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3. 追放
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「あっ! ベン! お前どこ行ってたんだ!」
勇者はダンジョンの入り口に戻ってきたベンを見つけると、目を三角にして怒鳴った。
「あ、ごめんなさい、ちょっと用を足しに……」
「お前がちゃんと見てないから荷物全損だぞ! 貴様はクビだ!」
勇者はカンカンになってベンに追放を宣告した。
「えっ! ちょっと待ってください、それは魔人がやったことですよ。代わりに魔人を倒したじゃないですか」
「魔人を倒した? お前が? ただの荷物持ちがなんで魔人なんて倒せるんだよ?」
「あ、そ、それは……」
ベンは【便意ブースト】のことを説明しようとしたが、こんなバカげたスキル説明するのもはばかられる。それにマーラも聞いているのだ。恥ずかしくてとても言えなかった。
「それみろ! 単に魔人が何かやらかして自爆しただけだろ? 勝手に自分の手柄にすんな! クビだ! クビ!」
勇者はそう言い放つと、「帰るぞ!」とパーティに告げ、帰路についたのだった。
マーラは少し心配そうにチラッとベンの方を見たが、そのまま一緒に去って行ってしまう。
ベンは唖然として立ち尽くした。今まで相場よりもかなり安い値段でずっと勇者パーティに尽くしてきたのに、この仕打ちはひどすぎる。荷物燃やしてクビになったなんて話がギルドの中で知れ渡れば、もうベンを雇ってくれるパーティなんてないだろう。昨今の不景気の中、まだ十三才の少年を雇ってくれるところなど見つけられそうもない。
「このままだと飢え死にだ……」
ベンは真っ青になってガクッと崩れ落ち、明日からどうやって暮らしていったらいいのか途方に暮れる。そして、小さくなっていく勇者パーティの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
◇
翌日、ベンは暗黒の森にゴブリン退治に来ていた。レベルの上がらない呪いのかかったベンを入れてくれるパーティもなく、生きるにはソロで冒険者をやって何とか活路を見出さねばならないのだ。
ベンはポーチをまさぐり、なけなしの金で買った下剤の小瓶をいくつか取り出し、眺める。これは薬師ギルドのおばちゃんに土下座して特別に調合してもらったもの。その茶色の瓶の中に入った液体はきっと強烈な便意を引き起こし、ベンを宇宙最強にまでしてくれるはずだ。しかし、ベンはどうしても飲む気にはなれなかった。あの強烈な腹の痛み、肛門を襲う便意のことを思い出すだけで身体が震えてしまう。
それにあのクソ女神の思惑通りになるのも絶対避けたかった。
ベンはうつむき、ギュッとこぶしを握ると、
「ゴブリンくらいならスキルを使わなくたって倒せるはずだ!」
そう言って顔を上げ、うっそうとした暗黒の森の奥をにらんだ。
◇
しばらく慎重に進むと、ガサッと茂みが動いた。何かいる!
ベンは短剣を構え、茂みを凝視する。
思えばソロの戦闘は初めてかもしれない。ミス一つで死んでしまう世界に飛び込んでしまったことを少し後悔しながらも、自分にはもうこの生き方しか残されていないと覚悟を決める。
ベンは悲痛な思いで短剣をギュッと握った。
脂汗がたらりと頬をつたっていく……。
「ギャギャー!」
いきなり茂みから飛び出した緑色の小人、ゴブリンだ。とがった耳に醜悪な顔、その気色悪さがベンを威圧する。
ゴブリンはよだれを垂らしながら棍棒を振りかざし、まっすぐにベンを襲う。
ベンは緊張でガチガチになりすぎて、対応が遅れた。
振り下ろされるこん棒。
ベンは間一髪でかわすも、足を取られ、転んでしまう。
うわぁ!
