世界は今、少年の可愛いお尻に託された ~便意を我慢できたら宇宙最強!? クソ真面目転生者の肛門活躍記~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
37 / 45

36. 私が魔王です

しおりを挟む
 青いローブ姿の二人は教会までやってきた。

 すでに陽は落ち、こじんまりとした三角屋根の建物には煌々こうこうと明りが灯り、暮れなずむ街の景色の中で人目を引いている。

 入口にはすでに大勢の純潔教の信者が行列を作り、ベンもベネデッタと共に最後尾についた。

 ベンは男だということがバレないように、辺りを気にしながらそっとフードを深くかぶりなおす。

 前に並んでいる女の子は友達と一緒に来たようで、楽しげにガールズトークをしながら順番を待っていた。

 これから街の人たちを虐殺するテロリストのはずなのに、なぜこんなに楽しげなのかベンには理解できない。この軽いノリで次々と人々を殺していくのだろうか?

 彼らが自分を襲って来るのなら自分は殺すしかない。しかし、ためらうことなくそんなことができるものだろうか? 社会の理不尽さ、狂った現実にベンは押しつぶされそうになる。

 女の子たちは楽しそうに笑い声をあげ、ベンは深くため息を漏らして首を振った。


 やがて二人の番がやってくる。

 シアンに髪の色と目の色を変えてもらったベネデッタが、おずおずと招待状を受付嬢に渡す。ブロンド碧眼は茶髪黒目になってしまったが、それでも気品ある美しさは変わらなかった。

 受付嬢は、チラッとベネデッタの顔を見て、招待状の番号を確認し、

「はい、9436番! お名前は?」

 と、いいながらシートに何かを書き込んでいる。

 えっ?

 名前を聞かれるなんて聞いていなかったベネデッタは、引きつった顔でベンと目を合わせる。

 しかし、ベンもそんなことは聞いていないからどう答えたらいいか分からない。この招待状を捏造ねつぞうしたときに使った名前、それが何かだなんて分かりようもなかった。

 ベンは顔面蒼白になってブンブンと首を振る。二人は極めてヤバい事態に追い込まれた。

 すると、ベネデッタは意を決して、

「シアンです」

 と、目をつぶったまま言い切る。

「えーと、シアンちゃんね。ハイ、OK!」

 そう言ってベネデッタにネックストラップを渡した。

 なんという洞察力と度胸。ベンは目を丸くしてベネデッタが通過していくのを眺めていた。

 しかし、自分は何と答えたらいいのか?

 【ベン】は明らかに男の名前だから違う。だとしたら何だろうか?

 魔王が登録しそうな女の名前……。

 全く分からない!

「はい、9435番! お名前は?」

 受付嬢が聞いてくるが、答えようがない。ベンは目をギュッとつぶり、途方に暮れる。

 名前が違うということになれば明らかに不審者だ。警備の者が呼ばれ、ここでドンパチが始まってしまう。

 そうなると、もう二度と集会潜入などできなくなり、テロの阻止の難度はグッと上がってしまう。

 くぅぅぅ……。

 万事休す。

 ベンは大きく息をつき、意を決すると金属ベルトのボタンに手をかけた。

 騒がれたらすかさずボタンを押し、入り口をダッシュで突破し、一気に会場に突入。そして、教祖を見つけ次第もう一回ボタンを押して瞬殺する……。

 できるのかそんなこと?

 ドクンドクンと激しく打つ心臓の音が聞こえてくる。

「早く、名前!」
 
 受付嬢はイライラした声をあげる。

 よし、勝負だ。

 ベンは大きく息をつき、覚悟を決め、受付嬢をじっと見据えると。

「魔王です」

 と、言ってニヤッと笑った。潜入する受付で【魔王】を自称するとは余程のお馬鹿だが、もう女の子の名前なんて一つも思い浮かばなかったのだ。

 すると、受付嬢は

「ハイハイ、マオちゃんね。ハイ、OK!」

 そう言ってストラップをベンに渡した。

 え?

 これから殺し殺される凄惨なシーンを覚悟してたベンは肩透かしを食らい、目を真ん丸に見開いて固まる。

「早く受け取って!」

 受付嬢はキッとベンをにらみ、ベンはキツネにつままれたように呆然としながらそっとストラップを受け取った。

 正解が【魔王まお】とか、あの人はいったい何を考えているのだろうか? ベンは無駄に気疲れてしまった重い足取りでベネデッタの後を追った。


       ◇


 ベンは会場内に入り、コンサート会場のような観客席に座ると、

「ちょっと、魔王たち何なんですかね? 情報はしっかり伝えるのが社会人の基本じゃないんですかね?」

 と、小声でベネデッタに愚痴を言う。

「きっと名前のチェックがあるなんて思ってなかったのですわ」

 ベネデッタはなだめるように返した。

 ベンは肩をすくめ、渋い顔で首を振った。

 見回すと大きなステージに広い観客席。もう七割くらいは席が埋まっているだろうか? あの小さな教会の中がこうなっているだなんて明らかに異常である。やはり管理者権限を使った異空間なのだろう。一度閉じられたらもう教祖を倒すまで逃げられないし、助けも期待できない。

 見渡す限り全ての女の子が敵なのである。ベンは改めて強烈なアウェイにいることを感じ、胃がキリキリと痛んだ。

 そんな様子を見ながらベネデッタは、

「これが終わったら日本ですわ。大きなお屋敷を買って一緒に暮らすっていかがかしら?」

 そう言ってニコッと笑った。緊張をほぐそうとしているのだろう。

 ただ、ベネデッタがイメージしているのは離宮のような屋敷なのだろうが、日本にはそんなのは売ってない。

 建てるか? 百億で? どんな成金だろうか?

 そんなことを考えてベンは思わずクスッと笑ってしまった。

「あら、お嫌ですこと?」

 ベネデッタは口をとがらせる。

「あ、いやいや、楽しみになってきました。ベネデッタさん好みの素敵なお屋敷を建てましょう」

 ベンはニコッと笑ってそう言った。

 ベネデッタはほほを赤く染め、うなずく。

 と、その時、急に照明が落とされ、ステージの女性にスポットライトが当たった。いよいよ運命の時がやってきたのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...