24 / 37
24. パラレルワールドの幼女
しおりを挟む
「ヨーシ! しばらくメンテだからどっか別の星に行って美味いもんでも食うぞ!」
レヴィアは上機嫌に和真の背中をバンバンと叩いた。
「べ、別の星? ゲルツは?」
「メンテに入った地球では何もできん。決戦はメンテ後じゃ。メンテしてない星に視察がてら乗り込むぞ」
「は、はぁ……」
別の星というのは言わばパラレルワールドなのだろう。一体どんなところなのだろうか? 想像もしていなかった事態に期待と不安で鼓動が高鳴る。
ミィを見ると眉間にしわを寄せている。ミィにとっても初めてらしい。
和真はミィをギュッと抱きしめた。
◇
気が付くと和真は澄み通った青空に浮かんでいた。
目の前にはドーンと冠雪した富士山があり、足元には湖が広がっている。芦ノ湖……だろうか?
しかし、湖畔には何の建物もなく、ただ、森が広がっているだけだった。なるほど、パラレルワールドの箱根にはまだ人の手が入っていないらしい。
振り返ると伊豆半島、そして相模湾がゆったりと弓なりに湘南の方へと砂浜をつなぎ、遠くには江の島が見える。
「えーっと、あの辺りじゃったかな?」
レヴィアは和真の手を引いてツーっと稜線へと降りていく。
「どこ行くんですか?」
「部下の家じゃ」
「え? いきなり行っていいんですか?」
「抜き打ちの視察じゃ。ちゃんとやってるかどうかたまには見てやらんと! キャハッ!」
和真はパワハラっぽいレヴィアの行動に不安を感じた。
◇
稜線近くの見晴らしのきく森の中にポツンとモダンな家が見えてきた。ガラスと木材で作られた立方体の建物には道路もなく、ただ静かに富士山と芦ノ湖を見渡せる絶好のロケーションにたたずんでいた。
レヴィアは庭にシュタッと着地すると、玄関の呼び鈴を押した。
トタトタトタと足音が聞こえ、ガチャリ、とドアが開く。そして、ひょこっと可愛い幼女が顔を見せた。
「おや、タニアちゃん、お姉さんのこと覚えとるかぁ?」
レヴィアはしゃがんでニコッと笑いかける。
タニアは眉にしわを寄せると、そのままドアをガチャっと閉じた。
「……」
無表情になるレヴィア。気まずい時間が流れる。
「あー! レヴィア様! いらっしゃるなら一言おっしゃって下されば!」
そう言いながら二階のベランダからアラサーの男性が飛び降りてくる。彼がレヴィアの部下のユータだった。
「タニアは何? 我のこと嫌いなの?」
渋い顔をしてジト目でユータを見るレヴィア。
「い、いや、そんなことないですよ。あの子は人見知りが激しくって」
冷や汗を流すユータ。
「ふーん、で、どうなの最近?」
「立ち話もなんですので、お茶でも入れます。どうぞどうぞ」
ユータはそう言って一行を応接間に招いた。
◇
「えーと、こちらがこの星の人口の推移で、これが文化指数です」
ユータは空中にグラフを表示させながら活動報告をする。
「なんじゃ、全然伸びとらんじゃないか!」
レヴィアは八つ当たりのように不満をぶつける。タニアに嫌われたのがよほどショックだったらしい。
「い、いや、去年流行り病がありましてですね……」
いやな静けさが流れた。
レヴィアはしばらく腕を組んで考え、
「あー、あれだ。魔物と魔法そろそろ止めてみんか?」
そう言うと、レヴィアはコーヒーを一口すすった。
「えっ!? 止めちゃう……んですか? 魔法なくしたら相当混乱しますよ?」
「魔法は便利すぎて文明が発達しないって論文が出とるぞ。後で送っとく」
「は、はぁ……」
ユータは暗い顔でうつむいた。
ガチャリ。ドアが開き、ユータの奥さんが焼いたばかりのクッキーを持ってやってくる。
「お口に合うかわかりませんが……」
「おぉ、ドロシー。いきなり来て悪いな。クッキーもええんじゃが、エールはないか?」
いきなり酒を要求するレヴィア。
「え? エール……ですか?」
ドロシーは戸惑い、ユータを見る。
ユータはニヤッと笑い、うなずくと、
「持ってきます!」
と、急いで部屋を出ていった。
「あ! にゃんこ!」
ドアの向こうで様子をうかがっていたタニアがミィに駆け寄る。
「へ!?」
和真の膝の上で丸くなっていたミィは、いきなりの幼女の接近に対応が遅れ、そのままタニアに捕まってしまう。
「にゃんこ! にゃんこ!」
タニアはミィを引きずり下ろすと抱きかかえ、興奮しながらぶんぶんと振り回す。
「ちょ、ちょっと待つにゃ! うわぁぁぁ!」
ミィはもみくちゃにされ、目をぐるぐる回し、タニアは嬉しくて『きゃはぁ!』と歓声を上げた。
レヴィアは上機嫌に和真の背中をバンバンと叩いた。
「べ、別の星? ゲルツは?」
「メンテに入った地球では何もできん。決戦はメンテ後じゃ。メンテしてない星に視察がてら乗り込むぞ」
「は、はぁ……」
別の星というのは言わばパラレルワールドなのだろう。一体どんなところなのだろうか? 想像もしていなかった事態に期待と不安で鼓動が高鳴る。
ミィを見ると眉間にしわを寄せている。ミィにとっても初めてらしい。
和真はミィをギュッと抱きしめた。
◇
気が付くと和真は澄み通った青空に浮かんでいた。
目の前にはドーンと冠雪した富士山があり、足元には湖が広がっている。芦ノ湖……だろうか?