そこにさらに振り下ろされるこん棒。ゴブリンは身体が小さな分、俊敏で、厄介な相手だ。
ベンは何とか短剣で叩いて直撃を免れると、こん棒をつかみ、そのまま蹴りを喰らわせた。
悲痛な叫び声を上げながら吹き飛ぶゴブリン。
ベンは急いで起き上がり、ここぞとばかりに逆に棍棒をバットのように振り回してゴブリンの頭部を打ちぬいた。
ゴブリンは断末魔の悲鳴を上げ、やがて薄くなり消えていく。そして、緑色の魔石が足元に転がった。
ふぅ……。
ベンは荒い息をしながら魔石を拾い、その緑色に怪しく光る輝きを眺める。
ゴブリン一匹に命懸け、これはどう考えてもいつか殺されてしまう。やはり、ソロでやっていくのは難しいと、思い知らされたのだった。
その時、森の奥、あちこちから「ギャッ!」「ギャッ!」と声が上がった。ゴブリンの群れに気づかれてしまった。
ヤバい!
鼻の奥がツーンとして、死の予感が真綿のようにゆっくりと首を締めあげていく。
まともに戦えば殺せて2,3匹。あとは残りの連中に惨殺されて終わりだ。ベンはそうやって死んだ新米冒険者を何人も見てきたのだ。
ベンは急いでダッシュで逃げる。渾身の力で木の根を飛び越え、藪を抜け、街の方向へと必死に駆けた。
すると、ポン! という音がして、小さなぬいぐるみのような生き物が空中に現れた。青い髪の毛を揺らしながら背中には羽を生やしている。顔はシアンをデフォルメしたものになっているところを見ると、どうやらシアンの分身らしい。
そのぬいぐるみはベンの耳元で、
「ほらほら! 下剤下剤! きゃははは!」
と、笑いながら言った。
「シアン様! 下剤なんて嫌ですよ。僕はあんなスキル使わないんです!」
ベンは糞スキルを推してくるシアンにムッとして言った。
しかし、シアンは聞く耳を持たず、
「げ・ざ・い! げ・ざ・い!」
と、囃し立てながらベンの周りを飛ぶ。
なんというウザい女神だろうか。
ベンはそんなシアンを手で追い払いながら、ただ必死に走った。
しかし、ゴブリンは口々に嫌な叫び声を上げながら迫ってくる。
「どんどん、距離縮まってるよ? 早い方がいいよ」
ぬいぐるみのシアンは悪い顔をして耳元で言った。
勇者はダンジョンの入り口に戻ってきたベンを見つけると、目を三角にして怒鳴った。
「あ、ごめんなさい、ちょっと用を足しに……」
「お前がちゃんと見てないから荷物全損だぞ! 貴様はクビだ!」
勇者はカンカンになってベンに追放を宣告した。
「えっ! ちょっと待ってください、それは魔人がやったことですよ。代わりに魔人を倒したじゃないですか」
「魔人を倒した? お前が? ただの荷物持ちがなんで魔人なんて倒せるんだよ?」
「あ、そ、それは……」
ベンは【便意ブースト】のことを説明しようとしたが、こんなバカげたスキル説明するのもはばかられる。それにマーラも聞いているのだ。恥ずかしくてとても言えなかった。
「それみろ! 単に魔人が何かやらかして自爆しただけだろ? 勝手に自分の手柄にすんな! クビだ! クビ!」
勇者はそう言い放つと、「帰るぞ!」とパーティに告げ、帰路についたのだった。
マーラは少し心配そうにチラッとベンの方を見たが、そのまま一緒に去って行ってしまう。
ベンは唖然として立ち尽くした。今まで相場よりもかなり安い値段でずっと勇者パーティに尽くしてきたのに、この仕打ちはひどすぎる。荷物燃やしてクビになったなんて話がギルドの中で知れ渡れば、もうベンを雇ってくれるパーティなんてないだろう。昨今の不景気の中、まだ十三才の少年を雇ってくれるところなど見つけられそうもない。
「このままだと飢え死にだ……」
ベンは真っ青になってガクッと崩れ落ち、明日からどうやって暮らしていったらいいのか途方に暮れる。そして、小さくなっていく勇者パーティの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
◇
翌日、ベンは暗黒の森にゴブリン退治に来ていた。レベルの上がらない呪いのかかったベンを入れてくれるパーティもなく、生きるにはソロで冒険者をやって何とか活路を見出さねばならないのだ。
ベンはポーチをまさぐり、なけなしの金で買った下剤の小瓶をいくつか取り出し、眺める。これは薬師ギルドのおばちゃんに土下座して特別に調合してもらったもの。その茶色の瓶の中に入った液体はきっと強烈な便意を引き起こし、ベンを宇宙最強にまでしてくれるはずだ。しかし、ベンはどうしても飲む気にはなれなかった。あの強烈な腹の痛み、肛門を襲う便意のことを思い出すだけで身体が震えてしまう。
それにあのクソ女神の思惑通りになるのも絶対避けたかった。
ベンはうつむき、ギュッとこぶしを握ると、
「ゴブリンくらいならスキルを使わなくたって倒せるはずだ!」
そう言って顔を上げ、うっそうとした暗黒の森の奥をにらんだ。
◇
しばらく慎重に進むと、ガサッと茂みが動いた。何かいる!
