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18. 女神への挑戦
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しかし、会食会場にはテーブルが一つ、公爵以外にはベネデッタと班長が呼ばれるだけだった。それに脇にはなぜか書記が二人、公爵の後ろにはセバスチャンが控えていた。
「今日はいきなりだったから質素な食事で申し訳ない。ベン殿の活躍にカンパーイ!」
公爵はそう言うと会食をスタートした。
前菜には豚のパテにラタトゥイユ。美しい盛り付けである。
ベンは慣れない高級料理に気が引けながらも、お腹は空いていたのでパクパクと食べていった。
「で、ベン君。なぜ……、そのぉ……、そんなに強いのかね?」
公爵が切り出し、セバスチャンと書記に心なしか緊張が走ったように見えた。
なるほど、これは実質取り調べなのだ。ドラゴンを瞬殺できるほどの力はもはや国の軍事力を超えている。事と次第によってはベンの力は国の在り方自体を変えかねない。
ある程度はカミングアウトした方がいいと思い、ベンは水をゴクリと飲むと、覚悟を決めて言った。
「あー、とあるスキルを女神さまより頂戴しましてですね……」
「め、女神さま! やはり君は女神さまと親交があるのかね?」
「親交というか……、たまに向こうが勝手にやってくるんですよ」
「女神さまが会いに来る? それは……、何をしに?」
「あれ、何しに来てるんですかね? 僕もよく分かってないです」
ここでメインディッシュがサーブされる。濃密なはちみつのソースがかかった牛のシャトーブリアンのステーキだった。
転生する前ですら食べられなかった逸品にベンは思わず手が伸びる。
公爵はゴクリと唾をのみ、青い顔で言葉を失う。やはりベンは熾天使かも知れない。
女神というのは王侯貴族だって会ったことがある人などいないのだ。大聖女が会ったことがあるという話を伝え聞くくらいで、その存在は謎に包まれている。なのに、この少年には何度も会いに来て、なおかつ用件はよく分からないとごまかされた。公爵は冷汗をタラリと流した。
すると、セバスチャンが公爵にそっと近づき、耳元で何かをつぶやいた。
公爵はうなずき、軽く咳ばらいをすると言った。
「女神さまは何を君に言うんだね?」
「あー、『すごい力出たね』とか、今日は『魔王が何か頼みたいことがあるから聞いてやってくれ』って言ってました」
ベンはシャトーブリアンの洗練された肉汁に舌鼓を打ちながら答える。
「魔王!?」
公爵は思わずフォークを落としてしまう。皿に当たったフォークはチーン! といい音を立ててじゅうたんに転がった。
人類最大の脅威であり、魔物の頂点、魔王。女神がその願いをベンに聞いてくれと言っている。それはとんでもない話だった。文字通りに受け取れば、女神はベンに魔王の手助けをして人類を滅ぼさせようとしているということになる。
「そ、それで……。君は受けたのかね?」
公爵は額に脂汗を浮かべながら、祈るような気持ちで聞いた。もし、YESだったらこの若きドラゴンスレイヤーとの絶望的な戦闘になってしまうのだ。
「え? 『頼みごとがあるなら魔王からこっちに出向け』って言ってやりました。あっ、もちろん、魔王軍に協力なんてしませんよ」
ベンはまさか公爵がそこまで追い込まれているとは知らず、ちぎったパンを頬張りながら答えた。
「ちょ、ちょっとまって! それは魔王がトゥチューラに来るって事じゃないか!?」
公爵は真っ青になって聞いた。
「あれ? マズかったですか?」
「ベンくーん!」
公爵はそう言って頭を抱える。
すると、セバスチャンがスススっとベンの後ろに忍び寄り、耳元で言った。
「この街には魔王軍本体を迎え撃てる兵力が無いのです。申し訳ないのですが、会合は離れた場所でお願いできないでしょうか?」
「あ、そ、そうですか」
ベンは迂闊に魔王を呼んでしまったことを反省し、急いでキャンセルしようと思った。
「シアン様ー、キャンセル希望ですー」
ベンは天井に向かって叫んだ。
ポン! という音がしてぬいぐるみのシアンが現れる。
シアンは大きく伸びをして、そして、ふぁ~あとあくびをすると羽をパタパタさせながらベンのところに降りてきた。
「あー、シアン様、魔王には自分から会いに行きます。呼ぶのキャンセルで」
「はいはい、分かったよ。きゃははは!」
シアンはそう言うと、辺りを見回し、そしてツーっと天井まで飛んでいって興味深そうに天井画を眺めていた。
「ベン君、これが……女神さまかね?」
「そうです。もちろんちゃんとした女神様として出てくることもあるんですが、今日は分身みたいですね」
と、その時だった。魔法ローブを着た宮殿魔法使いが五、六人ダダダっとなだれ込んできて、
