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4-19. 病める時も、健やかなる時も
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「ハイ、できましたよ。お綺麗です」
ウェディングドレスを着飾ったユリアのダークブラウンの髪に、ネオ・シアンがティアラを付けながら言った。
今日は二人の結婚式。ネオ・シアンが全てを整えてくれて、これからチャペルへ行く事になっている。
「うふっ、ありがと!」
ユリアは鏡を見ながら満足そうに微笑み、純白のタキシードに身を包んで待っているジェイドの所へと行った。
「おまたせー」
「おっ! おぉ……。 ユ、ユリア……綺麗だ……」
ジェイドは格段に美しくなったユリアを見て感激し、ユリアはちょっと照れて頬を赤らめる。
「それではチャペルへ行きますよ~」
ネオ・シアンが手を高く掲げ、二人を連れて空間を跳んだ。
花の咲き誇る庭園の向こうにたたずむチャペルは、気持ちの良い日差しを受けて白く輝いている。そして、その背景には個性的でオシャレな超高層ビル群がずらりとそびえていた。
「わぁ! なんだかすごいチャペルね」
ユリアはうれしそうに言った。
百階を超えるビル群は日本のビルと違って途中階にエントランスがある。この星には魔法があるので、自動車もバスも普通に空を飛んでいるのだ。高さ百メートルおきに設けられたエントランスの前には道が作られ、隣のビルとの間を繋いでいる。
見ると、チャペルも庭園ごと宙に浮いている。超高層ビル群に囲まれた公園の上空にいるらしい。
「さぁ、こちらへ……」
ネオ・シアンは二人をエスコートする。
すると、チャペルの入り口の前に老夫婦が立っていた。老夫婦はユリアを見ると温かいまなざしを向け、うれしそうに微笑む。
「えっ!? も、もしかして……」
ユリアはその見覚えのあるまなざしに思わず駆け出す。近づいて行くと、それはやはり両親だった。
「パパ、ママ――――!」
ユリアはポロポロと涙を流しながら二人に抱き着いた。
最後に見た時は三十代だった二人はもう白髪でしわだらけ、だが、優しい微笑みは昔のままだった。もう会うことは叶わないとあきらめていたパパとママに会えて、ユリアは涙が止まらなくなる。
「立派になったねぇ」
パパはユリアの髪をなでながら優しく語りかける。
「ジェイドに……私の旦那さんに会って欲しかったの……ごめんなさい、遅くなって」
「いいのよ、あなたが幸せなら。それが私たちにとって何よりのことなんだから」
ママはそう言って、ユリアの頬を流れる涙をそっとハンカチで拭いた。
「もう死んじゃったかと思ってた……」
「あら、もうとっくに死んでるわよ。生きてたら百四十歳越えてるもの」
「えっ!?」
「あの女の子が特別に命のスープに溶けていた私たちを連れて来てくれたの」
そう言って、ネオ・シアンを指さした。
「本当は良くないんですが、私の独断で呼びました。長時間は無理ですが、短時間なら影響ないかと……」
シアンは恐る恐る言う。
「ありがとう……」
ユリアはネオ・シアンにお礼を言うと、両親にジェイドを紹介した。
◇
結婚式が始まった。
ドラゴンの幼生の化身だという、銀髪碧眼の可愛い幼女がバスケットに入った花びらをパラパラと振りまきながら赤いじゅうたんを歩き、先導する。
ユリアとパパは腕を組みながら幼女の後ろを歩き、出席の人たちに頭を下げながら進む。そこには最近仲良くなった人たちに加えて、田町の神様たちも揃っていてにこやかに小さく手を振ってくれる。
正面の段のところまで来ると、老紳士が司会としてジェイドと立っていた。その瞳にはエンペラーグリーンの輝きが見える。
「えっ!?」
思わず目を見開くユリア。
「ユリア、おめでとう」
髪はすっかり真っ白となってしまったが、それはアルシェだった。
「ア、アルシェ……」
ユリアはアルシェの手を取ってポロリと涙をこぼした。
