猫とドラゴンを連れ、少年は宇宙へ ~神様はメタバースの向こうに~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
20 / 37

20. 地球滅亡のお知らせ

しおりを挟む
「くぅ……」
 和真はポタポタと涙をこぼす。ようやく捕まえたパパの仇をみすみす逃がしてしまったのだ。これでまた振り出しである。
 それもカッとなって殴りかかって醜態までさらしてしまった。いったい自分は何をやっているのだろうか?
 和真はあまりの情けなさに涙が止まらなかった。
 そんな和真の背中を、ミィは心配そうにそっとさすった。
 レヴィアは空中に黒い画面を開き、流れるデータを見つめながら、
「このくらいで泣くな!」
 と、発破をかける。
「だって……。あのコードは何なんですか?」
「あれは対テロリスト用極秘プロジェクトの秘密コードじゃ。あれを知っとるということはアカシックレコードに工作されている可能性が高い。つまり、直せない核攻撃を撃たれるってことじゃ」
「えっ!?」
 和真は真っ青になった。
 数百万人の命をゲルツに握られてしまっているということなのだ。
「ど、どうすれば……」
「情けない顔すんな! おっ……、よしよし」
 レヴィアは画面を見ながらニヤッと笑った。
 ミィはピョンとレヴィアの肩に乗り、画面をのぞき込む。そして、目を丸くして言った。
「こ、これは……、もしかして」
「そう、ゲルツのアジトをついに発見したぞい」
「えっ? ど、どうやって?」
 和真は飛び上がって画面をのぞき込む。
「お主がへなちょこパンチを撃った時な、一瞬ヤツの注意がそれたんじゃ。その瞬間にマーカーを打っておいたんじゃ。まぁ、お主のお手柄じゃな、うっしっし」
 レヴィアは優しい目で和真を見た。
「や、やったぁ!」
 和真は思わずこぶしを握ってガッツポーズをする。
 と、その時だった。

 ズン!
 激しい衝撃音がして激しい地震のような揺れが襲った。
「うわぁぁぁ! じ、地震!?」
 慌てる和真にミィが言った。
「シンガポールに地震なんてないにゃ!」
 すると、メリメリッ! バキバキッ! と、解体工事現場のような轟音を上げながら何か巨大なものが迫ってくるのが見えた。
「うわっ! なんか来ますよ!」
 和真は思わずレヴィアの腕に抱き着いた。
 見ると、レヴィアは額に手を当ててうなだれている。心当たりがあるらしい。
「えっ!? 何ですかあれ?」
 四フロアをぶち抜きながら土ぼこりを巻き上げて迫るそれの姿が、徐々に見えてきた。
 なんだか白い巨大な顔のようなものが見える。
「マーライオンじゃよ……、はぁ……」
 レヴィアはため息交じりに言った。
「へ? マーライオン?」
 土埃の中から現れたのは顔がライオン、体が魚の巨大な像、マーライオンだった。
 高さ八メートルを超えるマーライオンは、電気の配線を引きちぎり、あちこちからパチパチと閃光を放ちながらカジノのテーブルを弾き飛ばし、迫ってくる。
 和真は真っ青になって叫んだ。
「に、逃げましょう!」
 しかし、レヴィアは悟ったような目でただ、見つめるばかりだった。

 すると、マーライオンは、急にピタッと止まる。
 そして和真たちの方を向くと、口から威勢よく水を吐き出した。
 うわぁぁぁ!
 滝のように放たれた水はしぶきをまき散らし、カジノのテーブルを吹き飛ばしながら和真たちに迫り、レヴィアは渋い顔をしながらシールドを張ってそれを防いだ。

「きゃははは!」
 若い女の笑い声が響き、青い髪の少女がまるでウォータースライダーのように水に乗って威勢よく降りてくる。
「あ、あの人は?」
 和真が聞くと、レヴィアは、
「我の上司じゃ」
 と、苦虫をかみつぶしたような顔で答えた。
 やがて少女はレヴィアのシールドのところまで来ると、
「ドーン!」
 と、言いながらシールドを粉々に砕き、大量の水と共に和真たちを押し流した。
「うわぁぁぁ!」「ひぃ!」「ちょっともう!」
 口々にわめきながら流されていく一行。
 和真は必死に何かに捕まろうともがいたが、急に体が浮き上がり、気が付くと二階の床に飛ばされてしりもちをついた。
「あー、楽しかった!」
 少女は美しくきらめく青い髪からしずくをポタポタとしたたらせ、屈託のない笑顔で笑った。
 これがドラゴンの上司。和真はとてもそうは見えない可愛く無邪気な笑顔に戸惑いを覚える。
「シアン様! 普通に登場されてくださいよ!」
 プリプリと怒るレヴィア。
「いやー、やっぱりシンガポール来たらさ、シーライオンじゃん?」
 シアンと呼ばれた少女は全く悪びれることなく答える。
「この壊れたビル、どうするんですか?」
「こんなのすぐ直せるでしょ? よろしく!」
 ムッとした表情で言葉をなくすレヴィア。
「でね、評議会からの通達! この地球は廃棄だって。猶予ゆうよは三日!」
 いきなり嬉しそうに地球滅亡を予告するシアン。
「へっ! マジで……?」
 レヴィアは顔面蒼白となって固まる。
「極秘プロジェクト漏れちゃってるの、みんなカンカンなんだよねぇ」
 口をとがらせて小首をかしげるシアン。
「いや、それは何とかしますって!」
「三日で何とかすればセーフ!」
 ニコッと笑うシアン。
「み、三日って……」
「おっといけない! パパが呼んでる! それじゃ、チャオ!」
 シアンはそう言うと、全身を青白く光らせ、ふわりと浮かび上がると、
 ドン!
 と、衝撃波を発しながら天井めがけてとんでもない速度ですっ飛んだ。
 建物には大穴が開き、瓦礫がバラバラと降ってくる。
「もー! ちょっと! 何でこんなことするんじゃあ!」
 レヴィアは頭を抱えながら叫ぶ。
 和真はミィと顔を見合わせ、想像を絶する事態の進行に戸惑い、渋い顔で首をかしげた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

処理中です...