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26. 初恋のラブレター

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「きゃははは! 少年! ご苦労!」
 声の方向を見上げると、シアンが青い髪から水をポタポタと滴らせながら笑っていた。
「あ、ありがとうございます」
 和真は宇宙最強の評議会幹部がなぜ毎度こんな登場をするのか理解できず、呆然としながら答えた。

「シ、シアン様!」
 レヴィアが飛び出してくる。
「おぅ、ギリギリだったねぇ」
「三日は無理ゲーですよ、ホント勘弁してください」
 レヴィアはうなだれながら言う。
「まぁ、結果オーライ! さぁ、飲むぞ!」
 シアンはウキウキしながら言った。
「エールしか……ないんですが……?」
 ユータは引きつった笑顔で答える。
「アルコール入ってりゃなんでもいいよ!」
 そういうと、シアンは水をポタポタたらしながらツーっと飛んだ。
「ちょ、ちょっと! 乾かしてから!」
 レヴィアが注意すると、
「うるさいなぁ、もぅ!」
 と、言って、犬みたいにブルブルブルっと体を震わせて水滴を吹き飛ばした。
「うひゃぁ!」「ひぃ!」
 いきなり降り注ぐ水しぶきにみんな顔をそむけた。

       ◇

 飲み会はさらにヒートアップしていく。
 シアンはエールのジョッキを一気すると、レヴィアをつついて言った。
「レヴィちゃんが部下を増やすなんて珍しいね。あー、あれか、初恋の彼に似てるからか」
「は、初恋!? な、何ですかそれ?」
 レヴィアはキョドりながらとぼける。
「ほら、ラブレターの!」
「ラブレターなんて書いたことないですが?」
 すると、シアンはガタっと立ち上がり、何かをそらんじ始めた。
「拝啓。新緑の美しい季節となってきました。いかがお過ごしでしょうか? 先日、私があなたに……」
 ブフッ!
 レヴィアはエールを吹きだし、慌ててシアンの口をふさぐ。
「手紙を勝手に読むのは犯罪です!」
 真っ赤になって怒るレヴィア。
「ごめんごめん、声に出して読みたい名文だったからつい」
「つい、じゃ、ありません!」
 すると、シアンは後ろの方からエールの樽を持ってきて、
「じゃあ、バツとして一気します!」
 と、嬉しそうにエールの樽をのふたをこぶしでパカンと割った。
 そしてひょいと持ち上げると傾け、樽のまま美味しそうに飲み始めた。
「よっ! 大統領!」
 ユータは楽しそうに煽った。
「んもー! バツになっとらんわい!」
 レヴィアも樽を手に取ると、負けずに一気し始める。
「よっ! ドラゴン! 待ってました!」
 ユータはパチパチと手を叩きながら盛り上げる。

 やがてシアンは樽を飲み干し、レヴィアは途中で目を回して倒れ込んだ。
「あぁ、レヴィア様ぁ」
 和真は心配そうに駆け寄ったが、
「か――――! エールは美味いのう!」
 と、レヴィアは幸せそうに笑った。

       ◇

 宴会は笑いが絶えず、大盛り上がりだった。
 満月が高く上り、疲れが出てきた和真があくびをしていると、ドロシーがニッコリしながら声をかけてきた。
「お布団用意しましたよ。休んでくださいね」
「え!? そんな、申し訳ないです」
「いいのいいの、お客さん来るなんて久しぶりでみんな嬉しいのよ」
 ドロシーは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます」
 確かに道もないこんな山奥ではご近所づきあいもないだろうし、寂しいところはあるのかもしれない。
 するとタニアがテコテコと歩いてきて、
「タニア! にゃんこと寝ゆ!」
 と、叫びながらミィを捕まえた。
「えっ!?」
 うつらうつらしていたミィはあっさり捕まって、
「うにゃぁ!」
 と、手足をバタバタさせながらタニアに回収されていった。

       ◇

 赤じゅうたんの上で和真が叫んだ。
「見つけたぞ! ゲルツ! パパの仇だ!」
「小僧、性懲しょうこりもなく……。返り討ちにしてやる!」
 ゲルツはそう言うと無数の妖魔を放った。紫色の瘴気を放ちながら飛びかかってくるコウモリの妖魔たち。
 和真は腕を青白く光らせると、研修で練習していた技で妖魔たちに衝撃波を浴びせ、一掃する。そして、一気にゲルツとの距離を詰めた。
 が、ゲルツはいつの間にか一人の男性を人質に取っている。
「えっ!?」
 なんと、それはパパだった。
 後ろ手に縛られたパパを盾のようにしてゲルツはにやける。
「どうした? ご自慢の衝撃波を撃ってみろ」
 グゥ……。
 和真は青白く光らせた腕を持て余し、凍り付く。
「和真! 逃げろ! ぐはぁ!」
 パパがいきなり真紅の血を吐いた。
 ぐぉぉぉ……。
 ゲルツが後ろから剣でパパを刺したのだ。
「パ、パパ――――!」
 和真はガバッと起き上がる。
 ハァハァと荒い息をしながら周りを見回すと、そこは布団の上、薄暗い寝室がただ静かに広がっているだけだった。
 レースのカーテンには満月の光が差し、ほのかにタニアとミィの寝顔を照らしている。
 和真は大きく息をつく。
「ふぅ……。夢か……」
 パパの吐いた血の鮮やかな赤色を思い出しながら首を振った。
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