「美しい……。君はあの日のままじゃのう」
アルシェも涙ぐんで言った。
「この国をこんなに発展させてくれてありがとう。途中で放り出したみたいになってしまって悪かったわ」
ユリアは謝る。
「いやいや、ユリアの構想が良かったんじゃよ。ワシはただそれを愚直になぞっただけじゃ」
「でも、銅像、見たわよ。今もみんなに愛されているじゃない」
「何言っとるんじゃ。ユリアたちの方が余程愛されとるよ。見てごらん」
そう言ってアルシェは壇上に大きく飾られた国旗を指さした。国旗には法衣をまとった女性と火を噴くドラゴンが描かれている。
「えっ!? これ、私たちなの!?」
「そう、君たちはこの国の誇りであり、象徴なんじゃ」
アルシェはニッコリとほほ笑んだ。
ユリアはジェイドと目を見合わせて苦笑する。まさか百年放っておいた自分たちを覚えている人がいるなんて、それも国旗になるレベルで残っているとは想像もしなかったのだ。
「大聖女とドラゴンが国を統一し、王制を廃し、先進的な民主主義へ移行して我々の発展がはじまった。この国の教科書の最初に書いてある事じゃよ」
「きょ、教科書に!?」
目を丸くするユリア。
「はっはっは。クーデターを持ちかけられた時はこんなことになるなんて、思いもせんかったよ」
「無理を聞いてもらって……。悪かったわ」
「いやいや、正解じゃったよ……」
アルシェは目を細める。そして大きく息をつくと、
「それでは結婚式を始めよう」
張りのある声でそう言った。
そして、二人を並ばせて開式を宣言する。
「新郎ジェイド、あなたはユリアを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
うなずくアルシェ。
「新婦ユリア、あなたはジェイドを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
ユリアはジェイドをじっと見つめ、
「誓います」
と、ニッコリと笑った。
そして、指輪を交換し、誓いの口づけをする。
パチパチパチパチ
列席のみんなから祝福を受け、二人は正式に夫婦となったのだった。
ウェディングドレスを着飾ったユリアのダークブラウンの髪に、ネオ・シアンがティアラを付けながら言った。
今日は二人の結婚式。ネオ・シアンが全てを整えてくれて、これからチャペルへ行く事になっている。
「うふっ、ありがと!」
ユリアは鏡を見ながら満足そうに微笑み、純白のタキシードに身を包んで待っているジェイドの所へと行った。
「おまたせー」
「おっ! おぉ……。 ユ、ユリア……綺麗だ……」
ジェイドは格段に美しくなったユリアを見て感激し、ユリアはちょっと照れて頬を赤らめる。
「それではチャペルへ行きますよ~」
ネオ・シアンが手を高く掲げ、二人を連れて空間を跳んだ。
花の咲き誇る庭園の向こうにたたずむチャペルは、気持ちの良い日差しを受けて白く輝いている。そして、その背景には個性的でオシャレな超高層ビル群がずらりとそびえていた。
「わぁ! なんだかすごいチャペルね」
ユリアはうれしそうに言った。
百階を超えるビル群は日本のビルと違って途中階にエントランスがある。この星には魔法があるので、自動車もバスも普通に空を飛んでいるのだ。高さ百メートルおきに設けられたエントランスの前には道が作られ、隣のビルとの間を繋いでいる。
見ると、チャペルも庭園ごと宙に浮いている。超高層ビル群に囲まれた公園の上空にいるらしい。
「さぁ、こちらへ……」
ネオ・シアンは二人をエスコートする。
すると、チャペルの入り口の前に老夫婦が立っていた。老夫婦はユリアを見ると温かいまなざしを向け、うれしそうに微笑む。
「えっ!? も、もしかして……」
ユリアはその見覚えのあるまなざしに思わず駆け出す。近づいて行くと、それはやはり両親だった。
「パパ、ママ――――!」
ユリアはポロポロと涙を流しながら二人に抱き着いた。
最後に見た時は三十代だった二人はもう白髪でしわだらけ、だが、優しい微笑みは昔のままだった。もう会うことは叶わないとあきらめていたパパとママに会えて、ユリアは涙が止まらなくなる。
「立派になったねぇ」
パパはユリアの髪をなでながら優しく語りかける。
「ジェイドに……私の旦那さんに会って欲しかったの……ごめんなさい、遅くなって」
「いいのよ、あなたが幸せなら。それが私たちにとって何よりのことなんだから」
ママはそう言って、ユリアの頬を流れる涙をそっとハンカチで拭いた。
「もう死んじゃったかと思ってた……」
「あら、もうとっくに死んでるわよ。生きてたら百四十歳越えてるもの」
「えっ!?」
「あの女の子が特別に命のスープに溶けていた私たちを連れて来てくれたの」
そう言って、ネオ・シアンを指さした。
「本当は良くないんですが、私の独断で呼びました。長時間は無理ですが、短時間なら影響ないかと……」
シアンは恐る恐る言う。
「ありがとう……」
ユリアはネオ・シアンにお礼を言うと、両親にジェイドを紹介した。
◇
結婚式が始まった。
ドラゴンの幼生の化身だという、銀髪碧眼の可愛い幼女がバスケットに入った花びらをパラパラと振りまきながら赤いじゅうたんを歩き、先導する。
ユリアとパパは腕を組みながら幼女の後ろを歩き、出席の人たちに頭を下げながら進む。そこには最近仲良くなった人たちに加えて、田町の神様たちも揃っていてにこやかに小さく手を振ってくれる。
正面の段のところまで来ると、老紳士が司会としてジェイドと立っていた。その瞳にはエンペラーグリーンの輝きが見える。
「えっ!?」
思わず目を見開くユリア。
「ユリア、おめでとう」
髪はすっかり真っ白となってしまったが、それはアルシェだった。
「ア、アルシェ……」
ユリアはアルシェの手を取ってポロリと涙をこぼした。
「美しい……。君はあの日のままじゃのう」
アルシェも涙ぐんで言った。
「この国をこんなに発展させてくれてありがとう。途中で放り出したみたいになってしまって悪かったわ」
ユリアは謝る。
「いやいや、ユリアの構想が良かったんじゃよ。ワシはただそれを愚直になぞっただけじゃ」
「でも、銅像、見たわよ。今もみんなに愛されているじゃない」
「何言っとるんじゃ。ユリアたちの方が余程愛されとるよ。見てごらん」
そう言ってアルシェは壇上に大きく飾られた国旗を指さした。国旗には法衣をまとった女性と火を噴くドラゴンが描かれている。
「えっ!? これ、私たちなの!?」
「そう、君たちはこの国の誇りであり、象徴なんじゃ」
アルシェはニッコリとほほ笑んだ。
ユリアはジェイドと目を見合わせて苦笑する。まさか百年放っておいた自分たちを覚えている人がいるなんて、それも国旗になるレベルで残っているとは想像もしなかったのだ。
「大聖女とドラゴンが国を統一し、王制を廃し、先進的な民主主義へ移行して我々の発展がはじまった。この国の教科書の最初に書いてある事じゃよ」
「きょ、教科書に!?」
目を丸くするユリア。
「はっはっは。クーデターを持ちかけられた時はこんなことになるなんて、思いもせんかったよ」
「無理を聞いてもらって……。悪かったわ」
「いやいや、正解じゃったよ……」
アルシェは目を細める。そして大きく息をつくと、
「それでは結婚式を始めよう」
張りのある声でそう言った。
そして、二人を並ばせて開式を宣言する。
「新郎ジェイド、あなたはユリアを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
うなずくアルシェ。
「新婦ユリア、あなたはジェイドを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
ユリアはジェイドをじっと見つめ、
「誓います」
と、ニッコリと笑った。
そして、指輪を交換し、誓いの口づけをする。
パチパチパチパチ
列席のみんなから祝福を受け、二人は正式に夫婦となったのだった。
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