ベンは短剣を構え、茂みを凝視する。
思えばソロの戦闘は初めてかもしれない。ミス一つで死んでしまう世界に飛び込んでしまったことを少し後悔しながらも、自分にはもうこの生き方しか残されていないと覚悟を決める。
ベンは悲痛な思いで短剣をギュッと握った。
脂汗がたらりと頬をつたっていく……。
「ギャギャー!」
いきなり茂みから飛び出した緑色の小人、ゴブリンだ。とがった耳に醜悪な顔、その気色悪さがベンを威圧する。
ゴブリンはよだれを垂らしながら棍棒を振りかざし、まっすぐにベンを襲う。
ベンは緊張でガチガチになりすぎて、対応が遅れた。
振り下ろされるこん棒。
ベンは間一髪でかわすも、足を取られ、転んでしまう。
うわぁ!
そこにさらに振り下ろされるこん棒。ゴブリンは身体が小さな分、俊敏で、厄介な相手だ。
ベンは何とか短剣で叩いて直撃を免れると、こん棒をつかみ、そのまま蹴りを喰らわせた。
悲痛な叫び声を上げながら吹き飛ぶゴブリン。
ベンは急いで起き上がり、ここぞとばかりに逆に棍棒をバットのように振り回してゴブリンの頭部を打ちぬいた。
ゴブリンは断末魔の悲鳴を上げ、やがて薄くなり消えていく。そして、緑色の魔石が足元に転がった。
ふぅ……。
ベンは荒い息をしながら魔石を拾い、その緑色に怪しく光る輝きを眺める。
ゴブリン一匹に命懸け、これはどう考えてもいつか殺されてしまう。やはり、ソロでやっていくのは難しいと、思い知らされたのだった。
その時、森の奥、あちこちから「ギャッ!」「ギャッ!」と声が上がった。ゴブリンの群れに気づかれてしまった。
ヤバい!
鼻の奥がツーンとして、死の予感が真綿のようにゆっくりと首を締めあげていく。
まともに戦えば殺せて2,3匹。あとは残りの連中に惨殺されて終わりだ。ベンはそうやって死んだ新米冒険者を何人も見てきたのだ。
ベンは急いでダッシュで逃げる。渾身の力で木の根を飛び越え、藪を抜け、街の方向へと必死に駆けた。
すると、ポン! という音がして、小さなぬいぐるみのような生き物が空中に現れた。青い髪の毛を揺らしながら背中には羽を生やしている。顔はシアンをデフォルメしたものになっているところを見ると、どうやらシアンの分身らしい。
そのぬいぐるみはベンの耳元で、
「ほらほら! 下剤下剤! きゃははは!」
と、笑いながら言った。
「シアン様! 下剤なんて嫌ですよ。僕はあんなスキル使わないんです!」
ベンは糞スキルを推してくるシアンにムッとして言った。
しかし、シアンは聞く耳を持たず、
「げ・ざ・い! げ・ざ・い!」
と、囃し立てながらベンの周りを飛ぶ。
なんというウザい女神だろうか。
ベンはそんなシアンを手で追い払いながら、ただ必死に走った。
しかし、ゴブリンは口々に嫌な叫び声を上げながら迫ってくる。
「どんどん、距離縮まってるよ? 早い方がいいよ」
ぬいぐるみのシアンは悪い顔をして耳元で言った。
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