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31. にゃんこ先生の真実

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「今回も引き分けとしようじゃないか」
 ゲルツは器用にくるくるっと短剣を回すと言った。
「それはならん。この空間ごと抹消する」
「ふーん、この娘がどうなってもいいんだ」
 そう言うとゲルツは芽依のブラウスを引き裂いた。
「いやぁ!」
 白い肌があらわにされ、芽依は何とか逃げようと身をよじる。
「動くなって言ってんだろ!」
 ゲルツは乱暴に短剣で芽依の腕をぶすりと刺した。
「うぎゃぁぁ!」
 芽依の叫びが部屋にこだまし、噴き出した鮮血が芽依の白い肌を赤く染めた。
 なっ!?
 和真はその鮮烈な赤色に脳髄が揺れるのを感じた。
 鼻の奥がツーンとしてくる。

 カチリ。

 心の中で何かのスイッチが入る。視野がぐんと暗く、狭くなった。
 その直後、和真の中で稲妻のような衝撃が走り、全てが繋がる。湧き上がってくる芽依への想いが和真の心の奥底のコアと共鳴し、全てがクリアになったのだ。
 ゾーンに入った和真には全てがスローモーションに見える。わめいて威嚇するゲルツ、泣き叫ぶ芽依。全てがゆっくりと流れている。
 そして、無表情のまま空間を裂き、静かに五光景長を引き抜く。
 ずしりとした重みのある五光景長はすでに青白い光を帯び、電子回路のような幾何学模様は和真の心拍に合わせて脈動している。
「小僧――――、無駄なあがきは――――止めろ――――」
 スローモーションの中であざけるゲルツ。
 和真は意に介さず上段に構え、ゲルツを見据えるとただ無心にブンと振り下ろした。
 その瞬間、五光景長は激しく輝き、その美しい刀身から光の刃が姿を現し、きらびやかな光を放ちながら軽やかに飛んだ。
 和真の想いを載せた刃は虹色のシールドをパキンと貫通し、そのままゲルツを真っ二つに切り裂く。
「バカな! ぐぁぁぁ――――!」
 断末魔の叫びをあげながら崩れ落ちるゲルツ。
 『全てを斬れるチート武器』というシアンの説明は正しかった。五光景長は金星よりもさらに根底のレイヤーのとんでもない代物らしい。

「芽依!」
 和真はダッシュして芽依に抱き着いた。
 このかけがえのない存在は決して失ってはならない。和真は無心でギュッと抱きしめる。
「和ちゃん! うわぁぁぁん!」
 芽依は涙をポロポロとこぼしながら和真の胸に顔をうずめ、和真はやさしく芽依の髪をなでた。

「バカ! まだじゃ!」
 レヴィアが叫んだ。
 ゲルツが身体をうごめかせていたのだ。なんと、真っ二つに切られたのにまだ動いている。
 レヴィアはすかさず衝撃波をゲルツに向けて放つ。
 しかし、一瞬遅く、
「貴様も……道連れだ!」
 そうわめいてゲルツは短剣を和真に放った。
「うわっ!」
 和真は回避が間に合わず、もう駄目だと思った瞬間、目の前を黒猫がさえぎった――――。

 ザスッ! と嫌な音が響き、ミィが床に転がって、辺りにふわふわの綿がバラバラとばらまかれていった。

「ミィ!」
 和真が駆け寄ると、ミィは真っ二つに切り裂かれ、ビクンビクンとけいれんを起こしていた。
「ゴメン! ミィ! ミィ――――!」
 泣き叫ぶ和真にミィがか細い声で言った。
「泣くな……。実は、もう契約終了……なんだ」
「え? 契約……?」
 するとミィの体は徐々に大きくなり、やがて人間の男性になった。なんとそれは和真のパパだった。
「パ、パパ?」
 あまりに事に唖然とする和真。
「お前と過ごせたこの数か月……、楽しかった。芽依ちゃんを大切に……。ママを……頼んだ……よ」
 するとパパの体はすぅっと薄くなっていき、やがて消えていった。
「パ、パパ――――!」
 和真は号泣した。
 ずっと一緒に親身にサポートしてくれていた黒猫。時には厳しく、時には楽しく、寝食を共にしながらテロリストを一緒に追い詰めた優秀なにゃんこ先生、それがまさかパパだったなんて全く気が付きもしなかったのだ。
「パパぁ……」
 あまりのことに和真は崩れ落ち、人目をはばからずに泣いた。
「悪かったな。規則で正体は明かせんかったんじゃ」
 レヴィアは優しく和真の背中をさすった。
「うわぁぁぁ!」
 覚えの悪い自分を、優しく愛情をこめてどこまでも付き合ってくれた優しいにゃんこ先生、それは親の愛だったのだ。無償の愛を当たり前のように受けて甘えていた自分。もう、お礼を言うこともできない。
 仇を討ったと思ったのに、またも死なせてしまった。いったい自分は何をやっているのか。
 自分のバカさ加減に呆れ果て、和真はポロポロと涙をこぼした。
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