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4-16. 宇宙の特異点

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「あったわ!」
 ユリアは飛びあがらんばかりに喜ぶと、神の力を使ってつついてみる。
 すると、ビシュワァァ! という炭酸がはじけるような音がして立方体が姿を現す。それは淡く青色の光を帯びた水槽のような、明らかに異質な存在だった。ガラスのような透明な立方体は、深い透明な湖の様な澄み通った青をたたえ、中心部は深い闇に沈んで見える。
 ユリアがその美しい青に見入っていると、立方体はピコーンという電子音を放ち、激しく輝きながらビュオォォォとつむじ風を巻き起こした。
「うわぁ!」
 ユリアは顔を覆ってしゃがみこむ。
 立方体はするすると降りてきて供物台の上に乗ると、また静かな青い箱に戻った。
 ユリアとネオ・シアンは顔を見合わせ、お互いうなずくと、そーっと立方体に近づいてみる。
 すると、立方体の上に小さなシアンの立体映像が現れる。
「やぁ! シアンだよ! ユリアは元気?」
 シアンは腰に手を当ててニコッと笑って言う。
 その、相変わらず空気を読まない発言に、ユリアはムッとして、
「元気な訳ないじゃない……」
 と、口を尖らせた。
「この箱は通信装置、僕の宇宙とユリアの宇宙を繋げちゃうぞ! 必要な事は二つ。はい、メモの用意して!」
「えっ!? メ、メモって!?」
 慌てふためくユリアに、ネオ・シアンがペンとノートをすっと差し出す。
「ありがと。凄く用意いいのね?」
「そのようにユリア様がお創りになりましたので」
 うやうやしく答えるシアン。
「では、一つ目! ユリアの世界が僕の宇宙と同じ構造をしてるって認識して。つまり、金星があって、海王星があって、ジグラートがあって、そこのコンピューターがその世界を作っているとしっかりと認識するんだ。ユリアがそう認識しさえすればその宇宙も僕の宇宙と同じ構造に確定する。互換性がでるんだね」
「に、認識……するだけ……なの?」
 ユリアはメモを取りながら首をかしげる。『神様の仕事は認識すること』という概念がまだピンとこない。
「続いて二つ目! この箱の上の穴からブラックホールを入れて。以上! 待ってるよ!」
 そう言うと映像のシアンは笑顔で手を振りながら、フッと消えていった。
「あっ! ちょっと待って……」
 あっけなく終了した映像にユリアは戸惑う。
「ブラックホール入れるだけで通信って、シアンさんってすごい方ですね……」
 ネオ・シアンは感心している。
「ブラックホールって……何?」
 ユリアは眉をひそめて聞く。
「宇宙の特異点ですよ。地球をコインの大きさくらいにギュッと潰した奴です」
「いやいやいや、そんなことできないわよ」
 ユリアはあまりに常識はずれな話に思わずのけぞる。
「あ、作らなくてもいいですよ。きっと宇宙にはたくさんマイクロブラックホールが漂っているので、それを一つ捕まえれば」
「え? ど、どうやって捕まえるんですか?」
「ユリア様は神様です。ここにマイクロブラックホールがあるはずだ、と本気で思いこめばそこにやってくるんだと思いますよ?」
「そ、そういうものなの? でもそれって……、すごく危険じゃないですか?」
「そうですね、地面に落としたらこの星全部吸い込まれちゃいますからねぇ」
 ネオ・シアンはうれしそうに言う。
 ユリアは背筋にゾッとするものを感じた。しかし、今さらやめる訳にもいかない。
 大きく息をつくと言った。
「じゃあ、手伝ってくれる?」

         ◇

 ユリアはまず、互換性が出るように必死に宇宙を認識する。ジグラートで見たあの光コンピューターのきらめきが自分を洞窟を、オンテークの森を、森に息づく動物たちを形作っていることを丁寧に想像し、認識した。
 一通り認識し終わると、海王星まで行って確認をする。
 海王星はどこまでも澄みとおる深い碧をたたえ、大宇宙にたたずんでいた。ユリアは静かにその様子を見つめ、そしてジグラートの内部の動作も感じてみる。
 自分が作る世界、間違いがあれば世界そのものが簡単に滅んでしまうだろうし、ジェイドとも二度と会えなくなってしまう。
 ヴィーナに見せてもらった元居た世界のジグラートとの差異がないか、思い出せる範囲で必死に確認を続けていく。そして、最後に大きく息をつくと、ユリアはゆっくりとうなずいた。
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