればオフィスとして稼働できるようになるだろう。
俺はリビングに大の字になって寝た。
レースのスクリーン越しに太陽がキラキラと光の粒子を放つ――――
俺はここに神様と天才と100億円を集めた。人類の想いを託す後継者を生み、育てるために。
人類は衰退して消え去るしかないが、我々の子供はその後も我々の想いを引き継いでこの地球で生き続ける。
それがただの墓守になってしまうのか、想像を絶する展開を招くのか俺には全く予想ができない。でも俺達が心を込めて育てた子供ならきっと心豊かな知的活動は今後も地球上で何十万年も何百万年も続けてくれるはずだ。
それが僕らの目標であり、深層後継者『シアン』に託す想いなのだ。
「誠さん! そんな所寝てたら踏むわよ!」
俺の感傷を一顧だにせず美奈ちゃんがゲシゲシ蹴ってくる。
「うわ! 何すんだよ!」
「いい? 見てて!」
そう言って美奈ちゃんは踊り始めた。
空中で右に左にステップを繰り返し、腕をクロスから伸ばし、戻す――――
静かな部屋にトン、タタン、トン、タタン、という美奈ちゃんのステップ音が響く。
そして、思い切り胸を反らし、指先は大きく弧を描く――――
俺はその指先にすっかり心奪われて動けなくなった。その踊りは神聖な……それこそ神懸かって見えた。
トン、タタン、トン、タタン、
静かなリビングで優美に舞う美奈ちゃんに俺達はくぎ付けだった。
ひとしきり踊ると美奈ちゃんは息づかい荒く水をゴクゴクと飲んだ。
「美奈ちゃん、すごいね。」
俺が声をかけると、
「新たに入居する時は、土地の神様に貢物がいるのよ」
と、さも当然のように話す。
地鎮祭みたいな物なんだろうけどずいぶん古風な考え方だな……
「あ、じゃ、今の踊りは神様への奉納なんだ」
「まぁ、挨拶みたいなもんよ」
そう言ってまた水を飲んだ。
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