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10. 魅惑のトラップ

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 とっぷりと日も暮れ、ベンはパーティ会場を後にした。

 しかし、結局何も食べられていない。下剤で全部出して、何も食べていないのだからもうフラフラだった。

「なんか食べないと……」

 ベンは繁華街を通り抜けながら物色していく。すると、おいしそうな匂いが漂ってきた。串焼き屋だ。豚肉や羊肉を炭火で焼いてスパイスをつけて出している。

「そうそう、これこれ! 前から食べたかったんだ!」

 ベンはお店に走り、まず、一本、羊串をもらい、箱のスパイスをまぶした。

 貧困荷物持ち時代には決して食べられなかった肉。だが、今や騎士団所属である。買い食いくらいなんともないのだ。

 ジューっと音をたてながらポタポタ垂れてくる羊の肉汁をなるべく逃がさないようかぶりつくと、うま味の爆弾が口の中でブワッと広がる。そこにクミンやトウガラシの鮮烈な刺激がかぶさり、素敵な味のハーモニーが展開された。

 くはぁ……。

 ベンは恍惚の表情を浮かべ、幸せをかみしめる。

 う、美味い……。

 調子に乗ったベンは、

「おじさん、豚と羊二本ずつちょうだい!」

 と、上機嫌でオーダーする。

 ベンは今度は豚バラ肉にかぶりつく。脂身から流れ出す芳醇な肉汁、ベンは無我夢中で貪った。

 さらに注文を重ね、結局十本も注文したベン。

 ベンは改めて人生が新たなフェーズに入ったことを体感した。ただ便意を我慢するだけで好きなだけ肉の食える生活になる。それは素晴らしい事でもあり、また、憂鬱なことでもあった。とはいえ、もう断る訳にもいかない。

「もう、どうにでもなーれ!」

 ベンは投げやりにそう言いながら最後の肉にかぶりついた。

 どんな未来が待っていようが、今食べている肉が美味いのは変わらなかった。

 余韻を味わっていると、隣の若い男たちが愚痴ってるのが聞こえてくる。

「なんかもう全然彼女できねーわ」

「あー、純潔教だろ?」

「そうそう、あいつら若い女を洗脳して男嫌いにさせちゃうんだよなぁ……」

 何だかきな臭い話だが、まだベンは十三歳。彼女作るにはまだ早いのだ。中身はオッサンなので時折猛烈に彼女が欲しくはなるが、子供のうちは我慢しようと決めている。

 怪しいカルト宗教なんて自分が大きくなる前に誰かがぶっ潰してくれるに違いない、と気にも留めず店員に声をかけた。

「おじさん、おあいそー」

 ベンは銅貨を十枚払って、幸せな表情で帰路につく。

 しかし、よく考えたら今日は下剤を二回も使っていたのだった。これはおばちゃんの指定した用量をオーバーしている。そして、空腹に辛い肉をたくさん食べてしまっている。それはまさに死亡フラグだった。


        ◇


 ぐぅ~、ぎゅるぎゅるぎゅる――――!

 もう少しでドミトリーというところで、ベンの胃腸はグルグル回り出してしまった。

「くぅ……。辛い肉食いすぎた……」

 脂汗を垂らしながら、内またでピョコピョコと歩きながら必死にドミトリーを目指す。

 ポロン! と、『×10』の表示が出る。もうすぐ自宅だから強くなんてならなくていいのだ。ベンは表示を無視して必死に足を運んだ。

 すると、黒い影がさっと目の前に現れる。

「ちょっといいかしら?」

 えっ!?

 驚いて見上げると、それは勇者パーティの魔法使いだった。

「今ちょっと忙しいんです。またにしてください」

 漏れそうな時に話なんてできない。ベンは横を通り過ぎようとすると、

「あら、マーラがどうなってもいいのかしら?」

 と、魔法使いはブラウンの瞳をギラリと輝かせ、いやらしい表情で言った。

「マ、マーラさんがなんだって?」

 ベンはピタッと止まって、魔法使いをキッとにらんで言った。勇者パーティで唯一優しくしてくれたマーラ。あのブロンズの髪の毛を揺らすたおやかなしぐさ、温かい言葉にどれだけ救われてきただろう。

「マーラさんをイジメたらただじゃ置かないぞ!」

 もし、マーラにも下剤を食べさせたりしてイジメていたりしたらとんでもない事だ。ベンは荒い息をしながらギロリと魔法使いをにらんだ。

「ちょっとここは人目があるから場所を移しましょ」

 魔法使いはそう言うと、高いヒールの靴でカツカツと石だたみの道を鳴らしながら歩く。そして、魅惑的なお尻を振りながら細い道へと入って行った。

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