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25. 偉くて強い

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 そのまま酒盛りに突入した一行は、昔話に花が咲いた。
 ユータは東京出身で、異世界転生後レヴィアと一緒にテロリストと死闘を繰り広げたらしく、とんでもないエピソードが次々と披露された。
「全長二百五十キロメートルの蜘蛛くもには驚かされましたね」
「脚の太さだけでも数キロあるしな。それが宇宙まで一直線にそびえとるんじゃ! お主ら、そんなの見たことあるか?」
「い、いや……」
 和真もミィも圧倒されっぱなしだった。やはり、テロリストと戦うというのは一筋縄ではいかない。ゲルツとの決戦を前に不安が胸中を渦巻く和真だった。

       ◇

 宴もたけなわとなり、和真はトイレに中座する。窓の向こうには夕暮れの富士山の絶景が広がり、帰りに思わず庭へと降りていった。
 ベンチに腰掛け、眼下に広がる芦ノ湖と、夕焼け空をバックにした富士山を静かに見入る。茜色の雲が富士山にかかり、まるで絵画のようなほれぼれとする光景だった。

「この星はまだ工業が発達して無いからね。空気がきれいで、夕焼けも鮮やかなんだ」
 ユータが後ろから声をかける。
 あっ……。
 和真は急いで会釈をした。
「このベンチは特等席だよ」
「凄い絶景ですね。こんなところに住むってとても贅沢……ですよね」
「ははは、和真君もこの仕事やってみるかい?」
「うーん……」
 和真は言葉につまる。星を管理する仕事、それは確かに魅力的だった。でも、さっき、自分は世界滅亡に魅力を感じて思わず世界を滅ぼしかけたのだ。そんな人間がやっていいものだろうか。
「実は……」
 和真はそれを正直に打ち明けた。
「なんだか自分が信じられなくなっちゃって……」
 はっはっは!
 ユータは景気よく笑う。
「え?」
 なぜ笑われたのか、和真は理解ができなかった。
「いやぁ、むしろ適正あると思うよ」
 ユータは平然と言う。
「適正?」
「人間なんてものはさ、魔がさしたり損得勘定に走ったり、実に不安定な生き物だと思うよ。なのに『自分だけは大丈夫』なんて言ってる奴がいたら、そっちの方が危ない」
「そういう……ものですか?」
「そうさ、『自分はヤバいかもしれないから気をつけよう』ってやつの方が信頼できるし、結果安定するんだよ」
「なるほど……。でも……自分は不登校で……」
 恥ずかしそうにうつむく和真。
 ユータはパンパンと和真の背中を叩いて言った。
「全然問題なし! 実は俺も、東京では引きこもりだったんだ」
「えっ!?」
「そう、どうしようもないクズだったんだ」
 ユータは肩をすくめて首を振った。
「それが何で……?」
「この星に転生させてもらって、守りたい人ができたんだよね。だからこんな仕事に就くようなことになった」
「あの、奥様……ですか?」
「そう。君も何か守りたい人ができたら……、道が見えてくるかもね」
 ユータはニコッと笑った。
「守りたい人……」
 和真は徐々に夕闇に沈んでいく富士山を見ながら一瞬芽依のことを思い浮かべ、ブンブンと首を振った。

 と、その時だった。群青ぐんじょうから茜色へのグラデーションの美しい西の空にツーっと流れ星が流れた。
「あっ! 流れ星!」
 思わず叫んだ和真だったが、どうも様子がおかしい。流れ星はゆっくりと進路を変え、こちらを目指しているような軌道を取った。
「あれ……?」
 ユータは首を傾げ、怪訝そうな顔で流れ星を凝視する。
 どんどんと輝きを増し、まぶしいくらいになった直後、それは富士山の山頂付近に激突した。
 閃光が走り、富士山は大爆発を起こす。
 うわぁぁぁ!
 思わず叫ぶ和真。
 しかし、流れ星は止まらず、そのまま芦ノ湖へと墜落し、大爆発を起こした。高さ数百メートルに達する壮大な水柱を見ながら和真は叫んだ。
「な、なんですかあれ?」
 すると、ユータは額に手を当ててうつむいている。どうやら心当たりがあるようだ。
 そして、それはシンガポールのデジャブだった。

 ズン!
 爆発の衝撃波が届き、森の木々が一斉にきしみ、木の葉を散らした。
 ひぃぃぃ!
 和真は思わずベンチから転げ落ちる。

 しばらくして落ち着いたころ、和真はユータに聞いた。
「もしかして、女の子だったり……します?」
「ふぅ……、よく分かったね。宇宙最強の称号を持つ評議会幹部、シアン様だ」
 ユータはそう言って渋い顔をしながらうなずいた。
「偉くて……強い?」
「あぁそりゃもう」
 ユータは肩をすくめた。
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