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30. YES! 百億円!

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「えっ!? なんで僕なんですか?」

「悪い奴に見つかったという事かな。そいつ倒したら日本への移住認めるから頑張って」

 シアンは羽をパタパタさせながら嬉しそうに言う。

「え――――、嫌ですよ。日本で暮らすってのも楽じゃないし、絶対やりません!」

 ベンは毅然として断った。ベネデッタは来たいというが、日本に来たら一般人だ。どうやって暮らしていくつもりなのか?

「百億円」

 シアンはニコッと笑って言った。

「は? 百億……?」

「日本移住時には支度金として百億あげるよ。きゃははは!」

「マ、マジですか……」

 ベンは言葉を失った。百億もあれば大きな家を買って一生のんびり暮らせる。いや、ハワイにパリにニューヨークにあちこちに別荘買って毎日豪遊。そして、マチュピチュにピラミッド、南極に観光に行っちゃうぞ。夢のようじゃないか。

 便意を我慢するだけでそんな夢のような生活しちゃっていいのだろうか?

 YES! 百億! 百億!

 ベンは思わずガッツポーズをする。頭の中には札束のイメージがグルグルと巡った。

「や、やります! やらせてください!」

 ベンはパタパタと羽をはばたかせて浮いているシアンの可愛い手を、指先でキュッとつまんで言った。ベンの目には【¥】マークが浮かんでいた。

「うんうん、じゃ、その腰のところのボタン押して」

 シアンは魔王が作ったガジェットを使えと言う。

「わ、わかりました……。これかな?」

 ベンは金属のベルトのところに丸くへこんでいるところのボタンをポチっと押し込んだ。

 バシュッ!

 プラスチックノズルから何かが噴射され、まるで強すぎるウォシュレットのように何かが肛門を越えて入ってきた。

 ふぐっ……。

 ベンは腰が引け、目を白黒させてその異様な感覚に戸惑う。

 ぐー、ぎゅるぎゅるぎゅ――――。

 直後襲ってくる強烈な便意。それは水筒浣腸などとはくらべものにならない強烈で鮮烈な便意だった。

 ぐはぁ……。

 ポロン! ポロン! ポロン! と電子音が続き、一気に『×1000』まで表示が駆けあがる。

 激しい便意に耐えられず、思わず床にへたり込んでしまうベン。

「あれ? 千倍止まりかぁ……」

 シアンは不満げに首をかしげると、ベンのベルトのところまでパタパタと飛び、ボタンをポチっと押し込んだ。

 バシュッ!

 再度強烈な噴射がベンの肛門を襲う。

 ぐわぁぁぁ!!

 悶絶するベン。

「な、何すんだこのクソ女神!!」

 ベンは床でもだえ苦しみながら悪態をつく。

 ポロン! と電子音がして、『×10000』の表示になった。

「うん、これならあの【ヒュドラ】に勝てるねっ」

 シアンは満足げに言うが、ベンは床で脂汗を垂らしながら失神寸前である。

 漏れる……、漏れる……、くぅぅぅ……。

「ベン君!」

 ベネデッタは駆け寄って介抱する。そして、手を組んで祈り、神聖魔法で何とか苦痛を和らげていく。

 シアンはもだえ苦しむベンを見ながら、

「これじゃヒュドラと戦えないなぁ」

 と、腕を組んで首をかしげる。

「ちょ、ちょっとトイレ……」

 ベンはよろよろと立ち上がる。

「ダメだよ! 出しちゃったらヒュドラどうすんのさ! 百億円は払えないよ!」

「こんなんで闘えるわけないだろ!」

 ベンは下腹部を押さえて怒る。

「うーん、困ったなぁ……」

 シアンは眉をひそめ考え込む。

 そして何か閃いて、ポン! 手を打つと、

「よし、じゃあ戦わなくていいよ。僕が何とかするから言うとおりにして」

 と言って悪い顔で笑った。

「分かった、何でもいいから早くして!」

 ベンは脂汗を垂らしながら答える。

「まず、飛行魔法をインストールしてあげよう。出血大サービスだよっ!」

 と、いいながら、シアンはベンの身体を青く光らせた。

「これで空も自由自在に飛べるはずさ」

「え? 飛べる?」

「そう。行きたい方向に意識を向けるだけで飛べるんだゾ」

 そう言いながらシアンはベンの身体を空中に浮かべ、テラスの外へと運んでいく。

「ど、どこに行くの?」

 フワフワと運ばれて焦るベン。

 シアンはロープを出すとベンの腰の金属ベルトに結び、そして、端を金属の手すりに結んだ。

「はい、ヒュドラ向けて浮いて――――」

「いや、ちょっとそれどころじゃない……」

 お腹を押さえて苦悶の表情を浮かべるベン。

 するとシアンはニヤッと笑い、

「ひゃく・おく・えん! ひゃく・おく・えん!」

 と、耳元で囃し立てた。

 くぅぅぅ……。

 ベンは歯を食いしばる。

 そうだ。百億円! 日本でFIREな暮らしを手に入れるのだ。便意ごときに負けてはいられない!

 ベンはお腹を押さえながら行きたい方向をイメージしてみた。

 身体がグンと引っ張られ、ロープがピンと張った。

「お、いいねいいね! あー、もうちょっと右!」

 シアンは片目をつぶりながら飛ぶ方向を指示していく。

「こ、こう……?」

 ベンは何をやらされているのかよく分からなかったが、言うとおりに飛行魔法を調整していった。

「いいねいいね! じゃ、全力だして、一万倍だよ!」

 は、はぁ……?

 ベンは何度か深呼吸を繰り返すと、飛行魔法に意識を集中していった。ロープはものすごい力で引っ張られてビキビキっと音を立てている。

 やがて手すりが引っこ抜けそうになるくらい飛行魔法のエネルギーがたまると、シアンは、

「じゃぁこぶしを伸ばしてー」

 と、言った。

 金属ベルトが下腹部に食い込んでいくのに必死に耐えながら、

「こ、こうですか?」

 と、息も絶え絶えにベンは答えた。

「いいねいいねー! では、いってらっしゃーい! きゃははは!」

 シアンは嬉しそうにロープを手刀でぶった切った。

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