しかし、湖畔には何の建物もなく、ただ、森が広がっているだけだった。なるほど、パラレルワールドの箱根にはまだ人の手が入っていないらしい。
振り返ると伊豆半島、そして相模湾がゆったりと弓なりに湘南の方へと砂浜をつなぎ、遠くには江の島が見える。
「えーっと、あの辺りじゃったかな?」
レヴィアは和真の手を引いてツーっと稜線へと降りていく。
「どこ行くんですか?」
「部下の家じゃ」
「え? いきなり行っていいんですか?」
「抜き打ちの視察じゃ。ちゃんとやってるかどうかたまには見てやらんと! キャハッ!」
和真はパワハラっぽいレヴィアの行動に不安を感じた。
◇
稜線近くの見晴らしのきく森の中にポツンとモダンな家が見えてきた。ガラスと木材で作られた立方体の建物には道路もなく、ただ静かに富士山と芦ノ湖を見渡せる絶好のロケーションにたたずんでいた。
レヴィアは庭にシュタッと着地すると、玄関の呼び鈴を押した。
トタトタトタと足音が聞こえ、ガチャリ、とドアが開く。そして、ひょこっと可愛い幼女が顔を見せた。
「おや、タニアちゃん、お姉さんのこと覚えとるかぁ?」
レヴィアはしゃがんでニコッと笑いかける。
タニアは眉にしわを寄せると、そのままドアをガチャっと閉じた。
「……」
無表情になるレヴィア。気まずい時間が流れる。
「あー! レヴィア様! いらっしゃるなら一言おっしゃって下されば!」
そう言いながら二階のベランダからアラサーの男性が飛び降りてくる。彼がレヴィアの部下のユータだった。
「タニアは何? 我のこと嫌いなの?」
渋い顔をしてジト目でユータを見るレヴィア。
「い、いや、そんなことないですよ。あの子は人見知りが激しくって」
冷や汗を流すユータ。
「ふーん、で、どうなの最近?」
「立ち話もなんですので、お茶でも入れます。どうぞどうぞ」
ユータはそう言って一行を応接間に招いた。
◇
「えーと、こちらがこの星の人口の推移で、これが文化指数です」
ユータは空中にグラフを表示させながら活動報告をする。
「なんじゃ、全然伸びとらんじゃないか!」
レヴィアは八つ当たりのように不満をぶつける。タニアに嫌われたのがよほどショックだったらしい。
「い、いや、去年流行り病がありましてですね……」
いやな静けさが流れた。
レヴィアはしばらく腕を組んで考え、
「あー、あれだ。魔物と魔法そろそろ止めてみんか?」
そう言うと、レヴィアはコーヒーを一口すすった。
「えっ!? 止めちゃう……んですか? 魔法なくしたら相当混乱しますよ?」
「魔法は便利すぎて文明が発達しないって論文が出とるぞ。後で送っとく」
「は、はぁ……」
ユータは暗い顔でうつむいた。
ガチャリ。ドアが開き、ユータの奥さんが焼いたばかりのクッキーを持ってやってくる。
「お口に合うかわかりませんが……」
「おぉ、ドロシー。いきなり来て悪いな。クッキーもええんじゃが、エールはないか?」
いきなり酒を要求するレヴィア。
「え? エール……ですか?」
ドロシーは戸惑い、ユータを見る。
ユータはニヤッと笑い、うなずくと、
「持ってきます!」
と、急いで部屋を出ていった。
「あ! にゃんこ!」
ドアの向こうで様子をうかがっていたタニアがミィに駆け寄る。
「へ!?」
和真の膝の上で丸くなっていたミィは、いきなりの幼女の接近に対応が遅れ、そのままタニアに捕まってしまう。
「にゃんこ! にゃんこ!」
タニアはミィを引きずり下ろすと抱きかかえ、興奮しながらぶんぶんと振り回す。
「ちょ、ちょっと待つにゃ! うわぁぁぁ!」
ミィはもみくちゃにされ、目をぐるぐる回し、タニアは嬉しくて『きゃはぁ!』と歓声を上げた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる