少女の万華鏡は純金を生む ~隠された世界の真実に気づいた青年は、少女に殺しを誓う~

月城 友麻

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1-10. 限りなくにぎやかな未来

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 達也はうつむきギュッと目をつぶる。
 自分が余計なことを言ってしまったがために陽菜まで巻き込んでしまった。浮かれて余計なことをしてしまったことを心から悔やむ。
 こうなれば自分の命をなげうってでもこの女の子を止めるしかない。
「僕の答えはこれです!」
 達也は叫ぶと、自分の身体をウラン235、つまり核物質へと変質させる。通常危険物質への変換はシステムでエラーになるが、自分の身体だけは例外だったのだ。
「へっ?」
 女の子が、鈍く光る金属体になった達也を見て唖然とした瞬間、強烈な核分裂反応が起こり、原爆の数十倍におよぶエネルギーが解放された。
 激しい閃光は天地を焦がし、すさまじい熱線がサンゴ礁の小島を一瞬で蒸発させ、南の海は一斉に沸騰する。
 衝撃波は白い繭のように音速で広がっていき、中から灼熱のキノコ雲が現れる。それはまさに地獄絵図だった。
 後には広大なクレーターとボコボコと沸騰する海だけが残り、達也はこの世から消えていった。
 やがて夕暮れの南太平洋には、悲壮な達也の決意を表すかのように激しい雨が降り注ぐ。
 誰もいなくなった大海原には、ただ雨音だけが響いていた……。

         ◇

「達兄ぃ! 起きて!」
 陽菜が肩を揺らし、達也は目を覚ます。
「えっ? あれっ!?」
 自爆攻撃で神の女の子をほうむったはずの達也は、一体何が起こったのか分からなかった。見回すとそこは陽菜の家の応接間のソファーである。

「これ美味しいね」
 ソファーの向かいの椅子で誰かがクッキーをポリポリ食べている。
 達也が目を凝らして見ると、それは青い髪の女の子だった。
 飛び上がった達也は陽菜をソファーの後ろへと追いやり、叫んだ。
「お、お前! 陽菜には指一本触れさせんぞ!」
 すると、陽菜が驚いたように言う。
「達兄ぃ! 何言ってんの? 彼女は紫杏ちゃん、私の友達よ!」
「え……?」
 達也は混乱した。陽菜を殺すと言っていた女の子が陽菜の友達? 確か八十八点ばかり取って水面を歩いていた女の子……。
 ハッとして紫杏を見る達也。
「試験は合格よ、達也。うちで働く?」
 紫杏はニッコリと笑って言った。
「え……? 陽菜を殺すのが試験だって……」
「はっはっは、僕の友達を殺させるわけないじゃない。理不尽な話をちゃんと断れるか見たかっただけよ」
 そう言ってまたクッキーをかじった。
「えっ……。そう言えばタワマン壊してましたよね?」
 達也は窓から武蔵小杉を見る。しかし、タワマンは健在だった。
「あ、あれっ?」
 一体何が起こったのか分からない達也。

「あれ? 二人は知り合いなの?」
 陽菜は不思議そうに聞く。
「達也はね、うちのパパの会社で働くことになったのよ」
 紫杏はニコニコしながら言う。
「えっ? 達兄ぃ良かったじゃない!」
 陽菜はニコッと笑いながら達也を見る。
「あ、うん。良かった……かな」
 達也は釈然としない思いを抱えつつ言った。
「そうだ、今日はこれから花火大会なのよ。達兄ぃも行かない?」
「へ? 花火?」
 達也は驚いた。今はそんなシーズンではないはずだった。
 しかし、よく見ると、陽菜は見覚えのある真っ白なワンピースを着ている。
「えっ、もしかして今は夏? プールに行く前って事?」
「何言ってるの? 夏に決まってるじゃない。プールは今週末紫杏ちゃんと行くのよ?」
 達也は唖然とした。四カ月ほど時間が巻き戻されていたのだ。
 ポカンとまぬけに口を開けながら、紫杏を眺める達也。
「悲劇は起こる前に戻すっていうのが本当の解決だよ、達也くん」
 紫杏は人差し指を振りながら言う。
「じ、時間まで戻せるんですか?」
 達也は小声で紫杏に聞く。
「そんなことできないよ。単にこの星のデータを昔のバックアップデータに後退復帰ロールバックしただけ」
「ロ、ロールバックって……。おみそれしました……」
 つまり紫杏は地球の仮想現実空間のデータを全部昔のデータに書き換えたらしい。そうなるとまるでゲームのセーブポイントのように全てが昔の状態に戻ってしまうのだ。
「あれ? じゃあもしかして結婚の話は?」
 達也はそう言って陽菜を見る。
「け、結婚? 達兄ぃ結婚するの? 誰と?」
 陽菜はキョトンとして言う。
 達也はガックリと肩を落とし、紫杏をジト目で見る。
 紫杏は肩をすくめると、
「もう一回頑張ってみよう! きゃははは!」
 と、屈託のない笑顔で笑った。
「くぅ……、チャラか……」
 達也はしばし頭をかきむしってうつむいていたが、パン! と太ももを叩くと、
「丸子橋、行こうか?」
 そう言って陽菜に手を差し出した。
「え? なんで丸子橋で見るって知ってるの?」
「ふふっ、僕も万華鏡の花火を見たいんだ」
 そう言って達也はニッコリ笑った。


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