28 / 45
27. 目覚めるベン
しおりを挟む
二人は重厚な革張りのソファーに案内された。新鮮な革のいい匂いがふわっと上がり、座り心地も上々だった。
ベンはコーラをグッと傾ける。
シュワーー! と口の中に広がる炭酸、スパイシーなフレイバーが鼻に抜け、舌に広がる甘味……。ベンは思わず目をつぶり、その懐かしの味をゆっくりと味わった。そう、これ、これなのだ。日本での暮らしがフラッシュバックし、思わず目頭が熱くなる。
最後はブラック企業に潰されてしまったが、日本での漫画、アニメ、ジャンクフード、それはベンの身体の一部となっているのだ。
久しぶりに出会えたジャンクな味にベンは言葉を失い、ただその味覚に呼び覚まされる日本での暮らしを懐かしく思い出していった。
ゴホッゴホッ!
隣でベネデッタがせき込んでいる。
「あ、無理して飲まなくていいですよ。ジャンクな飲み物なのでお口に合わないかと」
するとベネデッタは渋い顔をしながらコーラをテーブルに戻した。
「はははっ、いきなりコーラは難しかったかな?」
魔王がやってきて向かいにズシンと座った。
「あなたが魔物の頂点、魔王……なんですか?」
ベンは切り出した。
すると、魔王は愉快そうに笑って言った。
「いかにも魔王だが、頂点って言うのは違うな。魔物の管理者だよ」
「管理者……?」
ベンは何を言われたのか分からなかった。
「見てみるかい?」
そう言うと、魔王は巨大な画面を空中に展開した。そこには広大な地図と無数の赤い点が映っている。そして、魔王は両手で地図を拡大していき、
「この点が魔物なんだよね」
と言いながら、そのうちの一つの点をタップした。
するといきなり画面は森の中の映像となり、真ん中にゴブリンがうろついている。周りにはウインドウが開き、各種パラメーターが並んでいた。その画面は日本にいた時に遊んでいたVRMMOのゲーム画面そのものに見える。
「まるで……、ゲームですね……」
ベンは眉をひそめながら言った。
「うんまぁ仕組みは一緒だね」
そう言いながら魔王はゴブリンのパラメーターをいじっていく。すると、ゴブリンはどんどん大きくなり、ボン! と音がして筋骨隆々としたホブゴブリンへと進化した。
ベンは唖然とした。魔物はこうやって管理されていたのだ。なぜ魔物は倒すと消えて魔石になってしまうのか、とずっと不思議に思っていたが、謎が解けた気がした。魔物はいわばNPCなのだ。コンピューターシステムが生み出したキャラクターであり、生き物ではないのだ。
だが、ここでベンは背筋にゾクッと冷たいものが走るのを感じた。NPCが居るということは、この世界は造られた世界なのではないだろうか? 言わばこの世界全体がVRMMOのようなコンピューターによって創られた世界……。
バカな……。
ベンは急いで自分の手のひらを見てみた。細かく刻まれたしわ、そしてそれを縫うように展開される指紋の筋、その奥の青や赤の微細な血管。それらは指が動くたびにしなやかに変形し様相を変えていく。こんな芸当ができるVRMMOなんてありえない。ベンはグッとこぶしを握った。
しかし、ここで嫌なことを思い出す。自分は一度死んでいたのだ。死んだ者が生き返る、それは明らかに自然の摂理から逸脱した行為である。つまり、自分自身そのものが自然の法則を破っている証拠になってしまっているのだ。ベンはその事実に愕然となった。
「どうした、ベン君? もう目覚めてしまったかな?」
魔王はニヤッと笑って言う。
ベンはうつろな目で首を振り、そして頭を抱えた。
「まぁ、目覚めたかどうかなんてどうでもいい。それより今日はお願いがあってね……」
そう言いながら、空中を裂き、空間の裂け目からガジェットを取り出すとガン! とテーブルの上に置いた。
それは金属の輪にプラスチックのアームがニョキっと生えたような代物だった。
「何ですかこれ?」
ベンはそれを持ち上げてみる。金属の輪は腕時計のベルトのように一か所ガチャっと外せるようになっていた。
「それ、履いてみてくれる?」
魔王は意味不明なことを言って、コーラをゴクゴクと飲んだ。
はぁっ!?
