世界は今、少年の可愛いお尻に託された ~便意を我慢できたら宇宙最強!? クソ真面目転生者の肛門活躍記~

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
4 / 45

4. 涅槃

しおりを挟む
 ゴブリンは森の中で走るのに長けている。

 シアンの言う通り、徐々に距離は詰められてしまっていた。

 くぅ……、ダメか。

「早く早くぅ!」

 シアンは楽しそうにクルクルと回りながら言った。

「チクショー!」

 ベンはそう叫ぶと覚悟を決め、下剤を取り出して一気にあおった。

 クハァ!

 口の中に広がるドブのような臭さに目を白黒させながら必死に逃げる。

「ほうら来たよ! がんばれー!」

 シアンは無責任に応援する。

「くぅ……。便意、便意! 早く! カモーン!」

 癪には触るが、今は生き残らなくてはならない。ベンは便意を待った。


 ついに追いつかれ、先頭のゴブリンがこん棒を振り下ろしてくる。

 うわぁ!

 何とかかわすものの、そのすきに周りを囲まれてしまう。

 二十匹はいるだろうか、口々に

 ギャッ! ギャッ!

 と、嬉しそうな声を上げ、勝利を確信したにやけ顔で距離を詰めてくる。

 その時だった、

 ぐぅ、ぎゅるぎゅるぎゅる――――。

 ベンの下腹部に猛烈な痛みが走り、腸がグルグルとのたうち回った。そして、ポロン! という電子音とともに青いウインドウが開き『×10』と、表示される。

「キタキター!」

 シアンはウインドウの周りをおどけながら逆さまなって飛んだ。

「もう二度とやりませんよ!」

 ベンは腰の引けた体勢で、脂汗を垂らしながら短剣を構える。

 すると、一匹のゴブリンがこん棒を振り下ろしながら突進してきた。

 ベンは左手で下腹部を押さえつつ、半ば朦朧としながらひらりとこん棒をかわし、カウンターでのど元を切り裂いた。

 さっきとは全然違う洗練された身のこなしに一瞬ひるむゴブリンたち。しかし、魔物の本性として人間は襲わねばならない。

 ギャッ! ギャッ!

 ゴブリンたちは興奮し、一斉にベンに襲いかかる。

 しかし、ステータスが十倍となったベンは、すでに中級冒険者レベルの強さだ。内またながら軽やかな身のこなしでゴブリンの間をい、まるで舞を舞うように素早く短剣を正確にのど元を切り裂いていった。

 しかし、ベンも無事ではない。動けば動くほど便意は悪化する。

 ぎゅるぎゅるぎゅ――――。

 くふぅ!

 思わず膝をついてしまうベン。

 ポロン! と鳴って、『×100』と、表示されるがそれどころではない。

 ギリギリと下腹部を締め付ける強烈な直腸の営みに、肛門の突破は時間の問題だった。

「キタキタ――――!」

 シアンは嬉しそうにクルクルッと回る。

「も、漏れる……」

 なんとか歯を食いしばって何とか暴発を押さえようとするが、肛門はもはや限界に達していた。暴発したらスキルは解除、ただのベンに逆戻り。それはそのまま死を意味する。

 その時、子供の頃にじいちゃんに毎朝暗唱させられていた般若心経が、なぜか自然と口をついた。

観自在菩薩かんじざいぼさつ行深般若波羅ぎょうじんはんにゃはら……」

 仏教の一番基本のお経は独特のイントネーションで、唱えているうちに瞑想状態に近くなり苦痛を和らげる。

羯諦羯諦ぎゃーてーぎゃーてー波羅羯諦はーらーぎゃーてー!」

 ベンは何とか暴発を食い止めることに成功した。

 ゴブリンはひざをついたベンを見て、チャンスと見て襲いかかってくる。

 ベンはユラリと立ち上ると、短刀をしまい、トロンとした目で迫りくるゴブリンたちを見た。

 ギャ――――!

 飛びかかってくるゴブリンのこん棒をユラリとかわし、顔面にパンチを叩きこむ。パラメーター百倍の人類最強のパンチはゴブリンをまるで豆腐みたいに粉砕した。

 そして内またでピョコピョコっと次のゴブリンのすぐ横に迫ると、今度は裏拳でゴブリンを粉砕する。

 ギャギャッ!

 それでもまだゴブリンたちは諦めない。

 ベンは苦痛に顔をゆがめ、ギリッと奥歯を鳴らす。

 五、六匹倒した時だった、

「矢が飛んで来るよー」

 シアンが後ろを指さした。

 ベンは振り返る。すると何かが飛んできていた。無意識に手が動き、ガシッと握る。それは矢だった。奥に弓を構えるゴブリンがいたのだ。

 ベンはギロリとその弓ゴブリンをにらむ。

 シアンがいなかったらやられていた。例えステータス百倍でも、相手が弱くても戦場では隙を作ったら負けだということを思い知らされる。

 ベンは自分を戒めながら、つかんだ弓を逆にダーツのように投げ、脳天に命中させた。

 最後にまだしつこく襲ってくる残りのゴブリンを処理し、ベンはゴブリンたちを一掃させたのだった。

 しかし、勝利の余韻などない。括約筋がさっきから悲鳴を上げている。もう何秒持つか分からないのだ。

「あー、漏れる漏れる!」

 急いでベルトを外そうとしたとき、シアンが嫌なことを言った。

「待って待って! これからが本番だゾ!」

「ほ、本番!?」

 直後、遠くで嫌な声がした。

「キャ――――! 助けてぇ」

 女の子の声だった。

 そんなの知るか! それより早く出さないと!

 ぐぅ~、ぎゅるぎゅるぎゅる~。

 腸が過去最高レベルで盛大な音を立てている。運動しすぎたのだ。人のことなど構っていられない。今ここにある脅威、便意こそが解決すべき課題なのだ!

 その時、ポロン! と鳴って、『×1000』と、表示される。

「キタ――――! 千倍! ほら、女の子が待ってるゾ!」

 シアンは嬉しそうに言うが、冗談じゃない。

 ステータス千倍となれば勇者の十倍以上強い。きっと女性を襲っているトラブルなど瞬時に解決できるに違いない。しかしそれは便意が絶望的にキツいということも意味していた。

「いやぁぁぁ!」

 女の子の悲痛な叫びが森に響き渡る。

「ほら、宇宙最強! 急いで、急いで!」

 シアンは楽しそうにベンの周りを飛びまわりながら言う。

「くっ! ブラック女神め!」

 ベンは悪態をつくと下腹部を押さえながらピョコピョコと駆け出した。脂汗がぽたぽたとたれ、真っ青になりながらも歯を食いしばり、声の方向を目指す。

 このクソ真面目なところが過労死の原因だというのに、転生してもまだ治らない。ベンは朦朧とした意識の中で『ここでの寿命も長くないな』と悟った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...