「不法侵入の魔物発見! 直ちに拘束します!」
と、叫ぶと、拘束魔法で紫色に光るロープを次々とシアンに向けて放ち、シアンをぐるぐる巻きにしていった。
「今日はいきなりだったから質素な食事で申し訳ない。ベン殿の活躍にカンパーイ!」
公爵はそう言うと会食をスタートした。
前菜には豚のパテにラタトゥイユ。美しい盛り付けである。
ベンは慣れない高級料理に気が引けながらも、お腹は空いていたのでパクパクと食べていった。
「で、ベン君。なぜ……、そのぉ……、そんなに強いのかね?」
公爵が切り出し、セバスチャンと書記に心なしか緊張が走ったように見えた。
なるほど、これは実質取り調べなのだ。ドラゴンを瞬殺できるほどの力はもはや国の軍事力を超えている。事と次第によってはベンの力は国の在り方自体を変えかねない。
ある程度はカミングアウトした方がいいと思い、ベンは水をゴクリと飲むと、覚悟を決めて言った。
「あー、とあるスキルを女神さまより頂戴しましてですね……」
「め、女神さま! やはり君は女神さまと親交があるのかね?」
「親交というか……、たまに向こうが勝手にやってくるんですよ」
「女神さまが会いに来る? それは……、何をしに?」
「あれ、何しに来てるんですかね? 僕もよく分かってないです」
ここでメインディッシュがサーブされる。濃密なはちみつのソースがかかった牛のシャトーブリアンのステーキだった。
転生する前ですら食べられなかった逸品にベンは思わず手が伸びる。
公爵はゴクリと唾をのみ、青い顔で言葉を失う。やはりベンは熾天使かも知れない。
女神というのは王侯貴族だって会ったことがある人などいないのだ。大聖女が会ったことがあるという話を伝え聞くくらいで、その存在は謎に包まれている。なのに、この少年には何度も会いに来て、なおかつ用件はよく分からないとごまかされた。公爵は冷汗をタラリと流した。
すると、セバスチャンが公爵にそっと近づき、耳元で何かをつぶやいた。
公爵はうなずき、軽く咳ばらいをすると言った。
「女神さまは何を君に言うんだね?」
「あー、『すごい力出たね』とか、今日は『魔王が何か頼みたいことがあるから聞いてやってくれ』って言ってました」
ベンはシャトーブリアンの洗練された肉汁に舌鼓を打ちながら答える。
「魔王!?」
公爵は思わずフォークを落としてしまう。皿に当たったフォークはチーン! といい音を立ててじゅうたんに転がった。
人類最大の脅威であり、魔物の頂点、魔王。女神がその願いをベンに聞いてくれと言っている。それはとんでもない話だった。文字通りに受け取れば、女神はベンに魔王の手助けをして人類を滅ぼさせようとしているということになる。
「そ、それで……。君は受けたのかね?」
公爵は額に脂汗を浮かべながら、祈るような気持ちで聞いた。もし、YESだったらこの若きドラゴンスレイヤーとの絶望的な戦闘になってしまうのだ。
「え? 『頼みごとがあるなら魔王からこっちに出向け』って言ってやりました。あっ、もちろん、魔王軍に協力なんてしませんよ」
ベンはまさか公爵がそこまで追い込まれているとは知らず、ちぎったパンを頬張りながら答えた。
「ちょ、ちょっとまって! それは魔王がトゥチューラに来るって事じゃないか!?」
公爵は真っ青になって聞いた。
「あれ? マズかったですか?」
「ベンくーん!」
公爵はそう言って頭を抱える。
すると、セバスチャンがスススっとベンの後ろに忍び寄り、耳元で言った。
「この街には魔王軍本体を迎え撃てる兵力が無いのです。申し訳ないのですが、会合は離れた場所でお願いできないでしょうか?」
「あ、そ、そうですか」
ベンは迂闊に魔王を呼んでしまったことを反省し、急いでキャンセルしようと思った。
「シアン様ー、キャンセル希望ですー」
ベンは天井に向かって叫んだ。
ポン! という音がしてぬいぐるみのシアンが現れる。
シアンは大きく伸びをして、そして、ふぁ~あとあくびをすると羽をパタパタさせながらベンのところに降りてきた。
「あー、シアン様、魔王には自分から会いに行きます。呼ぶのキャンセルで」
「はいはい、分かったよ。きゃははは!」
シアンはそう言うと、辺りを見回し、そしてツーっと天井まで飛んでいって興味深そうに天井画を眺めていた。
「ベン君、これが……女神さまかね?」
「そうです。もちろんちゃんとした女神様として出てくることもあるんですが、今日は分身みたいですね」
と、その時だった。魔法ローブを着た宮殿魔法使いが五、六人ダダダっとなだれ込んできて、
「不法侵入の魔物発見! 直ちに拘束します!」
と、叫ぶと、拘束魔法で紫色に光るロープを次々とシアンに向けて放ち、シアンをぐるぐる巻きにしていった。
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