言われて初めて気が付いたが、これは言わばふんどしみたいな物だったのだ。
「ここにボタンがあってね、いざと言う時にここを押すとプラスチックノズルの先から肛門内へ薬剤が噴射されて、一気に便意が高まるという……」
魔王が説明を始めたが、ベンは頭に血が上ってガン! とガジェットを机に叩きつけた。
「嫌ですよ! なんでこんなもん履かなきゃならないんですか!」
顔を真っ赤にして怒るベン。
「あー、ゴメンゴメン。話を端折りすぎたな……。そうだ! 今晩恵比寿で焼肉の会食があるんだけど来る?」
魔王はニコニコしながらとんでもない事を言った。もう久しく聞いていない単語【恵比寿】、【焼肉】にベンは耳を疑った。
ベンはコーラをグッと傾ける。
シュワーー! と口の中に広がる炭酸、スパイシーなフレイバーが鼻に抜け、舌に広がる甘味……。ベンは思わず目をつぶり、その懐かしの味をゆっくりと味わった。そう、これ、これなのだ。日本での暮らしがフラッシュバックし、思わず目頭が熱くなる。
最後はブラック企業に潰されてしまったが、日本での漫画、アニメ、ジャンクフード、それはベンの身体の一部となっているのだ。
久しぶりに出会えたジャンクな味にベンは言葉を失い、ただその味覚に呼び覚まされる日本での暮らしを懐かしく思い出していった。
ゴホッゴホッ!
隣でベネデッタがせき込んでいる。
「あ、無理して飲まなくていいですよ。ジャンクな飲み物なのでお口に合わないかと」
するとベネデッタは渋い顔をしながらコーラをテーブルに戻した。
「はははっ、いきなりコーラは難しかったかな?」
魔王がやってきて向かいにズシンと座った。
「あなたが魔物の頂点、魔王……なんですか?」
ベンは切り出した。
すると、魔王は愉快そうに笑って言った。
「いかにも魔王だが、頂点って言うのは違うな。魔物の管理者だよ」
「管理者……?」
ベンは何を言われたのか分からなかった。
「見てみるかい?」
そう言うと、魔王は巨大な画面を空中に展開した。そこには広大な地図と無数の赤い点が映っている。そして、魔王は両手で地図を拡大していき、
「この点が魔物なんだよね」
と言いながら、そのうちの一つの点をタップした。
するといきなり画面は森の中の映像となり、真ん中にゴブリンがうろついている。周りにはウインドウが開き、各種パラメーターが並んでいた。その画面は日本にいた時に遊んでいたVRMMOのゲーム画面そのものに見える。
「まるで……、ゲームですね……」
ベンは眉をひそめながら言った。
「うんまぁ仕組みは一緒だね」
そう言いながら魔王はゴブリンのパラメーターをいじっていく。すると、ゴブリンはどんどん大きくなり、ボン! と音がして筋骨隆々としたホブゴブリンへと進化した。
ベンは唖然とした。魔物はこうやって管理されていたのだ。なぜ魔物は倒すと消えて魔石になってしまうのか、とずっと不思議に思っていたが、謎が解けた気がした。魔物はいわばNPCなのだ。コンピューターシステムが生み出したキャラクターであり、生き物ではないのだ。
だが、ここでベンは背筋にゾクッと冷たいものが走るのを感じた。NPCが居るということは、この世界は造られた世界なのではないだろうか? 言わばこの世界全体がVRMMOのようなコンピューターによって創られた世界……。
バカな……。
ベンは急いで自分の手のひらを見てみた。細かく刻まれたしわ、そしてそれを縫うように展開される指紋の筋、その奥の青や赤の微細な血管。それらは指が動くたびにしなやかに変形し様相を変えていく。こんな芸当ができるVRMMOなんてありえない。ベンはグッとこぶしを握った。
しかし、ここで嫌なことを思い出す。自分は一度死んでいたのだ。死んだ者が生き返る、それは明らかに自然の摂理から逸脱した行為である。つまり、自分自身そのものが自然の法則を破っている証拠になってしまっているのだ。ベンはその事実に愕然となった。
「どうした、ベン君? もう目覚めてしまったかな?」
魔王はニヤッと笑って言う。
ベンはうつろな目で首を振り、そして頭を抱えた。
「まぁ、目覚めたかどうかなんてどうでもいい。それより今日はお願いがあってね……」
そう言いながら、空中を裂き、空間の裂け目からガジェットを取り出すとガン! とテーブルの上に置いた。
それは金属の輪にプラスチックのアームがニョキっと生えたような代物だった。
「何ですかこれ?」
ベンはそれを持ち上げてみる。金属の輪は腕時計のベルトのように一か所ガチャっと外せるようになっていた。
「それ、履いてみてくれる?」
魔王は意味不明なことを言って、コーラをゴクゴクと飲んだ。
はぁっ!?
言われて初めて気が付いたが、これは言わばふんどしみたいな物だったのだ。
「ここにボタンがあってね、いざと言う時にここを押すとプラスチックノズルの先から肛門内へ薬剤が噴射されて、一気に便意が高まるという……」
魔王が説明を始めたが、ベンは頭に血が上ってガン! とガジェットを机に叩きつけた。
「嫌ですよ! なんでこんなもん履かなきゃならないんですか!」
顔を真っ赤にして怒るベン。
「あー、ゴメンゴメン。話を端折りすぎたな……。そうだ! 今晩恵比寿で焼肉の会食があるんだけど来る?」
魔王はニコニコしながらとんでもない事を言った。もう久しく聞いていない単語【恵比寿】、【焼肉】にベンは耳を疑った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる